話し合いの後、ロキ・ファミリアを出た七郎治はヘファイストス・ファミリアに来ていた。団員に通された主神の執務室に入るとヘファイストスだけでなく椿までいた。
「おお!七郎治か、今日はどうした?」
「…ヘファイストス様に聞きたいことがあってきたんよ」
「私に?」
ヘファイストスは作業の手を止め、七郎治に向き直る。さっそく七郎治は簡単に18階層で起きた事を説明し、ギトーが持っていた黒く禍々しい妖刀の話をした。
「何か分かればと思って来たんやけど…」
「手前は知らんな…。主神様はどうじゃ?」
話を聞く中、一度驚愕の表情を見せ、ヘファイストスは目を瞑り暫く沈黙していた。静寂が部屋を包み込む中、徐ろに口を開いた。
「…
「「
「ええ、貴方の見たものに間違いが無ければ、ね」
「主神様、それは一体どんな刀なのだ?」
椿の問い掛けに僅かに眉を歪ませるが、現在妖刀を使う七郎治には知ってもらいたい。いや、話さなければならい義務がある。ちゃんとあの事を話そう。意を決して言葉を発した。
「そうね。…少し昔話に付き合ってくれる?」
それは七郎治が持つ妖刀・三代鬼徹を打った鍛治師。
名はイズミ・清佐衛門。当時のヘファイストス・ファミリアで最高峰に登り詰めた男。
「…当時の冒険者はあの子の作品を挙って買い求めたわ。私もあの子の作品はとても素晴らしものだと思っていたの。でも…」
いつしか清左衛門は刀にのめり込み、何の関心も持たず片手間で打った武器、防具を店頭に出すようになってしまった。それでも、性能自体は落とさない凄まじい鍛治の技術。
そして、清左衛門の打った刀を聞き付けた幾人もの剣士が手に入れようと躍起になった。本人はそれを嫌がったが次第に関心が失せたのか、望む者には売り始めたらしい…。
それが妖刀の悲劇の始まりだった。
元々ヘファイストス・ファミリアの一級品は高額で、上位冒険者しか手にする事を許されない。当時、冒険者として名を馳せた剣士は刀使いで無くともそれを手にダンジョンへと挑む。
最初は何も起きず、只々最高の武器を手に入れたと喜び勇んでいた。しかし、次第に変化が現れた。
ある者は、己の欲望に取り憑かれた様に強欲に。
ある者は、命を省みる事を忘れ蛮勇へと。
ある者は、穏やかな人格が何処かに吹き飛び悪に染まる。
ある者は、何かに怯える様に弱者に成り下がった。
異常だった。刀を手にした冒険者はオラリオに名をはせる者ばかり。神々の恩恵を受け、その器を昇格しせている。奴に皆、元からの人格に拍車が掛かるか、正反対へと豹変させられ、狂っていった。周りから止められ、刃傷沙汰を起こす者もいる中、誰一人として刀を手放し者は居らず…
皆、等しく死を迎えた。
最初の保有者がいなくなった後も、次に手にした者も一様に同じ最後をたどった。いつしか呪われた刀、『妖刀』と呼ばれる様になったという。
ヘファイストス自神、何が起きているのか分からず、本人に厳しく問い詰めるも…
『ただ扱いきれなかっただけだ』
と一言返答があるのみ。
この事は、オラリオ中で問題になり
刀を手にした冒険者と共にダンジョンで消えた物も幾つもあるだろう。次の刀の持ち主が都市外に逃げたり、はたまた裏ルートを通して都市外に売り飛ばされていたらしい。
さらに、刀を手にし、死を迎えた冒険者達の主神が
妖刀を作り上げた真相を問い詰める為。神々に囲まれ各々から発せられるギリギリの神威。通常であれば人が耐えられる様なものではない。だが、神々に囲まれる中、最後まで清左衛門は沈黙を貫いた。
結局、真相は分からず仕舞い。
結果、恩恵の剥奪、及び都市外追放。
本人は突き付けられた罰をあっさりと受け入れてしまい、ヘファイストスは自神の眷属に何もすることが出来なかった。
「清左衛門が此処を立つ時、以前話した自分の武器への想いの変化を話してくれたわ…」
ヘファイストスは儚く悲しげな表情を浮かべていた。
「…その後に、ね。自分が打った最高の刀だ、と『
「最高の物が駄目?どういう事じゃ?」
「
『
「そう言って、あの子はオラリオを去って行ったわ…。その後の事は何一つとして分からないわ」
はぁ、と息をつきヘファイストスは冷め切った紅茶に口を付けた。
「…では主神様、
「…さぁ、それは分からないわ。あの子に認められたのか、何らかの方法で手に入れたのか」
「ふむ…。七郎治、お主はどう思う?」
「…」
ヘファイストスの話の最中から、七郎治は黙り込み一言も発していない。椿の問い掛けもまるで聞こえていないかの様。
「おい!聞いておるのか⁉︎」ゴス‼︎
「いったぁ⁉︎何ばするとね⁉︎」
「だから!お主はどう思うのかと聞いておる‼︎」
椿に拳骨を食らった七郎治は、目尻に涙を浮かべながらようやく答えた。
「そげんこと分からん。…ただ妖刀が一体何なのか気になったんよ」
ヘファイストスは七郎治の言葉に、再び眉をひそめた。
「…ごめんなさい。それは
「…そう、ですか」
今までの話しを頭にしっかりと入れながら、もう今分かる事はないと思い、一言礼を言い立ち去ろうとした。
「ねぇ、七郎治。無理は言わないけど、もし何か分かったら教えてちょうだい」
「はい。必ず…」
部屋を出る時にみたヘファイストスの表情は憂いを帯び、優しげなものだった。七郎治は同じ銘を持つ妖刀でも、明らかに別の物。自分の知らない何か、妖刀とは何か?この答えを導き出したいとは思い始めていた。
ー黄昏の館ー
七郎治は帰るなり、団員に呼び止められロキのいる中庭へと足を運んだ。
「主神様。ただい麻婆豆腐、四川の極み」
「お?ロージたん。おかえリンボーダンス、トリニダード島発祥の地」
ロキと挨拶を交わすと、呆れた様にこちらを見ている、貴族の様な出で立ちの美男神の姿があった。どうやら来客中の様だった。
「初めまして。ロキ・ファミリア所属。オウギ・七郎治です」
「ご丁寧にありがとう。私はディオニソス・ファミリアの主神だ」
挨拶を交わす2人の様子を見ながら、ロキはサッサと話しを進める。
「早速やけどロージたん。今から24階層に行ってくれへん?」
「24階層?」
はて…。何かあったかいな?思い出せん
小首を傾げているとロキが簡単に説明してくれた。例の食人花の件でディオニソスと話をする中で、ダンジョン24階層で異変が起きているらしい、と聞かされた。
しかし、ちょうどロキ・ファミリアの首脳陣は粗方出払っていた為、面倒ごとはゴメンだとロキは断ったのだが…。
グッドゥタイミングでアイズから24階層に向かいます。心配しないでと、誰かの使い魔によって手紙が届いたそうだ。
「あー…」
これ完全に何か巻き込まれとるやん…
この事が原作のどの辺りなのか分からないままだが、厄介ごとにアイズが首を突っ込んだ事だけは確かだ。瞬時に理解し、普段の死んだ目を更に殺し、生きた人間では決して出来ない程輝きを失わせた。
「ッ⁉︎アカン!その目はアカンでロージたん‼︎死に過ぎや‼︎」
流石のロキでも狼狽えてしまう、過去に数回しか見た事のない七郎治の36の特技の一つ『死に過ぎの目』。ディオニソスも生者がこんな目をするのかと驚愕していた。
そんな神々を無視し、取り敢えず話の続きを促した。
「そ、そんでな?少し前にベートとレフィーヤを24階層に向かわせたばっかなんや」
「わ、私の子も同行している。エルフのフィルヴィス・シャリア。Lv.3だ」
「ロージたんなら途中で追いつけるやろ?お願いしてもええか?」
はぁーーー、と魂も一緒に脱け出そうな深いため息の後、一言返事をした。
「…了解」
更新のペースが遅くなってます。申し訳ないです。
今回、妖刀について少し掘り下げてみました。もう設定とかはオリジナルになってます。