ーダンジョン 中層ー
「レフィーヤ!無茶しないで、まだ中層に入ったばかりよ‼︎」
「ッはい!…」
アイズ達と別れたフィン達は中層に差し掛かっていた。ティオネに注意されたレフィーヤは、アイズの足手まといになりたくない。早く強くなりたい一心で杖を振るっていた。
「早く強くなりたいよね‼︎」
「はい‼︎」
そんなレフィーヤを見てティオナは飛びついて気持ちを声に出した。みな同じなのだ。強くなりたい。仲間と共に歩みたい。ただそれだけなのだ。
「しっかし、ベートを置いて来て正解だったよね〜。絶対うるさく騒いでたよね‼︎」
「そうね…。アイズが残るなら自分も‼︎って言って聞かないでしょうね」
少しでも力を抜こうとヒリィテ姉妹のここには居ない、置いてけぼりをくらった同僚弄りが始まった。
「七郎治もそう思うでしょう?…ってあれ?」
「…七郎治さんが、いない?」
「「「まさか⁉︎」」」
さっきまで一緒にいた七郎治が、忽然と姿を消した。タイミング的に何処に行ったかなど直ぐに分かる。
「…やれやれ、七郎治は僕らと一緒に地上に帰った。いいね?」
はあーと大きなため息をつき、ずるい!自分達もと引き返すと言い出したメンバーを無理やり帰還させる。
(帰ったら説教だよ…)
フィンはもう一度大きなため息をついた。
ー37階層
ウダイオスによる、剣撃。そのとてつもない威力の剣圧によりアイズは吹き飛ばされた。
「アイズッ⁉︎」
「う、げほ」
リヴェリアが駆け寄るも、周りの惨劇をみて驚愕の色を浮かべる。アイズ1人では危険だ。白銀に輝く長杖を構える。
「ッ⁉︎リヴェリア!手を出さないで‼︎」
「私にお前を見殺しにしろと言うのか⁉︎」
「お願いだから‼︎‼︎」
叫ぶ。今ここで諦めてしまったら自身の限界を超えられない。だから、どうしても一人でやらなければならない。
「…くっ」
アイズの強い意志を感じ取り、リヴェリアは苦渋に顔を歪め長杖を下す。
再びアイズはウダイオスと対峙する。
(あの攻撃は直ぐには放てない…。最短で、最速で残りの左腕を奪えば、…勝機はある‼︎)
「【
両手でデスペレートを握り、真っ直ぐに構える。
「エアリアル‼︎‼︎」
黒の大剣を再び振りかぶるウダイオス目掛けて一直線に飛び。全身を包む風が道に憚る邪魔なものを吹き飛ばしていく。
(私は、弱い…。どうして今までそれを許していられた⁉︎)
(いつの間にか牙を抜かれて、たった一つの願いを、思い出にするつもりなのか‼︎)
ウダイオスが剣を振り下ろすまで、一手速く届く。力を込め直し、更に威力を上げる。
(私は…。勝つーーー)
ビキッー
全身を突如として凄まじい痛みが襲う。
(反動ーー?)
ビキッ
(風の最大出力に体が、ついていかない…)
ガクン
空中で徐々に風が弱まり、威力も低下して行く。そんな標的を捉えたウダイオスは一気に大剣を振り下ろす。
アイズはウダイオスの一撃を受け、地面に叩きつけられ転がる。残った風により威力は軽減されたが、それでも一歩間違えれば死んでしまう程だ。
(早く…立ち上がら、ないと)
朦朧とする意識の中、手足に力を込めるが立ち上がることが出来ず、意識を手放した。
「アイズ⁉︎…邪魔だ」
リヴェリアはアイズのもとに向かおうとするも、スパルトイの軍勢が邪魔をする。
「くっ!」
それでも、手早く詠唱に入る。
(アイズ、お前を死なせはしない‼︎)
ーーーーーーーーーー
『…弱いな、アリア』
その声に、言葉にアイズは目を見開く。自分の傍に赤毛の女が立って冷たい目で見下ろしていた。
『なぜ?…あなたがここに?ウダイオスは?』
先ほどまで、ウダイオスと対峙していたはずでは?アイズは混乱しながら赤毛の女を見やる。
『…見ろ』
何処からともなく、目の前に食人花が現れた。その口に咥えられているものを見てアイズは目を見開く。そんな?どうして?
(ティオナ、ティオネ、レフィーヤ…)
それは地上で会おうと約束し、先に帰還した仲間の姿であった。
『いったい、どうなって…⁉︎何を…』
赤毛の女はゆっくりとアイズの横を通り抜け、ティオナ達へと近づく。
『決まっている。殺すんだ』
グチャ。ドスッ。グチャッ。
アイズの目の前で大事な仲間が殺された。
『みんな…。どう、して…』
とめどなく涙が溢れる。
『お前が、弱いからだ。お前の
『無様に這いつくばっているお前は、
『ーーッ⁉︎ーー』
アイズは声も出せずに赤毛の女の言葉を聞いている事しか出来なかった。
(私の、せい。私が弱いから…。負けた。勝てない。もう嫌だ。夢は叶わない…)
足元から徐々に押し寄せてくる。自分自身の声が、その背に押し寄せてくるのは自分の弱さ。自分に呑み込まれる。
『お前は、何度だって大切なものを失うのさ』
再び、食人花と仲間達が現れる。また、殺されるのを見なければならない。
『嫌だ…。絶対に嫌だ!』
アイズは全身に力を入れ立ち上がろうとする。しかし、まだまだ自分自身がまとわりついて離れない。
『もう、失いたくない!夢は決して諦めない‼︎』
揺るがない意志を新たに、立ち上がる。その瞬間、重くのしかかっていたものが消える。振り返って見ると、そこには相棒であり、自身の背中を守ってくれる七郎治の姿があった。
『そうだよ、アイズ。約束したばい‼︎』
笑いながらアイズの背中を押す。
(ありがとう)
アイズは押された背中の温もりを感じながら、赤毛の女を切り裂く。
『私は…。私自身を超える‼︎‼︎』
ーーーーーーーーーー
赤毛の女を切り裂いた後、目に飛び込んできたのはスパルトイとウダイオスのパイルを切り裂いた跡だった。
(ッ⁉︎これは…?)
自分は僅かな時間、気を失っていたのだ。先ほどの光景は全て夢だったと安堵の胸をなで下ろす。次に自分は暖かな白い光に包まれていることに気づく。この光は…。
「この位は許せ。バカ娘」
後ろを振り返ると、離れたところでリヴェリアが杖を掲げていた。
【
(ありがとう、リヴェリア…)
時に厳しく、時に優しく。いつも自分を見守ってくれるリヴェリアに心の中で感謝した。
(…七郎治もいた、気がするんだけど…。気のせいかな)
僅かに背中から感じる温もりは、アイズを後押ししてくれる。だが、そこには七郎治の姿はなかった。
アイズは再び、ウダイオスに向き直る。絶対に負けない。その瞳には強い意志が宿っていた。
「攻撃も弾かれ、溜め攻撃も簡単には出来ないウダイオスだが…。アイズの体も限界だ…。これでも、お前はまだ手を出すなというのか?七郎治…」
リヴェリアは長杖を握りしめ、自分の後ろに隠れている七郎治に問いかける。
「アイズなら大丈夫や。絶対に乗り越えられる」
「…」
リヴェリアは七郎治の返答を聞き、アイズの方を見る。この馬鹿はアイズがウダイオスの一撃をくらい、倒れた直後に現れた。意識を飛ばし起き上がらないアイズを助け起こし、いつものように背後から迫る敵の軍勢を斬り捨て、『縮地』を使いリヴェリアの後ろまで瞬時に移動して隠れたのだ。
アイズと七郎治がコンビを組んでから、幾ばくかの年月がたつ。主神であるロキやフィン、リヴェリア、ガレスには話さないことも七郎治には話すことを知っている。二人の間には確かな絆がある。リヴェリアはこの七郎の言葉を信じる事にした。
(もう一度、立ち向かおう…)
「【
風が吹き荒れる。主の前に立ち塞がるスパルトイを蹴散らしながら突き進む。地面から飛び出す漆黒のパイルをかわすことなく、風を纏った不壊の剣で斬り裂いてゆく。
(もっと強くなる。願いを叶えるために‼︎)
邪魔者はもういない。その場所に立つのは漆黒の孤王と金髪の少女のみ。勝者は一人だけ、生き残るのも一人だ。
「オオオオオオオオオオオオオオオオ‼︎‼︎」
「ーうああああああああああああっっ‼︎‼︎」
階層主と冒険者の雄叫びが響き渡る。お互いの全力を乗せた一撃が衝突する。
ドオオオオンーー‼︎
ルーム全体に響き渡る轟音。ウダイオスの黒大剣にヒビが入り、剣先から徐々に崩れ落ち半ばほど折れた。
「グウウウウウ⁉︎」
迷宮の孤王は今まで感じたことのない恐怖に襲われる。目の前の金髪の剣士は何度追い払おうと、力を放りかざしてもなお立ち向かってくる。
「ーオオオオオオオオオオ‼︎」
ウダイオスの咆哮が轟く。それを合図に最後の勝負が始まった。
何度も何度もぶつかり合う黒大剣と風を纏った銀の剣。両者は一歩も引かず、己の全てを賭して目の前の強敵にぶつける。その死闘は一時間にも及ぶ。
お互い残りの力はあと僅か。次の一手で全てが決まる。自身の持てる全てをこの一撃にかける。
「オオオオオオオオオオ‼︎」
ウダイオスが折れた黒大剣を振りかざす。渾身の一撃。
「リル・ラファーガ」
アイズが銀の剣に最大出力の
ドオオオオーーーーン‼︎‼︎‼︎
ルーム全体に二つの力がぶつかった衝撃が走る。地面が揺れ、大気が震撼しする。今、この瞬間、全てが決まった。
「オオ、オォー…」
漆黒の骸骨はひび割れ、何本もの骨を折られ、音を立てて崩れた。その紫紺に輝く巨大な魔石が砕ける。
勝者は【剣姫】
アイズ・ヴァレンシュタイン
アイズのウダイオス戦が終わりました。
もう最後の方は、文才がなさ過ぎて泣きたくなった。