三代鬼撤を手に入れた七郎治はバベルにある椿の工房に訪れていた。
「椿ー‼︎ワシやで‼︎」
「おっ?七郎治ではないか!新しい武器の事は決まったか?」
「おうよー!この刀を手入れしてくれい‼︎」
メコッ‼︎
ハイテンションの七郎治は椿に三代鬼撤を差し出すも、椿は七郎治の顔面に渾身の一撃を叩き込む。同じLv.5でも年季が違う為、簡単に吹き飛ばされた。
「お主は専属鍛治師の意味を分かっておるのか⁉︎他所の鍛治師の打った物を持ってきおってー‼︎」
椿にマウントを取られボッコボコに殴られた挙句、正座をさせられ、叱られるも取り敢えず経緯を話す。
「何?その刀が三代鬼撤とな?」
椿は七郎治から刀を受け取り、真剣な表情で観察する。
(本当にこの刀が三代鬼撤であれば…)
「…。今から主神様の所へ行くぞ」
「え?」
暫く考え込んでいた椿が徐に顔を上げ、返事も待たずに七郎治を小脇に抱えて、ヘファイストスの執務室へと走り出した。
「主神様‼︎この刀を見てくれ‼︎」
「椿、どうしたの急に?」
ヘファイストスは突然来訪してきた、自身の眷属に渡された刀を手に取り驚きの表情を浮かべた。
「この刀…。何処で手に入れたの?」
「実は、かくかくしかじかで…」
七郎治が小脇に抱えられたまま、ヘファイストスに説明する。
「主神様。それは本物か?」
「ええ、間違いないわ」
「?」
「良いか七郎治、この刀はかつてヘファイストス・ファミリアに所属していた鍛治師が打った物じゃ」
「あの子が打つ武器は、どれも名剣の類なのだけれど…。余り良くない噂が流れたの。いえ…噂と言うよりは現実味があったわね。」
ヘファイストスは三代鬼撤をそっとなで、かつての我が子を思い出していた。
「武器には鍛治師の魂が込められているの。『冒険者にとって武器は使い手の体の一部、最期の瞬間まで共にあるべきだ』それがあの子の口癖だったわ。使い手に合う最高のものを真剣に考えながら剣を打っていたの。でも、いつしかその想いは枯れ葉て“使い手が武器の一部“そう考えるようになったわ…」
我が子が道を踏み外した時に止めきれなかった事を悔やんでいる。
「自分の武器に相応しくない人間を見捨て、分不相応で使いこなせず死んでいった人間に気にも止めない。歪んでいく心…。それに合わせて美しい刀身も鋭く濁っていったわ。特に鬼撤一派は、ね」
「手前が入団するよりも前の話での、もうその鍛治師はおらんが…。まさか巡り巡ってこのオラリオに戻ってくるとはな」
道を踏み外した子を想う主神。椿も同じ鍛治師として思うところがあるのだろう。部屋に沈黙が流れる。
「ねぇ、七郎治。貴方は本当にこの刀を使うの?」
ヘファイストスはじっと七郎治を見つめ、問いかける。
その表情、雰囲気から彼女が神である事を証明する神威を強く感じとり顔を引き締める。
『見聞色の覇気』を持ってしても神々の思考は読み取る事は出来ない。だが、「お前も妖刀に殺されてしまうのではないか?」そう言われている気がした。
小脇に抱えられていたので、椿に降ろしてもらい真っ直ぐにヘファイストスに向き合う。
「はい。三代鬼撤は自分を主人と選びました。まだ、見極め、試練の段階かもしれませんが…。それに、剣士として触れる物すべてを傷付けるものを、自分は剣とは呼びません。必ず使いこなし、使い手が切りたいものだけを斬る。そんな剣にしてみせます。」
普段は言葉使いなど気にもせず、ふざけているようにしか見えない七郎治だが、表情と共に言葉使いも改る。真摯な問いかけには自分も真摯に向き合うのだ。
ヘファイストスは七郎治の意志を認め、妖刀と呼ばれた剣をこの剣士に託してみたくなった。三代鬼撤を掴み取る。
「そう、分かったわ。…椿はどうする?私がこの刀の手入れをしてもいいけど?」
「何?手前がこ奴の専属鍛治師だ。妖刀だろうが鍛え直してみせる!七郎治、4日後に取りに来い。必ずものにしてみせる‼︎分かったらサッサと帰れ‼︎」
キッチリと決めるところは決めた七郎治だが、ポイっとヘファイストスの執務室から追い出されてしまい大人しくホームへと帰って行った。
なっ、泣いてなんかないんだからね‼︎
ー夜、黄昏の館ー
「ロージ君!ランクアップ!おめでとー‼︎」
「「カンパーイ」」
約束通り、ラウルとアキがランクアップのお祝いをしてくれた、2人以外にも聞きつけた何人かが集まってくれた。
「はい、コレ。お祝いのプレゼント」
「自分も用意したっす‼︎」
「おーありがとう!二人とも」
アキから冒険者用のアクセサリーのブレスレット。
ラウルからはポーション類が入ったメディカルパックだ。
「急だったから大したものじゃないけど」
「私からはコレ!」
「お、おぉう、ありがとう」
ティオネからは武器の手入れ道具。
ティオナからはよく分からんぬいぐるみ。…要らんものくれたんじゃなかろうや?
「これ、よかったら飲んでください」
「…はい、七郎治」
「ありがとう…」
レフィーヤからは紅茶の葉っぱだ、美味しそうだ。
アイズからはジャガ丸君あずきクリーム味。冷めとるがな…。
若干二名ほどおかしいがプレゼントを受け取る。
「おっ?やっとるな‼︎」
ロキ、フィン、リヴェリアにガレスまで来た。
「そや!七郎治‼︎お前、昨日の打ち上げに遅れた罰ゲームが済んでへんで‼︎ほら、はよぬげや‼︎」
「…」
「〜〜♪〜♪〜ちょっとだけよ?あんたも好きねぇ」
周りが白い目でロキを見るが、言われた本人はノリノリだった。風呂上がりの七郎治は浴衣一枚。艶めかしい音楽を口ずさみながら、長椅子に女座りをし、流し目を送り肩をはだけさせていく。ロキは鼻息荒く「ウヒョー!ええで、ええでー‼︎」と声を上げる。
「やめんか‼︎」
ガス‼︎ゴス‼︎
二人揃ってリヴェリアに鉄拳制裁をくらい床にのたうちまわる。
「まったく…。七郎治、コレは私からだ。これからも精進しろよ」
「あ、ありがとうございます」
殴られた頭を抑えながら、難しそうな分厚い本を受け取る。
「僕からはコレをあげるよ」
「団長、ありがとうございます」
フィンからは七郎治の好きなみたらし団子と細かな細工が施された扇の形をした帯の根付だ。カッコイイ。
「儂からこれじゃ」
「親方様ー‼︎」
ガレスに渡されたのは銀色の腕に付ける防具の手甲だ。刀をダメにしたが、新しくもらった防具が嬉しくて飛びつく。この人にもらう事に意味があるのだ。
「ぬあ⁉︎ガレス、ずるいで‼︎ウチからはコレやー!さぁロージたんカモン‼︎」
「いや、いらんがな」
「なんでやー‼︎」
ロキが取り出したのは猫耳つきのメイド服だった。
他の団員達からもお祝いの言葉やプレゼントを貰い、皆んなで酒を飲み楽しく過ごす。
酔い覚ましに食堂を出た七郎治はベートと鉢合わせした。
「…ちっ!」
ベートは舌打ちするも、昨日自分がやらかした事は分かっていた。
んーとにもー。許されたいんじゃ無くて、せめて欲しいだべ?このツンデレ毛玉…。はっ!ドMなのか⁉︎
「毛玉、酒は呑んでものまれるなって、極東の言葉があるべ?」
「ちっ!うるせー」
「お前の実力主義に対して全部が全部間違っているとは思わん。けど、共感は出来ん。仲間内でならそれでもええと思うが、あの少年は他所のファミリアじゃ…。それにワシらは酒の肴に、笑い者にする為に助けたんじゃないとぜ?」
「分かってる…」
「それにお前だって、必死こいてミノタウロスを追いかけとったろ?あの少年が雑魚だから、死んどけば良かったなんて思ってないんじゃろ?」
「ッ⁉︎たりめーだ‼︎それに俺はテメェのケツはテメェで拭いただけだ」
「じゃあ、なんで自分等のミスを棚に上げた?最後まで責任持たな。あの時、副団長の言った通りじゃとワシは思うきの」
「ちっ!ゴミはゴミだろ…」
この毛玉はまだ言うか…。
「人の事をゴミっていう奴がゴミじゃろうもん。人に言った悪い言葉はいつか自分に返ってくるけんな。もう、ガキじゃないっちゃけん、自分の言葉には責任持たな」
「…」
沈黙が二人の間に流れる。黙り込むベートにたいして、はぁとため息を吐きだす。
「ん」
「あぁ?なんもねーよ」
七郎治はお前も何かよこせと言わんばかりに手をさしだすが、ベートはあっさり払いのける。
「はぁ、まあええわ。お前には昨日散々笑かしてもらったけんな〜」
「あぁ゛?」
「俺とアイツ、番にするならどっちがいい⁉︎…ベートさんとだけはごめんです(笑)」
器用にベートだけでなく、アイズの声マネをしながら七郎治は昨日の場面を再現する。ベートは一気に頭に血が上り牙を剥き出した口角をヒクつかせる。似ていたからこそムカつく。
「てめぇ…。このカマ野‼︎」
「ワハハハ!お酒の力に頼っちゃダメだべwヘタレ毛玉ww」
「ぶっ殺す‼︎」
七郎治は笑いながら食堂に逃げ込み、ベートも後を追いかける。
突然の七郎治とベートの追いかけっこに何事かと皆んなが見やるが、まぁいつもの事かと笑い飛ばす。そんないつもの光景がファミリアに戻ってきた。
「俺とアイツ、番にするならどっちがいい⁉︎」
「やめろ‼︎」
「雌のお前はどっちの雄に尻尾を振ってメチャ「黙りやがれーー‼︎」
「ベートさんとだけはごめんです」
「もう…やめてくれ」
真っ白な毛玉が出来た。
ベート(笑)