ダンまちに転生したが、脇役でいいや   作:冬威

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大変時間をあけてしまいました。
これで閑話休題は終わります。結構長くなりましたが最後までお付き合い頂ければと思います。




【閑話】初めてのランクアップ 二つ名

 

 

 

インファント・ドラゴンとの死闘。ママ(リヴェリア)からのおしりぺんぺんを耐え抜いて1週間が経った今日、3ヶ月に一度の神会(デナトゥス)が開かれる。

 

バベルの30階にある大広間に多くの神々が集まっていた。この神会(デナトゥス)では、オラリオで行われる催しものや近況の確認及び情報交換などが行われる。だが、神々にとって1番の目的は器を昇華させランクアップした冒険者の『二つ名』を決めること。これがメインと言っても過言ではない。

 

 

「では、これより第ン前回神会(デナトゥス)を開催しま〜す!司会はこのヘルメスが進行するぜ‼︎」ビシ!

 

「「「イェーイ‼︎‼︎」」」

 

「俺がガネーシャだ‼︎」

 

 

商業系ファミリアの主神。伝令神ヘルメスが開催の宣言をしビシッとポーズを決め、それに同調し盛り上がる神々。そして、唐突に自分を主張する群衆の主ガネーシャ。こうして神会(デナトゥス)が始まった。

 

まずは軽い流しで思い思いに発言し、悪ノリしながら近況報告を行っていく。今回は管理機関であるギルドからも特に連絡事項もなかった為、只の雑談会になっていた。

 

 

「んー、今回は特に変わった事はないかな…。それじゃあいっちゃう?」

 

 

進行役であるヘルメスの一言で、神々の表情が一変した。ニヤ〜と口角を吊り上げ意地悪く笑う神、今回のランクアップ者の中に自神の眷属がいる下級ファミリアの主神は顔を青ざめる。

 

 

「これより!命名式を始めまーす‼︎」

 

「「「イェーイ‼︎」」」」

 

 

神々が与える二つ名は「これは痛いはw」と自神達が思っているのとは裏腹に、名付けられた眷属(子ども)達は「カッコイイー」と目を輝かせるのだ。

 

いつの世も権力、財力、武力、力を持たないものは叩き伏せられる。それは神々とて同じ。力のあるファミリアでない限り、その願いは届かない。我が子にはまともな二つ名をと神は奮闘するが、その想いをへし折るのもまた神なのだ。そして今日もバベルの30階の大広間は阿鼻叫喚が響き渡る地獄絵図と化した。

 

 

「で、最後がロキのところか。3人も上がるとは凄いじゃないか」

 

「ふふん!せやろ?この子達は初めてのランクアップやねん。…分かっとるやろうな?」

 

 

血の涙を流し、愛しの我が子に謝罪の念を呟き続ける。そんな下級ファミリアの主神達を他所に、都市最強派閥の一角の主神であるロキは眷属(子ども)を自慢しながらニヤリと笑い悪ノリが過ぎる神々に牽制をかけた。

 

 

「えーと、まずはヒューマンのラウル・ノールドだね。何か意見は?」

 

「んー、悪くはないが…普通?」

 

「そうだなぁ。普通だな」

 

 

美女・美少女が多いロキ・ファミリアの中で、男であり決して悪くはないが普通の容姿であるラウル。扱う武器も両手剣と短槍を使い分けていて、特筆する部分が余りない。普通ならここで好き勝手思いついた二つ名を上げるが、ロキ相手ではそれが出来ず神々は思案する。

 

 

「これはどうだ?ーーー」

 

「「「それだ‼︎」」」

 

 

一柱の男神の言葉に他の神々は一斉に声をあげた。こんなにピッタリな二つ名はないと。ようやくラウルの二つ名が決まった。

 

 

「よし!次は猫人(キャットピープル)のアナキティ・オータムだ」

 

「黒猫ちゃんキターーー‼︎」

 

「ああ、撫でまわしたい!尻尾で叩かれたい‼︎」

 

「殺すぞ」

 

まだ、あどけなさが残る可愛らしさがあるアキの似顔絵をみた男神達が沸き立つ。しかし、自神のセクハラを棚に上げロキは言い放った。

 

 

「「スンマセンした‼︎」」

 

 

そんな不穏な空気の中話し合いが進んでいく。可愛い黒猫に自分で二つ名を付けたい!でも、怖い!と神々は下手を打たないよう慎重に発言をしていく。その中の一つからアキの二つ名が決定。

 

 

「これで最後だ。ヒューマンのオウギ・七郎治…本当に男の子なの?」

 

「おお!これは…」

 

「なっ!なんだと…。男の娘は実在していたのか⁉︎」

 

「いい…。実にいい…」

 

「なぁ、本当に男の娘なのかズボンの中を確かめる必要があるんじゃないか?」

 

「それもそうだな。…よし!行こう‼︎」

 

 

七郎治の女の子のような容姿に男神達が怪しい笑みを浮かべ、更には本当に男かどうか確かめるとのたまい始めた。だが主神であるロキがそんな事を許すはずがない。

 

 

「殺すぞ」

 

「「「スンマセンした‼︎」」」」

 

「たく、見た目は美少女!中身は仁俠!ロージたんはウチの嫁‼︎分かったかボケナスども‼︎」

 

 

別に七郎治はロキの嫁ではないのだが…。取り敢えず変なテンションになっていた男神達をバッサリ切り捨てた。そんなやり取りを終え、ようやく二つ名決めに戻る。

 

だが、あーじゃないこうじゃないと、中々纏まらず今日の神会(デナトゥス)で一番時間がかかっている。なんでも時間をかければいいというものではないのだが…。

 

 

「決まんねー!」

 

「極東出身で刀使いか…」

 

「あっ!俺思いついた。意味はともかくいいのがある…」

 

「おお!それだ‼︎」

 

「あなたは神か!」

 

「お前も神だろ」

 

「「「決まったーーー‼︎‼︎」」」

 

 

最後はトントン拍子で決まり、神々は達成感に包まれ爽やかな笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー黄昏の館ー

 

食事の時間はいつも賑わっているが、今は殆ど人がいないガラガラの食堂を行ったり来たりする落ち着きのないヒューマンの少年の姿があった。

 

 

「ねえ、ラウル君。もう少しじっとしたら?ロージを見習いなさいよ」

 

 

そんな同期に少し呆れたようにアキは苦笑いしながら隣で「茶がうめー」とほうじ茶を啜る七郎治を見やる。

 

 

「けどアキ、ついに二つ名が決まるんすよ‼︎ああ〜どんな二つ名が貰えるんだろう‼︎」

 

 

期待に満ちた表情で、自分に命名される二つ名はどんなものかと想いを馳せる。

 

 

「ケッ!二つ名なんざどうでもいいだろう?」

 

 

狼人(ウェアウルフ)のベートが不機嫌そうにどかっと椅子に座り込み鬱陶しそうに吐き捨てた。

 

 

「二つ名なんか気にしやがって雑魚の証拠だろうが」

 

「いや、どんな証拠になるったいそれは」

 

「え〜!俺も【凶狼(ヴァナルガンド)】みたいなカッコイイ二つ名が欲しいっす‼︎」

 

「ふん!」

 

ベートの二つ名【凶狼(ヴァナルガンド)】は、速く鋭く、なおかつ荒々しい攻撃は敵を八つ裂きにする。プライド高く更なる強さをもとめる孤高の狼へと神々が名付けたものだ。

 

二つ名が決まった時も興味が無い、と口では一瞬してすぐに去っていったが、その後ろ姿は自慢の尻尾がピンと立ち、左右に振られていた。

 

それを見て七郎治は「主神様?毛玉の二つ名【澄照乙女☆毛玉‼︎(ツンデリング)】の方がよくね?」とボソッと言い放ち、それを聞いたロキが「次のランクアップまでに検討しとくわ」と言っていた。この2人の会話をベートは知るよしも無い。

 

この馬鹿2人の話は置いておいて、実際ベートは二つ名を気に入り、今もラウルにカッコイイと言われて態度とは裏腹に機嫌が良さそうに尻尾を揺らしていた。

 

 

「良かったなー毛玉。お気に入りの二つ名をカッコイイち言って貰えて」

 

「ばっ馬鹿かテメェー‼︎別に気に入ってなんかねえよ‼︎」

 

 

そんなベートの素直じゃない言葉に七郎治はニヤニヤとしていた。

 

 

おおー「バッカじゃない!別に気に入ってなんかないんだからね‼︎」毛玉ver.やん!マジでツンデレっちゃんね

 

「ツンデレ、テンプレ、マジワロス」

 

「カマ野郎がロキみてーなこと言ってんじゃねーよ‼︎」

 

 

ギャーギャーと騒ぎ始めた食堂の一角を微笑ましそうにロキ・ファミリアの最高幹部3人は見ていた。

 

 

「相変わらず元気がいいのう」

 

「少し騒ぎすぎだ…」

 

「まあ、今日くらい良いじゃないか」

 

 

自身の二つ名が気になって仕方がない者。言い合いを始めた仲間をなだめようとする者。投げ掛けられる暴言をのらりくらりとかわす者。悪態をついているが自身の二つ名ではないのにわざわざ居合わせる者。

 

そんな眷属達の賑わいは唐突に終わりを告げた。

 

 

「決まったでー‼︎」

 

 

主神の帰還により、皆ピタっと動きを止め開け放たれたドアに目を向ける。

 

 

「ロ、ロキ!早く教えて欲しいっす‼︎」

 

「まあ、待いや!ラウルの二つ名は…」

 

 

ごくっ!と生唾を期待のような緊張をまとったラウルは知らずに両手を握っていた。

 

 

「【超凡夫(ハイ・ノービス)】や‼︎」

 

「おおーー‼︎……へっ?」

 

 

二つ名の響きに感嘆の声をあげるも、よくよく噛み砕いて愕然とするラウルは地面に膝をついた。そんなラウルに対してロキは次の話を進めようとしていたので、団長自らフォローに入る。

 

 

「次はアキや!二つ名は【黒猫戦士(ケットシー)】や‼︎」

 

 

アキの戦闘スタイルは猫人(キャット・ピープル)の身軽でしなやかな動きを活かしたものだ。武器は片手剣(ライトソード)小型盾(バックラー)を装備している。そんなアキに意外にもピッタリであった。

 

 

「最後が〜ロージたんやー‼︎なぁなぁ、なんやと思う?」

 

 

よっぽどロキは気に入っているのか、勿体つけてきた。しかし、七郎治は前世の知識で神会(デナトゥス)の命名式がどういうものか知っていたため、元々乗り気ではなかった。

 

 

「え?…【三分の一の純情な感情の残った三分の二はさかむけが気になる感情】とかかいな?」

 

「どんな二つ名やねん⁉︎そんなわけないやろ‼︎」

 

 

何となく思い出した猿の名前の一部を言ってみたが違ったようだ。というかそんな事はありえないだろう。

 

 

「まあ、ええわ。気を取り直してー‼︎ジャジャン‼︎【姫若子(ヒメワカコ)】や‼︎」

 

「……は?」

 

「どや⁉︎ええやろ‼︎みんなピッタリやろ⁉︎」

 

 

1人テンションのメーターが振り切れているロキはワッホイ!ワッホイ!と小躍りしていた。

 

 

「飛鳥文化アターーック‼︎」

 

「アウチ‼︎」

 

「仏教文化の重みを知れ‼︎」

 

 

浮かれまくるロキに体を丸めた七郎治がローリングアタックをかました。これには食堂にいた皆んなが一様に驚く。

 

 

「なんでやねん!ちゅうかロージたん、なんで『飛鳥文化アタック』使えるんや⁉︎」

 

「練習した。てか、【姫若子】の意味分かっとるんか⁉︎」

 

 

唐突に飛鳥文化アタックを仕掛けた理由はどうやら二つ名が気に入らなかったようだ。やれやれと肩をすくめたフィンが七郎治に問いかける。

 

 

「姫若子とはどう言う意味なんだい?」

 

「姫若子はお偉いさんの息子、若様が男なんに本ばっか読んでたりして女の子みたいやねって悪口なんよ」

 

 

確かに男なのに女の子みたいな七郎治にはピッタリではあるが…。言葉の雰囲気だけで決めたのだろう。はぁーと主神に呆れるフィンとリヴェリア。ガレスにいたっては自身の弟子にはもっと強そうな二つ名が付いて欲しかったのだ。

 

 

「ギャハハハハ‼︎やっぱカマ野郎だな‼︎」

 

 

七郎治の説明を聞いたベートは腹を抱えて笑い始めた。そんなベートも飛鳥文化アタックの餌食に…。

 

 

「僕は良いと思うよ?」

 

「【勇者(ブレイバー)】に言われてもなぁ。てか、慰め方が適当過ぎるとワシは思うばい」

 

 

取り敢えず飛鳥文化アタックを仕掛けたが、本心では暁の聖竜騎士(バーニングファインディングファイター)みたいな二つ名にならなくて良かったと思っていた。

 

二つ名はランクアップした時以外では変更はしない。ならば次のランクアップでまともなものに変えて貰わなければならない。

 

 

「次にランクアップしたときは分っちょるやろうな?また変なもんにしたら『フライング摂政ポセイドン』ば食らわすけんな‼︎」

 

 

その後、七郎治はアイズが叩き出した最短記録に追いつく勢いの一年と半月でランクアップを果たした。その間ロキは隙あらば飛鳥文化アタックをくらい続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ランクアップを果たしたところで、ハーフドワーフの鍛治師【単眼の巨匠(キュクロプス)】のせいで今度は名前負けしないように苦労する事になるとも知らずに…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






はい!閑話休題おわりです。ぶっちゃけアキの二つ名がメチャクチャ悩みました。考え過ぎて収拾がつかなくなっていたところソード・オラトリオの最新刊が出ましたのでそれをヒントに無難なところに落ち着けました。

次回からは本編に戻ります‼︎

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