人並み――四話
「では首のチョーカーは苦しくないかね
? 車椅子は乗りづらくはないかね? 耳の横のケーブルは痛かったり、痒かったりしないかい?」
『大丈夫、です』
あれから数時間の処置の末、僕の車椅子にはバッテリーが、首元にはチョーカーが設置され、耳の裏側にはケーブルプラグが接続されていた。
「確認だが、体調は大丈夫かね?」
『大丈夫、です』
こちらの体調を気にかけながら続けられ、最終段階に来ていた。
「では、これが最後だ。チョーカーのスイッチを押すぞ?」
『ハイ』
カチッ、としたおととともに甲高い起動音が鳴り響く。
途端、ISの情報が頭に流れ込んできた。
『う、ぐうっ…………』
忌むべきIS、そういった認識が思考を支配する。脳内を瞬く間にISの情報に書きかけられていく。
恐怖。あの時のように身体を弄られていく感覚にトラウマを刺激された。
『ぐふっ……うぉえっ……』
吐きこそはしなかったものの、えずくのは止められなかった。
その時、また、何かが合致したような感覚を感じたのと同時に先ほどまでの吐き気が嘘のようになくなっていた。
『――――――――――――え?』
たっぷり十秒の時間を使い、今の現状を理解しようとする。
『そうか、見えて、いるんだ……』
自分の目に見える光景は不思議だった。
観戦場のような場所の中心にいる僕と、スーツを身にまとった綺麗というよりはカッコ良いという表現が似合っている女性。
銀髪をポニーテールにし、銀縁眼鏡をかけていてワイシャツの上に白衣を着ている女性、この人は綺麗という印象を感じた。
こちらもスーツにネクタイ、白衣だが目元の隈が印象的な女性、この人は優しい雰囲気を纏っているが目元の隈が邪魔をしている感じがした。
白衣の中には日焼けしている肌と何故かスク水を着込んでいる女性、こちらを値踏みするような、ねっとりとした視線を向けてきていた。
金髪のショートカットで左眼に切り傷のようなものが入り冷酷そうな見た目だが、それほど剣呑な雰囲気は感じなかったため、見た目ほど悪い人ではないと思う。
ひとくせもふたくせもある人たちが僕を見ていた。
「おやおや、大丈夫かい? どこか痛むのかい?」
金髪ショートカットの女性が心配してくる。
気付けば僕は溢れんばかりの涙を流していた。
『見える……見えます…………』
堰が切れたように泣いた。前にISを起動できた時の投影ディスプレイ越しに見た景色とは違う、自分の目で見ることが出来る感覚というのは本当に久し振りでこんなにも嬉しく、こんなにも綺麗だとは思わなかった。
また、身体が少しだけ動かすことが出来たのが嬉しかった。
僕のことをこの場にいる五人は落ち着くまでただ見守っていた。
『――本当にありがとう、ございます』
僕は改めて四人の博士、先生を見て頭を下げて礼を言った。
「うむ、だが再三言うがこれは完全ではない。いつかどこかが壊れるかもしれない。そのことを忘れないでくれ給えよ少年」
篝火ヒカルノ博士が僕にいい、タウ○ページ並みに厚い説明書を渡してきた。
『かさね、がさね、ありがとう、ございます』
僕はもう一度頭を下げてお礼を言った。
「――――しっかし、『あの天災』は何考えてんだが、並列コードプロセスなんてものを割り込ませろなんて……やっぱり分かんないねぇ…………篝火さんには」