遠征
ーダンジョン49階層《モイトラ》ー
「前衛‼︎盾構えぇぇー‼︎」
号令と共に49階層に鳴り響く衝突音。
人の怒声や雄叫び。
人ならざるものの咆哮。
様々な種族が織り成す一団。オラリオ最強派閥の一角【ロキ・ファミリア】と、山羊のような頭を持ち黒い巨体を誇るモンスター。ファモールの群れが対峙していた。
一団の指揮をとるのは、金髪の小人族。状況を見極め、素早く的確な指示を飛ばし、この戦場を支配する。
【
「隊形を崩すな‼︎後衛は攻撃を続行‼︎」
「ティオナ、ティオネ!左翼支援に回れ‼︎」
「あ〜んっ、体がいくつあっても足りないよー!」
「文句言ってないで働きなさい‼︎」
団長の指令を受け、浅黒い肌に可憐な容姿を持つ双子のアマゾネスが一瞬でファモールを斬り伏せる。
【
【
「リヴェリア〜!まだぁー⁉︎」
ティオナが叫び掛ける先には、後衛に守られ、女神が嫉妬する程の美貌をもつオラリオ最強の魔導師が詩を紡いでいた。
【
「【ー間も無く、焰は放たれる】」
『ーオオオオオオオオ‼︎‼︎』
ファモールの群れが吠える。
前衛の一角をその巨体と剛腕で吹き飛ばさんとたたみかけていた。
「ッ!ベート穴を埋めろ‼︎」
「チッ、めんどくせーなぁぁ‼︎」
頬に刻まれた雷の様な入れ墨を歪ませ、狼人は吠える。
【
突破されようとしている前衛の元に狼人が駆けるも間に合わず、何匹かの侵入を許してしまう。ファモールは魔導師の少女の元へ。
「っあ」
少女は体が硬直して動けない。ファモールの剛腕から繰り出される鈍器の一撃が迫り来る。が…
「ーえっ?」
攻撃は届く事はなかった。
少女とファモールの間に、金髪金眼の女剣士が滑り込み一瞬にして切り裂いたのだ。
「大丈夫?レフィーヤ」
「ァ、アイズさん⁉︎」
【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン
【
アイズに差し出された手を掴み、起き上がろうとしたとき、ファモールが振りかざそうとするのが見えた。
「アイズさん‼︎後ろ‼︎」
だが、アイズは全く気にしていない様子。まるで、絶対に攻撃が当たらないと言わんばかりに。
「よいしょ」
間の抜けた声と共に、斜めに一筋の線が入る。ファモールの動きがピタリと止まり、線に沿うように上半身が滑り落ちる。その先にいたのは鞘に収まった刀を持つ中性的な顔立ちの黒髪の剣士。
「っ!七郎治さん」
【抜刀斎】www オウギ・七郎治
「そうですぅ。私が七郎治ですぅ。」
「ッ⁉︎何言ってるんだすか⁉︎こんなときに‼︎緊張感無さ過ぎです‼︎」
「?副団長に常に大木の心を持つ様に言われてるがや」
「それは緊張感を無くすことではありません‼︎」
「あっ、アイズ嬢が行っちゃったべ」
「えっ?」
七郎治が後を追う。
「どうして、あんな人がアイズさんの相棒なんですか…」
アイズは風を纏い、前衛の頭上を飛び越えファモールの大軍に突っ込む。大軍の中に1人飛び込んできた獲物を殺そうと迫って来る。風を纏った斬撃が近づく者を全て切り裂かんと振るわれる。さらに後から黒い影がそっと降り立った。まるでその背を護る様に邪魔者を排除していく。
「【汝は業火の化身なり】」
「【ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを】」
リヴェリアの魔力が最高まで高まり、詠唱を完成しようとしている。
「二人とも戻りなさい!」
ティオネに呼び戻される。
「ッ!」
アイズは風を纏い後方へ大きく跳躍し自陣へ。
「はいよ〜」
七郎治は一瞬にして姿が消え、いつの間にか自陣に立っていた。
「【焼きつくせ、スルトの剣ーー我が名はアールヴ】」
「【レア・ラーヴァテイン】‼︎」
豪炎。
魔法陣から幾つもの大炎にが飛び出し、ファモールの巨体を全て飲み込み絶叫と共にモンスターが息絶えた。
49階層での戦闘が終了した。
二つ名怒られないかな…