「――着きましたよ、ここがIS学園です」
女性に車椅子を押され、着いたのはIS学園と呼ばれるIS養成学校――通称IS学園。
あれから僕は一人目のIS操縦者、織斑一夏君に次ぐ二番目のIS操縦者として大々的に報道され、今日にいたる。
ここに来る前までの数日間は書類を書いたり、質問をされたりしたりした。それら全てを先生が書いてくれたのは嬉しかった。
要人保護プログラムなるものがあるらしいが僕にはもう近しい人は先生くらいしかいない。
あの日、両親は僕がいなくなった後、精神を病み命を絶ったと聞いた。少ないながらもいた友達はすっかり僕のことを忘れていたのでそれ以上のことはしなかった。
『ここですか』
見えないながらも僕は辺りを見渡すようにゆっくりと首を左右に動かす。
不安はある。だけど少しだけ、冒険に出かけているような高揚感に包まれていた。
IS学園に連れてきてくれた――迎えに来たのも――教諭の山田麻耶先生に連れられ案内される。
「――大丈夫ですか、どこか具合が悪いならすぐに言ってくださいね」
心配しているような声色で話しかけられる。
『はい』
分かりました、と言うとふんすっ! 小さな掛け声が聞こえた。山田先生が何かしたんだろうか?
そのまま僕は自分の教室前まで連れてこられ、「少しだけ待っていてくださいね」と言って扉が開く音がした。どうやら教室に入っていったようだ。
少しして再び扉が開く音、いきますよと耳元で話しかけられ、ちょっとくすぐったいなと思いながら教室の中まで押される。
――誰かの息を飲む音が聞こえた気がした。
先ほどまでにしていた小さな音すらも消えていた。
「――では自己紹介をお願いしますね」
山田先生に言われて僕は自己紹介をする。
『どうも、初めまして。愛染朝陽、と言います。趣味は音を聴くこと、です。あまり喋れなかったり、歩くこと、出来ませんが、ISは動かせます。皆さん、よろしく、お願いします」
頭を下げたかったが体が動かないのでしょうがない。
誰もが言葉を紡ぐことを禁ずる。そんな中、山田先生が口を開く。
「ありがとうございました愛染君。では愛染君は何か質問とかはありませんか?」
質問か、と僕は思う。あまり多く言ってもダメだろうし数個なら。
『なら、いくつか良いですか?」
「はい!」
『では――織斑一夏君はどこにいますか?」
僕の言った言葉に山田先生が「こっちですよ」と車椅子を動かす。
「織斑一夏君、これからよろしくお願いします」
「あ、あぁこっちこそよろしく! 一夏って呼んでくれ!」
元気よく答えてくれたのは良いが衣擦れの音がした気がする。もしかしたら握手だろうか? 不味いな、僕は腕を動かせないから握手出来ない。
そんなとき山田先生がフォローを入れてくれた。
「あ、織斑君、愛染君は……」
「すみません織斑君、体が動かないので」
「あ、すまん……」
大丈夫です。といっても教室の空気は沈んだままだった。その時、ガラリと教室の扉が開いた。
「すまない山田先生、遅くな――なんだこの空気は?」
入ってきた人は凛とした声、雰囲気を持った女性にだった。
織斑君が「あ、ちふゆ――」といったあたりで叩かれていた。
「織斑先生だ全く……君が愛染朝陽君か。話は聞いている、私はここ1年1組担当の織斑千冬だ。何か分からないことなどがあった場合はすぐに言うように」
あぁそれから、と織斑先生はつづける。
「愛染の
朝陽は何のことかは分からなかったがありがとうございますと言っておいた。
「では、授業を始める」
とりあえず今回は授業を聞いていろとのこと。織斑君が教科書を捨ててしまったらしい、大丈夫だろうか? そんなに分厚いのか。
「――ここが愛染君のお部屋です。部屋はまだ調整中ですからちょっとだけ我慢してくださいね」
といっても私の部屋ですが。と中に入れられる。
嗅覚は感じないはずだが、なんとなくフローラルな香りがする気がする。
「さて、でわぁぁぁぁぁ! ち、ちょっとだけ待ってくださいね!」
中には入れられているがさらにその奥で何やらゴソゴソと隠しているような音とともに「干していたの忘れていましたぁっ……」と言っていた。
何やら分かりませんが、すみません、ありがとうございます。
心の中で山田先生に合掌した。
ヘイトはまだお休みです。