ダンまちに転生したが、脇役でいいや   作:冬威

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長らく時間が空きました。スンマセンした‼︎





最高幹部の苦悩

 

 

 

 

 

暇を持て余した神々が緊急神会(デナトゥス)を開催している中、アイズと七郎治は黄昏の館に帰っていた。

 

 

「ただいまよー」「…ただいま」

 

「あ!アイズさん‼︎おかえり、なさ…い」

 

 

中央玄関に入ると、いつものメンバーがいた。敬愛するアイズの姿を認識したレフィーヤが出迎えるも、硬直して動かなくなってしまった。

 

 

「わあー!アイズが七郎治と同じ服着てるー‼︎」

 

「あら?可愛いじゃない。似合ってるわよ」

 

「んと、…ありが、とう」

 

いつもと違うアイズを見て、ティオナは勢いよく抱きつき、ティオネはそんな妹に呆れつつアイズへ感想を述べ…。

 

 

「えっ?七郎治さんとアイズさんが…。そんな…。どうして⁉︎羨ましい‼︎…でもグッジョブです!」

 

「レフィーヤは色々と大丈夫け?」

 

 

ブツブツと呪詛のような言葉を呟いたかとおもえば、いきなり褒めたりと忙しないレフィーヤ。そんなレフィーヤに軽く引きながら、ふと窓を見るとコソコソとアイズを見ようとする毛の塊が見えた。

 

からかおうと思ったが、よく見ると体を左右に揺らしイライラしていた。なんじゃ?と思いよく観察すると、ティオナがアイズに抱きつきつつ、ベートに見せないように上手く自分の体で隠していたのだ。

 

 

ティオナ!…恐ろしい子‼︎

 

 

ベートの存在に気付いていることを、周りに感知させず自然な流れでの妨害行為。その末恐ろしさに七郎治は白目を向いて青ざめ、口元に手を当て驚愕した。

 

 

「おい、騒がしいぞお前達。…ほう、似合っているぞアイズ」

 

 

階段の上から騒がしい団員達を叱るリヴェリアであったがアイズの浴衣姿に目をとめ、すぐに優しい笑みを浮かべた。

 

 

「うひょー‼︎アイズたんの和服姿キターー‼︎」

 

 

リヴェリアの後ろからひょっこり顔を出し、階段から一気に飛び降りアイズへと一直線に急降下する。…が、アッサリ避けられ冷たい床にめり込んだ。

 

 

「ん?ギルド職員?」

 

 

リヴェリアの少し後ろで事の成り行きを眺めていた、眼鏡を掛けたハーフエルフの女性ギルド職員に気づくき、なぜこの人がここに?と考えていると、リヴェリアが察してくれたようだ。

 

 

「ギルド職員だが、私の知人の娘だ。警戒することはない」

 

「初めまして。ギルド職員のエイナ・チュールです」

 

 

通常、ギルドが特定のファミリアに干渉することはない。そのギルド職員がファミリアの拠点に来ているとなれば訝しがられても仕方がない。

 

いつもの受付のように、丁寧かつ爽やかに自己紹介をされた。ならば礼には礼を。

 

 

「ご丁寧にありがとうございます。ロキ・ファミリア所属、オウギ・七郎治と申します」

 

「えっ⁉︎」

 

 

七郎治の丁寧なしゃべり口調にエイナは驚いてしまった。同僚のソフィアと話してる姿や、一部の神々から「方言和服男の娘萌える」と言われている様に、もう少し乱雑な喋り方だと思っていたからだ。

 

リヴェリアはそんな2人のやり取りに苦笑いを浮かべながら、床にめり込んだロキの代わりに七郎治と共に門の外までエイナを見送ることに。

 

その中で、エイナは神酒であるソーマ、もといソーマ・ファミリアについてロキとリヴェリアに話を聞いていたのだと言う。

 

 

そっか。原作はそこまで来とるんやね…。

 

 

前世の知識で、この出来事はベルにとってとても大事な仲間を手に入れ、愚直に困っている人を助けたいという思いが描かれていたなと思い、1人でしみじみとしていた。

 

 

「あっ!そう言えばオウギ氏に是非お礼を言わなければと思っていまして」

 

「お礼?ワシに?」

 

「はい。私が担当している新米冒険者のベル・クラネルが、貴方とヴァレンシュタイン氏に助けて頂いたと聞きました…。本当にありがとうございます!」

 

 

何処までも丁寧に頭を下げる姿、そして感謝の言葉は誠意を感じられた。元話といえば、ロキ・ファミリアの失態に巻き込んでしまったのだから、礼を言われる事ではないが…、エイナの礼は素直に受け取ることにした。

 

エイナを見送り、中央玄関に戻るとロキとアイズの姿が見えず、ティオナとベートがケンカし始めていた。リヴェリアの叱責が飛ぼうとした瞬間、主神の声が響き渡った。

 

 

「Lv.6キターーーー‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

翌朝、食堂にて朝食をとる団員達はいつも以上に騒ぎ、興奮した様な面持ちだった。それはたった一つの話題によるものだ。

 

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインがLv.6に至る。

 

ロキ・ファミリアの最高レベルは、

勇者(ブレイバー)】フィン・ディナム、【九魔姫(ナイン・ヘル)】リヴェリア・リヨス・アールヴ、【重傑(エルガナム)】ガレス・ランドロックのLv.6。とうとうアイズはファミリアの最高位におい迫ったのだ。

 

「先に行かれたー‼︎」と叫び、悔しいやら嬉しいやらで騒ぎ立てるティオナとその横で「やかましい!」と騒ぎまくる妹を叱るティオネ。他の団員達も思い思いの言葉を発していた。

 

そんな中、苛立たしげに肉にかぶりつく狼人(ウェアウルフ)の姿が。その視線の先には寝癖をつけたまま、今しがた食堂に入ってきた七郎治に向けられていた。

 

主神であるロキ、最高幹部の3人と一言二言交わすと席に着き朝食を食べ始めようとしていた。その姿に苛立ちながら近づく。

 

 

「おい…」

 

「ん?どげんした?」

 

 

朝食を食べ始めようとした矢先、ベートによって遮られる。

 

 

「…チッ!間抜けヅラしやがって雑魚が、テメェ分かってんのか?アイズはLv.6になったんだぞ⁉︎」

 

「そんで?」

 

 

まだ目が覚めきっていないような気怠げな返事に、苛立ちが更に増す。

 

 

「相棒名乗るんなら、いつまで雑魚でいやがるんだって聞いてんだよ‼︎」

 

 

胸ぐらを掴み上げ、睨み付け怒気をはらんだ声を上げる。ベートの突然の行動に賑わっていた食堂が静まり返った。

 

 

「雑魚っておまえ…。同じレベルやんか」

 

「ああ゛⁉︎ついこの間ランクアップしたばかりの雑魚と一緒にするんじゃねぇよ‼︎」

 

 

いきなりなんなんだ?と思い、覚醒仕切っていなかった頭を働かせ、『見聞色の覇気』で真意を探る。

 

 

ああ、そういうことか…。

 

 

恋い焦がれる相手に先を行かれた自分への苛立ち。さらに自分よりも格下の七郎治が、誰よりも想い人の近くにいることへの苛立ち。そして、おまえは悔しくないのか?ずっとこのままなのか?と言う問いかけ。

 

 

「アイズ嬢がランクアップした事は、嬉しいことやけん」

 

「ああ゛?」

 

 

その返答が気に入らないのか、更に凄み目を吊り上げ、胸ぐらを掴んだ手に力が入る。

 

 

毛玉の言いたい事は分かる…。けんど…。

 

「レベル差は簡単に埋まらんよ。ちゅうか簡単に埋まってたまるか」

 

「ッ⁉︎」

 

 

いつもより低い、重みのある声。いつもの死んだ目は消え失せ、強く光を宿し真っ直ぐにベートを見返してくる目。

 

ランクアップを果たすのにどれだけ大変な事か皆知っている。

 

アイズがLv.5になってから3年、その間どれだけ伸び悩み、焦り、自分を追い詰めてきたか、近くで見たきた。

 

特別な何かを成していない、大きな壁を乗り越えていない自分では簡単に埋めれない、絶対に埋まらないものなのが其処にある。

 

 

「チッ!腰抜け野郎が…」

 

 

七郎治の言わんとする事を感じ取り、乱暴に掴んだ手を離し、そう吐き棄てるとベートは食堂を後にした。

 

 

「なにあれー‼︎」

 

 

仲間であることは変わらないが、ベートの過剰なまでの実力主義を嫌がり、度々衝突するティオナはいかにも怒っていますとプンスカしていた。

 

 

「んー、毛玉なりの毛玉による毛玉の為の冒険者の矜持ってやつやね」

 

 

プンスカしているティオナを傍に、朝食を食べ始める。

 

 

悪いな、おまえが欲しい言葉を贈れんで…。ワシにもちゃんとした想いがあるったい。

 

 

ベートの言っていることは最もだと思う。だが、先程言ったことは本心であることに間違いはない。

 

では、このままでいいのか?そんな事はない。必ずそこに辿り着く。運が良かったやおこぼれなんて言わせない、自分自身で勝ち取ったもので。必ず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーー

 

七郎治と別れ食堂を出た瞬間、中から響く怒声に様子を見ていた4人。ことの顛末を見届け今は執務室にいる。

 

 

「まったく、ベートのアレはどうにかならないものか…」

 

 

額を押さえ、リヴェリアはため息をつく。

 

 

「まあまあ、言われた本人にはちゃんと伝わっているわけだし、いいんじゃないかな?」

 

「ガハハハ!いつもの事じゃわい。度が過ぎれば七郎治がちゃんと調整するじゃろう」

 

 

いつもの事だと、他の団員ならともかく七郎治だしと気にとめる様子もないフィンと、豪快に笑い自分でなんとかするから大丈夫だと投げやり気味のガレス。

 

 

「アイズたんもLv.6になったもんな〜。フィン達もうかうかしとれんのとちゃう?」

 

 

主神であるロキは、そんな団員達をニコニコとみながら、軽い口調でからかう。そして徐ろにすっと薄く目を開き口角を僅かに釣り上げる。

 

 

「さて、ロージたんが食べ終わる前に話しとこか?」

 

 

ロキの言葉に3人は表情を引き締める。18階層の事件、アイズと赤髪の調教師(テイマー)、七郎治の妖刀と黒髪の妖刀使い、もうすぐ控えている遠征の事。話し合う内容は山積みだ。

 

 

「よっしゃ、先ずはロージたんの妖刀のことやな」

 

「私は、やはり使わせるべきでは無いと思う」

 

「そうだね。黒髪の妖刀使いのことも気になるし、危険な事に変わりはない」

 

 

実際に妖刀を振るう姿を見たフィンとリヴェリアは反対した。妖刀に呑み込まれた訳ではないが…。あの時、黒髪の妖刀使いと対峙しする七郎治の僅かな変化に気付いていた。

 

 

「…儂は本人が望むのであれば、取り上げる必要はないと思うがのう」

 

「ウチもロージたんに判断させてええと思う」

 

 

そんな2人に対して、ガレスとロキは賛成派に回った。別に心配をしていないわけではない。

 

弟子が自分で選んだ道の行く末を見届ける義務がある師と、自神の眷属が良くも悪くも何かを起こすかもしれない種を摘みたくない主神。どちらも七郎治の事を思っていた。

 

 

「しかし、何か起きてからでは手遅れになりかねない」

 

「その時はぶん殴ってでも止めれば良い。…フィン?お主は奴と約束したのじゃろう?」

 

「そうなんだけど、ね。どうもあの黒髪の妖刀使いが気になるんだよね」

 

 

話し合いは平行線になっていった。

 

 

「はあ〜。まとまらんなぁ、しゃあないロージたんの話も聞いてから、決めよか?そろそろ食べ終わるやろし…」

 

 

ロキがそう締めくくった時、ちょうどドアがノックされた。

 

 

「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!七郎治さんですぅー」

 

 

さっきまで、真剣に悩み相談してきたのが馬鹿みたいに思える程、気の抜けた声と死んだ目で飛び込んできた。4人は揃ってため息をついた。

 

 

「ちょうど良かったよ。七郎治、18階層の事について君の意見を聞かせて欲しい」

 

 

やれやれと肩をすくめ、フィンが代表して話を切り出した。

 

 

「18階層の?女型の食人花のこと?赤髪の女とギトーのこと?」

 

「んー、赤髪の調教師(テイマー)と黒髪の妖刀使いの事かな。…妖刀使いはギトーと言うんだね?」

 

「そげん呼ばれとったよ。…簡単に言うと2人ともかなり強かろう?」

 

「そうだね、赤髪の調教師(テイマー)は僕とリヴェリアで抑えられそうだったが、逆にLv.5のアイズが抑え込まれていた。…そのギトーと呼ばれた男はどうだい?」

 

「ワシは手も足も出んかった。ただ遊ばれとっただけやけんな。…それに、三代鬼徹。妖刀に固執してる感じやったよ」

 

 

やはりか、とフィンは自身の考えを肯定した。あの時、ギトーは敵を倒す為の戦い方ではなく、何かを試す様な、何処か遊んでいる様な戦い方だった。

 

それに、動きを見た限りでは、あの赤毛の調教師(テイマー)と同等の実力がある事は間違い無かった。七郎治の攻撃を受けていたようだが…、恐らくわざと受けたのだろう。

 

 

(アッサリと撤退する態度、そして最後に七郎治に向けた言葉。…確実に目を付けられたな)

 

 

黙り込むフィンに代わり、リヴェリアが問いかけてきた。

 

 

「七郎治…。お前はその妖刀を手放す気はないのか?」

 

「三代鬼徹を?そげん気は無いばい」

 

「…何故だ?」

 

 

七郎治のあっけらかんとした返答に、眉をしかめてしまう。ああ、ちゃんと答えなね、と少しばかり考えに浸る。

 

三代鬼徹を使いたい理由。大好きなワンピースに出てくる刀、ただそれだけじゃない。握ってみて、振るってみて分かった、自分に必要な物なのだと。けれど、それが何故なのかはハッキリと分からない。

 

 

「…上手くは言えんけど、三代鬼徹はワシに必要なんよ。ただ、それだけしか今は言われん」

 

 

只々、真っ直ぐに自分の意志を示すだけ。普段は覇気が感じられないせいか、たまに見せる強い意志を受け入れてしまいそうになる。

 

 

「お前がなんと言おうと、私は妖刀を使う事は反対だ。…お前に何かあってからでは遅い」

 

「「…オカン」」

 

「誰がオカンだ」バキッ!ゴスッ!

 

 

リヴェリアの子を思いやるような言葉に、七郎治とロキがハモるも鉄拳制裁されてしまった。

 

その後、一度妖刀の話から離れる事にし、赤毛の調教師(テイマー)の話題に切り替わった。

 

 

「…赤毛の調教師(テイマー)に関しては、アイズから話を聞こう。あぁ、七郎治?君も残ってくれ」

 

 

退室しようとした七郎治を引き止めながら、フィンはリボンが巻かれたベルを取り出し、チリンチリンと軽く鳴らした。すると…

 

ドドドドドドドドドドドド‼︎‼︎

 

と少し離れたところから物凄い勢いで、何かが接近してきた。

 

 

バターン‼︎「へば⁉︎」

 

「お呼びですか⁉︎団長‼︎」

 

 

凄まじい勢いで、ドアが開けられアマゾネスの少女が飛び込んできた。そう、愛する団長のベルの音を聞き付け、瞬時に駆け付けたティオネであった。

 

 

「やあ、ティオネ。すまないが、アイズを連れてきてくれないかい?」

 

「はい‼︎喜んで‼︎」

 

 

フィンのお願いに、恋する乙女は嬉々としながら部屋を飛び出していった。開け放たれたドアはユックリと閉まり、壁に埋め込まれた七郎治の姿が現れ、ズルリと床に落ちた。

 

 

「…ロージたん、大丈夫か?」

 

「ねえ?ワシの体どっか変になっとらん?大丈夫?」

 

「見た感じ大丈夫や。けど、ちょっとオモロかった。恐竜の化石みたいやったで」

 

「やった!ウケた!ウケた!」

 

 

何を喜んでいるんだと、呆れ返る幹部三人。

 

 

「…しかし、便利なものじゃのう」

 

「彼女に押す付け…贈られたものだよ」

 

 

何処か遠い目をしながら、フィンはベルを机に置いた。

 

 

「団長?それって何処に居てもくるん?」

 

「んー?どうだろうね」

 

 

好奇心に押され、机に置かれたベルを手に取り同じように鳴らし、すぐにベルを机置く。すると…

 

 

ドドドドドドドドドドドド‼︎‼︎

 

バターン‼︎

 

「七郎治‼︎‼︎テメェが鳴らしてんじゃねぇえええ‼︎‼︎‼︎」

ズドン‼︎

 

「すいません団長‼︎すぐにアイズを連れたきます‼︎」

 

 

ティオネは凄まじいスピードで現れ、七郎治に一発叩き込むと、直ぐに部屋を後にした。

 

 

「なん、で…。分かるん、よ」ガクッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





前回からソード・オラトリオの3巻に当たる話が始まりましたが、七郎治を絡めながらなので少し話の進みは遅くなるかもです。

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