ダンまちに転生したが、脇役でいいや   作:冬威

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怪物祭

 

 

ー黄昏の館 男子棟【七郎治の間】ー

 

 

「う…。おぇ、気持ち悪〜」

 

 

神の宴の後、七郎治はラウルと供にロキの「巨乳がなんやねん!貧乳にもええとこがあるんやで‼︎の宴」に付き合わされ、黄昏の館に帰った夜から昨日の昼過ぎまで呑まされていた。

 

 

日本以上の呑ミュニケーションもといアルハラばい…。あ、ダメや

「おろろろろろ〜」

 

 

マーライオンも顔負けの勢いで吐き出す。生前より酒にあまり強くなかった七郎治には地獄だった。何度もラウルを生贄に逃亡を図ったが、全て失敗に終わった。

 

 

「うぅ〜、頭がいてぇ」

 

コン、コン

「入るぞ」

 

 

布団に丸まり、吐き気と頭痛に耐えていたらドアがノックされ誰かが入ってきた。

1ミリも動きたくないので無視。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

布団を覗き込んできたのはみんなの母親(ママ)リヴェリアだった。

 

 

「だいじょばん…」

 

「ラウルより酷いな。アキ、水をついでやれ。リーネは薬を」

 

 

アキとリーネが介抱してくれるが、いやいやをする七郎治を見てリヴェリアはため息をつく。

 

 

「まったく、ロキにも困ったものだ」

 

「ッ⁉︎副団長‼︎乳神様を呼び捨てるなんて‼︎祟りで巨乳にされてしまうばい⁉︎」

 

「…」

 

 

七郎治は乳神様(ロキ)にすっかり洗脳され、無乳を崇める信者になっていた。

 

吐こうとする七郎治を押さえつけ、無理矢理薬を流し込む。あとは首に手刀を叩き込み強制的に寝かしつけ薬が効くのを待つ。

 

 

「気分はどうだ?」

 

「さっきよりはマシ」

 

「そうか。ロキには怪物祭(モンスター・フィリア)から帰ってきたら久しぶりにキツイ灸を吸えよう」

 

リヴェリアは恐ろしい言葉を残し、部屋を後にした。ロキざまぁw

 

 

あぁ、そういえば今日やったね…。

確か…。なんやっけ?乳神様(ロキ)とアイズがフレイヤに会って、それから…。

そうだ、ベル君と遊ぶためにあの女神様がモンスターを逃がすんよね。アイズ達も巻き込まれとったな。

 

 

前世の記憶を思い出しながら、今日の事を考える。

 

 

怪我とかしよったけど、まぁ、なんちゃ解決するしいっか…。

 

 

再び眠りにつこうとするが、一度思い出した記憶が頭から離れない。

 

 

怪我…。うん、

「うぇ、行くだけ行くか」

 

 

七郎治は一昨日の格好のまま燕尾服と蝶ネクタイを外した白のシャツに黒のズボンを履いていた。着替えるのも面倒でそのまま無銘刀を片手にフラフラと闘技場へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘技場周辺は逃げ惑う人々で混乱していた。怪物祭(モンスター・フィリア)の最中に捕らえたモンスターが逃げ出したのだ。

 

 

「【目覚めよ(テンペスト)】」

 

 

美しい金髪をなびかせ、風を纏う。

 

 

(一匹目…。)

 

「ガッ⁉︎」

 

(二匹、三匹…。次。)

 

「グギャ‼︎」「ギャッ‼︎」

 

 

止まらない。次々に逃げだしたモンスターを一撃で仕留めていく。街の人々は一瞬何が起きたのか分からず唖然とするも、絹の様な金髪に美しい少女。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインだと直ぐに理解する。

 

たまたま近くにいたロキとアイズはギルド職員に頼まれモンスターの討伐をしていたのだ。

 

 

「うわー、出番なさそう」

 

「まあ、アイズがいればあの程度のモンスター直ぐ終わるでしょ」

 

「お、お二人とも、武器もないのによく落ち着いていられますね…。きゃ!…地震?」

 

 

怪物祭(モンスター・フィリア)に来ていた、ティオナとティオネ、レフィーヤは合流したロキの指示に従い、アイズが討ち漏らしたモンスターがいないか確認及び討伐の為、屋根伝いに進んでいた。

 

 

「きゃあああああー!」

 

 

地震が起こり轟音を轟かせ石畳の地面から蛇のような巨大な黄緑色のモンスターが現れた。近くにいたのであろう女性の叫び声が響く。その独特な雰囲気を纏うモンスターにティオナ達は悪寒を走らせた。

 

 

「何あれ⁉︎新種のモンスター⁉︎」

 

「レフィーヤは隙をみて詠唱を。ティオナ、叩くわよ」

 

「は、はい」

 

「分かった」

 

 

 

ティオナ達に気づいたモンスターは攻撃態勢に入る。長い体をくねらせ鞭のように鋭く体当たりをしてきた。

 

ティオナとティオネは素早くかわし、すかさず強烈な拳を叩き込む。第一級冒険者の打撃ともなれば、並みのモンスターは簡単に倒すことができるのだが…。

 

 

「イッ〜!」

 

「かったぁー⁉︎」

 

 

このモンスターには通じなかった。僅かに陥没しただけで凄まじい硬度を持ち合わせているようだ。

 

モンスターは再び、攻撃をしかける。ティオナ達は攻撃を掻い潜りながら反撃を試みるもあまり効果がない。

 

 

「【狙撃せよ、妖精の射手。穿て必中の矢】」

 

 

ティオナ達がモンスターを引きつけているうちに、レフィーヤは魔法陣を展開し素早く詠唱を唱える。練り上げた魔力を解放しようとした直後、モンスターがレフィーヤを見やる。

 

 

ドス!

「…あ」

 

 

地面から触手のようなものが飛び出し、詠唱中で無防備になっていたレフィーヤは腹部の叩き込まれ、華奢な体が宙を舞い地面に倒れこむ。内臓をやられたのだろうか、吐血する。

 

 

「レフィーヤ⁉︎」

 

 

「オ゛オ゛オ゛オォォォ‼︎」

 

 

モンスターが咆哮を響かせ無数の触手が地面から突き出て、その正体を表す。蛇のような外見から、中央に無数の牙がある毒々しい極彩色の咲いた花のような型に変わる。食人花とでも言えば良いだろう。

横たわるレフィーヤの元へと迫る。

 

 

「レフィーヤ‼︎早く起きなさい‼︎」

 

「あーもう!邪魔ぁ‼︎」

 

 

レフィーヤを助け出そうとするティオナ達は触手に行く手を阻まれ、応戦を強いられる。

 

 

(嫌だ。体が動かない、立ち上がれない)

 

 

自身を捕食しようと迫り来る食人花の黒い影。しかし、レフィーヤの目に映ったのはそれだけではなかった。

 

 

(いやだ…。嫌だ、また同じだ。また私は…あの人に)

 

 

悔しくて涙が流れる。

 

 

「グギャアァァァ」

 

 

首を一つ切り落とされた食人花の絶叫が響き渡るらせ、切断された体は崩れ落ちた。

輝く金色の髪。鋭く光る細剣の輝き。憧れてやまない、ずっと見てきたその背中。また、守られてしまった。

 

 

「アイズ!」

 

 

逃げ出したモンスターのうち6匹を殲滅し、遠方から新種のモンスターを目視したアイズは風で一気に仲間のもとまで飛んできたのだ。

 

レフィーヤを助け起こす。しかし、地響の後直ぐに5匹の新たな食人花が地面より現れた。

 

アイズは迎撃に入り、飛びかかる。が…

食人花に切りつけた瞬間、ビキッと音を立てレイピアが砕け散る。自分が愛用している剣は整備に出していた為、代剣を借りていたのだ。

 

 

(これは、怒られる)

 

 

アイズはいの1番にそんな事を考え、(エアリアル)でガードしようとするも、相手は目の前だ。

 

 

(間に合わない!)

 

 

横一線が入る。

 

ストン

 

食人花の頭が落ち、その向こうからよく知る人物が現れた。食人花を斬り捨て、アイズ胴に手を回し宙を蹴って離脱する。

 

 

「えっ?あれって七郎治⁉︎」

 

「なんか雰囲気ヤバくない?」

 

 

クマができた目は充血し、顔は青ざめるを通り越して血の気のない真っ白になり、幽鬼のようだ。

 

七郎治は無言でアイズを降ろしチラッとレフィーヤを見やる。

 

 

バカたれが…。間に合ってねーとか、何をしよるんじゃ‼︎

 

 

七郎治は自分自身に沸き出す怒りを抑えつけ静かに構える。いつもと違う雰囲気は冷たい空気を創り出しその場を支配する。敵を見据え襲い掛かってきた一匹目を居合で真っ二つに。

 

 

シッ‼︎(ピシッ)

 

 

二匹目。刀を抜き、持ち手を反対側の肩にもっていく。右腕と体の間に左腕を入れ力を溜める。

 

 

焔燃型(カグツチノカタ) 第二式 紅蓮旋」

 

 

溜めた力を開放し、刀を持つ手を押し出し引く。同じ要領だが、縦方向に斬撃を放つ「第一式 火柱」と違い横方向に切り裂く。

 

 

ズバン‼︎(パキン)

 

 

無銘刀が折れた。

 

 

「……。いやああああ‼︎折れたああああああ‼︎」

 

 

腹の底からの大絶叫。先程の空気を一瞬で壊し涙を流しながらのたうち回る七郎治。

 

 

「ええ〜」

 

 

呆れたようにティオナが呟く。「ええ⁉︎ウッソ!マジでか‼︎えっ?なんでなん?」と相変わらず一人で騒ぎまくっていたが、ピタッと叫ぶのをやめ、トコトコと道の端にいき…。

 

 

「おろろろろろー!げぼろしゃー‼︎」

 

 

吐いた。

 

 

「うわぁ、ドン引きだよ」

 

「ないわね」

 

「最低です」

 

「…う、ん」

 

 

せっかくピンチに駆け付けてカッコイイ姿を見せたのに台無しである。ジト目で仲間達に見られるも本人はそれどころではない。吐くに吐きまくり腹の中を空っぼにする勢いで、ようやく落ち着く。

 

 

「この、よくもワシの刀を…。マジで許さんぜよ」

 

 

迫り来る食人花。

 

 

「死ね‼︎コラァ‼︎‼︎」

 

 

食人花の顎を真下から蹴り上げる。ビンと茎が伸びて落ちてくる。蹴り上げる。また落ちてくる。蹴り上げる。の繰り返しだ。

 

あっけにとられていたティオナ、ティオネも参戦する。

 

 

「レフィーヤは、ここで待ってて」

 

「ゲホッ…、ゴホッ。ア、アイズさん…」

 

 

アイズも3人に続く。(エアリアル)で威力をました拳を叩き込むも決定打にならない。 アイズに標的を切り替え、一斉に襲い掛かる。

 

 

「アイズ嬢⁉︎」

 

「ええー⁉︎なんで今度はアイズばっかり‼︎」

 

「…⁉︎魔法に反応してる?」

 

 

七郎治達の攻撃を無視するたのように食人花は執拗にアイズを追いかけ回す。周りの屋台や石畳の地面を破壊していく攻撃を全て紙一重でかわす。

 

 

レフィーヤは目の前で繰り広げられる戦闘を見つめている事しか出来なかった。自分じゃこの中には入れない。唇を噛みしめる。

 

ふと、戦闘中の七郎治と目が合う。ただじっと真っ直ぐに見つめられる。震える足で立ち上がる。

 

 

「【ウィーシェの名の下に願う】」

(…。私は何もできない。)

 

 

「【森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来れ】」

(分かっている。私は弱い…。足を引っ張るだけだ。)

 

 

涙を流しながら、痛みに堪え詠唱を続ける。

 

レフィーヤにとって、七郎治は憧れのアイズの側にいる妬ましい相手で、時には邪魔者扱いをしてしまう。どうしてこんな適当な人が?と何度も思った。だけど自分でも分かっていた。ティオナ達とは違い、1ランク下のレベルでありながら、遅れを取らずついていく。どんな時でもアイズの背中を守る姿を見てきた。羨ましくて、嫉妬してきた。

 

 

「【どうか、力を貸して欲しい】」

(…それでも、負けたくない!)

 

 

「【エルフ・リング】」

(あの人達の側に…。アイズさんの近くにいたい‼︎)

 

 

魔法が紡がれ、レフィーヤの山吹色の魔法陣が翡翠色に変わる。

 

 

「レフィーヤ⁉︎」

 

「くはは…!よか‼︎」

 

 

ティオナがいち早く気づき、七郎治は不敵な笑みを浮かべる。

集まる膨大な魔力に食人花は標的を切り替える。

 

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」

 

「この詠唱は⁉︎あんた達、詠唱が終わるまでレフィーヤの援護よ‼︎」

 

 

ティオネの指示に一斉に行動をうつす。決して傷つけさせない。この唄を紡ぐ仲間を最後まで守りきろうと一人一人が全力で挑む。

 

3匹の食人花が、魔力に導かれ急追する。

 

 

「はいはいっと‼︎」

 

「大人しくしてろ」

 

「ッッ!」

 

「武装色硬化…」

 

 

信じられない速さで、一瞬で追い抜き食人花の、前に立ち塞がり弾き飛ばす。

 

 

「【吹雪け、三度の厳冬ー我が名はアールヴ】」

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】」

 

 

食人花の巨体を一瞬で凍らせ、時を止めたかのようにピクリともしなくなる。

 

 

「いっくよー‼︎」

 

「この糞花‼︎」

 

首肉(コリエ)シュート‼︎」

 

一糸乱れぬヒリュテ姉妹の回し蹴りと、七郎治の覇気を纏って適当に技名を叫んだ蹴りが食人花を粉砕する。

 

アイズがいつの間にか現れたロキがどこからかパクってきた剣で残りを切り裂き、食人花との戦闘がようやく終わった。

 

 

 

「レフィーヤ…。ありがとう、リヴェリアみたいだったよ」

 

「ア、アイズさん」

 

 

その言葉が嬉しくて、気恥ずかしくて顔を真っ赤にさせる。ティオナに抱きつかれて頭を撫で回される。

 

 

「ほいほい、まだ仕事は残ってるでー!って、あそこで吐いてんのは七郎治か?」

 

「「えっ?」」

 

「げぼろしゃー」

 

 

ロキに言われた方を見ると、七郎治が道の端で盛大に吐いていた。

 

 

「うわぁ、ホントないわ〜」

 

 

最後の最後で決められない。

怪我をしたレフィーヤと、二日酔いの七郎治はギルド職員に医務室に運ばれ、アイズ達は残りのモンスターの討伐へと向かっていった。

 

 

 

 

 






乳神様の呼び方

シシガミ様のニュアンスでチチガミ様
龍神様のニュアンスでニュウジン様と呼ぶのもよし

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