IS・人並みの幸せ   作:1056隊風見鶏少尉

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遅れました。
色々と書いているとやはり執筆速度は落ちますね


五話『急に話しかけると戸惑われる』

 

 

 

 全ての処置が終わり、簡単な観察を済まして篝火ヒカルノ博士、スチェスタ・ニーヴァルト博士、ユーリスカヤ・ビルマ・リトビャク医師は帰っていった。

 

 「………………」

 

 ただひとり、木山夏生先生は帰らず、僕のことを見ていた。

 

 「……あの?」

 

 躊躇いがちに僕が声をかけたのを合図にしたのか木山先生が僕に近づいてくる。

 

 「木山医師、どうした?」

 

 不審に思った織斑先生は木山先生に呼びかけりる。

 

 「何、ちょっとしたものを渡すのを忘れていただけだよ……これさ」

 

 そういって白衣の裏から出したのは……何だろう? 小手のようにも見えるけど。

 

 「今はまだ困難かもしれないが、それ(補助装置)を使っていることで歩行が可能になるかもしれない。そんな時、これは歩行を手助けしてくれる杖だよ」

 

 そう言って木山先生は杖と呼んだものを軽く振った。するとカシュンッ、といった音とともに長さ数十センチの棒が飛び出してきた。

 

 「君に合わせて軽く、少しの力で収納しているものが出る仕組みになっている。もちろんそれなりに頑丈だよ」

 

 そう言って杖と共に一片の紙を渡してくる。

 見ると電話番号のようなものが書かれていた。

 

 「困ったことがあれば呼んでくれたまえ、駆けつけよう」

 

 『ありがとう、ございます』

 

 改めて礼をいう。また涙が出そうになったが堪えた。

 

 

 

 木山先生が帰ってから僕たちは教室に戻った。自分で車椅子の車輪を回して動かすのは大変だけど体を動かさずにはいられなかった。

 

 途中、織斑先生が話しかけてきた。どうやらこのことを改めてクラスの皆に話すらしい。

 早く、皆の顔が見たいな。

 

 

 「あ、織斑先生、朝陽君、おかえりなさい」

 

 扉を開けて最初に目に映った女性はメガネをかけていて、少しだけたれ目。ショートカットの髪型で身長は小柄だった。ただ胸はまるで主張するかのように大きかった。

 

 『――とても、大きいですね』

 

 つぶやいていた言葉は幸いにも誰にも聞かれることはなかった。

 教室前で少しだけ待っていろと織斑先生に言われたので待っている。ここから見えるのは織斑先生と山田先生だけなのでじっと見る。あ、何かもじもじし始めた。あ、こっち見て驚いている。

 

 「――これからお前たちに伝えなければならないことがある、愛染朝陽のことだ」

 

 「――詳しい事情は伏せなければならないが、愛染には先程、『専用機』が渡された。そして、身体機能、視力が若干だが戻った」

 

 「愛染、入ってきていいぞ」と言われたので車輪を押して中に入る。相変わらず女性が使っている香水の香りが入り混じった匂いがするが、気にせずに織斑先生のところまで行く。

 

 『あらためて、よろしく、おねがい、します』

 

 頭を下げて、再び挨拶をした。そのことにクラスの皆が驚いていた。

 

 「釘を差す意味でも言っておこう、私は差別という行為が嫌いだ。

 誰だって好き嫌いはあるだろう。だがここ(IS学園)では許さん。ここでは皆が等しく平等だ。分かったか」

 

 織斑先生が全員を見据えて言う。その目には有無を言わさない迫力が込められていた。

 そんなところでチャイムが鳴り響く。

 

 「ふむ、終業のチャイムか。山田先生、少し頼みます。私は会議があるので」

 

 「は、はい」

 

 山田先生を残し、織斑先生は教室から出て行った。

 

 「…………」

 

 休み時間だというのに静まり返っている教室内。そんな中僕は車椅子を動かしてある人物の前に行く。

 

 「愛染……?」

 

 『織斑、いちか君……だよね?』

 

 一夏の前に行く。この学校で唯一の男だから一目でわかった、うん、

 

 『イケメン、だね』

 

 「え?」

 

 いや、何でもないよ、と言って口に出てしまった感想をはぐらかす。

 

 『おりむら、いや、一夏君。おねがいが、あるんだ』

 

 僕は一夏に前から言おうとしていたことを言った。

 

 『――僕と友達に、なって、くれないか?』

 

 一夏の目をまっすぐに見て言う。僕の言った言葉に返答はすぐ帰ってきた。

 

 「もちろん、と言いたいが俺たちはもう友達じゃねぇか」

 

 手を出して握手を要求してくる。あのときできなかった行為、それが今はすることができる。

 

 『あぁ、ありがとう、一夏』

 

 一夏の手のひらは男らしくとても大きく感じた。

 そういえば、もう一組友達になりたい人が。

 キョロキョロと辺りを見渡して、いた。

 

 『良かったら、僕と友達に、なって、くれませんか? アリシア・ウォルトさん、ハイネ・ウォルトさん、サミュエル・ウォルトさん……ですよね?』

 

 三人とも顔立ちは似ていて、一人はショートカットの金髪で知性的な印象を受ける切れ長な双眸、もう一人は金髪のゆるふわなロングで優しい印象を受けるたれ目の双眸、もう一人は金髪で後ろ髪を三つ編みで留めており、力強さを感じる双眸。

 姉妹っぽくて顔が似ているという理由で声をかけたのだが外れていたらとても恥ずかしい。

 

 「…………何で」

 

 僕の言葉に反応したのはショートカットの女性だった。否定を述べたのではなく、疑問系の口調だった。

 

 『僕は、ここに来たら、友達をつくるって、決めてたからです』

 

 「だからって私たちじゃなくてもいいじゃない、私たちが貴方にしたことを忘れたっていうの? それとも分かっていて、嫌味で言っているのかしら!」

 

 だんだんと語尾が強くなっていく。最後の方は叫んでいるようだった。

 

 『最初は、クラスの人たちと、仲良くなって、友達になる。みんなで笑いあって、みんなで運動して、みんなで食べて、喧嘩して、馬鹿やって……そんなことを僕はしたいんです。今まで、そんなことは、出来なかったから』

 

 僕は握手を求めるように手をだす。

 

 『まずは、話すことから、始めましょう。友達になるのも、不満をぶつけるのも、そこからですよね?』

 

 僕はにっこりと笑顔をつくろうとするがあまり顔の筋肉が動いてくれなくて、なかなか出来なかった。

 

 そんな時、僕の手に三人の手が触れた感触を感じた。

 

 「…………好きにしなさい。私は言いたいことははっきり言うからね」

 

 「なら、私たちを友達と(そこまで)言えるくらいにしてみせてね」

 

 「まずはこれからよろしくね、愛染君」

 

 『――ありがとう、ございます』

 

 「……何であなたがお礼を言うのかわからないわ」

 

 純粋に嬉しかったんだ。また、友達が出来るんだって。また、僕が学校に行って、生活できることが。

 

 


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