ダンまちに転生したが、脇役でいいや   作:冬威

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今回は閑話として、過去の話です。暇つぶし程度に読んで頂ければと思います。








【閑話】初めてのランクアップ 1

 

 

 

ーダンジョン11階層ー

 

 

上層の中では中層に近く、モンスターの強さも上がっている。ダンジョンの作り自体は8、9階層と変わらないが、大きく異なる点がある。9階層までは薄暗い洞窟のようであったが、10階層〜12階層は辺りは霧で覆われ、先を見通すことが出来ない。

 

11階のメインルートから外れたルーム内で、白い霧の中でモンスターと対峙する1人の冒険者がいた。その冒険者の周りには、幾つもの紫紺に輝く魔石が転がっていた。どうやら、戦闘は終盤に差し掛かっているらしい。対峙するモンスターはハード・アーマードだ。

 

ハード・アーマード。頑丈な甲羅に覆われ、上層のモンスターの中では最も高い防御力を誇る。頑丈な甲羅に覆われていないの腹と胸部分は柔らかく脆いが、その弱点を補うように体を丸め転がりながら突進してくる。

 

 

「セヤァ‼︎」

ザシュッ!

 

「グギャ」

 

 

突進を交わし、その後を追いかける。ハード・アーマードは獲物を捕らえきれなかった為、回転を止め再び突進しようと立ち上がった。だが、振り向いた瞬間その柔らかい胴体に一閃が入り絶命した。

 

刃に着いた血をピッと振り払い、鞘へと納刀する。その剣士の風貌は黒髪を肩まで伸ばし、中性的でまだまだ幼い。しかし、何処か目に光が無く活力をあまり感じられない。

 

少年はロキ・ファミリア所属のLv.1 七郎治である。

 

 

七郎治が入団してから二年の月日が流れ、後から入ったベートはすでにLv.2になり【凶狼(ヴァナルガンド)】の二つ名を得ていた。同期のラウルとアキも先月ランクアップを果たし、次の3ヶ月に一度行われる神会(デナトゥス)で二つ名が決まる。

 

 

うーん、どげんすればランクアップするとかいな?

主神様(ロキ)が言うには経験値(エクセリア)は充分溜まってるから、偉業ば成し遂げろって言ってたけど…。

まぁ、そろそろ帰らなね。

 

 

七郎治のステータスはLv.1の上位に差し掛かり、ランクアップを視野に入れても良い頃合いだった。周りに落ちている魔石を回収しながら、考えにふけっているとルーム内の四方の壁に亀裂が入る。

 

 

ビキッ…ビキ、ビキッ

 

もう次が来たんか…。ちと早過ぎやない?

 

 

脇差しを抜き、ダンジョンから産み落とされたモンスターへ構える。

 

 

ハード・アーマードが3体か。まぁ、大丈夫やな…っ⁉︎

 

ビキッ、ビキッビキッビキッ‼︎

 

 

更に壁に亀裂が入ると、全身を白い体毛で覆われた巨大な猿に似た外見のモンスターが生み出された。

シルバーバック。両腕は筋肉が隆起し銀色の頭髪は長く尾のようになっている。

 

 

シルバーバックが…。くそ‼︎7体もおる‼︎

 

 

現在の敵は全部で10匹。ロキ・ファミリアの団員の殆どが、上層での今の状況を容易く突破出来るだろう。しかし、七郎治は今だLv.1の冒険者。視界の悪い状況下では決して油断は出来ない。

 

 

いかん…、囲まれとる。

多対一にならんよう、出来るだけ一対一にせな…。

 

 

刀を脇構えにし、今だ突進状態に入っていないハードアーマードに一気に距離を詰める。すれ違いざまに柔らかな部分を斬りつけ包囲網を一時的に抜ける。

 

 

まずは一匹!

 

 

そのまま四方を囲まれないように移動を開始。シルバーバックの飛び掛かりを横にステップをし交わす。着地した地面は大きく陥没しクレーターが出来ていた。着地の隙を逃さず死角から脇腹に一太刀。深追いはせず直ぐに回避行動へ。

 

回避の直後、ハードアーマードの突進攻撃が通り抜けた。

 

 

よし、このまま一撃離脱で確実にいくべ!

 

 

シルバーバックに刀傷を与えつつ殺せるものにはとどめを、優先的にハードアーマードを殲滅させる。残るは傷を負ったシルバーバックが5体。このままやりきれるかと思った直後、一斉に飛びかかってきたシルバーバックの攻撃と今までに出来た地面の陥没が重なり、運悪く地面が崩壊しモンスター共々下の階層に落下した。

 

七郎治は崩落の中、降ってきた岩が頭にぶつかり瞬間的に意識をとばしてしまった。

 

気がついた時には岩と岩の間に挟まれていた。奇跡的にその小さな体は隙間に収まり五体満足である。だが、全身を打ち付ける痛みはあり、あちこちから血も流れている。

 

 

「うっ…ぐぅ!」

シルバーバックの気配がせん…、岩の下敷きになったか。

…骨は肋骨が少しだけやね、手足は無事か。

まずは頭の血を止めんといかんな。

 

 

ウェストに付けているポーチに手を伸ばすも、中の回復薬(ポーション)は落下の衝撃で全て割れていた。仕方がないのでポーチに染み込んだの回復薬(ポーション)を手につけ頭に塗り込み、心ばかりの治療を施す。

 

 

そげん落ちてないし、霧がかかっとるから12階層やろうけど…。此処はどの辺りやろ?まずは自分の居場所を確認せんと。

 

 

片方の道は落下した岩で塞がれているので、残った一方に進む。すぐに大きめの通路に差し掛かったが、その通路は()()と繋がっていた。それは13階層、中層へ繋がる道だ。

 

 

「うっそ…、マジでか…」

ちゅうことは、上に上がるにはかなりの距離があるな…。回復アイテムは無し。最短でいかなダンジョンの出口までもたんぞ。

 

 

一度でも道を間違えれば、それだけ危険が増す。失敗は許されない。考えている暇も惜しいと頭の中の地図を思い出し、視界の悪いダンジョンを警戒心を最大に引き上げながら進みはじめる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落下した場所から最短ルートで進むも何度かモンスターをエンカウントし、焦らずに着実にダメージを与え切り抜けて来た。次の12階層では取り分け大きいルームを抜けると11階層に戻れる。

 

その思いが僅かばかり気を抜いてしまい、濃艶な霧の奥に潜む危険に気づけなかった。

 

ルームの中程までに来て初めて目視した。普段のダンジョン探索で見かける事がなく、今このタイミングで出くわすとも思っていなかった。その考えが甘かったのだ。七郎治は声も出せずに固まってしまう。

 

それは絶対数が少ない希少種(レア・モンスター)。体高150C(セルチ)、体長は4(メルド)を超す。その姿は生物の中でも頂点に君臨する強者のもの。まさしく"竜"であった。階層主が出現しない上層の事実上の階層主。インファント・ドラゴンだ。

 

インファント・ドラゴンはゆっくりと視界に捉えた小さな冒険者を見据える。ダンジョンより生み出されたモンスターに情はない、只々ダンジョンに足を踏み入れた獲物を狩るのみ。

 

 

「グオオオオオーー‼︎‼︎」

 

 

竜の咆哮が辺りに響き渡る。獲物を狩る強者の咆哮は、一方的に弱者を押さえつける。

 

一瞬の硬直の後、はじかれたようにその場を離脱する。七郎治のいた場所をインファント・ドラゴンが抉り取った。懸命に足を動かし距離をとる。

 

 

っ‼︎マズイ、どうする?どうすればいい⁉︎

 

 

神の恩恵を受けていようが、懸命に逃げたところで人間(ヒューマン)の子供が逃げれる距離などたかが知れている。インファント・ドラゴンはゆっくりと少しだけ距離を縮め、その長い体で薙ぎ払いを仕掛ける。

 

 

「ぐあ‼︎」

 

 

間一髪で回避をとるも、鞭のようにしなる尾が叩きつけられ、いとも簡単に吹き飛ばされる。

 

 

「ううっ…」

くそ!逃げきれん‼︎仮に逃げきれたとしても、コイツがいる限り上には行けん…。どうすれば…っ⁉︎

 

 

考える猶予など与えてはくれず、体当たりを仕掛けてきた。

 

それを必死に転がりながら、無様に逃げ回る。

 

 

「ハァ、ハァ…」

どうする?他の冒険者が来るまでルームの外で待つか?何時まで待てば良い⁉︎来るかも分からんのに‼︎

 

「グオオオ‼︎」

 

 

何度も執拗に追いかけ回すその姿は、逃げ回る獲物を弄ぶ絶対的な捕食者そのものだ。再びその長い尾で弾き飛ばされ、ダンジョンの壁に叩きつけられる。

 

 

「あ…、がはっ…」

逃げ回るんも限界やろ…。

…さっさ覚悟を決めろや。阿呆が

 

 

ゆっくりと立ち上がるも、体が悲鳴をあげる。だか、そんな事で根を上げている場合ではない。脇差を鞘から引き抜き、インファント・ドラゴンを睨みつける。

 

 

「グオオオオオーー‼︎‼︎」

 

 

その目つきが気に入らなかったのか、"竜"は咆哮を挙げ真っ直ぐに突進して来た。その突進を紙一重でかわし、がら空きの長い首に一太刀を入れる。

 

 

「…グルルル」

 

 

七郎治が付けた傷など、致命傷にもならないがそれでも"竜"は小さな冒険者を敵とみなし排除にかかる。

 

しかし、七郎治もまた目の前の"竜"を倒すべき敵とみなし、腹をくくっている。後はどちらかの命が尽きるまでぶつかり合うのみ。

 

 

ゆっくりと間合いを詰める七郎治。インファント・ドラゴンも迎撃態勢に入り、長い体を丸めるように力を溜める。

 

七郎治が一気に駆け出す。インファント・ドラゴンの間合いに入った瞬間、力を解放し今までの薙ぎ払いとは比べ物にならないぐらいの速さと威力が乗った一撃がきた。

 

それを瞬時に上に跳び上がり回避し、勢いを殺さないように回転しながら顔を斬りつけた。

 

 

「グギャアア⁉︎」

 

 

片目を奪われたインファント・ドラゴンは悲鳴を挙げる。その一撃は相手の視力を片方奪うと同時に、怒りを買う事になった。怒り狂った"竜"は出鱈目な威力を持つ攻撃を次々と繰り出し、完膚なきまでに小さな冒険者に襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー黄昏の館ー

 

ロキ・ファミリアの拠点である黄昏の館。落ち着きのない様子で2人の姿があった。

 

 

「う〜、大丈夫っすかね〜」

 

「ラウル君少し落ち着いたら?」

 

「けど、ロージ君がまだ戻って来てないっすよ⁉︎夕飯の時間も過ぎたのに…」

 

「…やっぱり遅いよね?朝早くからダンジョンに潜ってたから…。何かあったのかな?」

 

「「……」」

 

 

ダンジョンで何か起きた場合は自己責任。だが、ファミリアの仲間の事となるとそうは言ってられない。2人は七郎治がいつも帰ってくる時間になっても戻って来なかったので、探しに行こうかと何度も話していた。

 

同期の2人がランクアップを果たし、後から入ったベートにも先を越された事で、きっといつも以上に頑張っているんだと思い何度も踏み止まっている。それにアイズというソロでダンジョンに挑みまくる、型破りな子供がいるので大丈夫では?とおかしな方向に納得してしまった部分もある。

 

しかし、それにしても遅すぎる。探しに行くにしてもダンジョンは広大だ。上層にいると分かっていてもLv.2になったばかりの2人では探し出すのはそう簡単ではないだろう。

 

 

「…ガレスさんに相談してみるっす」

 

「…そうだね」

 

 

2人は悩んだ末、幹部に相談して探しに行ったほうが良いか決めることにしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーダンジョン12階層ー

 

吹き飛ばされては立ち上がり、斬りつける。斬られればまた、弾き飛ばす。もう何度目か分からない。繰り返されてきた攻防戦も、じきに終わる。

 

 

「…グルルル」

 

 

片目から血を流し、その長大な体には幾つもの切り傷が刻まれ血に塗れている。インファント・ドラゴンはゆっくりと最後の一撃の為に攻撃態勢に入る。狙うは目の前の小さな冒険者、ただ一人。

 

 

「……」

 

 

何度も吹き飛ばされ、地に叩きつけられた小さな体は腫れ上がり視界はかすれ、感覚を失いかけている。そして、相手と同じく血で染め上げれられている。七郎治はゆっくりと腰を落とし、鞘にしまった脇差を地面と強い直になる様に左手で構え、右手で柄を握る。

 

七郎治は何度もぶち当たるたびに感じていた。いや、()()()()()()()()()()と言うべきか…。ハッキリと其処に存在している事が分かる気配。目の前に対峙する"竜"の声が、意思が…。頭の中に流れ込んでくる。

 

 

これで…。最後…。

 

「グオオオオオオオー‼︎‼︎」

 

 

インファント・ドラゴンの最後の咆哮。今までに無いくらいの威圧と殺意を纏う。そして持てる全ての力を解放し、死力を尽くした一撃。

 

 

七郎治は動かない。すぐ其処まで"竜"の牙が、長大な体が、《死》が迫っているのに…。

 

 

分かるんよ…。お前の呼吸が…。

 

 

 

 

時が止まったかのような静寂が包む。

 

 

竜と冒険者は違いに背を向けて佇んでいた。

 

 

「一刀流居合 獅子歌歌…」

カチン…

 

 

その瞬間、インファント・ドラゴンの体に一閃が入り、血を吹き出しながら崩れ落ち、やがて灰になる。残されたのは紫紺の魔石とたった一つの牙。

 

人と竜の全てがぶつかり合う瞬間、全ての呼吸を知る事で物体を切り裂くことに必要な絶妙な角度、力、速度を把握し、神速の居合で斬ったのだ。

 

 

 

 

七郎治は強敵が残して行ったものを拾い上げ、機械的に足を動かし上へと向かう。遠くで聴こえるモンスターの呼吸。更に遠くで感じるとても暖かな呼吸。それらを道標に前へと進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





インフェント・ドラゴンって上層の階層主扱いなんですよねぇ…。
ベル君は一撃て倒してたけど…。
七郎治弱すぎん?と思われる方もいるかもしれませんが、アニメでも他の下級と思われる冒険者達が逃げていたので間違ってないと思います。…たぶん。

えーと、1話完結のつもりが、終わらなかったです。
次は後日談です。

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