理想郷たる幻想郷に存在する方達はみんな眉目麗しい方が多い。
土地柄なのか、隔離している結界が美人しか通さない不細工に厳しい結界なのかは知らないが本当に綺麗な方や可愛らしい方ばかり。男もそうだ。特に雑貨屋の亭主とかイケメンすぎて笑った。肝心である店は塵みたいな商品しか置いてないくせに……ちくしょう。
と言う訳で俺みたいに普通の容姿を持っているやつも居ることは居るが数は確実に少ない。幻想郷では絶滅危惧種に近い立ち位置だ。そのうち"フツメン"というカテゴリーでレッドデータブックに記載されるかもしれないぐらいに。
だがしかしだ。
そんな美人郷と改名してもおかしくない美形ばかり集まる土地だが、内面は残念なやつばかりなのである。
例えば、頭に兎の耳を付け月兎を自称するコスプレ女。
俺が見ただけでも園児服、メイド服、せーラー服を着こなし、つい最近会った時はなぜかテーマパークのマスコットキャラみたいな兎の着包みのまま薬を売り捌いていた。人里の子供達に寄って集られ足蹴にされて本当に可哀想だった。
一例を上げただけだが幻想郷に住まう美人の残念さを知って貰えたと思う。
これを越える最上級に残念な人物を俺は知っている。
そいつは妖怪の山と呼ばれる山の麓、霧の湖という湖の畔にある洋館に住んでいた。
正確には洋館の内部にある異常なほど蔵書数を抱えた大図書館に居る。
紫色に艶が掛かった腰元まで伸びた髪。胡乱な光を灯した紫水晶の眼差し。新雪のように白い肌。外見は間違いなく美少女なのだが、彼女は凄まじいほどに残念なのだ。
まず初対面がおかしかった。
向日葵栽培に必要な知識を得るために貸本をやっていると知人に紹介され、洋館に赴き、大図書館を訪ねたのだが、そこで彼女の読書方法を見た。
皆さんは頭に何をかぶると聞かれると即座に帽子と答えると思うが、きっと彼女は違う。
本だ。
彼女は頭を本に挟むように突っ込み読む。
なぜにそんな真似をするのかと聞くと
「目が悪いのよ」
と、答えられた。
正直、頭が沸いていると思う。
しかし、彼女の残念さはそこで止まることを知らない。
彼女はとにかく動かない。頭を離して本のページを捲る作業しかしない。時折、何時の間にか注がれていた紅茶を口にして喉を潤し作業に戻る。それだけ。
その日は探し物が終わらず長い時間お邪魔していて、俺はちらちらと彼女の方を何度も気になり見ていたのだが全く定位置から動いていなかった。
二つ名の動かない大図書館は伊達じゃなかったぜ。聞いた話では数年に一度外出すればいい方らしい。インドアにもほどがある。
そして極めつけなのが彼女、パチュリー・ノーレッジは取っ付き難いのだ。
会話を試みようとも本から目を離さないし、自分の用がある時しか口を開かない。あわよく会話が成立しても二言三言で会話の内容が広がらないまま終わる。
愛想が悪い、と言うか。良くする気がないのかもしれない。
俺は大図書館に来る度にノーレッジさんと会話しようとして失敗し、代わりに司書役をこなしている種族が小悪魔の方と話して帰る。彼女は相当に主人であるノーレッジさんに対して不満を溜めており、毎回愚痴を吐き出していた。
「いつか下克上してやる……」
視線だけで人が殺せそうな凶悪なほどの笑みを浮かべて彼女は主人を睨み呟いた時は二者の関係にそろそろ限界が来ているのだな、と思った。もうすぐ確実に異種族の殺し合いが始まるな。
俺の小さな努力が結びノーレッジさんを渾名で呼ぶようになったのは大図書館を利用してから数年後のことだった。
ふとした切欠で話してみるとパッチェさんは残念な美少女であるが悪い魔法使いじゃないことが判明する。
彼女は単にコミュニティ障害だった。
現代の病は幻想郷の美人にまで及んでいたようだ。