向日葵郷~幽香に会える夏~   作:毎日三拝

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十六話

 向日葵郷。

 家の周りにある畑に祖父が趣味で植えた向日葵が育って出来た向日葵畑の名前。

 時折、変な人達が訪れるくらいしか変化点がない場所である。

 そこにまたしても変人が現れた。

 

「お邪魔します」

 

 金色の板状物とかフリルとかの装飾過剰で重そうな帽子を深緑色の頭にかぶり、あまり見掛けない服装を着こなしている。残念な美少女なのか、田舎独特の民族衣装なのかは俺には判別不可能だ。もしかしたらナウなヤングの最新トレントなのかもしれない。

 いかん、いかん。お客さんの前で呆けたしまった。失礼に値するな。俺の反応をじっと待っているようだし話し掛けねば。

 

「何か家に用でも? 差支えなければお名前も御聞きしたいのですが?」

「これは失礼しました。私、四季映姫と申します。一応、この地の裁判官を生業として務めている者です」

 

 こっちに地方裁判所なんてあったんだ。

 というか裁判官をしてるということは俺よりも遥かに年上なのかよ。これがリアルロリ婆なのか。

 貴女のような見る目麗しい美少女に会えるなら毎日でも訴えられてもいい。

 

「裁判官の方ですか……。これは御丁寧にありがとうございます。わたしは――」

「知っております。私から尋ねてきたので名乗って頂く必要はありません」

「はぁ、そうですか。折角来てくれたのだから冷たい物でも持ってきます」

「有難う御座います。御好意に甘えますね」

 

 座って寛いでいた縁側から立ち上がり、氷室で冷やしていた自慢の手作り麦茶を器に移し替えて持ってくる。わざわざ麦を炒めてお湯で煮出したのだからパックの麦茶より上手い筈だ。

 戻ってくると未だに外で立ちっぱなしの四季さんに座ってもらえるように促す。座布団を渡して横に麦茶を置くと四季さんは申し訳無さそうに一度頭を下げてから座った。

 

「いただきます」

 

 一言俺に断ると器を口の方へ傾けて麦茶を運ぶ。微かに喉が動き、一口では足りなかったようで潤すように満たしていく。

 器を口元から離した時、中身は半分以上減っていた。

 

「ふふ。冷たくて美味しい麦茶ですね。夏にぴったりです」

「そういってもらえると作った本人としては嬉しいですね」

 

 厳格そうな雰囲気を纏っている人だとは思えない柔らかい笑顔だ。

 もっとガチガチに堅苦しい人だと第一印象で誤解していたぜ。

 

「急かすつもりはありませんが、用件とは何でしょう?」

「風見幽香、という人物を御存知ですよね」

 

 風見さん?

 裁判官と風見さんに何か繋がりがあるのか。もしかしたら出会った頃に感じた不良だという印象は間違いじゃなかったとか、か。

 俺が一人で難しい顔をしてると考えを否定するように四季さんは言う。

 

「裁判所絡みではありません。ただ単に知り合いとして彼女が最近どう過しているのかを親しい人に聞きたかっただけなのです。彼女は昔からどうにも捉え所が分からない所があるので」

「話してくれと言われてもいつも家に来て向日葵見て帰るくらいしか知りませんよ」

「いえ、そういうことが聞きたいのでなく、貴方から見て彼女はどういう風に感じましたか?」

 

 行動の事実ではなく、俺の主観的な話を聞きたいということなのだろうか。

 といわれても風見さんとはお互いに詮索無用の仲だからな。詳しくは知らないし、自分から一切話さないのだから知られたくもないのだろうし。

 

「まぁ、強いて言うならば毎日楽しそうだなって」

 

 四季さんが軽く驚いた表情に変わった。

 その反応は何なんだ。風見さんって昔は暗そうな人だったのかね。

 

「……そうですか。それは良かった。でなくては救われない」

 

 意味深な発言だけ場に残すと四季さんは縁側から離れ

 

「お時間を取らせてしまって有り難う御座いました。この辺で私は失礼します」

 

 綺麗な御辞儀をしてから向日葵郷から去って行く。 

 何気なく隣を見ると麦茶は空になっていた。

 というか彼女は本当に裁判官のなのだろうか。気になる。


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