IS・人並みの幸せ   作:1056隊風見鶏少尉

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お久しぶりです、今回は次の話の繋ぎみたいなもので短いです。

あとそういえばと思ったこと
番外話のことすっかり忘れてた……


二十四話『初めまして?』

 

 

 

 どうも初めまして、愛染朝陽です。どうやら僕が寝ていてから二週間ほど経っているとのことです。

 ですが僕にはその時の記憶がありません。それどころかここがどこなのかさえ定かではありませんでした。

 先生の話によると脳の一部が損傷しそれで記憶が飛んでしまったとのこと。簡単にいうとIS学園という学校に入学する四月ほどから今の七月上旬の記憶が飛んでいるといった所です。

 最初はそう言われてとても慌てふためきましたが、僕の担任だという織斑千冬先生、同じクラスだという篠ノ之箒さん、ラウラ・ボーデヴィッヒさん、後からとても急いでやって来た山田麻耶先生から話を聞き、大まかな内容は理解しました。

 僕が思ったよりもあっさりと事態を飲み込み、ケロっとしていることに千冬さんは疑問げに聞いていたが僕は大丈夫です、と答えた。

 だって、そうじゃないか。

 ーーあの時のことよりも衝撃的で絶望的なことなんて起きはしないだろう。

 

 

 

 

 

 『ーーありがとう、ございます……織斑君』

 

 「いいってことよ、病み上がりだろ? なら手伝うだろ」

 

 意識が戻り三日後、両生類にどことなく似ている顔つきの医者は愛染の簡単なバイタルチェックとテストを行い、それで正常だと判断され無事に退院となった。

 流石にクラスメイトの顔も、名前もまだ半分も覚えてない。

 退院と聞いたラウラ、箒、一夏、本音、ウォルト三姉妹、織斑千冬、山田麻耶、そして今の愛染では知らない人物、牧部理澄(まきべりずむ)がいた。

 

 「ーー少しと見ないうちに随分と様変わりしたな愛染朝陽。ん? 左眼はどうした? 見えなくなったのか?」

 

 眼鏡をカチューシャのようにつけている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)先輩と思わしき人は真剣な様子で聞いて来た。

 

 『え、僕の左目って見えていないんですか?』

 

 言われて初めて気付いた。それを確かめるように左手で触ろうとして上腕から先がないことに気付いたため空を切る。改めて右手で左目をなぞると硬質な感触に触れた。恐らくは眼帯をつけているのだろう。

 

 「愛染、怪我のことは後で話そう。今は移動しないか? 巻部もいいか?」

 

 次に口を開いたのは織斑先生だった。口調は柔らかだが何故か有無を言わさぬ迫力があった。

 牧部さんも頷き、そこでやっと僕たちはIS学園につき、職員室の一室に通されたのだった。

 

 

 

 

 

 過去に通っていた記憶があると言っても所詮は過去の話。今の僕には物珍しさしかない。

 

 「ーー私から言おう、もともとそのつもりだったしな、愛染のことについてだ」

 

 重々しく話し始めた千冬は僕の今の現状を話し始めた。

 

 要約すると身体的にかなり深刻なダメージを負ったらしい。左腕の上腕二頭筋付近の欠損。内臓器類の損傷と下手をすれば死につながる怪我、それよりも深刻なのが脳に負ってしまったダメージの方だ。軽いとはいえ傷がついてしまったために記憶を失うという事態に陥っている。それはあの医者の方からも言われており、だいたい入学前後から今日(こんちに)の記憶が飛んでいる。

 

 織斑先生の口からそれを聞かされた面々は絶句し、呆然と僕のことを見ていた。

 正直な話、それを言われても僕としてはあまり実感がない、というか違和感しかない。気がつくとこうなっていたというのが正にそうなのでそんな悔しげな、悲しげな目で見られてもどうすればいいか分からないから動揺してしまう。

 

 「…………そうか」

 

 寂しそうに呟いたのは理澄先輩だった。頭にカチューシャのように置いていた眼鏡をかけ直すと僕の頭を撫で手櫛で髪をすくように何度も繰り返す。

 

 『あ、あの……?』

 

 頭を撫でられていることに困惑げに声を出すが気にした様子はなくしばらくその行為は続いた。

 

 流石に今日から授業を受けるというわけにはいかず、自室にて療養となった。

 

 通された自室だったがやはり僕がいたという痕跡はあっても記憶がない。それはもうしょうがないことだった。

 

 『ふぅ……』

 

 車椅子に完全に身体をあずけ、大きく脱力する。すると急に睡魔がやってきて瞬く間に眠りについてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じーっ」

 

 眠りから覚め、目を開けると眼前に少々変わった服装をした女の子がいた。その女の子は僕のことを真近で観察するように見ていて、擬音を口に出していたが全く瞬きをしていないためちょっと怖い。

 

 『あの……』

 

 「あ、起きた〜」

 

 流石にと思って声をかけると先ほどとは一変して弛緩した雰囲気を纏う少女。

 

 「ひさしぶりだね〜いままでどうしてたの〜?」

 

 『え? はい、そうですね、今までは病院にいました』

 

 「その怪我のことで〜?」

 

 『はい、そうです』

 

 「大会後から急に来なくなったから心配したよ〜。なにがあったの、おしえてよ〜」

 

 『えっと、すいません。それはちょっとできないんです』

 

 「え〜なんで〜?」

 

 『すいません、僕もよく分かってなくて……その時の記憶も無いですし』

 

 「ーーへぇ」

 

 その時、一瞬だけ空気が硬質なものに変わった、目の前の人物から向けられた剣呑なものに思わず息を詰まらせる。しかしそれもすぐに霧散し逆にこちらを心配するように眉尻を垂れさせる。

 

 「たいへんだったねぇ〜……じゃあ今日はもうおやすみにしようか〜」

 

 そう言って少女は僕の車椅子を押してベッド近くまで運ぶと僕を持ち上げて優しく寝かしてくれた。

 

 『ありがとうございます』

 

 「おやすいごよーだよ、おやすみ〜」

 

 そう言って彼女も自分のベッドに潜り込み、ものの数分で寝息が聞こえてきた。

 

 ーーちょっと変わった人だけど良い人そうでよかった。

 

 僕は明日からの久しぶりの学生生活にちょっとだけわくわくしながら再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ーーーーうーんと…………あ、あったあった、これこれ。一応回収しておかないとね。もしものために」


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