IS・人並みの幸せ   作:1056隊風見鶏少尉

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感想を書こうと思っていたらいつの間にか消えていた。
あの今まで見た中で一番長かった感想は何だったのだろう……


二十話『大会はタッグマッチだそうです』

 

 

 

 

 

 

 『――……あれ、ここは……?』

 

 眼が覚めると僕は整備室とは違う場所に寝ていた。身体を起こして周囲を確認すると医療器具や包帯などが置いてあったので保健室か病院のどちらかだと思われた。それに身体が全く痛まなかったので見てみると胸に包帯が巻かれていた。

 

 「――気が付いたようだな」

 

 ガラリと扉をあけて入ってきたのは牧部先輩だった。

 

 「肋骨が折れていた時はどうしようかと思ったが医者に治させたから心配するな――と言ってもまだ癒着中だからあまり動かない方がいい」

 

 そう言って上半身を起こしていた僕を寝かせる。

 折れていた骨を治し、痛みも感じないのは麻酔でも使われているからか、どちらにしろ良かった。

 

 『……あれから何日経ちましたか?』

 

 「3日だ」

 

 『…………あの時、あいだに入ってきたのは、牧部先輩ですか』

 

 「さて、どうだろうね」

 

 クスリとも笑わずに答える牧部先輩。

 

 「――3日間で色々あった。君にはそれを聞く権利がある。もちろん拒否もできるが、どうする?」

 

 僕のことをじっと見つめ、問いかける牧部先輩。そう言われて僕は先輩の目を見てうなずく。

 薄々、ある人物のことじゃないかと分かっていた。

 

 「では、話そう。今回の事態を起こした人物、シャルロット・デュノアについて」

 

 かけていた眼鏡を外して頭の上にカチューシャのようにつけてから牧部先輩は淡々と告げる。

 

 「シャルル・デュノアは偽名で本名はシャルロット。性別は女性。

 アメリア・メビウスとサラザール・デュノアとの間に産まれた子らしいが、そこら辺は関係はあまりないから省くとしよう。

 君に接触したのは技研から提供されたISの稼働データを手に入れるためと、君自身のISデータが狙いだったらしい。

 そのためシャルロット・デュノアは強制帰還は取り消し、監獄に入ってもらうことにした。また本人の口からもデュノア社の関与が仄めかされたとの証言したため、即時デュノア社に連絡を取り、確認したところ裏が取れた。サラザール・デュノアとマライヤー・デュノアの両名をさらなる事情聴取のため拘束、及びデュノア社の完全凍結が下された――これが3日間で起きた出来事だ、補足をするとシャルロット・デュノアは本国の事情で帰国ということになる、君はISのメンテナンスということになった」

 

 色々、頭がついていかなかったが、デュノアさんがもういないというのは分かった。

 

 『そう、ですか……』

 

 何か伝えたいが、うまく言葉が出てこない。

 

 「まぁ、今日は休んでいたまえ、疲れただろう」

 

 やっと先輩らしい笑みを浮かべて部屋から出て行こうとした時、やっと声が出せた。

 

 『あ、あのっ!』

 

 牧部先輩は止まり、少しだけこちらを見て聞く姿勢をとった。

 

 『デュノアさんには、もう会えませんか?』

 

 「……恐らく無理だろうね」

 

 『なら、言葉を伝えることはできますか』

 

 「それくらいならば出来るだろう」

 

 それなら、と僕は牧部先輩にお願いした。

 

 『でしたら――』

 

 デュノアさんにはもう会えないかもしれない、それでも僕が彼女に言えるのはこのくらいだ。また、出会うことがあれば怒られそうだが。

 

 「分かった。確かに伝えよう」

 

 そう言って先輩は部屋から出て行った。

 

 

 

 ――廊下を歩きながら牧部理澄は独り言のように呟いた。

 

 「『――何かあれば、助けになります。微力ですが』か。全くもって君らしいな愛染朝陽君」

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――

 

 

 どうも、愛染朝陽です。翌日になり、普通に普通に登校しました。結局あれから簪さんには渡せずじまいです。いつまでも牧部先輩に持っていてもらうのも申し訳ないですし。

 

 ――そして今、僕は。

 

 「――愛染朝陽、少し来い」

 

 同じクラスのラウラ・ボーデヴィッヒさんに連れられてどこかへ移動しています。

 

 『あの、どこへ?』

 

 「その前にひとついいか」

 

 僕の質問をさえぎってボーデヴィッヒさんは僕に問いかける。

 

 「今度開かれる大会の、タッグマッチ戦のパートナーになってくれないか?」

 

 それを言われて思い出す。今月は学年別タッグマッチトーナメントがあるんだった。

 組む相手がいないのでその提案は僕としては嬉しかった。

 

 『いいですよ。組みましょう』

 

 「そうか、それは良かった……」

 

 ホッとしたかのような表情を浮かべるボーデヴィッヒさん。付け加えるように目的を話す。

 

 「これから行く場所はアリーナだ。大会まで残り三週間だからな」

 

 とのことで練習することになりました。

 まずは僕のISと僕がどんなものか見たいらしく戦いましたが、攻撃がまったく当たらず、一撃で撃墜判定を貰いました。

 

 「ISに慣れていないというよりは扱えていないな。射撃も剣撃も中途半端だ何よりスタミナがないな。まぁそこはしょうがないな」

 

 とお言葉を貰った。曰く、片方だけなら今の期間でも十分上がるらしい。それは今までの苦労が無駄にならず嬉しかった。

 

 「それで、どっちを重点的にする?」

 

 『射撃の方でお願いします。剣の方は正直怖いですし』

 

 「分かった――だが銃を使うということは近接された時に対処が出来なければならん。それに味方がいる場合も支援しながらというのが基本だ。それらを踏まえてやっていくぞ」

 

 『は、はい!』

 

 そこから僕は銃の扱い方を一から教わった。

 

 「銃と身体を密着させろ! しっかりと押さえ込め!」

 

 「衝撃は受けるな! 逃がせ!」

 

 「撃った際に身を硬直させる癖があるな、それでは狙ってくださいといっているようなものだぞ」

 

 「隙を作りすぎだ。撃ったらすぐ移動するか、銃弾を撃ちながら駆け抜けることくらいはしてみせろ!」

 

織斑先生に負けず劣らずのスパルタであり、しっかりと教えながら僕の体調を考慮しながら、進めてくれたため、思ったよりも疲れずに訓練を受けれた。

 

 「1日目では良くやった方だな」

 

 『今日は、ありがとうございました』

 

 「では、明日も頼む」

 

 ぺこりと頭を下げて、礼を言うとボーデヴィッヒさんは帰っていった。

 

 僕も自室に帰ろうと廊下を車椅子で走らせている途中、待っていたかのように牧部先輩が壁に寄りかかっていた。そして僕を見つけると声をかけてくる。

 

 「やあ、愛染朝陽君」

 

 『牧部先輩、こんばんわです』

 

 「こんばんわだね。調子はどうだい?」

 

 『いつも通りですね。あの牧部先輩――』

 

 

 僕が先輩に聞くよりも早く先輩は答えを言い当てた。

 

 「――簪君に渡しにいく、かい?」

 

 多分、僕は何故分かったのか、と言う驚いた顔をしていたんじゃないだろうか。

 

 「何、先日は渡せなかったからもしかしたら今日でもいってくるんじゃないかと思ったんだが……その反応を見るに当たったみたいだね。良かった良かった」

 

 にっこりと笑みを浮かべて僕を見る牧部先輩、急かしてたみたいでちょっと恥ずかしい……

 

 『――じゃ、じゃあ、早速いきましょうか』

 

 顔をそらし、誤魔化すように言うと、それすらも見透かしているかのように微笑み、では行こうかといって僕の車椅子を押してくれた。


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