IS・人並みの幸せ   作:1056隊風見鶏少尉

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FGOにハマったらこんなことに……
おのれFGOぉ……。



まぁ、水着ネロとニトクリスとエレナとマーリンが来たから許す。


二十二話『ぼくと』

 

 

 僕とボーデヴィッヒさんはもうすぐ始まる試合の準備をしていた。

 

 「――よし。愛染朝陽、そっちは大丈夫か?」

 

 僕が使うISを全体の点検をして、僕の生命線でもあるチョーカーをくまなく見てから最後に眼帯の位置を調節する。

 

 『えぇ。だいじょうぶです』

 

 カラカラと車椅子で移動しながらボーデヴィッヒさんと会話を続ける。

 

 「いいか、最終確認だ。愛染朝陽、お前は試合中動くな。回避行動など以外は基本開始場所から動かずに銃撃に徹しろ」

 

 『えぇ⁉︎』

 

 「なに、心配するな。お前なら勝てるさ」

 

 ぽすっ、と軽く小突くように肩を叩くボーデヴィッヒさん。

 

 『……頑張りましょう、ボーデヴィッヒさん』

 

 僕は自分を鼓舞するように拳を握り締める。

 僕は僕の出来ることをするだけだ。死力を尽くそう。

 

 

 

 

 

 

 ――――試合開始時間五分前になり、ボーデヴィッヒさんや織斑君は専用機を、僕や箒さんは訓練機の打鉄を展開してピットに立っていた。

 僕が専用機ではないのは単純に専用機に備わっているものがなかったのとエネルギーが少ないことと換装領域(バススロット)が少ないことから指導が出来ず、それならばと訓練機を使い教えてもらったからだ。

 

 ピットから飛び立ち、対戦相手と互いに相対する。ボーデヴィッヒさんは織斑君と、僕は箒さんと。

 

 

 『――――試合開始っ!』

 

 アナウンスが鳴り響き、試合開始が告げられる。

 

 「――うおおおおおおっ!」

 

 同時に一夏が突っ込んできた。それをラウラはただ静観し迎え撃つ。

 プラズマ手刀を展開し、斬りつけてくる斬撃を正面から受ける。回数を重ねるごとに火花を派手に舞い散らせる。

 ただそこは切らせていたラウラではなかった。兜割のように振り下ろされた刃を待っていたのか右腕を眼前まで上げる。するとそれは起こった(・・・・・・・)

 

 「なっ――――⁉︎」

 

 一夏の体は振り上げた状態のまま、不自然にその場で動きを止めた。試合だというの致命的なそれは当然に狙われた。

 

 「おわぁっ‼︎」

 

 右肩部に換装しているレールカノンが火を噴き、一夏の腹部に着弾。シールドエネルギーを大きく削りながら対象者を木っ端のように吹き飛ばす。それほどの威力を持っていた。

 アリーナ端まで飛ばされた一夏は壁に激突し土煙を盛大にたてる。

 

 「ふん、ただ突っ込んでくるだけとはな馬鹿め」

 

 「そんなものか織斑一夏――私に見せてみろ、教官の言った強さというものを」

 

 ラウラが言い終えるのと同時に、まるで呼応したかのように一夏が雄叫びをあげながらガムシャラに突っ込んできた。

 それをラウラは冷めた目で見つめていた。

 

 

 

 

 

 『いきます』

 

 「くっ⁉︎」

 

 一方で愛染――僕の方はと言うと、最初こそ撃ち合い、斬り合いになっていて、時折ボーデヴィッヒさんの支援攻撃が入っていたが、今は互いに静観するという事態になっていた。

 

 「…………」

 

 「…………」

 

 間合いも詰めず、ただ構えるだけ。しかし視線だけはそらさずしっかりとこちらを見据えてくる箒さん。

 僕はというと、ほぼ受け手側なのでそんな状態にどうすればいいか分からずに箒さんに合わせるように銃を構えて動くのを待っている、そんな状態であった。

 

 

 「……何も、言わないのだな。愛染朝陽」

 

 そんな中、箒さんは突如僕に向かって語りかけてきた。

 

 「え?」

 

 「私はあと少しでお前を殺してしまうところだったのだぞ、それなのに」

 

 歯を食いしばり、何かに耐えるように一拍間を置き告げる。

 

 「――それなのに何故、私を責めない? 何故、罵らない。あの時、私の私欲のせいで傷ついたといのに何故……?

 お前のせいだと責められ、罵られるのも覚悟の上だった、だというのにお前は変わらずに語りかけてくる…………それはこの身を切られるよりも痛い」

 

 

 顔を歪め、血を吐くような痛々しい表情で箒さんは僕に語る。

 それを聞いた僕はどう言っていいか分からなかった。

 

 『僕は……』

 

 言葉は僕の意思とは関係なく、勝手に紡ぎ出されていた。

 

 『僕は、何かを箒さんに求めるためにやったんじゃありません。ただ、僕はあの時箒さんじゃなくても、箒さんでも。誰であっても助けました。

 僕はISなんてもののために人が死んだり、不自由な思いをしたり、悲しい思いをするのは見たくないんです。だから、偽善って言っても良いです、でも『犠牲になるのは僕が最初で最後で良いんですよ。』僕がいる場所でそう言ったことは僕がさせない、させなくないんです』

 

 僕の言葉を聞いて、箒さんは力なく笑った。

 

 「ーー『偽善』か……そう言い切れるお前は強いな、眩しすぎる」

 

 『ーーでも』

 

 暗い顔のままの箒さんに僕は、でもと言葉を続ける。箒さんには言っていなかったことがあった。この場を借りて言うのはちょっと卑怯な気もするけどこれだけは言わなくては。

 

 『箒さんのことはこの数ヶ月でなんとなくですけど分かったと思います。とっても芯が強くて、真面目で、ちょっと頑固で、一途で……良い人です。僕から箒さんに言えることは一言だけですよ』

 

 『ーー僕と友達になってくれませんか? 僕のことを助けてくれますか』

 

 ぱちくり、と目をしばたかせ数拍、箒さんは小さく笑った。でもその笑い声は先ほどよりも何かが迷いの消えたように軽快なものだった。

 

 「ーー……後悔するぞ。私と友達になってなれば、面倒なことも増えるし、面倒な世話も焼くかもしれんのだからな」

 

 『どんとこい。ですね』

 

 再び、箒さんはクスリと笑みを浮かべた。僕もつられて小さく笑った。

 

 「ーーさて、いい加減始めるとしよう。これではパートナーに示しが付かんからな」

 

 そう言うと箒さんは訓練用ブレード『葵』を構えなおした。対する僕も『焔備』を撃てるように構える。

 

 「ーーはぁっ!」

 

 ーー余談だが、アリーナ広さは直径約二百メートルである。互いにピットから出たとしても百メートルほどまだ距離が空いている。

 

 一気に距離を詰めるためにスラスターにエネルギーをまわし、一気にトップスピードになった箒さんだったがそこは僕が撃つ方が早かった。

 ドンドン、と一定の間隔を保ちながら途切れないように打ち続ける。それでも僕の腕では当たる弾は少数だが牽制にはなっているようで箒さんの速度は落とすことができた。

 

 「ーーくっ!」

 

 箒さんはISの登場回数が少ないため、ラウラさんよりも動きが鈍い。しかし、それは持ち前の技量と気迫で凌いでいた。

 

 「ならば、意地で押し通るまで!」

 

 攻めあぐねていた箒さんだったが、僕とそして織斑君がいるであろう方向を見て決意に染まった瞳で見てきた。

 そして強引に弾雨の中を被弾するのも構わずにスラスターを噴かせ向かってくる。

 

 「ーーはああああぁあああっ‼︎」

 

 乾坤一擲。

 肩に担ぐように構えられた刀で斬るのが先か、先にエネルギーが無くなるのが先か。

 

 ーーそして。

 

 

 「ーーーー私の勝ちだな」

 

 接近を許し、近場で攻撃しようとするも当たらず、箒さんの幾重にもの斬撃によって破れることになった。

 

 

 『負けちゃいましたね』

 

 「いい勝負だったぞ、愛染。またやろう」

 

 『はい、また』

 

 憂いが取れたような笑みを浮かべ、再戦を誓うと箒さんは織斑君の救援に向かった。

 二対一となるラウラさんは大丈夫だろうか?

 エネルギー切れで動かなくなったISを身につけたままでラウラさんと織斑君のいる方向を見る。

 

 『がんばって』

 

 その時、ほぼ無意識のうちに出た言葉はどちらに向けたものだったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 ーーラウラがまたも無鉄砲に突っ込んでくる男にレールカノンの照準を合わせた時だった。

 

 「む」

 

 横合いからバディの篠ノ之箒が斬りかかってきたのは。

 

 ーー負けたのか、愛染朝陽は。

 

 思考にかけた時間は一瞬だったが、その一瞬は致命的なものとなってラウラに襲いかかっていた。

 

 箒に気を取られてしまったために一夏の接近を許してしまった。

 

 ーーしかし。

 

 「こざかしい」

 

 箒の方を見もせずにワイヤーブレードを射出させ、接近を許さない。加えて照準を合わせておいたレールカノンを発射する。

 

 「むっ」

 

 「うおっ⁉︎」

 

 ワイヤーブレードに絡め取られ、身動きが取れなくなった箒に直撃こそしなかったものの吹っ飛ばされた一夏。

 ラウラは狙いが外れたことに舌打ちをすると、箒を見る。

 

 

 「さて。正直な話、お前を見くびっていたようだ。私が訓練したというのに愛染朝陽を下したのだからな」

 

 だが、それだけだ。ここでお前は負けるとばかりにレールカノンを向ける。

 

 「………確かにこのままでは私は負けてしまうな」

 

 そういう箒に焦りというものは見えなかった。

 諦めたか? それとも何か策でもあるのか?

 

 「だがっ!」

 

 「っ」

 

 何かをしてくると勘が告げる。何がきても良いように気を張り詰めさせ、ラウラはそれを迎え撃とうとーー

 

 「このまま負けるのは私としても『友』に示しが付かんのでなぁ! 精一杯足掻かせてもらうぞ!」

 

 そう言って絡みついたワイヤーを強引に引きちぎっていく。

 

 「……友だと⁉︎」

 

 対するラウラの思考は真っ白になっていた、いや先ほどの箒の言っていた一点だけが頭の中を埋め尽くしていた。

 

 ーー『友』。

 友達。

 親友。

 友人。

 気の許せる人。

 

 

 ーーーー何故。

 

 ラウラには箒の言った言葉が信じられなかった。愛染朝陽とは数日前から避けるような行動を取っていたはず、それがあの短時間で何があったというのか。

 愛染朝陽が何かをしたのか? 聴きたくてもここにはいない、それが何故かラウラの気持ちを揺さぶった。

 

 

 「っ!」

 

 そして今は試合中だということにはっと気がつき、体制を整えようとするが、それは遅すぎた。

 

 「いけっ、一夏ぁぁぁぁっ!」

 

 眼前には零落白夜を振り下ろそうとする織斑一夏。

 

 AICーー時間が足りない。レールカノンーー間に合わん。ワイヤーブレードーー抑えるには数が足りない。プラズマ手刀ーー零落白夜の前には無力か。

 一瞬のうちに様々なプロセスをイメージするがどれも失敗に終わる。辛うじてできたのは身をよじることだけであった。

 

 「ーーぅぐっ‼︎」

 

 袈裟懸けに振られた刃は深からずも浅からずラウラを斬り裂いた。エネルギーがゴッソリと持っていかれ、数値は百を下回っていた。

 

 「まだまだぁ!」

 

 「っ。舐めるなぁっ」

 

 二撃目を振るおうとしていた織斑一夏だったがこちらに向けて放たれたレールカノンが地面に着弾し、衝撃波と砂埃が一夏を襲う。

 

 その隙に距離を取り、一旦体制を立て直そうとするラウラ。しかし、そこで奇妙な声が頭の中に響いた。

 

 『ーー汝、力を欲しますか? 何人をも下す力を欲しますか?』

 

 不思議とそれの答えは決まっていた。

 

 (決まっているーー勝つために、勝利の為に、私の為に、『愛染朝陽(あいつ)』の為に、その力を寄越せ!)

 

 

『Damage Level………D

Mind Condition………Uplift

Certification………Clear

 

≪Vallkyrie Trace SystーーーーError……Error……

Delete。

Delete。

Delete。

 ーーーー【Vallkyrie Trace System】………boot』

 

 ひとりでに左眼にしていた眼帯が外れたかと思えば金色の光彩を輝かせたと思えばラウラの纏っていたISが溶けて泥のように柔軟に形を変え、ラウラを飲み込もうとしていた。

 

 「ぐっ⁉︎ なんだこれはーー」

 

 突然のことに驚きながらも対処しようするラウラだったがすでに八割近くを泥に飲まれた状態では成す術なく呑まれてしまった。

 

 「な、何がおこってるんだ……?」

 

 目の前でボコボコと流動するISだった泥に一夏と箒は驚きに目を見開いていた。

 

 

 完全に呑まれた後、形こそ定まらなかったがやがて泥は一回り大きくヒトの形を形成した。それは一夏を、箒をさらに驚愕させるには十分なものだった。

 

 「ち、千冬姉……?」

 

 「ち、千冬さん? それにこれはモンドグロッソの……?」

 

 二人の目の前に佇んでいたのはよく知る人物、織斑千冬に良く似てーーいや織斑千冬だった。

 

 思い出したかのようにアリーナ内にけたたましく警告音が響き渡り観客席には防壁が降りる。

 

 『警告! 警告! アリーナ内にいる観客はただちに避難してください! 繰り返しますーー』

 

 

 

 『織斑! 篠ノ之! 無事か!』

 

 そこに本物の織斑千冬から通信が二人に入る。

 

 「千冬さん! あれはッ」

 

 『分からん、だが気をつけろ! あれは私だと思えッ、教員も私もすぐに向かうそれまで絶対に相対するな!』

 

 千冬が焦っている声など箒は聞いたことがなかった、それを聞いてようやく今自分が置かれている状況を理解し、汗が噴き出してきた。

 

 「…………てめぇ」

 

 一夏の唸るように低い声を聞き取れたのはISに乗っていたからであろう。だが、

 

 「ふっざけんなぁっ‼︎」

 

 「っ、一夏ッ!」

 

 爆発したように偽千冬に向かって飛んでいく一夏。それに反応出来たのは、前もって彼のことを見ていたからであろう。

 

 偽千冬は飛んできた一夏を一瞥すると手にしている刀ーー雪片ーーを上段に構えた、瞬間目にも留まらぬ速度で一閃。標的を切り裂いたーーかのように見えた。

 

 「ぐっ⁉︎ 流石千冬さんだ……っ!」

 

 

 一夏に強引に突っ込んで止め、離れようと背を向けた所を斬られた。ISの反応速度、防御、距離があったからこそ箒は偽千冬の攻撃に致命傷を受けることがなかった、少なからず運も混じっているだろう。

 

 「箒⁉︎ 止めるな!俺はアイツをぶっ飛ばさなきゃならねぇんだ! アイツは! 千冬姉の!」

 

 「馬鹿者一夏! 無闇矢鱈に突っ込んでいってどうにかなる相手か!」

 

 「アイツの使ってるもんは千冬姉だけのもんなんだよ! 千冬姉しか使っちゃいけねぇんだ!」

 

 「あっ、一夏ッ!」

 

箒の制止を振り切り、手にしている雪片二型を構えなおし突っ込んでいく。

 

 「うおおおおッ」

 

 「ーーーーーーーー」

 

 ジロリと偽千冬が一夏の姿を捉える。鋭く放たれる一閃が切り裂こうと振られたーー

 

 「ーーぐぁっ⁉︎」

 

 横から弾丸着弾の衝撃を受け一夏の進路と攻撃がそれたことで直撃するはずだった一刀は空振りに終わった。

 

 「ーー朝陽! なにすんだ!」

 

 一夏を撃ったのは打鉄を乗り捨て、専用機に乗っている愛染朝陽だった。

 

 「愛染、何をーーっ」

 

 箒は愛染が一夏を撃ったことに驚き、愛染の方を見た。そして息を呑んだ。左眼は眼帯をつけていたのだがそれを外し、金色の虹彩が目まぐるしく眼科で回転しているように見えた。

 ISのハイパーセンサーを義眼の代わりに用いることで超越の瞳(ヴォーダン・オージェ)に近い能力を発揮していた。

 

 『一夏君、突っ込んじゃ、ダメです!』

 

 苦悶に顔を歪めながらも一夏に注意を呼びかける愛染。

 それが一夏を助けていたことを一夏自身は知る由もない。

 

 「くそっ!」

 

 一夏は悪態を吐きながら、偽千冬に突貫しようとするが今度こそ箒が止めに入りことなきを得た。

 間近にいる敵を排除すべく凶刃が忍び寄るがそれをさせまいと愛染が弾丸を正確に浴びせる。一歩踏み出そうとする前にその足に弾を撃ち込み、刃を振るう前に肩、関節、掌、刀を撃ち攻撃を止める。

 凄まじい正確さ。未来予知すら彷彿とさせる先読み。国家代表すらもできるかどうかということをこの場で愛染朝陽はやってのけていた。

 

 愛染が生んでくれた時間に大きく偽千冬から距離を取り一夏を怒鳴りつける箒。

 

 「一夏! なぜあんな危ない真似をっ、千冬さんのあの(・・)恐ろしさは知っているだろう」

 

 モンド・グロッソで嫌という程見た剣技。それが目の前で起きているのだ、だというのに一夏は突撃したのだ。

 今こそ愛染が足止めしている、それも凄まじいほどの正確さで手出しをさせまいと撃ち続けているからこんな話ができるのだ。

 そこで箒はハッと気付く。今までお世辞にも上手くない愛染がどうしてあれと渡り合えているのか。あの左眼は何なのか。

 それは無理を通り越したことをやっているのだと見てわかった。

 

 顔面は蒼白から土気色に変化しており、苦悶に顔を歪めて歯を食いしばりながら『焔備』を撃っていた。その様子に私は言葉を喪った。

 

 「愛染っ、おまえっーー」

 

 無理をしていた、無茶をしていた。言葉では簡単に済ませられるが現実は非情であった。

 

 『ーーっかふッ!』

 

 突如として吐血した愛染は身体を支えていた糸が切れたかのように力なく崩れた。大きく咳き込み血を吹き出しながら左眼を抑え、痛みに呻く愛染。

 

 「愛染ッ⁉︎」

 

 たまらず飛び出した箒もそれに気付いた一夏も愛染に駆けり抱き起す。

 

 『い、あああぁあっ、いたい。いたい。いたい。いたい。いたいいたいいたい』

 

 「愛染っ⁉︎ どうしたんだ、しっかりしろ! おい!」

 

 瞳孔が開きっぱなしになった右眼で虚空を見つめながら言葉を洩らす愛染に箒は必死に声をかけてあげることしかできなかった。

 

 「愛染! やろっーー」

 

 惨状を見て頭に血が上った一夏は勢いよく振り返り、そこで偽千冬の蹴りによって吹き飛ばされた。そのまま壁へと激突しエネルギー切れでISが解除され倒れこむ。

 

 「いちっーーぐっ⁉︎」

 

 叫ぶ前に箒もまた一夏と同じように吹き飛ばされることになった。抱き抱えていた愛染も同じく飛ばされたが、違うのは無防備に地面へと落ちることだった。

 受け身も取られずに地面に叩きつけられる。いくらISを着けていも衝撃は伝わる。今の愛染にさらなる追い打ちといっても良かった。

 

 「ーーッ、ふざけるなよ、私」

 

 恐怖で自分の体が動かないことに箒は怒りを覚える。今動かないでどうする。怖くても動け、動け動け動け動け動けっ!

 

 

 「ーーーーぁぁぁあああああああっ‼︎」

 

 

 鼓舞するように雄叫びを上げ、自分をブレードで斬りつける。エネルギーが消費されるのと同時に痛みが身体に響く。だが、体は動くようになった。なら、行け。

 

 「はぁっ!」

 

 まっすぐ突っ込んでの一閃。これでは一夏をバカにできんなと思いながら力を込める。当たると信じて。

 

 

 「ーーーーぅくっ」

 

 それは虚しく空を切り、刀の峰で殴られた。体がくの字に曲がるほどの威力と壁に激突した衝撃で箒は意識を失ってしまう。

 

 「ーーーーーーーー」

 

 残っているのは非力な戦士ただ一人だった。

 

 『はぁ、はぁ、はぁ…………』

 

 痛む左眼を抑えながら何とか立ち上がり、傷だらけの『焔備』を構え、撃つ。

 

 「ーーーーーーーー」

 

 デタラメな射撃は偽千冬には当たらずに周囲を削るだけだった。その間にも一歩、一歩と近づいてくる。

 怖い。とても怖い、でも逃げられるわけないじゃないか。ボーデヴィッヒさんがまだいるんだから。

 

 

 ーー集中しろ、狙え。どうにかしてボーデヴィッヒさんを救うために。

 

 目の前まで来た偽千冬が剣を振り上げる。瞬間、僕の見ていた景色から色彩が消える。音が消える。

 

 

 

 ゆっくりと動き出す景色。驚きはしなかった。この景色は昔に体験したことがある(・・・・・・・・・・・・・・・・)、だからどう動けるかは分かっていた。

 

 こんな奇跡は多分二度と起きないだろう。なら、最大限にこの機会を生かそう。

 ゆっくりと動く時間の中で躊躇いなく身体を動かし構えていた銃から3発の弾丸が発射させる。さらに目の前に向けて5発の弾丸を吐き出す。だめ押しとばかりにもう5発撃つこれで弾は全部撃った、あとは祈るだけだ。

 一度瞬きをすると先ほどのスローモーションの景色は消え、音も色彩も時間も戻ってくる。

 

 『ーーーーーーーー』

 

 青い空が見えた、あぁ、そうか僕は切られたのか。愛染は失われていく体温を感じながらも冷静でいた。感情が振り切れていたのも一つの要因であるが、あの景色の中安心できるものを見たからであった。

 ここまでいけばあとは任せられる。そう最後に思って愛染朝陽の意識は途切れた。

 

 

 

 

 ーーーーーーどこだここは。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒは真っ暗な空間にいることに最初に疑問を抱いた。

 私は確か、愛染と共に試合をしていたはずだ。何かの声が聞こえて……そこではっと思い出した。

 ーーそうだ。私は聞こえた声に答えて、それでナニカに飲まれたのだった。

 

 「ーーっ、何だこれは」

 

 目の前の暗闇が晴れたかと思えば、それはアリーナの景色が浮かんでいた。

 教官を形取った姿をしたものが暴れていて酷い有様とかしていた。織斑、篠ノ之、愛染が応戦しているようだが芳しくない。

 

 「ッ⁉︎ それはよせっ愛染!」

 

 聞こえないとわかっていても私は叫んでいた。左眼の眼帯を取り現れたのは黄金の色彩を持つ眼『越界の瞳(ヴォーダン・オージェ)』。それを使っていた。

 確かにメリットはある。人間の動体視力や反応速度をはるかに超えることができる。しかしデメリットも存在し、少しの時間でも脳に多く負担がかかってしまうのだ。

 

 何のためらいもなく左眼を使い、銃を使う。命を削る行為に等しかった。

 

 見る見るうちに顔は正気を失い、息も絶え絶えになっていた。それでも私を止めようと力を使い続け、ついには倒れてしまった。

 

 「もういい、逃げろ! それ以上は死ぬぞ!」

 

 見ていられなくなってラウラは思わず叫んでいた。動かない体で必死に今の自分であろうものを止めようと力を込めるが意味はなく、微塵も止まりはしない。

 

 「もう止めろ、やめてくれ……」

 

 恐らく私のことを止めに来た織斑も篠ノ之も倒され、残ったのは愛染だけとなった。

 

 「ーー私は……私は他者を傷つけるために力を望んだわけではないのだ……だから、だから止めてくれ」

 

 何もできない無力さ。それが形となってラウラを蝕んでいく。

 足を、太腿を、腹部を、胸を、腕を、首まで闇に侵食された辺りでふとラウラは気づいた。

 

 「あ、あぁっ…………っ!」

 

 今の私を形取っているのは織斑千冬の姿(憧れの存在)だということに。

 

 手にしていた雪片()が振り下ろされる。ラウラは絶望を抱いたまま闇に呑まれた。

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 愛染の最後に撃った弾は全て両足に撃ち込まれ、関節部に着弾し、少しの時間ではあるが見事に動きを止めることができていた。

 

 「ーーシッ」

 

 キンッ、と鍔鳴りのような音が響いたかと思えば愛染にトドメとなる一撃を振り下ろそうとしていた右腕が切断された。

 

 「……………」

 

 打鉄を纏った織斑千冬がそこにいた。ただ何も発さずに佇み自分のようなものを見た。

 

 「……ふざけやがって」

 

 顔を歪ませた千冬は憎々しげに吐き捨て、再び襲いかかって来た偽千冬の攻撃を切り裂いた。続いて片腕を、両足を切り裂いた。

 

 「ーー私の生徒を返してもらうぞ」

 

 身動きが取れなくなった偽千冬の胸部に腕を突っ込む。何かを掴み、それを強引に引き抜くと気を失ったラウラを掴んでいた。

 

 「消え失せろ」

 

 まだ動いていた塊に一撃を与え、消滅を確認した後で、三人の救出に向かう。

 

 千冬がアリーナに出て来た時にはすでに教師陣は救出体制に入っており、千冬の指示があれば突入する準備はできていた。

 

 

 

 

 ーー今大会負傷者。

軽症者、2名。織斑一夏、篠ノ之箒。

重傷者、1名。ラウラ・ボーデヴィッヒ。精神汚染が確認されており、早急の対処が必要。

重体者。1名。愛染朝陽。左腕の上腕二頭筋付近から欠損。脳各部位に軽度の損傷が見られる、即刻の対処が必要。




 ーーーーEasy Endが解放されました。

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