暫く時間が空きました。
決算時期キッツ〜
50階層に野営陣を敷いていく。テントを張るもの、夕食の準備をする者、伝令の為に駆ける者。ヒューマンと亜人が忙しなく動き回る。
野営陣の奥にある一際大きな天幕。道化師のエンブレムが刻まれた旗が立っている。
「来たかい、アイズ、七郎治」
「ワシなんも悪いことしとらんがや」
「開口一番がそれか、七郎治」
「ガハハハ!」
二人の姿を確認するフィン。七郎治の言葉に嘆息するリヴェリアと笑うガレス。
「どうして呼ばれたか分かるかい?」
「…うん」
フィンの問いかけにアイズが気まずそうに答える。
「どうして前衛維持の命令を無視して、敵の群に飛び込んだんだい?」
「だってアイズ嬢が飛び込むけん」
「ッ⁉︎し、七郎治がついてくるから…」
「ワシをストーカーみたいに言わんでくれん⁉︎こちとらアイズ嬢の援護を任されとるきの‼︎」
「………」
二人のお互いに指をさし、冷や汗を流しながら怒られまいと罪をなすりつけ合う姿に、呆れと子を見るような微笑ましさを感じながら、三人は溜め息をつく。
「アイズ、君は強い。しかし組織の幹部でもある君の行動は下の者に影響を与える。そこを理解してもらわないと困る。」
「七郎治、スキルだけでなく君の実力をみて、アイズの援護に回しているんだ。君が止めないでどうする」
静まり返る天幕。
ぐ〜。
七郎治の腹が鳴る。
「はぁ、アイズ窮屈かい?今の立場は」
「ッ‼︎…ううん、ごめんなさい」
ぐ〜。
七郎治の腹が鳴る。
「…フィン、アイズは前衛の負担を軽くしようと、あえて突っ込んだのだろう。実際、前衛は崩れかけたからのう」
「それを言うなら、詠唱を手間取った私にも落ち度があるな」
事の成り行きを見守っていたガレスとリヴェリアが助け舟を出す。二人の言葉にやれやれとフィンは肩をすくめる。
「アイズ、ここはダンジョンだ。何が起こるか分からない。全員が七郎治のように君についていけるわけではない。それだけは理解してほしい」
「…はい」
「七郎治、君もだよ」
「へい」
ぐ〜。
腹が鳴る。
「全く君は…。行って構わないよ」
天幕をあとにした二人は無言で歩く。
「あの、七郎治、ごめ「腹減って死にそうだべ。さっきも鳴らさんごと必死だったわw」」
アイズの言葉を遮り、ニカっと笑う七郎治。気にするなと言いたげである。
「ア、アイズさん!」
呼び止められる声に振り返る。レフィーヤだ。
「先ほどは助けて頂き有難うございます‼︎…七郎治さんも」
「ケガは平気?」
「ワシはオマケか」
「すいません。いつも足を引っ張ってしまって…」
謝るレフィーヤ。今にも泣きそうだ。どうしようかと焦るアイズと固まる七郎治。
「アーイズー‼︎」
「何してるの?またレフィーヤがへこんで、アイズに慰められてるの?」
「べ、べつに私は!」
「そんなに謝られたらアイズ達も困るわよ」
後ろからガバッとアイズに抱きつくティオナ。いつもの事かと笑い、活発な彼女の言葉とさり気なく助け舟をだすティオネ。二人が加わり和気藹々とした雰囲気になるが…
「邪魔だテメェら‼︎遊んでんじゃねーよ‼︎」
横からムダに長い足が、ティオナと横にいた七郎治を足蹴にする。
「ちょっとベートいきなり何するのよ‼︎すごく痛かったんだけど‼︎」
「そうよ!そうよ!このクソ毛玉‼︎」
「キメェんだよ七郎治!女みてーなツラしやがって‼︎遊んでるテメェらが悪いんだろうが⁉︎」
「ふふん、どーせ毛玉はアイズ嬢に絡みに来ただけだべ?このカッコつ毛玉♡」
「あぁ?ぶっ殺すぞカマ野郎‼︎」
「はい!本日も頂きました‼︎毛玉君の実行されない殺人予告(笑)」
「テ、テメェ〜〜‼︎」
恒例のベートと七郎治の鬼ごっこが始まった。
ガレスにゲンコツをくらい二人の鬼ごっこは終了した。
食事の後始末をし、フィンが見張り以外の全員を見渡す。
「それじゃあ、今後の話をしよう」
「今回の遠征は未到達階層の開拓以外に【ディアンケヒト・ファミリア】のクエスト、「カドモスの泉水」をこなさなければならない。必要な泉水の採取の量を考えると少数精鋭2班で同時に2カ所に回る。メンバーは…」
「はーい!私が行く!」
「少数精鋭よ。私達第一級冒険者が行かないでどうするのよ、バカティオナ…」
「じゃあ、ティオネも一緒ね!アイズと七郎治もね!」
「うん」
「ワシ行かんけん、レフィーヤが行くがや」
「「ええ⁉︎」」
七郎治のまさかの同行拒否にティオナと、突然名前を出されたレフィーヤが驚きの声を上げる。
「ええじゃろ?団長、副団長?」
「…そうだな。レフィーヤはいずれ私の後釜になるんだ。経験を積んでこい」
「それじゃあ、リヴェリアと七郎治はキャンプの護衛だ。」
「するともう一班はワシとフィン、ベートとサポーターにラウルを連れて行くかの」
モンバーの選出を終えて、数時間の仮眠の後リヴェリアが束ねる団員に拠点を任せ、一行は51階層に出発した。
ダンジョンだと、大好きなロキが出せないな〜