向日葵郷は現在かつてないほどの危機を迎えている。
俺はいつも陣取っている縁側でなく、居間の座敷でうつ伏せになり危機を脱する策を講じていた。
しかし、頭は虚ろとなり眩暈すら覚えているこの状況で出来ることなどない。声も出せない中、心の声を張り上げて助けを求めるばかり。死ぬ。俺は死ぬのか。
段々と空腹を越え、気分が妙に落ち着くと此処には既に居ない人物へと怨嗟の声を張り上げた。
(西行寺幽々子。許すまじ!)
くそう。あの薄桃頭めっ。向日葵の種どころか実家から持参してきた家の食材を食い尽くしやがってからに。
精一杯の文句を張り上げたあとに視界が完全に暗くなった。
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向日葵郷IF~ただ飯食らいがやって来る夏~
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祖父が趣味で育てている向日葵畑には毎年、その向日葵に生る食用の種を求めて来訪するあまり招きたくない珍客が居る。
たくさんのフリルが所々に付けられた洋服の寝巻きのような格好に渦巻く模様が目立つ帽子を常時かぶり、薄く透き通るような桃色の癖ついた髪と瞳が容姿の非凡さを証明している長身の美少女。妙に安心する綺麗な声を出す。
と、まぁ。絶世の美少女と言っても過言ではない容姿なので普通ならこちらからお願いしても来て欲しいくらいなんだけども、正直に言えば二度と来て欲しくない。
なぜなら彼女、西行寺幽々子は類稀なる無駄飯食らいで我が家の食卓事情に壊滅的な被害を与える災害に違いないからだ。嵐所ではない大嵐だ、やつは。
祖父が生きている頃は祖父がどこまで食べられるかを面白がって大量の食材を調理し、客人として来ていた西行寺に出していたのだが毎度必ず食いきる上に足りないとぬかし、帰り際に向日葵畑に突入しては種を胃の中へ乱獲して去って行く。
去り際に必ず
「次はもっと量が欲しいわ~」
などと吐き捨てる。
祖父は怒らず一週回って快活に笑っていたが、俺には到底笑える状況じゃなかった。
あの女。俺達の食べ物の分も食い果たして帰っていくのだから。育ち盛りだった俺は盛大に鳴る腹の虫と怨嗟の声を奏でて一晩過ごしては朝一に汲んだ井戸水と残っていた向日葵の種を貪り、飢えを凌ぐ毎日が夏の思い出となってしまった。何が悲しくて先進国である日本の現代人が飢餓に耐えなければならないのか。
そして悲しいことにそれは祖父が死に俺が向日葵郷を引き継いでからも同じだった。
あの女は毎日来るのだ。
俺が向日葵郷に居る間は毎日訪れては食い物を荒らし、氷室から自慢の麦茶が消え、向日葵畑から種が消え、秘蔵の炭酸飲料が何時の間にかに胃の中へと流し込まれる。
数年前にたった一日で食料が全滅した時はやつの胃の中はブラックホールか何かなのかと真剣に腹の虫を無視して考えたものだ。
そして、また今日もあの女は食料を食い尽くして、満足気に帰っていった。
その際に捨て台詞として残したあの言葉を俺は忘れない。
「そろそろ妖夢が作る晩御飯だから早く帰らなきゃ」
俺は思った。
まず、話には挙がるが未だ出会いのないようむさん。ご愁傷様。
そして、西行寺。お前はまだ食うのかよ……