クラス代表決定戦という名のセシリア出来レース。
勝てるわけがない。
というか織斑一夏がおかしいんだ。
ちょっとだけ内容を編集しました。
どうも皆さん、こんにちわ。愛染朝陽です。
織斑君と僕に専用機が来てさらに一週間後、約束のクラス代表決定戦当日です。
あれから僕は機体に慣れるためにアリーナで訓練をしたり、オルコットさんの大会記録を見たりしました。織斑君も一緒に訓練を受けていたり、箒さんに剣道とIS訓練を教わったりしていて着々と進んでいるようでした。僕はというと実はあまり芳しくありません。
専用機は扱いが難しく、なかなか上手くいきません。
ですが山田先生、訓練付き合ってくれてありがとうございます。
「――織斑、まずはお前からだ。行ってこい」
『がんばれ、一夏』
「言ってこい! 一夏」
織斑先生に言われ、アリーナのピットに立った織斑君はISを展開して大きく飛び立っていった。
――勝敗を簡潔に言うならば、織斑一夏はセシリア・オルコットに敗北した。
四基ののビットから放たれるレーザーとセシリア自身が放つレーザーライフルに始めは翻弄されていた一夏だったが、次第に順応し、速度精度共に上昇した四基のうち二基のビットを破壊、そのままセシリアに突っ込んでいき、『雪片』と呼ばれる剣を振るった。その攻撃は直撃することはなく掠っただけだったが、距離を離されまいと再び突貫。正直いけると思ったのだが、うっとおしいとばかりに顔をしかめたセシリアはISのスカート部位に隠してあった五基、六基目のビットを取り出し――砲身が一夏に向けられ、一夏はそれを食らい、大きく体勢を崩し、そこを追撃され敗北した。
「――くそっ、いけると思ったのに!」
聞くところによると、一夏の『雪片』と呼ばれる装備はシールドエネルギーを切り裂ける特殊な者らしい。すごく強そうだ。
掠っただけだったが、それでもダメージが入っているらしい。
「――馬鹿者、好機と見て簡潔に突っ込むからそうなるんだ」
「――負けたな。相手の戦い方を見るのも勉強だ……まぁ、頑張ったな」
箒さんからは注意点を言われ、織斑先生からもフォローを入れられていた。
「次は朝陽の番だな、頑張ってこいよ!」
『うん。頑張るよ』
といってもオルコットさんの補給等の関係で正午からだけどね。
ちなみに時刻は10:30。結構時間がある。その間、僕は軽い筋トレをしていた。筋トレといっても腕を上げたり、脚を持ち上げたり、手をにぎにぎしただけだが。
「――よし。愛染行ってこい」
時間になり、アリーナに向かう。申し訳ないがまだ歩けないので、車椅子を使って。
「――来ましたわね。準備が整うまで待ってさしあげますわ。良いハンデです」
オルコットさんは僕が来るなりそんなことを言うのでならば、お言葉に甘えさせていただこう。
『――そういえば、一勝おめでとう、ございます。かっこよかったですよ』
「あら? 祝ってくれるんですか、嬉しいですわね。でも、勝った気はしませんわ。使う必要のない二基のビットをつかってしまったんですもの、舐めていたとはいえ恥ずべき誤算と言えます。考えも少しばかりは改めましょう……ですから――」
攻撃はしてこない。ただ、威圧感を放っていた。
「――最初から全力で潰させていただきますわ。先ほどの試合のようなことが起こるとは考えないほうが良いですわよ?」
『……精一杯、頑張ります』
愛染はセシリアに一言だけ言うとISを展開するために名前を呼んだ。
『――来て、ください【打鉄】』
ISの姿を念じ、展開する。
アレは何だと、織斑一夏は思った。
山田先生は息を飲んだ。
織斑先生は二度目も顔をしかめた。
見ていた生徒は不思議に思った。
セシリア・オルコットは眉を寄せ、神妙な面持ちで愛染朝陽に尋ねた。
「――それが、貴方の専用機、何ですの? 失礼ですが、フィッテングは済ませましたか?」
『? えぇ、もうやりました』
不思議そうに朝陽が答えた。
「そう…………つかぬ事を聞きますが、それは――飛行、できますの?」
と、セシリアは愛染に聞いた。普通ならばISだぞ何を言っているんだ、となるのだが愛染朝陽のISはきわめて異端だった。
全身は黒を基調としたカラーリング。全身にタイツのように金属部位を身体にまとわりつかせた
。とてもシンプルでスタイリッシュな見た目となっているが、異質な部分が所々主張していた。
まず、手足。腕やスラスターなど機械部に枷が連なって存在しており、まるで邪魔をしているように見える。
次に翼部。ISにとって飛行するにはなくてはならない部位だが、愛染のISにはそれがついていなかった。
ISに関わるものなら一目で気付く違和感。
『それが、飛べなくなって、しまいました。せっかく練習したのに、残念です』
車椅子を避難させ、少しだけ悲しげな顔つきになり、トーンを落としながらいう愛染。だが、それを払拭するように顔を上げ、装備を換装する。
『――いきます』
手にした武器はアサルトライフル『焔備』。それをオルコットさんに向けて言い放つ。
「――来なさい」
セシリアの言葉を合図に試合が始まった。
――――――――――――――――――――――――――――
「――なぁ、ちふ……織斑先生、朝陽のあの機体って何か……変じゃないか?」
一夏は姉に問いかける。
「私にも分からん。愛染のISが何をもってしてああなったのか。打鉄ならばあそこまで変わることなどあり得んのだがな」
顔をしかめたまま、千冬は一夏に答える。
「ねぇ、あれってさ。ちょっと……不気味じゃない?」
見ていた誰かの生徒が呟いていた。複数人はそれに同調するように頷いていた。
不気味、怖い、気持ち悪いと。
「あい、えすと呼ぶことが出来るのでしょうか、アレは……」
ISという、本来のコンセプトから大きく逸脱しているアレに山田先生は疑問を口にしながら食い入るように見ていた。
――――――――――――――――――――――――――――――
「――喰らいなさい!」
四基のビットから放たれるビームが僕に向かって降り注ぐ。
『――っく。』
それを脚部スラスターを地面に噴出して滑るように駆けていく。飛べずとも移動手段は練習中に見つけていた。
上、前、後ろ、右、左。様々な場所から狙ってくるビットを必死に避けるが、五回に二回は被弾してしまう。
体を回転させ、上体を上に向け、構えた『焔備』をオルコットさんに向けて撃つ。
「甘いですわよ」
苦もなく避け、続けざまに攻撃してくる、加えてオルコットさんも攻撃に加わり更に被弾率が上がる。
ビットを狙うも、かするだけで決定打を与えられない。
シールドエネルギーは――
エネルギー残量:320/800
――半分を下回っていた。
そこで朝陽は武装を切り替えた。
持っていた『焔備』を
『――来てください、『葵』、『撃鉄』』
右手には超長距離射撃装備『撃鉄』を抱えるように持ち、左手には近接用ブレード『葵』が握られていた。
――これから僕は少しだけ無茶をする。
ISの補助があるとはいえ、上手くやれる確証もなければ、成功するとも限らない。
だが、精一杯やると決めたのだ。これくらいやってやる。
そう決めた愛染は被弾しながらも作戦を進めていく。
「(――動きがおかしい。いったい何をするつもりでしょうね)」
両手に持った銃と剣でどうするのか頭の片隅で考えながらも手は緩めない。
『行きます――』
朝陽が動いた。左手に持っていた『葵』を地面に突き刺し、一度距離を取りながら、ビットとセシリアに向けて撃つ。セシリアもビットも当たらずにまた攻撃を始める。
一体何のために地面などに刺したのか? セシリアは考えた。何かをするのは明白だ。なら何を……。
ライフルを撃ちながらふと思った。愛染朝陽が向かっているのはその突き立てたブレードがある場所だということに。
セシリアの頭である仮説が立てられ、それが一番可能性が高かった。
「――っ」
セシリアはブレードを弾こうとしたがすでに遅かった。
『――はあっ』
愛染は突き立てたブレードの目前まで来ると、
飛行したというわけではない、ジャンプしたのだ。
無理な話ではない。ISにはそれなりに重量があるが、それが少ない機体、ISのアシスト、脚部スラスターがあるならば、ジャンプなどならば苦もなくできる。飛行できるのだからやる者がいないだけで理論上ならば可能なはずなのだ。
愛染の身体は宙を舞い、ブレードの柄の部分を踏みしめ、タメをつくってからまたジャンプする、スラスターを使うのも忘れない。
ビキリ、と嫌な音がしたが今は試合中だから後回しだ。
「――⁉︎」
セシリアは一瞬だけ目の前で起きた出来事に気を取られた。
ブレードを踏み台にして、脚部スラスターも使って上がった距離は精々10メートル弱。セシリアのいる上空にははるかに届かない。狙ったとしてもかわされるだろう。
『頼みます、『撃鉄』。当たって』
ならば愛染のやることはセシリアを狙うことではなくビットを撃ち落とすことにあった。
飛び上がった時にはすでに『撃鉄』を撃てるように構え、ビットをスコープ越しに捉えた後は引き金を引くだけだ。
その時、背中からズガンッ、と重たい衝撃が身体全体に伝わる。
考えるまでもなく、背中からセシリアのレーザーライフルが愛染を襲ったのだ。
「……奇をてらった、というならばそうなのでしょうね。わたくしも少々驚かされました」
そう言って倒れている愛染に向かってビットによる掃射をする。舞い上がる土煙、鳴り響くブザー。
――――《勝者、セシリア・オルコット!》
エネルギーは満タンで勝利したオルコット。
「そんな機体でわたくしと闘ったのには褒めて差し上げますわ」
とセシリアは愛染に向かってそう言い、カタパルト方向に飛んでいった。
ISを解除した愛染は地面に這いつくばりながら、先ほどの試合のことを噛み締めて、
『――負け、ちゃったなぁ』
負けたというのに、晴れやかな顔で呟いていた。