黄昏時。逃げ出したモンスターを全て討伐したアイズ達はギルド職員に治療を受けていたレフィーヤと七郎治に合流して北のメインストリートを歩き家路についていた。
「あーあ、せっかくのお祭りだったのにー!」
「あはは…。疲れちゃいましたね」
「まぁ、被害が少なくてよかったんじゃない?」
ティオナがふくれっ面をし、レフィーヤが苦笑いを浮かべる。ティオネが自分の双子の妹に呆れながら言う。
今回のモンスターが逃げ出した事件はガネーシャ・ファミリアとギルドの迅速な対応で、死傷者を出さずにすんだが、モンスターを逃した犯人は捕まえられなかった。
アイズは前を歩く3人の会話を聞きながら、ふとボロボロになった自分の服を見て黙り込む。
「どげんした?アイズ嬢?」
「えっと…。」
七郎治の声に前にいるティオナ達が振り向く。
「アイズ?」
「…ティオナ。ごめん、服、ボロボロにしちゃった…」
普段ダンジョンに潜る
「また、一緒に買いに行こうよ!」
「…うん」
「あれ?アイズ嬢いつもと雰囲気違うな?…それ似合ってるばい!」キリッ
「えっ⁉︎今さらですか⁉︎」
「あんたそれ最初に言う言葉よ…」
アイズとティオナがいい感じで話をまとめたのに、七郎治が場違いなことを言いレフィーヤとティオネが咎めるような視線を送る。
「そういえば七郎治さんは何で来たんですか?二日酔いですよね?」
「あ〜。色々あるったい…。ボソ(意味なかったけど)」
まさか前世の記憶で、何が起きるか知っていたなんて口が裂けても言えない。自分が転生者である事は主神と最高幹部以外知らないのだから。それに途中時間を取られてしまったことを思い出す。
ーー
七郎治は黄昏の館を飛び出し、屋根伝いに闘技場に向かう。辺りを見渡しながら、アイズ達の居場所を探っていた。
「あら?奇遇ね。こんな所で何をしているの?」
美しい声色に問いかけられ振り向くと、美の女神が立っていた。
「ちっとな…。先を急がせてもらうけんな」
立ち去ろうとするも、行く手を阻まれる。フレイヤ・ファミリア所属の都市最強の冒険者。Lv.7【
仕方がないと七郎治はフレイヤに向き直る。
「なんね?」
「ふふ、少し確認したい事があるの。この間、貴方が見守っていた白髪の子について…。まさかこれから探しに行くのかしら?」
遠征の打ち上げの後、ベルの後を追いかけたことを見られていたのだ。七郎治は何が言いたいのか察した。
「ワシが探しとるのはファミリアの者やけん。神フレイヤの邪魔はせんよ」
「そう…それならいいわ。…ねぇ、私の所にこない?」
「ッ⁉︎お誘い頂き、ありがたいがこちとら一度仕えると決めた主神から鞍替えするきはありませんので」
七郎治はフレイヤに見つめられ、その美貌と抜群のスタイルに息をするのも忘れるぐらい魅入ってしまいそうになるが、
「あら?残念ね。ずっと気になっていたのよ?貴方の魂はとても変わっているわ…。暖かみのある赤と透き通るような青に縁取られているのに、中心は真黒な穴が開いているわ。こんな魂は初めてみたわ」
ドクンと胸が鼓動をうつ。七郎時は前世の事で思い当たる節があった。だが今それどころではない。
「…今はそんなちんけなもんより、大切なことがお互いあろーもん」
「…そうね。気が向いたら何時でもきて頂戴」
お互いが目的の場所へと動き出す。
ーー
結局間に合わずレフィーヤに怪我を負わせてしまった。
「?」
「でも、刀が折れて吐いたロージにはビックリしたなあ!」
「言うなや!ワシは宝もんが折れてガラスのハートがバランバランなんぞ‼︎」
「吐いた事じゃなくてそっちなのね…」
「…七郎治。どうして、あの黒くなる?の使わなかった、の?」
「ファッ⁉︎」
確かに『武装色の覇気』を使えば折れずに済んだかもしれない。二日酔いのせいか全然思いつきもしなかったようで、ズーンと周りが黒くなりものすごい勢いで落ち込む七郎治。
アイズはまずい事を言ったと思いオロオロし、ティオネとレフィーヤは苦笑いを浮かべ、ティオナは爆笑しながら七郎治を元気づける。そんな一時がアイズの心は暖かくさせる。仲間達との会話が楽しいのだ。
しかし、それだけではなかった。食人花を倒した後にアイズとロキが残りの1匹であるシルバーバックを探していると、「ダイダロス通り」と呼ばれ複雑に入り組んだ通りで他の冒険者が倒していた。
その冒険者はウサギのような少年で女の子をかばって戦ったとのこと。アイズは一瞬すれ違った少年を思い出す。自分達のファミリアに馬鹿にされ笑い者にされた少年が駆け出しの冒険者では倒せないモンスターを倒したのだ。「街角の英雄 ベル」思わず、顔がほころんでしまう。次は
いつ会えるかな?伝えたい事がある。
「そういえばロキは?」
「主神様なら吞ん方さ…」
「またお酒?こんな日によく呑めるわね」
ここには居ない自分達の主神に呆れる眷属達だった。
ーーーー
都市の南にある繁華街。その一角にある高そうな高級酒場に二柱の女神が広い個室で向き合っていた。
「1日に二回も呼び出して、いったい何の用?」
「しらっじらしーこと言うやっちゃな〜」
美の女神フレイヤは余裕のある美しい笑みを。悪戯神と呼ばれるロキはニヤニヤと笑みを浮かべる。
「今日、ガネーシャんとこからモンスターを逃したんは自分やな?」
「あら、証拠でもあるのかしら?」
「ああん?ガネーシャんとこの子どもらも、ギルド職員も何かに
「…」
「魅了、魅了、魅了!全部魅了や‼︎決まりやろ?」
美の女神はその美しさを持って種族、老若男女問わずに魅了する。それに抗うことは出来ないだろう。
「それにお前、七郎治に接触したんやて?」
「ふふ。バラされちゃったわね」
「当たり前や!ロージたんはウチの嫁‼︎貴重な男の娘や絶対にやらんで‼︎」
「あらあら、愛されてるわね。それに私はふられちゃったわ」
「…んで、今朝話しとった子どものことでこんな騒ぎ起こしたんやろ?ギルドにちくったろうかな〜?」
当たり前のように脅しをかけるロキに対して、フレイヤは笑みを崩さずに一言つぶやく。
「あなたに貸した鷹の羽衣。そろそろ返してくれない?」
「はぁ⁉︎あれは天界にいたときにいただいゲフンゲフン、借りパク、じゃなくて借りたやつやぞ⁉︎」
「うふふ、もし今日のこと黙っていてくれたら貴方にあげてもいいわよ」
「〜ッ!くっそー‼︎ずるいで⁉︎ウチの子供達は気色悪い花みたいなモンスター相手にさせられて怪我もしたんやぞ⁉︎七郎治は吐くし‼︎」
「…なんの話?私が放ったのは9匹だけよ?そんなモンスターはいなかったわ。それにあの子が吐いたのは貴方のせいでしょ?」
「じゃあ、あのモンスターは何やったんや?」
「さぁ?」
顔を見合わせるロキとフレイヤの間に沈黙が流れる。結局極彩色のモンスターについては謎に包まれたまま、幕を閉じる。
ふー、やっとソードオラトリアの1巻が終わりました。
次からは閑話を挟みながら、2巻にあたる話を考えていきたいと思います。
ふと最初の話を見返して、序章なのに長くね?文字数も少ないしと思い改変しようか考えてる今日この頃