ダンまちに転生したが、脇役でいいや   作:冬威

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さぁ、前回の後書き通りソード・オラトリアの3巻にあたる話がスタート…。

出来ませんでした‼︎

一応、始まったっちゃ始まったのですが、なんかアイズと七郎治の話です。




三章
こんな日もたまにはいいよね?


 

 

 

ロキ・ファミリアの拠点。黄昏の館。普段は団員達が談話室として使用している一室で、1人の少女が膝を抱えていた。

 

少女は普段の戦闘衣(バトルクロス)ではなく、純白の清楚なワンピースを見に纏い、絹のようなサラサラとした金髪、膝に埋めた顔から僅かに覗く金眼。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだ。

 

念願だった白兎との再会も、脱兎の如く逃げられるという結果に終わり激しく落ち込んでいた。

 

 

(…リヴェリアがいけないんだ)

 

 

ダンジョンで倒れていた白兎を護衛すると共に、リヴェリアのアドバイス通り膝枕をしていたが、それがいけなかったのだと。アイズはとうとう涙ぐんでしまった。

 

そんなアイズの様子をドアの隙間からコッソリと見ている人影があった。

 

 

(あかんな〜。結構重症やで)

 

(ほっとけば良かろう?ワシは用事あるけん、もう行くばい)

 

 

ヒソヒソと話していたのは、アイズの明らかに様子がおかしい事に気を掛けた主神と、所用で出かけようとしたところを捕まったアイズの相棒だった。

 

 

(なんやと⁉︎この薄情もん‼︎)

 

(したっけ、どうしようもないべ?なんか良い考えばあるん?)

 

(うぐっ!せやな〜)

 

 

さっさと出かけようとする七郎治に対して、ロキは薄情者呼ばわりするが、問いかけられて打開策を探す。

 

 

(…そうや!その用事ついでにアイズたんを街で遊ばせてきいや‼︎)

 

(はぁ?そんなんで(いいから行け!早よ行かんかい‼︎))

 

 

七郎治の抗議を最後まで聞かずに、ドアへと突き飛ばしにべもなく実行させた。

 

 

「…七郎治」

 

 

普段着の青紫のシンプルな浴衣を着崩し…というか着崩れ、下駄を履いた七郎治がドアから転がりこんできた。

 

 

「あ〜、アイズ嬢?ちとワシの用事に付きやってくれんね」

 

「…うん」

 

 

アイズはソファから立ち上がり、元気のないまま七郎治の後をついて行く。七郎治は横目でチラッと廊下の角をみやると、親指をグッと立て満面の笑顔の主神がいた。腹立つ。

 

 

目的地であるヘファイストス・ファミリアの店舗。「羽衣屋」を目指す。その間、2人の間に会話はなく、フラフラと歩くアイズが危なっかしくて仕方なしに手を引く事に。普段着の【剣姫】と【抜刀斎】の姿は周りの目を引き、しかも手まで繋いでいるとなれば余計に目立つ。

 

 

そんな視線を浴びながら、ようやく目的地に着いた。

 

 

「こんちわー」

 

「いらっしゃい…。あら?珍しいわね。逢い引きでもしているの?」

 

「ほんとにそげん見えると?」

 

 

常連が可愛い女の子と手を繋ぎながら現れれば、自然とそう思ってしまうだろう。ふふふ、と笑うと七郎治に紹介を促す。

 

 

「アイズ嬢。この人はヘファイストス・ファミリア所属で、この「羽衣屋」のオーナー。Lv.3シホウイン・天華。二つ名は【羽衣】」

 

「ふふ、よろしくね。七郎治とは防具限定で専属契約を結んでいるわ」

 

「んで、こっちが【剣姫】のアイズ嬢。これだけで良かろう?」

 

「適当ね」

 

「アイズ・ヴァレンシュタイン、です」

 

 

2人の挨拶を終え、さっそく七郎治は本題にはいる。18階層の事件でギトーに切られた、着流しと陣羽織を修繕に出していたのだ。

 

専属契約鍛治師達との話は冒険者にとってはとても大切なもの。その場に居合わせては申し訳ないと思い、その間アイズはやる事がないので店を見て回ることにした。

 

 

 

 

この店はオラリオでも珍しい、極東の衣類専門店。前回の遠征の後にテォオナ達と訪れたアマゾネスの店、エルフ御用達の店。そのどちらとも似ても似つかないものばかりだ。正直に言うと着方さえ分からなかった。

 

 

(すごく、綺麗…)

 

 

アマゾネスのような露出はなく、エルフのような煌びやかな装飾もない。ただシンプルなものから色とりどりのものまで幅広くあり、また細かい刺繍や美しい色合いになっていた。

 

一通り見て回り、店の入口付近に戻ってきた。入った時には見ていなかったが、窓の近くに設置されたそこには簪や櫛、扇子、また和風のブレスレットや耳飾りといった小物が並べられていた。陽の光に照らされたそれらは美しく輝いているようだ。

 

アイズはその中の一つに目をとめる。青と白の紐で編み込まれ、アクセントに可愛らしい桃の花のチャームが付いていた。

 

 

(かわいいな…。買っちゃおう、かな)

 

 

普段の戦闘衣(バトルクロス)とも合いそうだったので、買おうとした矢先アイズは断念した。

 

 

(…お金が、ない)

 

 

元々出かける予定ではなかったアイズは、そのまま出て来た為、お財布を持っていなかったのだ。しょんぼりと元の場所に戻すと、後ろから声をかけられた。

 

 

「アイズ嬢、待たせて悪かったの」

 

「ううん」

 

「ちょっとコッチ来てくれん?」

 

 

七郎治の後をついて行くと、試着室の前で天華がいくつもの浴衣を見繕っていた。

 

 

「さて、こん中から好きな物選んでな」

 

「えっと…」

 

「ん?振袖とかの方が良かった?あれらは慣れんと結構、動きづらいとよ?」

 

「そう、じゃなくて…。いいの?私、お金とか、持ってないよ」

 

「良かよ」

 

 

しどろもどろするアイズをお構いなしに後ろから押し、試着室に押し込み後は天華に任せた。

 

試着室の中から天華の楽しそうな艶のある大人の笑い声、アイズの照れたような戸惑ったような声が聞こえてくる。そして今この場にロキがいなくて良かったと思う七郎治であった。

 

 

 

 

2人が楽しそうにしている間、今度は七郎時が時間を潰す為に店内をぶらぶらしていた。

 

 

「終わったわよ」

 

 

天華の声で試着室に戻ってみると、声も出さずに固まってしまった。

 

 

「あの、どう…かな?」

 

 

白地に薄ピンクのグラデーションが掛かり、大小様々な大きさの桜の花が散りばめられ、可愛らしさの中に清楚さも感じられる。長い金髪にも白の桜の花が1束になった髪飾りがつけられていた。

 

元より美少女であるアイズの普段とは違う雰囲気に思わず見とれてしまった。

 

 

「…お?おぉふ、なんちゅうか、メッチャ似合っとると、ボクハオモイマス」

 

 

変な文法で感想を述べるが、もう少し言いようはないのかと、天華は呆れてしまった。しかし、当事者であるアイズは照れたように顔を少し伏せた。

 

 

「さて、せっかく着たんだから、このまま遊びに行っちゃいなさいよ」

 

「えっ、でも…」

 

「イイわね?七郎治」

 

「おっK‼︎」

 

 

戸惑うアイズをおいて、サッサと会計に入る七郎治と天華。今回は修理費と少ししか持って来ていなかったが、修理費の足りない分を請求書を発行してもらい後日払いにし、アイズの浴衣一式にお金を回した。

 

 

「さて、じゃが丸くんでも食べに行くべ」

 

「じゃが丸くん」キラッ

 

 

先ほどまで戸惑っていたアイズだが、七郎治のその一言で簡単に切り替わる。そんな二人を微笑ましそうに見送る天華だった。

 

 

下駄をカランコロンとならし、浴衣姿で歩く2人はとても目立っていたが、ロキ・ファミリアの第1級冒険者ともなれば視線を浴びるのは割と日常茶飯事だ。

 

じゃが丸くんの屋台で、小豆クリーム味を五つと、梅シソ味を二つ購入し近くの広場で食べることに。その間もめちゃくちゃ見られていたが…。

 

 

「あの、七郎治…。今日は、ごめんね」

 

はは、ごめんね、か…。

 

「ああ、ええよ。気にせんで」

 

「でも、私は、その」

 

 

上手く言葉に出来ないアイズは黙りこみ、じゃが丸くんを食べはじめてしまった。

 

 

…ほっとけんよなぁ。

 

「なあ、アイズ嬢。白兎に逃げられた事ば気にしよるんやろ?」

 

「…うん。私は、怖がられ「違うやろ」えっ?」

 

 

アイズの言葉を途中でさえぎり、アイズの頭に手を伸ばしワシワシと撫でながら話を続ける。

 

 

「助けてもらった相手を怖がる程、弱いヤツやないとワシは思うけんな」

 

「……」

 

「てか、逃げられるんなら追いかければ良かろう?Lv.1ぐらい簡単に追いつけるんやし」

 

「ッ⁉︎…その手があった」

 

「ウソやろ…」

 

 

目から鱗と言わんばかりにアイズはハッとして、そんなアイズに七郎治は若干呆れた。乱してしまった髪を整えていると、あることを思い出した。

 

 

「アイズ嬢、手ぇ出して」

 

「?」

 

 

差し出された、じゃが丸くんを持っていない左手にそっと着けた。

 

 

「…これって」

 

「ん、ワシからのプレゼント」

 

 

それは、「羽衣屋」でアイズが買う事を諦めた、桃の花のブレスレットだった。

 

アイズが試着をしている間に、自分の支払いの物に追加していたのだ。正直買うかどうか迷ったが、まぁ意味を知らないだろう、とプレゼントしようと決めたのだ。

 

 

「天華さんが作ったもんやけん、そう簡単には壊れんよ」

 

「…うん、ありがとう」

 

 

そっとブレスレットを大切そうに胸元にあて、今度は感謝の言葉を贈った。はにかむように笑うアイズはとても愛らしく、【戦姫】と恐れらる冒険者は鳴りを潜め、ただの1人の少女に。

 

目の前の少女に対して、七郎治の普段は死んでいる目はとても嬉しそうに。そしてどこか照れたような笑みを返す少年の姿があった。

 

 

「さて、帰るべ。アイズ嬢はダンジョンから戻って、まだステイタス更新しよらんのやろ?」

 

「うん」

 

 

差し出された手をとり、この時間がもう少し続けばいいと願いながら、お互いの温もりを感じる手を離さずに夕暮れに染まる黄昏の館へと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウソ…だろ?」

「チクショー‼︎【抜刀斎】の奴、とうとうやりやがった‼︎」

神々の嫁(オレたちのヨメ)がぁ‼︎」

「いや待て!ロージたんも神々の嫁(オレたちのヨメ)だぞ‼︎この場合はどうなる⁉︎」

「百合百合でイイじゃないか」

「いや、【抜刀斎】は男だろ」

「違いますー!ロージたんは男の娘なんですー‼︎」

「はぁ〜、浴衣、デート、いい、実にいい」

 

 

無言で手を繋いで歩く2人の情報はあっという間に広がり、羽衣屋から2人の後をずっとつけていた、暇を持て余した神々の緊急神会(デナトゥス)が開催されていた。

 

 

※注 アイズと七郎治は恋人ではありません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






なんか、もうね。前回までの閑話休題でね、自分の中のアイズたん成分が足りなくなったわけですよ。ムシャクシャしてやった。後悔はしてません。

…次回からちゃんと始めますねニッコリ

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