IS・人並みの幸せ   作:1056隊風見鶏少尉

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ぬるっと投稿。


三十話『天災』

 

会話は篠ノ之束から始まった、それも普通に。それがどんなことなのかは束を知っている者ならば異常なことに気がつくだろう。

 

 「まさかこんなところにいたなんてね、てっきりどこかでのたれ死んでるんじゃ無いかって思ってたよ。

 ーーあ、改めて名前を教えてもらっていい? 君のこと実験(バラ)したことは覚えてるんだけど名前とか覚えてないんだ。だから、教えて?」

 

 「………………………………愛染、朝陽」

 

のろのろと開く口から絞り出すように名前を告げる。束はそれを聞いて嬉しそうに嗤って言う。

 

 「そっかー、愛染朝陽って言うんだね。よろしくー」

 

 ニコニコと笑みを貼り付ける束。短い会話が終わればそこには痛いくらいの静寂が訪れていた。

 

 ーーあぁ、今ならあの二人の気持ちが分かる。なぜ束のことをあぁ言ったのか? この人はヒトをヒトとして見てないんだ。自分によく似た喋る動物が居るんだってくらいの感覚で接してくる。

 でもそれは興味をかけらでも持ち得た時だけなのだろう。だって彼女の顔から、目から僕に向けられるのはちょっぴりの興味と、それよりも冷たい嫌悪するかのような視線だった。

 

 「ーーねぇキミ」

 

 束が口を開く。疑問を僕へとぶつけてくるように、なんて事のないことを言うかのように。

 

 「ーーーー何でお前がISに乗れてるの?(・・・・・・・・・・・・・)

 

「いっくん以外を乗せるつもりなんて無かったんだけどなぁ……何で乗れてるの?」

 

 発せられた言葉を噛み砕いて理解するのにだいぶかかった。いっくん? 以外を乗せるつもりが無かった? 何を言ってる? それはもしかして一夏君のことなのか、考えがまとまらない。

 

 「は、ぁ?」

 

 僕の口から出た言葉はそんな間抜けな息のみ。僕が動かせている理由? そんなの僕自身が知りたい。生みの親である貴女が分からないなら僕も知り得るわけもない。

 

 「は? 知らないの? 使えないなぁ、ムカつくなぁ? 束さんはね、知らない分からないが一番嫌いなんだよ、とっても(バラ)したくなるから」

 

 

 「ーーそこまでだ束! 今すぐ愛染から離れろ!」

 

 声色は変わっても表情は変わらず、一歩こちらに近づいた。そこへ割って入る怒号と影、それは織斑先生であった。

 織斑先生は部屋に入ると束さんを追い越して僕の前に立った。

 

 「ちーちゃんどいてよ、私は今そいつと話をしてたんだよ?」

 

 「話か、話ならば今お前はなにをしようとしていた? 学生時代と同じだ、同じ動きをしていたなお前は。

 そうやって話し合うつもりかーー物もヒトも傷つけて、壊して」

 

 「知ってるちーちゃん? 話し合いってねIQが20離れてると会話って成立しないんだよ? 100も150も離れてるヤツと会話なんていくら私でも出来ないって。だから話しやすいように道筋をつけてあげてるんじゃん」

 

 「お前のそれは会話とは言わん。それならば相手を傷付けるな、お前の話の道筋をつけるというのはただの脅迫で拷問だ。何故お前から人に合わせてやることをしないんだ」

 

 そこまで聞いた束は乾いた笑いを上げた。そこでようやく廊下側から一夏君たち他の生徒がやってきていた。

 

 「ーーははははっ、歩み寄り? それはねヒトとヒト、動物と動物みたいに同じ種族によって行われることだよちーちゃん。会話もそう。言語もそう。いくら会話しても、いくら同じ言語で話したとしてもヒトと動物とじゃ会話は通じないんだ。せいぜいニュアンスが伝わるかどうか。

 会話? 歩み寄り? そんなものは十年から十五年前に試みたよ」

 

 今しがた部屋についた一夏君、箒さん、鈴音さん、ボーデヴィッヒさん、簪さん、ウォルトさんたち、オルコットさんの9人は目に入った光景に絶句していた。僕、織斑先生は声も挙げれなかった。目の前の人物は本当に人類なのだろうか?

 だだ一番に回復したのは一夏君だった。束さんに真っ先に声をかけていた。

 

 「ーーな、何してんだよ束さん!」

 

 「ん? あぁ、もちろんいっくんもちーちゃんもほうきちゃんも束さんは大好きだぜ!」

 

 先頭にいた一夏君に束さんはまるで先ほどのことがなかったかのように、朗らかな表情でハグしていた。

 されるがままの一夏君を尻目に困惑な表情を浮かべていた長女、サミュエル・ウォルトさんが織斑先生の方へ近寄って話しかけていた。

 

 「えぇと……何が何だか分かりませんが学園から持ってきた四機のISと各候補生の訓練内容の確認が終了しました。あとはいつでも行動できます」

 

 それは愛染の部屋に来る前に束がふらりといなくなった為、嫌な予感がした織斑先生が無用な混乱を生まないために言いつけたことだった。

 代表候補生や箒、ウォルト達は事前に言われていたために各自のことや生徒たちに声をかけ要点の確認が取れてからすぐに織斑先生の後を追ってきたということだった。山田先生には申し訳ないが残った生徒たちを任せてきている。

 

 「あぁ、ありがとう。そのまま代表候補生達は自国のサンプル採取に移ってよし。箒、ウォルト達は生徒とともにISの訓練に参加しろ。一夏、お前はーー」

 

 「さてさてちーちゃん、私とちーちゃんの仲だから私はここまで言葉を使って今の行動を示しているんだよ」

 

 束はいつのまにか気を失った一夏君を横抱きにしていた。その状態で何事もないように織斑先生に話しかけていた。

 

 「束、お前なにをーー」

 

 「私はね、知らないことが嫌いなの。だからソイツ、持ってくね」

 

 織斑千冬はその言葉を聞いた時動こうとした。昔から束がそういう性格だと知っているから。だから阻止するべく殺す気(・・・)で。しかし千冬が行動する前に事態は動いた。

 

 「ーーキャァ!!」

 

 「ッな、なんだ!?」

 

 「これはーーIS!?」

 

 窓ガラスを突き破り、壁を破壊して侵入してきたISーーそれは学園から持ってきた『打鉄』二機と『ラファール・リバイブ』二機の計四機。

 突然の事ながらも代表候補生は咄嗟に自分のISを部分展開し武装を構えていた。しかし場所が場所なだけに武装を取り出せない者もいた。何も持たない箒とウォルトたちは部屋から廊下へと躍り出た、かえって邪魔になると思ったからだ。

 そこから目まぐるしく展開が進んだ。打鉄一機を残して束に突っ込んでいくIS。千冬は束が呼んだものだと思ったが、そのISの行動に一瞬固まってしまった。簪と一夏が叫ぶ、愛染の方を振り向くが遅かった、残りの打鉄は愛染を抱えて後方に飛んで行こうとしている。肉薄し蹴りを叩き込むが浅く、少しだけ行動を阻害するだけに終わってしまう。そこで千冬の前に束が飛び出して来た。

 束の行動は淡々としていた。向かってきた三機をバラバラに解体し、残りの一機に追いついてこわす、それだけだった。

 ただの生身、それも僅かな時間で飛翔するISーー結果的に見れば千冬の行動が束を支援してしまっていたーーに追い付き、その八割を分解してしまっていた。

 

 「ーー!」

 

 だがそこで束だけは気付いた。ISの生みの親である束だけはその動作に気付いた。

 あと少し、触れられる距離にいる愛染が纏っているISから燐光(・・)が漏れ出していた。

 それは全身に広がって愛染を覆い隠してーー消滅してしまった。

 

 「ーーーー」

 

 「な、に?」

 

 ピタリとそれまでの激しい動作を止めると、舞い散っている燐光の残骸を見つめる束。何が起きたか分からず声も出せずにいる千冬と他の者達。

 その場には波の音のみが絶えず響き渡っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  ーーーーゲホッ、ゴボッゴホッ、ッッ! ヒューッ、ゴホッゴホッゴホッ!

 

 

  呼吸を戻すために咳き込み、また咳き込み続けたがしばらくして落ち着いてきた彼は視線を地面から上に持ち上げる。

 知らない砂浜、見慣れない海、少なくとも先ほどいた旅館の近くではないと分かるほどの静けさの中に愛染はいた。

 

 「……こ、こは、どこだ……ろうか?」

 

 酸欠気味になって回らない頭を動かしながら周囲を見渡そうとしてーー

 

 「ーーーーおいおい、まさかこんな形で再開すると思ってなかったよ。とりあえず大丈夫かい?」

 

 背後から聞き馴染みのあるハスキーボイス(・・・・・・・)が聞こえてきた。僕は驚愕に目を見開きながらその正体の名前を口にする。

 

 「デュ、デュノアさん……どうして、ここに?」

 

 シャルロット・デュノアはその中性的な顔立ちで少女を思わせるような柔らかい笑みを浮かべていた。





一体いつからーーーー
 シャルロット・デュノアが退場したと錯覚していた?


ーーーーNormal Endが解放されました。

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