ダンまちに転生したが、脇役でいいや   作:冬威

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妖刀の片鱗

 

 

 

「うちの姫君に手を出すことは」

 

「我らが許さん」

 

 

フィン、リヴェリアによる反撃が開始され、七郎治は戦闘中にも関わらず安堵と共に脱力感を感じてしまった。

 

 

「よそ見しないでよ」

 

「ッ⁉︎」

 

 

ギトーが鍔迫り合いを押し返し、切り掛かってくる。七郎治は目の前の敵に集中する。もう、心配する事は何もない。

 

ギトーの斬撃をいなし、袈裟斬り。それをかわされ突きを放たれる。バックステップで跳びのき距離をあけ、力を溜める。

 

 

「一刀流 三十六煩悩砲」

 

 

刀を振り下ろし、見えない斬撃が飛ぶ。

 

ギトーは大気中の空気の流れの変化を感じ取り難なくかわす。さらに七郎治と同じ要領で見えないが殺気を纏った斬撃を飛ばした。

 

 

「ッ⁉︎」

 

 

真横に跳びのく。さっきまで七郎治がいた場所に切り跡が残っていた。

 

 

「へぇ、斬撃を飛ばせるんだ?」

 

「そっちこそ、えらいもん飛ばしてくるんやな」

 

 

同時に飛びかかり互いの攻撃を刀で受け止め合う。

 

 

「…ねえ、君の刀って妖刀だろ?」

 

「っ⁉︎…だったらなんね?」

 

「ふふっ、分かるんだよね。気づいてなかった?僕の刀も妖刀だよ?」

 

「はっ!そげんことワシには関係ないわ」

…全然分からんかった。そうなん?

 

 

七郎治は一瞬刀から力を抜き相手の力を下へと受け流す。その流れのまま切り上げるも瞬時にかわされ、距離を取られる。

 

 

「ねぇ、どうせなら妖刀同士の戦いをしようよ」

 

「はぁ?」

 

「ふふっ」

 

 

ギトーは笑みを浮かべると、殺気を放つ。その殺気に一瞬ひるみそうになるも踏み止まる。七郎治は警戒心を一気に引き上げた。

 

 

…何がおきとるんや?

 

 

目の前のギトーが放った殺気かと思ったが、どうやらそうではないらしい。人が放つ殺気とは異なる、異質でこの世のものではないような、逃れる事のできない、そんな感覚に陥る。

 

 

「行くよ」

 

 

ギトーが視界から消え一瞬にして間合いを詰められる。その斬撃は速く荒々しく今までの遊びの攻撃とはわけが違う。

 

 

「…あ?」

 

 

気がついたら切られていた。無意識的に半歩分程の回避をしていたようだが、左肩から右脇腹まで切られた。七郎治の着流しと陣羽織は普通の服とは違い強固な戦闘服(バトルクロス)だ。それを易々と切り裂きその身に到達された。

 

 

「ぐ、ぁ」

結構深いぞこれ…。『武装色の覇気』を纏うことも出来んかった。

 

ドクンッ!

 

は、あ?

 

 

決して浅くはない傷を負ってしまった。その傷口から何かが入り込み体全身に行き渡る感覚に襲われる。右手から更に別の何かを感じ取る。

 

 

なん、じゃ?

 

ドクンッ!

 

 

自分のものではない鼓動を感じたが、直ぐにおさまり思考を切り替えギトーを睨みつける。

 

 

回復する余裕はくれんやろうね…。

 

 

ふーと息を吐き、攻撃態勢に入る。相手の呼吸を読み、合わせる。自分と相手の呼吸が合わさった瞬間、魔力を込め『縮地』を使い『雷電型(イカヅチノカタ)第二式 紫電閃』を目にも映らぬ速さで繰り出す。

 

 

「へぇ?速いね」

 

 

ギトーは反応に一瞬遅れ僅かにかわしきれず左肩に傷を負う。

 

 

ドクンッ!

 

またや…。何なんじゃこれは

 

 

さっきはギトーに切られた時に感じた鼓動、そして今回はギトーを斬った時に感じた鼓動。以前どこかで感じたものと似ている。この正体に辿り着きたい『見聞色の覇気』を使えば分かるのだろうが、決して使ってはいけないと本能がブレーキをかける。

 

 

ドクンッ‼︎

 

【ーーーー】

 

 

何かが語りかけてくる。だが、その声はハッキリとせずざわめいているだけだ。

 

 

【…ーー、ーー】

 

 

全身に悪寒が走る。

 

 

う、あ…。

 

 

その足は震え、全身から汗を噴き出し、切られた傷口から血が滴り落ちる。七郎治は崩れ落ちそうになるのを必死に堪えていた。

 

 

…三代鬼徹なんか?

 

 

右手に持つ三代鬼徹をじっと見つめる。それは三代鬼徹を初めて手にした時に僅かに感じたものだった。

 

 

「気付いたみたいだね。今、君の中で妖刀が支配しようとしているんじゃないかい?」

 

「ッ⁉︎…まじか」

 

「ふふふ。ほら、はやく妖刀に身を任せなよ」

 

「そげんことしたら死ぬやろうもん」

 

「それは違うよ。妖刀を扱おうとして、死を迎えた馬鹿は腐る程いるだろう。けどね、理解し身を委ねる。それだけで良いんだよ」

 

「…何を言いよるんだ?」

 

「だって、僕の望みと妖刀の望みは一緒なのだから」

 

 

ギトーは口角を吊り上げ、眦を歪ませ不気味に笑う。妖刀が血を求めているかのように、自身の刀に着いた七郎治の血を手ですくい取り、それを舐める。

 

全身の身の毛がよだつ光景だ。

 

 

こいつ、危ないやつや!気持ち悪か〜、ワシの血を舐めたばい⁉︎マジで関わったらいかん部類だべ‼︎

 

 

七郎治はさっきまでの三代鬼徹の騒めきなど、すっかり何処かに吹き飛ばし、目の前の危ないやつに鳥肌がたって仕方がない。鳥肌が立つ腕をさすりながら、平常心へと戻る。

 

 

「ふん!ワシは妖刀には呑み込まれん‼︎」

 

 

さっきまで呑み込まれそうになっていた癖に、変な思考で平常心を取り戻し偉そうに言い放った。

 

 

「…つまらないね」

 

 

ギトーはため息を吐くと、先程と同じように消え、切りかかってくる。

 

 

「おや?」

 

「それはさっき見た」

 

 

腐っても第一級冒険者である七郎治は同じ攻撃を易々とくらはない。しかし、同じ攻撃を仕掛けてくるとは完全に舐められていた。

 

 

つっても、相手から感じる妖刀の不気味なんもんは相変わらずやんね。気い抜いたら、一気に持ってかれるわな。

 

 

七郎治の反撃は空振りに終わり、ギトーの斬撃を浴びる。こちらの攻撃は一向に当たらず、相手の攻撃を受け止めることも出来ない。

 

先程とは違い全身に『武装色硬化』を纏っているにも関わらず最初に切られた傷程ではないが、七郎治の身に確実に刀傷が増えていく。

 

『武装色の覇気』は相手が自分より上だった場合、負けてダメージを受けてしまう。ギトーが纏っているのは覇気ではないが、妖刀から放たれる殺気、自身が放つ殺気が合わさって七郎治の覇気を超えていた。

 

 

また遊ばれよるな…。

血ぃ流し過ぎて、武装色も保てんくなってきた…。

 

 

朦朧とする意識の中、片膝を地面に着いてしまった。何とか立ち上がろうとするも、力が入らない全身の傷口から血が溢れる。

 

意識を手放す一歩手前で目の前に影がさす。ギトーが止めを刺しに来たかと一瞬思ったが、その影は禍々しい殺気など放たず、凛とした風を纏っているようで七郎治のよく知る人物だった。

 

 

「大丈夫?」

 

「…アイズ」

 

 

自身の相棒の姿に心から安心を感じた。

 

 

「そこまでだよ」

 

 

聞き覚えのある声が耳に響く。声の方を見やると何時もの頼もしい仲間達の姿があった。

 

 

「君のお仲間は撤退したけど、どうするんだい?」

 

 

フィンは七郎治達とギトーの間に立ち、いつの間にかレヴィスが撤退し、女型の食人花もたおされた事を伝える。

 

 

「…そうか。なら、僕も引かせて貰おう」

 

「話が早くて助かるよ」

 

 

ギトーは妖刀を鞘にしまう。まるでフィンとアイズの姿が見えていないかのように七郎治だけを見据え口を開く。

 

 

「次に会うときは楽しみにしているよ。今度はこんなお遊びじゃなくて、本気の斬り合いをしようよ。…()()からは簡単には逃れられないよ」

 

 

そう言い残すとギトーは姿を消した。

 

 

 

 

 






戦闘シーンを表現するのが難しいです。
今後の課題ですね。

さて、前回からいきなり出てきたオリジナルの敵。こいつ誰や?と思われた方も多いでしょうが、七郎治も思っています!

まぁ、妖刀使うんなら妖刀同士の戦いをしてみたかった訳で…。気がついたら生まれてましたギトー君。

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