IS・人並みの幸せ   作:1056隊風見鶏少尉

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十四話『目上の人に謝られると逆に困ります』

 

 

 どうも皆さん愛染朝陽です。アリーナの事件から僕は左眼球、左前腕、右手親指、人差し指第二関節、その他もろもろ失いましたが元気にやっています。あの時の気持ちが嘘のようだ。

 

 一週間経つとカエル顔の医者から義手の取り付け手術を受けた。右手はまた身体にメスを入れて神経をつなぐための機械を繋げられ、親指と人差し指第二関節ははめられた…………すっごく痛かった。

 

 左腕に関しては炭化しているため神経系やらが死んでいるらしく繋げるにはかなり切らないといけないらしくダメだと踏んでチョーカーと連動させ、脳波で動かすようにしたらしい。

 目に関しても、残った眼球を取り出し、そこにISのスクリーンを投影させる極小の機械――義眼を入れ、チョーカーとISに連動したとか。この時はカエル顔の医者の他にもスチェスタ博士やユーリスカヤ医師も来ていた。

 この義眼は身体にISの技術を使えるならば視力にもそれを流用できるのではないかというスチェスタ博士とユーリスカヤ医師、木山先生の発案の元、構成、実践段階まで持ってきたものらしい。

 

 そして僕の手となった機械の義手は、見かけだけなら本当に変わりなかった――ただひとつ、硬質な冷たさを除いて。

 

 馴染ませるために動かしたりを続け、一週間。

 

 『うぇっ……』

 

 腕や指は順調に馴染みつつあるが、目だけは別だった。

 常に色々な情報が入ってくる。左だけ動きが遅く見える、早く見える、色が違って見える。ものがドロドロに溶けて見える……いろいろと問題があった。

 

 「――おかしいな、ISのハイパーセンサーにはちゃんと制限はかかっているんだが……」

 

 いつになく真剣なスチェスタ博士がいうにはこれはハイパーセンサーの制限がかかっていない時に出る症状らしい。

 

 「このままが続くのは君にとって危険だ。

すぐに取ったほうがいいのかもしれない」

 

 『…………いえ、このままで、いいです…………何か目を覆うもの、ありませんか?』

 

 僕はこのままを所望した。確かに疲れはする、気持ち悪くもなるし、頭も痛くなる。でもこの目は見え過ぎるくらい(・・・・・・・・)にどこまでも見えるのだ。

 景色なら溶ける前なら地平線の先まで、海の底まで見える。

 少しだけ、この目が見せる光景に魅せられていた。

 

 「…………。そうかい、なら本当に危険だと思った時にはすぐに私が外すからね、異論は認めないよ」

 

 ちょっと怒られた。でも頭を撫でられた。

 

 

 それからは映画とかでよく見るような黒一色の無骨な眼帯――ただし遮光率100%の――を左眼に装着して過ごしている。左眼で見なければあのような状態にならないのは良かったが、筋力も前より落ちてしまったので今は鍛え直している。

 

 「――調子は良さそうだね、ならそろそろ退院してもいいかな」

 

 カエル顔の医者が僕を見て言っていた。やっと動けるようになってきたので嬉しいな。

 

 

 退院はそれから一週間後だった。僕はカエル顔の医者に頭を下げて挨拶をして織斑先生と山田先生に連れられてIS学園に戻ってきた。

 

 「…………愛染君、その……本当に、本当に…………ごめんなさい! 私があの時、あの場所にいれば愛染君を傷つけることもなかったのに!」

 

 山田先生は帰ってくるなり、僕の方を向いて土下座をした。声は震え、嗚咽が混じる。

 

 『や、山田先生? 頭を上げて、ください』

 

 もちろん、そんなことで動じないほど僕は冷静でも人でなしでもない。

 

 『あれは事故でしたから、山田先生が謝ることは、ありません。あのISが試合中にやってきたのが、悪いんですから』

 

 それに僕の代わりなんかで山田先生が怪我をしたらそれこそ嫌だ。

 

 「愛染君……すみません」

 

 それから十分間もそのままだった。僕が何とか言ったが頑として動こうとせずおろおろとしていると織斑先生が山田先生を立たせる。

 

 「愛染、私からもすまない。今回の事件は完全に学園側のミスだ。二度とこのような事態が起こらないように処置をすることを約束しよう。それに私や山田先生もできる限り力になろう。

 学園での対処だが――」

 

 織斑先生からも頭を下げられた。大人に頭を下げられるのはどうにも慣れないし落ち着かないな……。

 

 学園での対処というやつは、前に話されたように学園内や生徒に箝口令が敷かれているらしく周りにも学園内にも公に出来ないとか。だから僕はあの後すぐに国外研修をしに行って訓練中に事故にあったことになるらしい。

 

 『分かりました。僕の部屋は、変わってないんですよね?』

 

 「あぁ。病院内にあったものはすでに部屋に戻してある」

 

 『ありがとう、ございます』

 

 お礼を言ってから僕は車椅子を動かし始める。

 それについてくる形で先生が後ろを歩いていた。

 

 「…………そういえば1組に新しく転入生がやってきたのを伝え忘れていたな」

 

 ふと、織斑先生が思い出したかのように呟いた。

 

『転入生、ですか? どんな方でしょう?』

 

 「二人ですよ。ドイツから代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒさん。フランスから代表候補生、シャルル・デュノアさん」

 

 『二人、ですか……会うのが楽しみですね』

 

 名前や国籍だけではどんな人物像かまでは想像できないため、目で見ることが楽しみだ。

 

 そんな感じにちょっとウキウキとした気分でいると、織斑先生が僕の耳まで寄って小声で喋ってきた。

 

 「――シャルル・デュノアには気を付けろ。特に二人きりにはなるな、分かったな?」

 

 『? 分かりました?』

 

 忠告……なのだろうか? でもよく考えたらそうかもしれない、二人しかいない男性だし、前にも美人局のようなことをされたし肝に銘じておこう。

 

 そんな会話が終わると教室に着いた。

 なんか、風邪で一週間ほど休んでから学校に来たような、謎のドキドキがあるなと思いながら扉を開ける。

 

 『おひしゃしぶりですね』

 

 ……盛大に噛んでしまった。恥ずかしい。

 

 ばっ! と教室内にいた全員が僕を見る。

 

 「朝陽! 久し振りじゃねぇか、あとその怪我どうした⁉︎」

 

 一夏やウォルトさんたちが寄ってくる。

 

 「急に国外研修なんかに行ったかと思ったらそんな怪我して……大丈夫なの?」

 

 義手の見た目は人工皮膚(スキン)をかぶっているため、触られたりしなければわかることは少ないため、一夏たちは眼帯と包帯のことを言っているようだ。

 

 「――ほら、久々の再開で色々と聞きたいのは分かるが、授業を始めるぞ。話は休み時間か昼食の時にしろ」

 

 織斑先生が軽く注意をし、全員を席に着かせてから授業を始める。

 

 授業の進み具合はというとかなり進んでいて、全くと言っていいほど分からなかった。

 

 

――昼休み。まぁ昼食の時間なのだが、その時間帯になるとわらわらと生徒が詰め寄って根掘り葉掘りと聞いてくる。

 なので用意された内容――ギリシャでのIS性能訓練、ギリシャでの研修中の“車での移動中の事故”での負傷という――を話した。

 目のことは眼帯をしているため、しょうがないが他は軽い打撲や骨折、火傷や切り傷ということにしておいた。あまり織斑君やウォルトさんたちを心配させるのもどうかと思うし。

 

 「マジかよ、それでもう体は大丈夫なのか?」

 

 『えぇ。医者からも、許可がおりましたから』

 

 織斑君と話していると近くで「ふん――」と鼻を鳴らす音が聞こえた。

 

 「無様ですわね、その程度のこともまともに出来ないなんて。本来、国外研修というのは他国と自国の情報の交換、提供の際に行われるというのにそれでは自国の恥に、一夏さんに迷惑になると思いませんこと?」

 

 そちらの方を見てみるとセシリア・オルコットさんだった。

 

 「――セシリア、やめろ。朝陽だって頑張ってるんだ」

 

 ウォルトさんたちがオルコットさんを睨んでいたが、織斑君が仲裁に入り、この話は断ち切られた。

 …………それにしても織斑君、いつの間にオルコットさんと仲良くなったんだろう、良いなぁ……。

 

 

 

 昼食を食べ終え、午後の授業も終わり、自室に戻ろうとしているところにウォルト三姉妹がやってきた。

 

『ありがとう、ございます。わざわざ押してもらって』

 

 「気にしなくて良いわ。それより本当のことを言ってちょうだい――」

 

 長女、サミュエル・ウォルトさんがまるで分かっているかのように聞いてきた。いや、実際に分かっているのかもしれない。

 

 『本当のことですよ』

 

 だけどすみません。話すことは出来ないんです。

 

 しばらく沈黙が続いたがサミュエルさんがため息を吐いた。

 

 「はぁ……分かったわ、どうやら話せない事情みたいなものがあるのよね、なら良いわ。でもこれだけは言わせて。

 もうちょっと自分の身は心配しなさい。貴方、さらに痩せこけたように見えるから心配になるわ」

 

 察してくれたようでそれ以上は聞こうとしなかったサミュエルさん。それに心配までしてくれた。ありがとうございます。

 

 『はい。分かりました』

 

 「それが生返事じゃないことを祈るばかりね」

 

 それから部屋に着くまでちょっとした会話が続いた。

 「眼帯……なのよね? やっぱり目も?」

 

 『そうですね。見てみます?』

 

 「いや、遠慮するわ。貴方にも悪いし、グロいし」

 

『ぐ、グロ……』

 

 「あ、ごめん。そんなつもりはなかったんだ……」

 

 なんで話をしていると部屋の前まで付いた。お礼を言い、部屋の扉を開けたところでまた声をかけられた。

 

 「――ちょっと良いかな? 愛染朝陽君?」


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