ダンまちに転生したが、脇役でいいや   作:冬威

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更新遅くなりました。
前回はモンハンにハマりすぎて遅くなりましたが、今回はちがいます!ちゃんとお仕事してました。まぁ、研修及び勉強会に出されていたのです。


…生まれて初めて使ったよ。

電卓の√ボタン…。





その後 2

 

 

 

 

ー36階層ー

 

 

 

「起きたか?アイズ」

 

「リヴェリア」

 

 

階層主ウダイオスとの激闘の後、意識を手放したアイズはリヴェリアに膝枕をされながら眠っていた。

 

 

「…随分と嬉しそうだな?良い夢でもみれたか?」

 

「うん、懐かしい夢を見た」

 

「ほう、どんな夢だ?」

 

「七郎治とした、約束の夢…」

 

「…ふふふ、そうか」

 

 

あの日の夢を見たアイズはとても穏やかな表情を浮かべていたのだ。リヴェリアは一瞬考えた後、深く聞くのは野暮と言うもので、特に問いただすこともしない。

 

 

「さて、我々も地上に帰還するか」

 

「うん」

 

 

その後、最短ルートでアイズを気づかうリヴェリアがモンスターを討伐しつつ、ゆっくりと時間をかけ地上へと向かった。

 

途中リヴィラの街に立ち寄った際にウダイオスのドロップアイテム《黒大剣》を街の頭であるボールスに預け…、と言うよりも昔、鍛冶師を目指していたボールスに泣きながら「必ずものにするから‼︎」と懇願されたのだ。大の男が鼻水を垂らしながら、泣きついてくるものだから取り敢えず預けてきたのだ。

 

 

 

 

 

ー5階層ー

 

6階層から上がって直ぐの通路に人が倒れていた。その周りにはモンスターが群がり、意識の無い冒険者など格好の獲物と捉え自分が一番にありつこうとにじりよっている。

 

今にも襲いかかろうとした瞬間。金色の風が一瞬にしてモンスターを打ち払う。

 

 

「…外傷は無し。典型的な精神疲労(マインドダウン)だな」

 

 

基本的にはダンジョンでの怪我や死亡は自己責任であり、他ファミリアともなれば関わらずに放っておく事もある。しかし、リヴェリアは倒れた冒険者の現状を確認し、治療の必要が無い事を告げる。

 

 

「あっ…。この子」

 

 

その冒険者の顔を見てアイズは驚きの表情に変わる。下級冒険者が身に纏うような軽装備、なにより兎を彷彿させる白髪の少年。アイズがあの時以来、会いたいと思っていた人物、ベル・クラネルだったのだ。

 

 

「知り合いか?」

 

「ううん。…その、前に話した、ミノタウロスの」

 

「成る程。あの馬鹿者(ベート)がそしった少年か…」

 

 

リヴェリアはため息を吐く。前回の遠征の打ち上げで酔っ払ったベートが罵った、アイズと七郎治が助けた駆け出しの冒険者。打ち上げ後、何時もと様子の違うアイズに聞いた話では本人があの場に居たというのだ。

 

 

「リヴェリア、私はこの子に償いをしたい」

 

「…言いようは他にあるだろう」

 

 

やれやれと再びため息を吐くと、ふと考え込みアイズにある方法を伝えた。そんな事で良いのか?とアイズは疑問を投げ掛けたが笑って肯定をする。

 

 

(よもやまた逃げられはしまい)

 

 

その場にアイズだけを残し、リヴェリアは思うところがあり先に帰還する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

ー黄昏の館ー

 

 

門番に出迎えられたリヴェリアは目的の人物を探す。すれ違った団員に居場所を聞けた為、直ぐに見つかった。場所は訓練場とは別に団員達が鍛錬によく使う中庭だ。

 

 

目的の人物は自然体で立ち、目を瞑っていた。その目の前には丸太の上に小石が置かれていた。空気が張り詰め、静寂に包まれている。

 

ーバサ、バサ、バサッ

 

近くの木から鳥が飛び立ち、僅かに空気が壊れた刹那。七郎治の手には刀が握られ、小石は僅かに震えていた。

 

常人は勿論、中級以下の冒険者でも何が起きたのか理解しえないだろう。しかしリヴェリアはLv.6の視力を持って捉えていた。まず居合で小石の下よりを真横に振り抜き、返す刃で小石の上よりを真横に一閃。高速の二度切り。

 

 

(これ程とは…。抜刀斎(二つ名)は伊達では無いという事か)

 

 

リヴェリアは素直に感心した。見えたと言っても瞬時には判断出来ない程のスピード。

 

多くの人はロキ・ファミリアで最強の剣士は?と問われれば【剣姫】であるアイズが思い浮かべるだろう。だが…

 

とんだ伏兵がいたものだ…。とリヴェリアは片目を瞑り、短息する。

 

 

「…?副団長、お帰んなさーい」

 

 

リヴェリアの存在に気付き、気の抜けるような出迎えの言葉と共に、振り返りながら"チン"と刀を鞘に収めると、同時に小石は三等分に分かれた。

 

 

「七郎治。…少し話がある」

 

 

次の小石を拾い上げようとしていた七郎治の動きが"ピタッ"と止まり、冷や汗をダラダラと流しながら、ゆっくりと顔を上げた。

 

 

「えっ…。ちゃんとイイ子にしとったよ?」

 

「…いいから来い」

 

 

はぁーと大きな溜息を吐き、首根っこを掴み有無を言わさずに引きずって行く。「え?なして皆んなワシを運ぶとき、首根っこば掴むとね?ワシは猫か⁉︎」と聞こえたが無視。

 

館内の中央入り口がある2階には、広めの応接室があり室内の階段を上がった所には、ちょっとした娯楽でバーカウンターが備え付けられている。誰もいない事を確認しリヴェリアは果実水をとり、ダンジョン5階層での事を話した。

 

 

「…お前も、本人があの場にいた事を知っていたのだろう?」

 

「まぁ、ワシがついた時にちょうどすれ違ったけんな」

 

 

オシャレなバーカウンターなのに、梅昆布茶を啜る七郎治はあっけらかんと答えた。

 

 

「そうか。…お前は何を思った?」

 

 

あの酒場での一件の後、アイズは酷く落ち込んでいた。少年を悪く言った事を本人に聞かれて傷つけたと。そして、遅れてやって来た七郎治は怒っていたことを思い出したのだ。事の顛末はガレスに聞いていたので、自分の出る幕はないと思い、特別気には止めていなかった。

 

 

「あー…。ワシはあの後少年を追っかけたけんな〜」

 

 

七郎治はあの時の事を簡単に説明した。そしてリヴェリアは驚愕の表情を浮かべた。そんな話は聞いていなかった、いや恐らく誰も知らないだろう。駆け出しの冒険者がまともに装備を付けずにダンジョンに挑むなど自殺行為でしかない。それ程までに追い詰めてしまったのか、とあの時ベートを止めきらなかった自分を責める。

 

 

「んで、その後な?少し話をしたんよ。本人は毛玉や笑ったロキ・ファミリアの事を全然恨んどらんかったばい。優しい少年よ?」

 

 

な?凄くね?っと何処か自分の事のように嬉しそうに笑う。そんな七郎治を見てリヴェリアの目が細まる。自分も嫌な思いをしたのではないか?何故言わない?

 

 

(こいつは昔からそうだ…)

 

 

打ち上げを直ぐに抜け出し、何も言わずに仲間達の尻拭いをしていた。

 

幼い頃から知っている目の前の少年は、自身の秘密を打ち明けてくれてはいる…。

 

いるのだが、何処か人に頼ろうとせず自分で解決しようと奔走する癖がある。事が大きければ大きい程、1人で抱え込む…。

 

 

「…以前がどうであれ、お前はロキ・ファミリアの七郎治だ。それは変わらない。何か困った事や嫌な事があったら何時でも頼ってくれ」

 

 

突然のリヴェリアの言葉にビックリするも、言わんとしている事は分かる。

 

 

そげん気ぃ使わんでも、良いっちゃけど…。

 

 

妙な照れくささを感じながら、フッと笑い感謝の言葉を口にする。時には言葉に表す事が大事なのだ。

 

 

「…サンキュー、おかん」

 

「誰がおかんだ」

ゴン‼︎

 

 

言葉を少し間違えたようだ。まあ、何時もの戯れなのだが…痛いものは痛い。

 

 

「あ、あの‼︎リヴェリア様、アイズさんが戻って来ました…」

 

 

床に転げ回る七郎治をさも当然の様に無視し、レフィーヤはアイズ帰還の報告をした。だが、何処か歯切れが悪い。聞けばアイズの様子が明らかにおかしいとのこと。あの天真爛漫のティオナですら、声を掛けづらいらしい。

 

仕方ないとリヴェリアは床に転げ回っているものを引きずりながらアイズの元に向かった。

 

 

 

中央入り口は広間があり、その左右に半円の2階に繋がる螺旋階段がある。その階段の上には引きつった顔のティオナとティオネがいた。

 

 

「アイズがどうした?」

 

 

廊下の奥から掛けられた、リヴェリアに声にハッとしたが、2人は顔を見合わせて何も言わずに指差した。その先にはどんよりとした暗い空気を背負い項垂れているアイズの姿があった。

 

 

「…はぁー」

 

 

リヴェリアは直前まで一緒にいたので、訳を聞くことにした。階段を降りて問いかける。

 

 

「アイズ、どうかしたのか?」

 

「……ちゃった」

 

 

とてもか細い声で返答があったが、聞き取れない。

 

 

「なに?」

 

「また…、逃げられちゃった…」

 

 

リヴェリアは呆気にとられる。以前助けた時に叫びながら逃げられて、少年に怖がられていると言っていたのであの方法を伝えたのだ。しかし、また逃げられるとは…。

 

 

「……くっ!」

 

「ッ⁉︎」

 

「ぷっ…くくく…!」

 

 

アイズの顔が一気に真っ赤にふくれ上がる。リヴェリアにしろと言われたからしたのに、また逃げられて、それを笑うなんて!

 

 

「〜〜‼︎‼︎」

ドン!

 

「えっ⁉︎ちょっとアイズ⁉︎」

 

 

アイズの行動にティオナが声をあげる。

 

いきなり笑いだしたリヴェリアとそれを突き飛ばすアイズ。2人の普段見ない姿に皆んな驚いていた。しかし、その姿は姉妹のようであり、親子のような仲睦まじい姿に見えた。これで大丈夫?かな、とティオナ達は笑い合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、アイズが階段の上に人がいることに気づき、顔を上げると。

 

 

「どん☆まい‼︎」ビシッ!

 

 

メチャクチャ良い笑顔で親指をグッとする、七郎治がサムズアップされた。アイズの怒りの矛先がリヴェリアから七郎治に向けられたのは致し方ないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その3時間後、未だにプンプン!と頬を膨らませているアイズと、酸欠状態の七郎治が改めて黄昏の館の門を潜り、我が家に帰って来たのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





さて、これでようやくソード・オラトリアの2巻にあたるお話が一通り終わりました。結構長くなりましたね…。
一章同様、閑話を挟みながら第3章をまとめて行きます!
これからもお付き合いの程、宜しくお願いさします‼︎

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