ひとりひとりの描写を書こうものならかなりの分量になってしまうため割愛をしているので、かなり足りないところがあるかもしれません。隙を見て追加していくかもです。
Easy End『ラウラ・ボーデヴィッヒ』
ーーあの時のことを語ろうとするものはいない。学園にいた一部の人物しか真実を知らないからだ。
タッグマッチトーナメント。開催された大会に非力ながらも挑んだ一人の少年。一回戦で悲劇は起こった。バディを組んでいた片方が暴走したのだ。俗に
なす術なく、その場にいた二人の少年少女は負け、負傷。当の少年は拙いながらも用いうる全てを使ったが、なす術なく敗北した。
そしてーー
「………………」
大会から二週間が過ぎ、すっかり以前の喧騒を取り戻した学園。すでに周囲は間近に迫った臨海学校に浮き足立っていた。
すぐに意識を取り戻した箒、ラウラは全ての事情を聞き、愛染朝陽の部屋に訪れていた。
「これは……」
「……少ないな」
相部屋だった布仏本音は事情によって部屋を移されており、そこには使われた形跡のあるベッドと机、そして愛染の持ち物があるだけだった。驚くべきはその少なさだ、この学園に住むことになるために娯楽道具や、勉強道具、服など人それぞれで量は違うものの、見ただけで少ないと思えるほどの量しかなかった。
携帯式の杖、車椅子、勉強道具、多少の服……愛染はこれだけしか持っていなかった。
「参考書……書き込みが入っているな、ノートにも復習としてか色々と書き綴られてる。
ん? これは、日記だ」
机の上に置いてあった授業に使う参考書とノートを見て見ると、何度も見直したりしたのかどちらにもびっしりとメモなどが書かれていた。一体どれほどやっていたのか。
そんな時、日記と書かれたノートが参考書の下から出て来た。
ペラペラと中を見る。すこし前から書かれたものだった。最初は当たり障りのないことが書かれていたが、読むにつれて箒は涙が溢れてしまった。
「箒?」
「くそっ…………不甲斐ない私を許してくれ、愛染……」
包帯が巻かれた痛々しい両手で顔を覆い、嗚咽を漏らす箒。落とした日記を拾い上げラウラも中身を見てみる。
その日その日にあったとりとめのない出来事、誰と話したか、どんなことがあったのか、入学からタッグマッチトーナメントの短い期間の出来事を楽しげに書かれていた。
誰かと友達になりました。今日はこんなことをしました。毎日が大変ですが、楽しいことだらけです。
そんな一文が最後の数ページには必ず書き綴られてる。
それを見てラウラも知らずに涙を流していた。
「…………すまない、すなまい愛染…………………ごめんなさい………………」
ーー愛染朝陽はタッグマッチトーナメント当日に命を落とした。
ラウラがVTシステムに乗っ取られた後、せめてもの抵抗をした愛染。ダメージらしいダメージを与えることはできず、逆にボロボロになっていくのは自分だった。それでも手は止めずに抵抗を続けーー斬られた。
その斬撃はSEを削り切り、左腕を切り裂き、胴を真っ二つにて木の葉のように愛染の体を吹き飛ばした。
その時、千冬を象ったものの腕が落ちた。
偽千冬の目の前には打鉄を纏った織斑千冬が立っていた。わずかであったが、それが千冬が突入する時間を稼いだのだ。続いて教師陣がISを纏い陣形を組みながら千冬と共に偽千冬を対処し、残りの教師で3名の救出に向かった。
偽千冬はすぐに倒された。身動きをできないようにした後、中にいたラウラを取り出すと形を維持できなくなり自然消滅していった。
千冬は教員の一人にラウラを任せるとすぐさま愛染の元に駆け寄った。
ISを解除した救護班は玉の汗を浮かべながら指示を飛ばしていた。止血剤を打ち込み、傷口を強く縛っているが効果はあまり期待できない。左腕と胴を切られているため、中身が溢れ、短時間とはいえ決して少なくない量の血が流れ出ていた。
ごめんなさいと、焦点があっていない愛染は虚空を見つめながらうわごとのように誰かに、何かに謝っているように聞こえた。その呟きにさらに焦りを加速させていた。
千冬も止血に加わり、胴部を強く抑える。数人の助力もあり止血はうまく行ったが、しかし血の気は引き愛染の意識は混濁していった。
しっかりしろ、意識を強く持て。叫ぶことしかできない千冬、叩いたり、呼びかけたりするも効果は薄くなり、届いた救命装置を繋いでも薄かった。
『…………ごめん、な、さ、い……ぼー、でゔぃっーー』
とても弱い掠れた声でラウラに謝ろうとして声が途切れた。続いて心音が途切れたビープ音が鳴り響く。心臓マッサージをしても電気ショックを打っても心臓は動く気配はない。
ーー血を流し過ぎた、失血死だった。
わずか30秒後、ISを使って飛んで来た教師が持っていた輸血パック。あまりにも虚しくビープ音が響いていた。
今回の事件は粛々と闇に葬られることとなった。事態を重く見たIS委員会は学園に箝口令を敷き、口封じを図った。それは全生徒と専用機持ちにも例外なく行われた。しかし多数の教師陣は反論したが日本政府の裏工作によって着々と進められ、反論していたものたちも黙らざるを得ない状況に陥れられ、どうもできないほどにしんこうされたあとであった。
『ーー愛染朝陽は海外に長期的なISの研修に派遣された』
あくまで表向きは、であるが辻褄はすでにあわされていた。
あの後、教師の三分の一は退職を申し出て来た。ISという絶対神話を目の前で崩され、一人の生徒を殺してしまったということに良心が耐えられるはずもなかった。
ーー大会が終わった後、学園側がVTシステムのことをドイツに問い詰めたところ我関せず、全てはラウラ・ボーデヴィッヒ個人のやったことだと責任を全てラウラに押し付け、トカゲの尻尾切りにしていた。いや、実際はドイツ本国も知る由もないのだ。篠ノ之束が無作為に仕込んだ実験の結果なのであるから。
本国のラウラ直属の部隊は解散、そのまま軍属として各地に散らばることとなった。
当の本人ラウラ・ボーデヴィッヒはドイツ本国から戸籍は完全に抹消されていた。こういうところが迅速なのは呆れるよりも逆にさすがと言わざるをえない。
そしてラウラはこれを元にISに乗ることを辞めた。専用機もなくなり、ドイツからも切られ代表候補生でなくなったのだ、それはある意味で当然と言える結果であろう。
それでも学園にいる理由ーーそれはISの整備士になるためだった。
「ISの
箒に聞かれた際にラウラは感情を押し殺した声でそう言った。
ラウラは以前着ていた軍服のようなIS学園制服を止め、男物のようなパンツスーツを着ていた。色合いは所々に青や赤が混じっているものの白だった部分は黒色になっていたーーはたから見れば喪服と捉えられてもおかしくないほどである。
『これは……私の、私の大切な人が死んでしまってな、それで無理を言ってこの衣装を作ってもらったのさ』
一部の生徒にそれを聞かれた際には淡々と答えた。聞いた生徒も少々まずいことを聞いてしまったなとそれ以降は誰も聞かなかった。
ーー彼、愛染朝陽がいなくても世界は廻る。いや、結局のところ、誰が居なくなっても同じなのかもしれない。
でも、それでも抗いようのない事実がラウラを苦しめていた。一度死のうとも考えたがやめた。自分が死ねば、一体誰が彼のことをこの世界にいたと証明できるのだ。きっとそれは数えられるくらいしかいない、それくらいしかいないのだ。
どうしようもない感情の波がやってきてラウラは歩みを止めて上を見る。何かを忘れないように、零してはいけないとばかりに食いしばりながら今日も生きている。
すまない、エンドが必ずしもハッピーとは限らないんだ。すまない、本当にすまない……