『ヴィリーの宿』。リヴィラの街の宿屋で街の中心部を外れ、洞窟を掘って出来ている。その入り口には野次馬の多くの冒険者が集まっていた。
「人が多すぎて進めないよ〜!」
「何も見えんね…。よし!アイズ嬢、肩車たい」
「分かった」
「よいしょ」
人が密集していてガヤガヤと騒がしく先に進むことはおろか、どんな状況かも分からない。とりあえず何か見えないかと七郎治が提案を出す。
「ッ⁉︎ちょ、ちょっと七郎治さん‼︎何を言い出すんですか⁉︎アイズさんはスカートなんですよ⁉︎」
七郎治の発言にレフィーヤが驚く。アイズの
「七郎治、何か見える?」
「んー、アイズ嬢何も見えんな」
「…どうして
「え?アイズ嬢はスカートばい?」
「いや、そうなんですけど‼︎それより早く降りてください‼︎」
「やっかましーのぅ」
予想と違った肩車を見てレフィーヤは一瞬呆気にとられるも、すぐさまアイズと七郎治を離そうと奮起した。そんな団員達を見てフィンがやれやれと動き出す。
「しかたない。僕が様子を見てくるよ」
「ちょっと待って下さい⁉︎団長、私も行きます‼︎」
「ねぇ!通して!団長がいるのよ‼︎」
「…おい、どけっつってんだろうが‼︎張り倒すぞ⁉︎」
「ひ⁉︎【
よほど恐ろしかったのだろう、ざざっと冒険者達は左右に分かれフィンのいる先頭まで一直線に道が出来た。
「最初からこうすれば良かったんじゃない?」
「…いいわけないだろう」
フィンの元までティオネを先頭に進みティオナがあっけらかんと言うのを、リヴェリアが呆れながら叱咤する。洞窟の入り口には数人の見張りがいたが、ロキ・ファミリアに逆らいたくないのかアッサリと中に入れてくれた。
洞窟を掘って作っている割には、通路は広々としていて閉鎖的な圧迫感は無かった。奥に進んで行くと部屋の扉代わりである布の帳の前に数人の冒険者がいた。少々強引に中に入る。
「「…」」
「ぐろっ…」
「うわっ、ワシちょっと苦手やな…」
「何情けないこと言ってんのよ」
「レフィーヤ、見ないで」
「えっ?」
フィンとリヴェリアが先頭にティオナとティオネ、七郎治が続きアイズが後ろにいるレフィーヤに見せないよう押し戻す。
一行の目に飛び込んできたのは、床に打ち捨てられたように横たわる、下半身だけ衣服を纏い鍛え上げられた屈強な男性冒険者の死体だった。その死体は頭部を潰されたように失い真っ赤な血と肉片で床を染め上げていた。
「あぁん?おめぇら此処は立ち入り禁止だぞ?見張りは何してやがる」
「やぁ、ボールス。お邪魔してるよ」
死体の横で現場検証を行っていた冒険者の1人が、いきなり押しかけてきた一行に目を向け吐き捨てる。
Lv.3 ボールス・エイダー。眼帯をつけた凶悪な人相に屈強な巨漢でとても堅気には見えない。実質、冒険者達が好き勝手商売をし、力がものをいう
リヴィラの街で最も実力を誇るボールスは、緊急時には街全体を仕切る立場にある為、各ファミリアの団長や幹部等の関わりを持っている。
フィンはボールスにまぁまぁと制し、話を進める。
「僕達も此処を利用するつもりだったんだ。探索に集中する為にも、事件の解決に協力しようと思うんだが…。どうだろう、ボールス」
「けっ!ものは言い様だな。てめぇらみたいに強え冒険者共はそれだけで何でも出来ると威張り散らしやがる」
「この街で一番言っちゃいかんやろーもん、あんたは」
「うるせぇよ【抜刀斎】‼︎」
フィンの提案にボールスは嫌味を言うが、七郎治にアッサリ返され周りにいた他の冒険者達もうんうんと頷く。
「あ、はは。それで現状はどうなっているんだい?何かわかった事は?」
「ああ、…この野郎は昨日ローブを被った女といたらしい。野郎はフルプレートで兜までしっかり被っていたから顔は分からねーが、連れの女が消えてやがる。犯人はその女で間違いねえだろう。…おい、ヴィリー。昨日の事を話してやれ」
ボールスは現状分かっている事を簡単に説明し、宿屋の主人である中肉中背の獣人に話を振る。
「ん、昨日の夜に2人で来て宿を貸し切らせてくれって言われてよ、2人とも顔を隠していたんだ。オレはその2人以外通してねえ」
「2人で宿を?…ああ、そういう事か」
「そういう事だ。この宿にドア何てもんはないから、喚けば洞窟中にダダ漏れだ。覗こうと思えばできるしな」
フィンは言わんとしている事を直ぐに察し、アイズ以外のメンバーも察している中レフィーヤだけは顔を真っ赤にしてうろたえていた。
「レフィーヤ?…どうしたの?」
「何でもありません‼︎気にしないで下さい‼︎」
「?。…七郎治、どういう事?」
「え゛?ワシに聞くん?…ほら、あれよ。
「七郎治…。後で覚えておけ」
「はい…」「?」
結局アイズだけ分からずじまいで話が進んでいく。
「その女性の特徴はないのかい?」
「んー、フードを目深に被ってたから顔とか分かんねぇ。ああ、そうだ!ローブ越しでも分かるくらいいい体してたな‼︎ありゃ絶対いい女だ」
「おお、実はオレ様も街で見かけたな!色っぽい体つきだったな」
グヘヘと下品な笑いを発しながら、ボールス達は盛り上がる。その反対にティオナ達女性陣は冷めきった目を向け、その間に挟まれるフィンと七郎治の男組みは居心地が悪いにも程がある。
「そげんことより他にないとね?」
「あん?【抜刀斎】てめぇも年頃の男だろ?そんな事じゃねーはずだ‼︎」
いたたまれなかった七郎治が口を開けば、ボールス達は反論してきた。
「今は関係なかろうもん。ちゅうか自分の店じゃろ?何か気づかなかったん?」
「何言ってんだ。目の前であんないい女連れ込まれたら飲まずにやってらんねえよ。満室の札出して酒場に転がり込んだんだよ」
「そもそも抜刀斎。てめぇだって同じだろうが?いい女前にして素面でいられっか⁉︎」
「いやいや、中身が大事やろう?」
「おまえそれでも男かよ!エロい体を前にして下心出さねーでどうすんだ⁉︎」
「あんな…。ロキ・ファミリアは美女、美少女揃いぜ?いちいち下心ださんばい?それに見た目だけで良し悪しは決まらん」
「そんな事言ってよ、見た目が大事だろう。でなきゃ興奮出来ねーし」
そうだそうだとその場にいた街の冒険者達はボールス達に加勢し、男共のいい女談議は止まらず七郎治を巻き込んで続く。
「おまえは巨乳を見て何もおもわねぇのか⁉︎」
「胸の大きさでは決まらんげな」
「じゃあ、抜刀斎は女の体の何処をみて色気を感じんだよ?尻か?」
「えぇ…。尻っていいか、腰?」
「ほう?どの辺りだ?」
「いや、男にない曲線美?っちゅうんかいな…」
「おっ!お前も分かってるじゃねーか」
「はあ?くびれなんざ、太ってたらねぇじゃねーか。やっぱ乳だろ⁉︎」
ワイワイとあーじゃないこーじゃないと男共のディスカッションは止まらない。この場に女性がいる事をわすれドンドン下世話な話になっていく。転生者である七郎治はおっさん達との下ネタ話など慣れっこであった。
フィンが流石にマズイと思い止めに入ろうとしたが意外な人物が話をまとめた。
「華に醜も美もねぇ…。あるのはそれを愛でる男の力量のみ」
「「「おお」」」
七郎治の放った一言にボールス達は感心した様に声を出す。これでひと段落と清々しい気持ちの七郎治の直ぐ後ろには危機が迫っていた。
「話が済んだようで何よりだ…。七郎治、覚悟は出来てるな?」
何処までも冷たい声に、ギギギと首を後ろに傾けると冷たい目で周りに怒りのオーラを立ち込めたリヴェリアが立っていた。
「お前はまだ14歳だ…。1度教育をしなおせばまだ間に合う。と言うかお前にはまだはやい」
「いや、あの、ワ…ボクは人は見た目ではないと、ですね…」
「問答無用…」
七郎治に死刑宣告が言い渡され、ボールス達まで顔を真っ青にし震え上がった。宿の中は勿論、外まで七郎治の悲痛な叫びが響き渡った。
外にいた冒険者達は後日ボールス達に詳細を聞こうとしたが、顔を青くして冷や汗を流し誰も答えなかった言う。そしてボールスにより「死にたくなければ【抜刀斎】に下ネタ禁止」と禁止令が出された。
本当は今回で現場検証を終わらせる予定でしたが…。
しかたないよね☆テヘペロ