全然進んでないです。
皆さん、おはようございます。
そういえば僕の見た目のことは言っていませんでしたね。
身長、163㎝、体重38㎏、肌や髪の色は白色らしいです。
「さ、着きましたよ愛染君」
『ありがと。ございます、山田先生』
机の感触がするので教室だ。
「あ、愛染、おはよう」
『その声は、織斑君か。おはよう』
「おう、一夏って呼んでくれ」
と軽く挨拶をしていると誰かが近づいていた。
「――ちょっとよろしいかしら? 愛染君?」
『? 何だい、アリシア・ウォルトさん、ハイネ・ウォルトさん、サミュエル・ウォルトさん』
「……自己紹介しかしてないのに覚えてるのね、凄いわ」
自己紹介しか会っておらず、しかも三名を声だけで当てたことに内心で驚愕していた。
「ちょっと渡したいものがあるからついてきてくれないかしら?」
『良いよ。車椅子、押してもらえると、助かるよ』
そう言うと、カラカラと車椅子を押してくれながら何処かに連れてってくれる。一体何をくれるんだろうか? 楽しみだなぁ。
一夏君があ、愛染……と心配そうな声をしていたが何故だろう。
しばらく移動しながら、三人と取り留めのない会話をしながら何処かの部屋のような場所に連れてこられた。ここで渡してくれるのか?
『それで、何を渡してくれるの?』
「…………」
すると沈黙のあとに体が押さえられ、持ち上げられ、柔らかいものに寝させられる。
何だろうか。ベッドに寝せて。
「…………ゴメンなさいね、私たちだって本当はこんなことしたくないんだけど」
カチャカチャと一人が服を脱がそうとし、一人が何か柔らかいものを顔に押しつけ、一人が何かを首筋に何かを刺した。
「こうでもしないと私たちも危ないのよ。恨むなら恨んでくれても良いわ」
長女、サミュエル・ウォルトが淡々と作業をしながら呟く。
ウォルト三姉妹はフランスから来た生徒で、彼女らはフランス内で起こっているISのシェア争いに巻き込まれる形で参加し、成果を出せと、出さなければ三人をバラバラな場所に今すぐ嫁がせる、と家から言われてしまった。
私たちはまだ、一緒にいたい、一緒にISを学んでいきたい。そのためにこの男を利用することも、長女である私が身体の関係を持ちさえすれば良いのだ。
妹たちのために一度だけ汚れるならば安いものだ。
『うわ、ぁ、や、やめてくださいよ』
抵抗など出来るはずもなく、されるがまま。そこでひとり、ハイネ・ウォルトが異変に気付いた。
「待って、薬が効いてないわ。即効性の媚薬なのに」
体温上昇等の作用が出るはずの愛染だったが、全く変わらないのに疑問を持つ。
「効かないなら関係ないわ。なら身体をつかって直接――!?」
ズボンのベルトを外し、下着も脱がしたところでサミュエルが一瞬時が止まったように動きを止める。
脂汗を噴き出し、顔を土気色に染め上げる。
「――……ウオエェエぇえぇぇぇっ!!!!!!」
そして、吐き出してしまった。
「!?」
それを見ていた二人は何事かとサミュエルを見て、看病を始める。
「はぁ、はぁ、はぁ、うぷっ」
『大丈夫、ですか、私の体見ないほうが、良いですよ』
「あ、あんた一体何したのよ!」
「…………もう、遅いわよ」
二人に大丈夫かと背中をさすられ、対象者には心配される始末。
「…………ど、どうなってるのよ、その、あ、あんたの体はっ」
指をさし、知らず知らずのうちに口調が変わってしまうアリシア。
彼女はさきほど愛染が言った自身の体を見ないほうがいいというのが気になり、上着をめくった。そこで悲鳴をあげた。
二人も同じく声にならない悲鳴をあげる。
愛染朝陽の体は骨と皮だけに等しいほどだった。ガリガリの体にはおびただしいほどの縫合痕、実験の跡が刻まれていた。決して醜いというわけではない、完璧な処置を施されているそれはどうしようもないほどに綺麗だった。しかし三人が息を飲んだのはそこではない。
いくつかの臓器が消失しているかのようにへこんでいるお腹、下着がおろされているので下半身があらわになっているが男性器らしきものはない。代わりに酷く凄惨な傷跡だけが集中していた。
「あ、あなた……」
『あまり、きかないでください。おもいだしたく、ないんです』
しばらくの間、三人は固まっていた。
再び動き出したのは僕が声をかけてからだった。
『あの、授業が始まって、しまうかもしれないので、出来れば服を……』
「あ、あぁ、そうね、ゴメンなさい……ゴメンなさい」
それから三人はテキパキと服を着させて車椅子に乗せてくれた。
(……一体何だったんだろう――あ! もしかしてハニートラップってやつなのかな?)
教室に向かう最中にそんなことを思っていたが当の三人の纏う雰囲気は暗く、おそらく固く口を閉ざしてしまっているようなので聞くに聞けない。
「――貴様らどこに行っていた? それも愛染を連れて。場合によっては容赦せんぞウォルト三姉妹」
「っ!?」
ガラリと教室の扉を開けると目の前には静かに切れている織斑先生がいた。織斑先生を見てパニックになった三人は目線を泳がせながら必死に言い訳を考える。
『織斑、先生、遅れてすみません』
「あぁ、遅れたのは問題だな、だが。今はどこに行っていて、何をしていたかというのが一番の問題でな。どこに行っていたんだ愛染?」
『あぁ、それはですね――』
後ろにいる三人の喉を鳴らす音が聞こえた。
『学校内を、案内して、貰ってました。遠くまでいって、遅れて、しまいました』
体感でわかる、空気が冷えていくのが。織斑先生から放たれるプレッシャーというやつか、蛇に睨まれたカエルになった気分だった。
「――本当か?」
『はい』
僕が答えると、織斑先生から放たれていたプレッシャーは消え、ため息が聞こえた。
「はぁ〜……分かった、今回は愛染に免じて見逃してやる。席に座れ」
ただ僕は聞き逃さなかった。かすかに聞こえる程度に三人のうちの誰かに「次はないと思え。問答無用で潰すからな」と言っていた。怖いよ織斑先生。
「あぁ、愛染、お前は別だった。ちょっと来い、山田先生後はお願いします」
「分かりました、気をつけてくださいね〜」
何だか分からぬまま、僕は織斑先生と共に何処かに向かった。