しずか酒   作:nowson

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ラーメンと餃子、この組み合わせは鉄板でありほとんどのひとがこの組み合わせをした経験があると思います。
 炭水化物のラーメンに肉と野菜のギョーザ、以外にも栄養的にもお互いを補うこの組み合わせです。

今回はそんなラーメン餃子と酒で書かせていただきました。


作者の趣味全開なのでその辺りご理解のほどよろしくです


ラーメンと餃子

平塚静は悩んでいた。

 

悩みの種の原因は昨日、土曜日の昼にさかのぼる。

 

 

休日

それは学生と社会人のどちらにとっても待ち遠しく、平日に比べ少ない日数と早く過ぎる体感時間に楽しさと切なさを感じる日。

 

平塚静は撮り貯めしたアニメを見ながら酒を楽しむという、優雅で堕落した独身にのみ許される休日を過ごすべく近所のコンビニへ徒歩で向かっていた。

 本来なら愛車に乗って颯爽と現れ、つまみに弁当、週刊誌にタバコといったラインナップ(酒は酒屋からケース買いなので自宅にある)を買い、その綺麗な髪をたなびかせ車に乗り込み帰宅する所だが、その日は違った。

 

 

彼女の借りる駐車場にいつもの車はなく、普通の軽自動車。最近車のタービンの調子が悪くちょうど車検も近かった為、良い機会だということで丁寧に見てもらうべくいつもの車屋へ車検に出したのだ。

 

普段乗り慣れてない車にあまり乗りたくなかった静は、歩いて最寄りのコンビニへ向かっていた。

 

 

 

 

いつものコンビニでいつものを物を買い帰宅、その帰り道の事だった。

 

 

 

 

朝から何も食べて食べていない静の鼻腔をくすぐる匂い。

 

「煮干しの匂い?この近くにラーメン屋ってあったか?」

千葉のラーメンを網羅した彼女には千葉ラーメン食べ歩き紀行ができるほどの知識がインプットされている、そんな彼女にとって自分の知らない店があるのか?

 

 

スマホで調べるも、ラーメン屋なんて出てこない。

 

 

たまにいるラーメン自作派な人が休みを費やし作ってるのだろう、その時は気にも止めず帰宅した。

 

 

 

そして日曜日

ふと気になった昨日の煮干しの匂い。

 

もしかしたら、ラーメン屋が存在するのでは?

 

「近所でおいしいラーメン屋があるならこれは大発見だ」

休日に腹が減った時、ラーメン食べるために街に出るのも怠い、そんな時近くにラーメン屋があったら……。

 

もしかしたら空振るかもしれない、不味いかもしれない。

 

 

 

だが、彼女のラーメンに対する知的探求心が体を突き動かす。

 

 

「行くか!」

仮に無かったらコンビニ寄って帰ればいい、そう言い聞かせ腰を上げスウェット姿から、カジュアルな姿に着替え外へと繰り出した。

 

 

 

 

「たしかこの辺で煮干しの匂いがしたはずなんだが……」

五感を特に嗅覚を研ぎ澄ませる。

 

 

「こっちが匂うな!」

自分の感を頼りに道を突き進む。

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

「ここか?」

ついた場所はラーメンの暖簾を出してなければ提灯もない、所謂普通の大衆食堂だ。

 

確かにラーメンを出す大衆食堂は多数ある。

だがそれは昔ながらの鶏がらと野菜ダシの中華そばみたいなものが多い。

 

(どうする?自分の勘を信じるか経験を信じるか)

 

「まあ、入ってみて決めてもだろう……それも経験だ!(ラーメンがダメでも定食が当たりなら近所というだけで価値ありだ)」

 

 

後悔は後ですればいい、静は暖簾をくぐり戸を開ける。

 

 

「ごめんくださ~い」

 

「いらっしゃい!」

歳は50くらいのだろうかエプロンをかけ三角巾をかぶり清潔感あふれるカッコをしている、その女性が静に声をかける。

 

 

 

静は一指し指で一人ですというジェスチャーをする。

 

 

 

これを怠ると「おひとり様ですか?」という強烈な一撃を食らうことになるのを彼女は分かっていた。

 

 

「お好きな席へどうぞ!今お茶お持ちしますね!」

 

 

店内は昼時を過ぎているためか客もまばら、昼から飲んでる客とタクシーの運ちゃんくらいしかいない。

 

 

適当な席に座り厨房を見る。

(歳は店員さんと同じくらい……夫婦でやってるのかな?)

 

「はい、失礼します」コトッ

 

(お冷ではなくお茶なのか?色は茶色いから麦茶か)

 

コップを口につける。

 

(なるほど、ほうじ茶か……)

口を潤した後に広がるほうじ茶特有の香りが静に安心感を与える?

 

 

(料理の邪魔をしない程度にほんのり薄め、こうゆう何気ないのは嬉しい)

 

 

 

続いてメニューを眺め作戦を練る。

 

 

 

(さて、どう攻めるか……)

 

 

 

 

メニューはご飯物が親子丼に焼肉丼、かつ丼、天丼、チャーハン

 

定食が、カツ、海老フライ、カキフライ、焼肉

 

サイドメニューはモツ煮、冷奴、ギョーザ、メンマ、チャーシュー、各種揚げ物、おろしポン酢、おしんこ、日替わり刺身

 

飲み物はビールに、サイダー、キリンレモン、コーラ、オレンジジュースにウーロン茶

 

麺類が肉、たぬき、きつね、ワカメ、天ぷらの各そばうどん、焼きそば

ラーメンは醤油とチャーシュー麺のみ

 

静の心にワクワクが広がる。

 

(もし、ここが当たりなら最高の店だ!ビールも置いて居酒屋使いできる、何より近所なのもいい)

 

 

ただ、一抹の不安もあるのが事実だ。

 

これだけの数のメニューをこなすということはもしかしたら全体のレベルはかなり低いのでは?メニューとにらめっこしながら疑心暗鬼に陥る。

 

 

(どうする?いっそラーメン外して当たり障りのない焼肉定食でいくか?)

 

 

「ん゙~……」

女性があまりだしてはいけない音を出し悩む。

 

 

 

 

 

 

 

 

(ええい!女は度胸!何でも試してみるもんだ!!ラーメンに行く!!)

 

 

 

 

 

「すいません!ラーメンと餃子!あと、おしんことビール」

 

 

「はいただいま」

 

 

(さて、この選択が吉と出るか凶と出るか)

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

「お先にビールとおしんこ失礼します」コトッ

 

 

「ドモッ!」

 

 

(さあ!まずはビールに行かなきゃな!)

 

 

グラスを持って近くに寄せる。

 

 

(おっ?グラスかなり冷えてるぞ、という事は……)

 

続けて栓が開けられた瓶ビールを持つ。

 

(いいじゃないか!かなり冷えてるぞ!)

 

グラスを傾けビールを注ぎ、傾けを直し泡を作る程度に再び注ぐ。

 

 

 

(さあ飲むぞ)

ニヤニヤした顔でグラスを掲げ……。

 

 

グイッ!一気に流し込む!

 

ホップの苦味、のどにギューッとくる感覚、ホップの香り、炭酸の爽快感それらが一連の流れでやってくる。

 

「か~~!!たまらん!!」

大満足と言わんばかりの表情で再びビールを注ぐ。

 

 

(そういえば、「ビールがおいしい季節になりました」とかよく聞くが……)

もういっちょグイッとビールを煽る。

 

 

 

(ビールは一年中旨い飲み物なんだよ!わかっとらん!!)

 

「オッとイカンイカン」

 

(ビールに夢中でおしんこを忘れていた)

 

 

シンプルで少し大きめのさらにのっそり盛られたおしんこ。

 

キュウリ、ナス、キャベツ、ニンジンの糠漬け、自家製なのか漬かり具合もかなりよい。

 

(これは自家製なのか?この辺のスーパーじゃ見ないレベルで漬かってるぞ)

 

 

(まずはキュウリから行こう)コリッ

 

糠漬けとしては強い酸味であるものの、嫌味な味わいがなく昆布の旨味も感じられる丁寧な味わい

 

「うまい……」

 

 

 

「ありがとうごいます」

 

「えっ?」

 

「その糠漬けは私作ってるんです、だから嬉しくて」

 

「ああ、そうなんですか」

 

「本当においしいですよ、おみやに持ち帰りたいくらいです」

(実際これはうまい、スーパーで売ってる物と大違いだ)

 

「うちの店、持ち帰りもできるから是非どうぞ!」

 

 

 

「本当ですか?ありがとうございます!」

(これは嬉しい、家でアニメ見ながら糠漬けに酒が楽しめるなんて最高だ)

 

(もしくは家系ラーメンとかこってり系の物食った後、家でまったり食べるのも悪くない。)

 

 

 

 

「ラーメンと餃子失礼します」

そうこうしているうちに本命が到着する。

 

(ラーメンは若干濁ってる以外は普通、餃子は羽根つきか)

 

 

(先ずはラーメンだ!)

やや濁りは見えるものの、麺が見えないほどではないスープ、具はチャーシュー、メンマ、ネギのスタンダードなもの。

 

(私にはわかる……このラーメン、見た目は普通だが心してかからないとやられる!)

 

先ずはレンゲにスープを掬い一口。

(見た目通りのあっさり系、だが煮干しの旨味が凄い!カツオやサバ節、隠し味程度の鶏ガラと言った組立ては分かる。だが、この旨味のバランス取りが絶妙だ!こんなレベル高いあっさり系は中々お目にかかれないぞ……)

 

(あっさり系でありながら旨味たっぷりのスープをまとめ上げるとは……)

 

 

続いて麺を啜る

加水率高め、かん水は控えめの自家製麺。

 

(程よく麺にからむ縮れ麺と歯切れの良さがいい……。スープと相性も抜群だ)

 

 

 

「旨いな……」

(旨くて箸が止まらないのに落ち着く……不思議だ)

 

(普段私が食べるラーメンがワクワクドキドキな旅行や祭りだとすると、このラーメンは居心地の良い実家なんだろうな)

 

「おっと、餃子忘れてた」

 

 

 

「羽根つきは嬉しいな」

パリパリの羽根が付いた餃子、一緒に頼んだおろしポン酢を存分に絡ませて口に入れる。

 

口に広がる餃子の肉汁の甘味と旨味、それをおろしポン酢がさわかに包み込む。

 

(これもうまい!!だがこれはダメだ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」トクトクトク、グビグビグビ

 

(ビールが進んでしまう!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」ポリポリ

(糠漬けが箸休めになるから飽きが来ない)

 

 

 

 

 

 

「……」ズルズルズル

(酔いが回ってきたら余計ラーメンが旨い!!!!)

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

「ごちそうさまでした!!」

一通り平らげ満足した表情の静。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「あ、すいません糠漬けおみやで!」

 

 

 

「かしこまりました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

「美味しかったです、また来ます!」

 

「ありがとうございます、またよろしくおねがいします」

 

「ありがとうございます」

厨房からもお礼の言葉が聞こえる。

 

 

 

 

扉をしめタバコに火をつける。

 

 

「この店、大当たりだな!近所でこんな店に出会えるとは」

これからの事を考え笑みがこぼれる。

 

 

 

「つまみも手に入ったし、帰るか」

 

 

 

 

 

 

 

 

(今度比企谷でも連れてくるか……いや、さすがに教え子の前で飲むのはまずい、おまけに車で送っていけない、酒飲みたいからあいつが成人するまで我慢だ)

 

 

 

「とりあえず陽乃あたり誘っておくかな、あいつもこういう店好きだし」

 

 

 

「♪」

鼻歌鳴らしながら、ルンルン気分の家路につく静。

 

 

 

現在の時刻は14:30

 

 

 

家路と独身街道、ともにまっしぐらな日曜の昼下がりだった。




次の更新未定です。





追記
酒入れて書いたせいか誤字脱字、間違いすごいっす。
申し訳ありません

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