ダンまちに転生したが、脇役でいいや   作:冬威

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二章
妖刀と使い手


 

 

ー黄昏の館ー

 

朝の訓練を終えて、汗を洗い流し食堂に向かう。途中ガレスに朝っぱらから正座をさせられ、説教をされるティオナとベート、アイズの姿を見かけたが巻き込まれたくないので無視。

 

食堂に入るとメッチャでかい魚を嬉しそうにテーブルに並べたティオネと、もの凄く苦笑いしているフィンがいた。その様子を眺めながら朝食のデメテル・ファミリアの作った野菜で料理されたサラダと野菜スープ、オムレツを食べる。

 

 

今日は椿に預けていた三代鬼撤の整備が終わっとるから取りに行かな…。試し切りにダンジョンに少し潜るかな。アイテム買いに行かないけんな…。

あっフィンが逃げた。どーでもいいけど、ティオネのエプロン姿は裸エプロンみたいだなwあと野菜うまか

 

 

そんな日常を眺めるこの時間はなかなか飽きないものだ。ファミリアのほぼ全員が集まる為、何かが起きるときもあれば、自分が起こすこともある。朝食を食べ終え出かける支度をする。子供の頃から愛用している脇差に、新調したばかり着流しと軍羽織を装備して黄昏の館を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーバベル(ヘファイストス・ファミリア店舗)ー

 

 

「椿おる?三代鬼鉄取りに来たげな」

 

「あら?七郎治じゃない」

 

「おお!七郎治か、火事場にこもりきりでな。人肌恋しかったところだ!抱きしめさせてくれぬか⁉︎」

 

 

椿の工房に入ると主神のヘファイストスまでいた。

 

 

「椿の力で抱きつかれたら背骨折れるやん」

 

「はっは!そんな事はせん!それより三代鬼徹だな、整備はこの通り完了しておる‼︎」

 

椿は七郎治に三代鬼徹を差し出す。鞘から刀身を引き抜き目の前にかざす。刃こぼれと血で出来た錆は綺麗なくなるり、禍々しくも美しく輝いていた。改めてこの妖刀に心踊ろされる。

 

 

「…すげぇ」

 

「うむ。この刀は歪んだ鍛治師の魂が打ち込まれているが、その想いすらも真っ直ぐなものだ。妖刀にして名刀。間違いない」

 

「…七郎治。使いこなしてみなさい」

 

「はい、必ず…」

 

 

刀身を鞘に収めるが、どうしても今すぐ試したくて仕方がない。もともと、このままダンジョンに潜るつもりだったので、一式揃っている。椿に代金を払い急ぎ足でダンジョンへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

あぁ早く試したい…。

三代鬼徹にどれ程の力があるのか、上手く使いこなせるか…。あかんは、にやけが止まらん。

 

 

ダンジョンの入り口に差し掛かろうとしたとき。

 

 

「あれー⁉︎七郎治だー‼︎」

 

 

後ろからでっかい声で呼ばれたので振り返るとそこにはファミリアのメンバーがいた。元気良く腕をふるティオナと双子の妹に呆れているティオネ、いつもと表情が変わらないアイズと少しふくれっ面のレフィーヤ。団員たちの様子をみてニコニコしているフィンとやれやれと片目を閉じるリヴェリアまでいた。

 

 

うわー、何でこのタイミングかいな…。

 

「探したんだよ!ロージもダンジョンに行くの?私達と一緒に行こうよ‼︎」

 

「ワシは武器の試し切りに中層ぐらいに行くだけばい?そっちはメンバー的に探索でもするんやないん?」

 

「うん!ウルガのお金を稼がなきゃ‼︎アイズもだよね」

 

「うん。壊した武器の弁償を…」

 

 

其処まで長いする予定じゃない七郎治は少し嫌がる。それにティオナとアイズの借金の額を予測しただけでもかなりの大金が必要なのは目に見えている。

 

 

「そっか〜。うん、頑張って」

 

「えー‼︎ロージも手伝ってよ‼︎」

 

「えーめんどくさいわ」

 

「まぁ、そう言うなよ七郎治。僕達はファミリアだろ?」

 

「じゃってなー」

 

「あぁ゛⁉︎七郎治、テメェ団長の誘いを断る気⁉︎」

 

「スンマセン、同行させていただきます」

 

 

同行を渋っていたがティオネに胸ぐらをつかまれ脅されたので瞬時に手の平を返す。

 

 

 

 

 

 

 

ーダンジョン 中層ー

 

 

前衛を借金コンビのティオナとアイズが勤めた為、あっという間に上層を超え、中層の17階層まで来ていた。

 

 

「うおりあああああ‼︎」

 

 

巨大な双刀を腕力のみで回転させながらミノタウロスが次々となぎ倒されていく。

 

 

「よし‼︎二代目ウルガは絶好調‼︎」

 

「危ないわね〜、当たったら痛いじゃない」

 

「い、痛いで済むんですか?」

 

 

狂戦士な姉妹の会話を聞いてレフィーヤが苦笑いをもらす。

 

 

「ん、いたぁ」

ドコン‼︎

 

「えぇー⁉︎七郎治さんに当たったー‼︎」

 

「あはは、ごめんごめんw刃は当たってないでしょ?」

 

 

試し切りをしようと刀に集中していた七郎治に振り回されたウルガの峰部分が当たり軽く吹き飛ばされダンジョンの壁にめり込む。

 

 

「んーとにもー。試し切りさせてくれる約束だべ?あと、レフィーヤ嬢は前来てるべ」

 

「えっ?きゃあ!」

 

「喉をつけレフィーヤ!」

 

 

リヴェリアの指示に瞬時に対応したレフィーヤは事無きをえるが、接近戦の不得手さをリヴェリアに指摘される。

 

 

「ははは、皆んな後ろに下がって。七郎治との約束もあるんだし」

 

 

後ろで様子を見ていたフィンが苦笑いしながら指示を出す。七郎治以外の全員が下がりようやく試し切りできる体制になった。

 

 

「レフィーヤ、七郎治の動きを見ておけ。お前も疑問に思う事があるのだろう?」

 

「えっと、それは…その」

(七郎治さんが自分より格上のアイズさん達について行ける理由….)

 

 

リヴェリアはレフィーヤが七郎治に抱く疑問を知っていた。魔導士と剣士、役割は違うがそれでも近接戦が全く出来なくて良いわけではない。

 

アイズはリヴェリア達の会話を横で聞きながら、2匹のミノタウロスと対峙する七郎治を見据える。

 

 

(冒険者はレベルやステータス頼りになりがちになる…。けど、七郎治は違う)

 

 

七郎治は自身の身体を制御し、より速く、鋭く、力強く。ステータスに頼らない戦い方を技術力を重視している。その為ステータスの更新を疎かにしがちで、何ヶ月も更新しないこともある。

 

 

ミノタウロスか…。全然物足りんけど、試し切りには丁度ええな。恨むなよ、お前らの死を必ず力にする。

 

 

正直に言うとLv.2に部類されるミノタウロスは素手でも勝てる相手ではあるのだが、武器の使い勝手の調整をするのにいきなり強い相手と対峙すれ訳にはいかない。それに使うのは妖刀だ。徐々に慣らしていくしかないだろう。

 

 

「ふっ!ッ⁉︎ぃあ⁉︎」

 

 

1匹のミノタウロスに斬りかかる。ただの袈裟切りだったのだが狙いを定めたミノタウロスだけでなく、後ろにいたミノタウロスまで真っ二つに斬り裂き、更には地面にも切り跡を残した。

 

 

「えー‼︎なに今の⁉︎」

 

「あんた、どうしたのよ?…」

 

「…七郎治?」

 

 

「いかん…。切れすぎる」

しかも斬撃もとんだか?確かゾロも言っとったな。名刀は主人の切りたいものだけを斬り。妖刀は主人の意識に関係なく切り裂く。

 

 

「凄い、切れ味ですね…」

 

「なるほど、それが噂の妖刀か?」

 

「えっ、副団長なんでそれを?」

 

「街で噂になっているよ。なんでも、妖刀を手にする為に命を賭けた冒険者がいたとかなんとか…。次が来ているから後で詳しく聞かせてくれるかい?」

 

「…」

 

 

フィンとリヴェリアに笑顔だが全く笑っていない目を向けられる。仕方ないと諦め、今は目の前のミノタウロスと三代鬼徹に集中する。

 

 

「ふーっ」

 

 

数体のミノタウロスをほぼ同時に斬る伏せる。先程と同じ袈裟切り、逆袈裟、突きと基本の動作をするのだが、刀を振るう腕、踏み込む足。体の筋肉と関節。そして三代鬼徹に意識を集中させる。

 

 

まだ…。荒い。集中しろ。武器を身体の一部に。

 

 

「シッ」

 

「ヴ、モ?」

 

 

横から斧を振りかざすミノタウロスの胴を居合で横一線に斬る。ワンテンポ遅れて胴体が滑り落ちる。

 

 

今のはいい感じや。次は飛ばす斬撃やな。

 

 

左手で脇差を引き抜き、二刀を構え力をためる。

 

 

「二刀流…。七十二煩悩砲!」

スババ‼︎

 

いかん、脇差の斬撃が三代鬼徹の斬撃に飲み込まれてしもうた。

 

 

固まっていたミノタウロス3匹をまとめて切り倒し、壁に当たり半円をを描くような穴が開く。

 

 

三代鬼徹…。お前、覚えとれよ。必ず使いこなすけんな‼︎

 

 

「「「ヴモオオオオオオオ」」」

 

 

怪物の宴(モンスター・パーティー)が始まり、ダンジョンが大量のモンスターを生み出した。七郎治はニヤリと口角を吊り上げ、不敵な笑みを浮かべる。

 

 

「改めてみると凄いよねロージは‼︎」

 

「まぁアイズの相棒なだけはあるわよね」

 

「凄いです…。格下のモンスターとはいえあんな動きするなんて」

 

「七郎治の身体操作はなかなかのものだ。ロキ・ファミリアでもあそこまで出来る者はそういないだろう」

 

「そうだね。回避もギリギリのところを危なげなく交わすし、相手の力も上手く利用している。もっと深い階層のモンスター相手でも、同じ動きができるんだ」

 

「うん、七郎治に一撃入れるのは、難しい…」

 

「えっ⁉︎アイズさんでもですか⁉︎」

 

「うん」

 

 

レフィーヤは驚愕した。普段は第一級冒険者達の陰に隠れ、派手な攻撃をせず、サポートに回っている為、単体での戦闘はあまり見た事がなかった。

 

 

(遠い…。アイズさんの背中を守れる様になるには、魔法だけじゃダメだ。もっと、もっと強くならなくちゃ‼︎)

 

 

レフィーヤは大量のモンスター相手に一撃も貰わず、只々斬り捨てる七郎治を見つめ決意を新たにする。

 

 

 

 

 

 

 

 






少し時間が開きましたが、二章スタートです。

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