皆さんこんにちわ、愛染朝陽です。二組に中国の代表候補生である
どうやら一緒にお昼を食べたかったようで、誘いに来たようです。
クラス丸ごと移動する様はちょっと壮観です。それについていく形で僕も学食へ行きますが、今日はちょっと違いました。
「せっかくだか、アンタとは話してみたいと思っていたのよ。来なさい」
と、凰さんは有無を言わさずに僕の車椅子を押しながら学食へ行くことになりました。
ワイワイガヤガヤ、食堂ではみんなが楽しく話し合っています。主に数種類のグループに分かれてですが。
ひとつ、織斑君達のグループ。クラスの人たちを中心に、今の凰さんのように他のクラスの人が混じっていることも。
ひとつ、遠巻きに織斑君達のグループを見ている人たち。グループに入れずにモジモジしていたり、織斑君のことを話している、織斑君はグループに近い場所にいる。
ひとつ、これは多分女尊男卑の人達のグループだと思う。一番遠くの席に座っていて、織斑君や僕を忌々しげに睨んでいることが多々ある。この女尊男卑の思想を持った人たちは男性に色々な被害を受けさせているらしいのでちょっと怖い。今の所は被害は受けていないのが幸いだけど。
「――で、アンタはそれだけでいいの? 随分少ないわね。だからそんなにヒョロヒョロなのよ」
テーブルに着いた僕を見て凰さんが指摘してきた。僕は梅粥。凰さんはラーメン、織斑君は鯖の味噌煮定食。
ちなみに席はというと織斑君の左横に箒さん、右横に凰さん、向かいに相川さん、オルコットさん。
その横に布仏さん、僕、向かい合うかたちでウォルト三姉妹といった席順である。
正直、オルコットさんがいることの方が驚きである。
『もともと、食が細いので』
「ふーん。そうなの」
すぐに話は途切れ、一夏と話し始めた。昔の話や、友人の話に花を咲かせていた。
僕というと、横にいた布仏さんやウォルトさん達と普段のことやISのことを話していた。
数日後、クラス対抗戦のトーナメントが発表されました。対戦相手は一組と二組の代表、一組、織斑一夏と二組、凰・鈴音。
まるで仕組まれていたかのような戦いだった。
その日のお昼に凰さんはやって来て、負けないわよと息巻いていた。
僕はというと、日々勉強と体を動かすことに追われています。中々難しいものですね、勉強もなかなか進みませんし、筋肉もなかなかつかないのですぐに疲れてしまうのが難点です。
クラス対抗戦に一週間後までさしかかった頃、飲み物を両足のギブスにはさみながら車椅子を動かして学園内を見ていると行ったことの無い『整備室』という場所を見つけた。
『うわ、すごい』
入ってみれば、訓練用のISが並び、部品のようなものや、床にはケーブルのようなものが一面に這っていて、感嘆の一言だった。
ケーブルがあるので中には入れないが興味深げに見ていると丁度入ってきたであろう生徒に声をかけられた。
「おや――? どうしたんだい愛染朝陽君、ISの整備かい?」
おそらく僕よりも身長は高く、知的な印象を受ける目元、つけている眼鏡がまた際立たせている。可愛いというよりは美人の印象を持つ顔立ちをしている。髪の毛は足元に届きそうなほどの栗色の長髪をたなびかせていた。
スタイルもモデルのように整っているが、IS学園指定の制服の腰回りに工具袋を装着してスパナやレンチを入れているためか、動くたびに金属音が響く。
高身長でモデルのようなスタイル、それに合わせるように付け加えられたメガネと整備するための道具。本来なら合わないはずのものなのだがこの人ならどうしようもないくらいに似合っていると僕は思った。
それに制服のネクタイの色が違う。この人は二年生だった。
学園内で見た誰よりも異色に見えたため、僕は少し戸惑ってしまった。
『あ、あの……えっと……』
言いごもっていると先輩はこちらを手で制してから口を開く。
「――あぁ、みなまで言わなくていいよ。整備室の中を見てみたかったんだろう? すまないね、ここはケーブルだらけで進めなくて。なら案内しよう。何が見たいんだい?」
少し考えるそぶりをした先輩は僕が来た理由をほぼ的確に言ってのけた。
『えっとですね…………どうやってISって、整備しているのか、見せてもらえませんか?』
僕がそう言うと先輩は涼しげに笑った。
「ISの整備に興味があるのかい? よし、ならば見せてあげよう――少しじっとしていてくれ」
そういったかと思えば先輩は僕の身体をヒョイっと持ち上げて整備室の中へと進んでいった。突然の出来事に驚いて手足がジタバタと動かしたが、先輩はまるで効いていないとばかりに気にしていない。
「む、軽いな。しっかりと食べて、運動、規則正しい生活を行えば自ずと健康になる。時間はかかるがそれが一番いい方法だろう」
軽い、と先輩は言うが僕でも30kg以上はあるのだがそれを軽いというあたり、かなり力持ちなのだろう。先輩は僕を気遣ってくれたのか、アドバイスをしてくれた。僕は気恥ずかしさで多分顔が赤くなって先輩の顔は見ないようにして、ありがとうございますと感謝の言葉を述べた。
先輩は「愛い奴め」といってカラカラと笑っていた。
中にあったパイプ椅子に僕を座らせて、あとから車椅子を中へと持ってきてからまた僕を持ち上げて案内を始める。
「ここの部屋は訓練用のISを置いておく場所だ、だからこんなに広いんだ――ここはISを修理するための部品がある。――ここは機材が――工具が――」
一通り案内をしてから先輩は一番奥の部屋――IS整備室に連れて行ってくれた。
「――ここがそうさ。今日は訓練でダメージを負った打鉄とラファールがあるが、打鉄を見せよう……おや?」
整備室に入ってから先輩が何かに気づき、そちらに近寄っていく。整備室の隅の台を使っている生徒の方へ。
「やあ、簪君。今日もかい、お疲れ様」
「……お疲れ様です。
「うむ、お疲れ様。根を詰めすぎないようにね。倒れたら元も子もないのだから」
ねぎらいの言葉をかけてから打鉄のある場所へと移動する先輩。
「……あの子はね、色々と抱えすぎてしまっていてね、全て自分で対処しようとしているんだよ……姉に負けないように。周りが手を差し伸べてもそれを拒絶してしまうんだ」
『……なるほど。それは、とても辛いですね』
言葉では言い表せない状況にいる一人の女生徒。僕は遠ざかっていく女生徒を見つめる。
一人黙々と、助けを乞わない姿は精悍にも見えるが、酷く憔悴しているようにも見えた。
『…………なんとかして、あげたいですね』
「そうだね。今はダメかもしれないがいつかは助けられるかもしれない。心を動かす誰かに出会うかもしれない――最も、私は今も諦めるつもりはないが」
寂しく笑う先輩。その話はそこで終わり、ISの話になった。
目の前には所々に傷、破損箇所のあるIS、打鉄が待機状態で存在していた。
僕を椅子に座らせてから、打鉄の破損箇所を次々にバラしていく。
「こういった破損箇所はバラしていき、新品と取り替えておかなければならない。なぜかというと、ちょっとした破損でも場合によっては命取りになるからだ。外だけでなく、中は特に重点的な点検、整備が求められる。まずは動力部のケーブルやプラグ。さらに――――」
IS整備のこととなると先輩は人が変わったように勢いよく話し始めた。僕はそれに必死でついていった。
「――とまぁ、こんな感じで整備のだいたいが行われるが……大丈夫かい?」
『だ、大丈夫です……』
ぐったりとしている僕に心配そうに声をかけてくる先輩にそう返して、重い頭を持ち上げて先輩を見る。
『……今日は、色々と、教えてくださってありがとうございました』
「いやいやこちらこそ随分気持ちよく喋らせてもらったからね、そちらの体調に合わせられなくてすまない。整備のこととなると少し周りが見えなくなってしまうらしくてね、すまない」
頭を下げて謝ってくる先輩に慌てる僕。
『いや、あの頭を、あげてください先輩、そこまでの、ことではないので』
「随分と君は純真だな、さっきのことといい、こんなご時世に……君に興味が出てきてしまったよ」
ふふん、と笑った先輩は僕を再び持ち上げてそう言った。
『あの……先輩、よろしかったら、先輩の名前を、教えてくれませんか? いつまでも先輩では失礼なので』
僕がそういった時、先輩はしまった、といった顔をして上を見上げた。
「……参ったな。私は自己紹介もしていなかったな。本当にすまない愛染朝陽君、なんと詫びればいいか」
『いえ、あの、お詫びとかは……名前を教えてくだされば』
「そういうわけにはいかない。配慮がなければ関係というのは堕落してしまうものだ」
「改めて、IS学園二年、2年1組。主席番号28番、
いや、そんなこと言われても……お詫びとか、されたことも、したこともないからどうしたらいいかわからないんだけどな。
……あ、ならこれはダメかな?
『あの、いまでもよろしいですか?』
ん? なんだい、行ってみてくれ、と膝を曲げて聞く体制に入った牧部先輩。
『これからも、よろしくお願いします、というのはダメ、ですか……?』
ポカンとした顔になったが、意味を理解した牧部先輩は大きく笑う。
「ふっ、あははははははっ! 愛染朝陽君、君は私を堕落させたいのかい? ――良いだろう、可愛い後輩の言ったことだ――これからよろしく頼むよ愛染朝陽君、何かあれば聞いてくれ」
『――はい。よろしく、お願いします、牧部先輩』
僕と牧部先輩は互いに笑顔になりながら言葉を交わした。自然と先輩の顔も見れるようになっていた。
牧部先輩に持ち上げられて、整備室を出て、車椅子のある場所まで行くと、僕の車椅子の場所に誰かが立っていた。
先ほどの女生徒と同じ髪色をしているが、たたずまい、雰囲気ともに圧倒的に違っていた。あちらは張り詰めている糸と表現すると、こちらは
「おや、更識生徒会長じゃないかい。こんなところにどうかしましたか?」
牧部先輩は目の前の人物に話しかけるとこちらを向く。
「あら、牧部さん。こんなところに車椅子があったから気になってね。もしかしたら不審なものかと思っていて見ていたのよ」
「それはすまない。その車椅子は不審なものではなくこの子のものだ。私が連れ回してしまったおかげでここに置き忘れてしまった」
視線が牧部先輩から僕の方に映る。それに僕は静かに息を飲み込んだ。
「……そう、なら大丈夫そうね。そういう理由ならちゃんとしてね牧部さん」
再び牧部先輩に視線を戻し、どこからか取り出した扇子をバッと広げた。扇の部分には『注意喚起』と墨文字で書かれていた。
ああ、分かったと先輩は言って僕を車椅子に乗せ、入り口まで押してくれた。
「――ではまたおいで、愛染朝陽君。私が整備室にいた時は歓迎しよう」
組んだ腕の片方の手でこちらに手を振ってきたので感謝の言葉を述べて去っていく。部屋に着いたら今日のことをできる限りノートと日記に書き写しておこう。忘れないうちに。
愛染朝陽が見えなくなった整備室室内。牧部理澄はクルリと後ろを向き、生徒会長と対面する。
さて、と言葉を一度区切り、かけていた眼鏡を外し、頭頂部にカチューシャのようにつけてから、まっすぐに目を見つめて牧部理澄は言う。声色は厳格そうに、言葉は固かった。
「――何か企みがあって来たんだろう、目的は妹か、それともあの生徒か? ――学園全生徒最強、更識楯無生徒会長」