ーダンジョン9階層ー
10階層へと繋がる通路の前で合流する2人の姿があった。ラウルとアキの話しを聞き、天界きっての
「いたか?」
「いや…。此方にはいなかった、それらしい子供の目撃情報もない」
「そうか、儂の方も同じじゃ」
ガレスとリヴェリアはLv.6のスピードをフルに生かして、二手に分かれ各階層をしらみ潰しに探していた。だが見つからず、すれ違う他所のファミリアの冒険者に聞いてみたが七郎治と思わしき子供は見ていないとのこと。
では次だと、10階層に向かおうとしたその時通路から声が聞こえて来た。
「いや〜参ったぜ。今日の稼ぎは良くないな」
「そうだなぁ…。たくっ!何だったんだアレは⁉︎」
「11階層のルームは崩れているわ、12階層はインファント・ドラゴンが暴れてるし散々だぜ」
その会話を聞いた途端、嫌な予感がした。まさかと思いその冒険者達に詰め寄る。
「すまんが、その話を詳しく聞かせてくれんかのぅ!」
「ぉ、おわぁ‼︎エ、【
オラリオ最強派閥の一角であるロキ・ファミリアの幹部に、突然話しかけられた下級冒険者である彼等は驚愕の表情を浮かべる。
「突然すまない。11階層と12階層の話を聞かせてくれ」
「あ、あぁ…。11階層の奥にあるルームに行ったんだが…。床が崩れていていたんだ。それでモンスターが出なさそうだったから、12階層に向かったんだ。そしたら12階層に降りて直ぐにあるルームでインファント・ドラゴンが暴れてやがったんだよ」
「インファント・ドラゴンが?冒険者の姿は?」
「いや、霧が濃くて見えなかったが…。何処かのパーティーがいる様には見えなかったぜ?」
2人はその話に違和感を覚えた。モンスターは基本的に例外を除けばモンスター同士で争わない。インファント・ドラゴンが暴れていたのであれば、必然的に相手は冒険者になる。パーティーであれば霧が濃くても何かしら動きを感じ取れるはず…。先ほど感じた嫌な予感が的中している事を確信した。
2人は冒険者達に短く礼を言い、全速力で12階層へと向かう。無事でいくれ、願うはそれだけだ。
最短ルートで10階層を走り抜け、11階層へと突入した。もし、逃げおうせていれば上を目指す。さらに怪我を負っているのであれば、回り道をせず最短ルートで上がってくるはずだ。
結果として、2人の考えは当たっていた。霧に覆われた通路の奥の方でぎこちなく動く小さな影、そして荒々しく動く3つの人とは違う大きな影。見つけた。
地面を抉る程の力を込め、駆け抜ける。リヴェリアがおぼつかない足取りで必死に応戦する子供を抱き抱え、ガレスが3体のシルバーバックを殴り飛ばし瞬殺する。
「しっかりせんか‼︎七郎治‼︎」
「待っていろ!直ぐに治療をする」
意識を手放している七郎治に呼びかけるガレス。詠唱を唱え回復魔法を施すリヴェリア。2人はボロボロになった姿に顔を歪めるも今は治療が先決だ。
「一体何があった?…やはり七郎治にはまだ1人で行かせるべきではなかった!私がもう少し気にかけていれば」
リヴェリアは自分自身を責めた。無茶ばかりするアイズにばかり気に掛け、もっと幼い七郎治に目を向けきれていなかった。
「此奴は儂の預かりだ、お主が気にやむことではない」
「しかし‼︎…」
「それにお主が自身を責めている姿を見たら、帰りを待つひよっこ共も自責の念にかられるぞ?」
「ッ⁉︎」
確かにそうだ。自分のこんな姿を見せてしまったら、ラウルとアキまでもが自分自身を責めてしまう。今は急ぎ黄昏の館につれて帰る事が最優先だ。
ー黄昏の館 ー
窓から差し込む日の眩しさに目を覚ます。白い天井は何度か見覚えがあった。自身の師との訓練の中で何度も運ばれた場所だ。
ここは…。医務室かいな?
…戻って来れたんやね
はぁーと安堵の息を吐き、体を起こそうとするも全身に痛みが走り、起き上がることが出来なかった。
「いっ⁉︎…たぁ」
あ、これダメなやつや…。よし、二度寝しよう。
再び眠りに着こうとしたその時、入り口の方から声がした。
「目が覚めたかのぅ?」
声の方に目を向けるとガレスが立っていた。心配する眼差しが居た堪れなくなる。
「親方様?あー、まぁ大丈夫ばい」
「そうか…。今、ロキ達を呼んでくる」
ふんと鼻を鳴らしそう言い残すとガレスは出ていった。直ぐにロキを始め、フィン、ガレス、リヴェリア。そしてラウルとアキが集まった。七郎治が目を覚ました事に全員喜び、ラウルにいたっては泣き出してしまった。
「さて、七郎治…。一体何があったんだい?」
「んーと、どう説明したらいいかいな?あんま覚えとらんけんな…。ドカーン!ちなってギャーてなったんよね」
七郎治はんーと唸り考え込む。正直、突然の出来事過ぎて覚えていない部分がある。最後の方なんか特に…。そんな抽象的過ぎる説明に呆れ果てる。
「よっしゃ、ウチがステイタスから読み取るわ」
「頼むよロキ」
ロキが七郎治をひっくり返し、背中に跨りステイタスの更新を始める。その背に刻まれた神の恩恵には眷属の物語が綴られているのだ。皆が見守る中、更新するロキの手がピタリと止まる。
「…ロージたん、
「「「ッ⁉︎」」」
上層とは言え、中層に近い場所でLv.1のソロの冒険者が合えば危険極まりない。周りが驚いている中、当の本人は…
「はあ?モンスターパンティ?何ばいいよるんよ主神様。…こぉの、ドスケベが!」
「えっ!ウチ言うてへんやんけ⁉︎辛辣ぅ‼︎この男の娘、メチャ辛辣ぅ‼︎」
一文字違うだけで意味が変わることはよくあることだ。余りの物言いに抗議をするも、この程度で終わる我らが主神ではない。
「ちゅうかモンスターパンティってなんやねん⁉︎モンスターがパンティ履いとるんか⁉︎それともモンスター柄のパンティなんか⁉︎なぁ、リヴェリアはそこんとこどう思う⁉︎今どんなパンティ履いとる…「知るか馬鹿者‼︎」へぶち‼︎」
セクハラ発言にリヴェリアの鉄拳がとぶ。殴られたロキは医務室の窓を突き破り、フェードアウトした。
此処が1階でなければ…。いや、よそう。こんなくだらないことで主神を失ったなど、口が滑っても言えない。何のためらいも無く神を殴り飛ばしたことにラウルは恐ろしさに震え、アキは今起きた事を瞬時に記憶から消した。
一呼吸置いて、ロキが窓から這い上がって来たので、更新を再開させる。今度は真面目に話始める。
11階層での
「それでな、ロージたん。…ランクアップ出来るで‼︎」
「ウッソ?まじでか⁉︎ドスケベ様‼︎」
「マジや‼︎ちゅうか誰がドスケベ様やねん⁉︎」
神々が認める偉業を成し遂げた七郎治は晴れてLv.2に器を昇華させた。同期のラウルとアキは手放しに喜んでくれた。次の
「それでやステイタスの更新とランクアップをするさかい、すまんがラウルとアキは席を外してくれへん?」
「あっはい!じゃあロージ君また後で‼︎」
ラウルとアキが退出したのを見届けるとロキはLv.1最後の更新を始め、ステイタスを書き写した。
七郎治
Skill Lv.1
力:C642 → S901
耐久:B786 → S972
器用:A869 → SS1004
敏捷:C681 → S931
魔力:I0 → I0
剣豪:I
ステイタス上昇値 900オーバー。全アビリティ オールS。この2つが壮絶な戦いを物語っていた。
「そんでこれが新しいステイタスや!発展アビリティは1つあったから更新したで‼︎」
七郎治
Skill Lv.2
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
剣豪:H
索敵:I
スキル
【】
ロキに手渡されたステイタスの写しを見て疑問に思う。朧げながらに覚えている、インファント・ドラゴンとの最後の勝負の瞬間に感じていたアレは何だったのか?と。
転生特典の『覇王色の覇気』やと思ったんやけど…。スキルには出とらんね。発展アビリティの『索敵』なんかいな?
まあ、いっかと考える事を直ぐにやめた。冒険者の中にはLv.1で生涯を終える者も少なくない。Lv.2になり上級冒険者に組み込まれた事を噛み締める。
こっからやな…。冒険者として進み始めたばかりやけん、気張っていかないけんな‼︎
新たな気持ちに切り替え、これからの自分のあり方を、どうしたいかを考え先を見据える。
「七郎治、ちょっと良いかい?」
「ん?なんね団長?」
「僕からは、ランクアップおめでとう。とだけ言っておこう」
「あ、どうも?」
そう言うとフィンは医務室から去っていった。次にガレスが七郎治の前に立ち話しかけてきた。
「これからもしっかり鍛えてやるわい!儂からはそれだけじゃ」
「はあ…」
先程のフィンと同じように医務室の外へ。ぐへへへ、とロキが七郎治に抱きついてきた。
「ロージたん、泣きたくなったら何時でもウチの胸に飛び込んできて良いんやで‼︎」
「や、結構です」
「拒否られた…。しかも敬語て…」と肩を落とし、背中を丸めながらロキも退室していった。何コレ?と思いながらドアを見つめていると、ふと声をかけられる。
「七郎治…」
「副団……長?」
ようやく自分のおかれている状況に気付く。全身の毛穴から嫌な汁が噴き出す。
自分は見捨てられたのだ。尊敬する団長に、最も信頼する師に、そして自分を拾ってくれた大恩ある主神に…。
目の前に迫る危機からもう逃れる事は出来ない。
「〜こぉの、……馬鹿者がーーー‼︎‼︎」
「ごめんなさい‼︎」
これでもかと言うぐらい怒気を含んだリヴェリアの怒声に、瞬時に跳び上がり土下座をするも、焼け石に水だ。
「おまえはっ!自分が何を!したか分かって!いるのか⁉︎」
バシッ!バシッ!バシッ!バシッ!
「いたっ!ちょっ!マジで!やめっ!」
リヴェリアの怒声と叩かれる音、七郎治の苦痛の声が小気味良いリズムで響き渡っていた。
「全く反省していないようだな…」
「いや、この歳でコレはないわ!ワシはコレをご褒美と呼ぶ界隈の人じゃないとぜ⁉︎」
口答えする七郎治に対して、リヴェリアは勢いよく腕を振り抜く。
「やかましいーー‼︎‼︎」
バシーン‼︎
「いったぁー‼︎」
普段は割と黙って説教を受ける七郎治だが、この時ばかりは反抗した。まあ、リヴェリアは知らないとは言え、本来であれば26歳。正直キツイ。
今の状況は、七郎治の体は仰向けにリヴェリアの膝に乗せられ、押さえつけられている。そして、振り抜かれるリヴェリアの手のひらで尻を叩かれる。
そう、「おしりぺんぺん」をされているのだ。
そして七郎治の断末魔が黄昏の館に響き渡った。
団員達は医務室から1番離れた所にひしめきあっていたが、2時間後にようやく解散した。
恐怖の絶叫が鳴り止み、心配になって医務室を覗いたラウルが目にしたのは…。
布団にくるまり、静かにすすり泣く七郎治の姿だった。
ラウルはそっと扉を閉め、何も言わなかった。
えーと、この【閑話】あと1話続きます。この回に入れ込んで終わらせようとしたんですが、ちょっと長くなりまして…。次で終わりです。
ソード・オラトリオの本編に戻るのはもう少し待って下さい!