不死鳥と始める異世界生活   作:おりの

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前回の要約
・人付き合いの苦手な妹紅が一人、ラム相手にあたふたする。


僅かな不信

 

 

「あはぁ、すっかり元気になったみたいじゃあないか。よかったよかったーー」

 

(なんだコイツ!?)

 

妹紅の中を衝撃が走った。妹紅は今まで数百年間生きて来て、様々な人間も見て来た。が、目の前の人物ほど第一印象の強い者はいない。いや、正確に言えば過去に二人ほどは居る。だがしかし、その内一人は宇宙人で、もう一人の方は人の括りに入れていいのか分からないが、神だ。そんな者達と並ぶ程に、目の前の人物は記憶にこびり付く風貌をしていた。

 

 

 

まず服装がおかしい、異常だ。

 

妹紅は赤髪の少女の事も、内心服装がおかしいとは思っていた。しかし同時に、あの奇妙な服を着ている彼女に「可愛らしい」という感情も出て来たのは確かだ。

 

しかしそれに比べて目の前の男はどうだ。

 

全くもってしっくり来ないでは無いか。頭に乗っけているものは烏帽子の様な物だと理解したが、それでもその他の衣服はどういう構造をしているのかさえ分からなかった。

 

(なんだか毒々しい花みたいだ……いや普通に毒キノコか)

 

衣服で自分を表現しているんだろう、そう無理やり解釈する。

 

(若い内は色々やりたくなるもんだしな)

 

全身で唯一露出されている顔には生気がなく、目の周りなどは奇妙な模様が付いている。妹紅は流石に、これは描いたものだとは分かったが、眼の色が左右違う事には良い説明が浮かばない。

 

 

 

最後に重要な点。目の前に立っている人物もまた、赤髪の少女と同じく顔の形が人間では無い、つまりーー

 

(屋敷の主もまた妖怪か……)

 

高速回転する頭の中で結論が出る。

 

それも大妖怪と呼ばれる類だろうか。妹紅は妖怪退治やそれに準ずる行動をしながら数百年。少し正確に言うと2、300年程であろうか、それだけの時間過ごして来た。だから感じ取ることが出来る。目の前の男が内包している圧倒的なまでの力を。

 

(勝てるか? まあ負ける事は無いな)

 

「アハッ! 君は舐め回す様に人を見るんだねぇ。流石の私でも、そうまでして見つめられちゃうと興奮が抑えられないかなぁ」

 

妹紅は考える。目の前のこの妖怪の目的は何か。

 

「ごめん、余りに奇抜な服装をしてるから」

 

ここは思った通りの事を言っておく。

 

(相手が妖怪だと意識するだけでこうまで話し易くなるとは……)

 

赤髪の少女は余りにも恭しく接して来たので、罪悪感から素っ気なく話すことが出来なかったが目の前の人物なら大丈夫だ。

 

「君は思った事を正直に話す子だぁね。それは良い事だよ、人は自分の欲望の中にこそ、生き甲斐を見つけられるものだからね」

 

「何故私をここに連れて来たんだ?」

 

妹紅は男の軽口を無視し尋ねた。

 

男は別段それを気にする事もなく言葉を返す

 

「何故かって? そりゃあ当家の使用人である所の、菜月スバル君を救ってくれたお礼をするためだよ」

 

菜月スバル……恐らく昨日助けた男の子の事だろう。しかし、と妹紅は思う。

 

(あの子は人間の顔をしていたけれど。……そう言えば私が助ける直前になにやら魔法を使っていたな)

 

「お礼とは、私に何かしてくれるというのか?」

 

妹紅の棘のある言葉。しかしそれに対して、妹紅が異常と評した男はフッと優しい笑みを浮かべ言った。

 

「そう警戒する事は無いさ。私はただ君を心配しているだけだよ。もちろん、暗い森の中を、何も持たない女の子が、大の男を背負って、魔獣の巣窟を生き残った、と言う点では君に対する興味が無いわけじゃあ無いけど」

 

その言葉からは先程の、気味の悪い笑みを浮かべる様子からは決して感じない筈の、確かな暖かみを感じた。

 

「……で、お礼ってのは一体何をしてくれるの?」

 

妹紅は僅かに感じる罪悪感を無視して再び問う。

 

男はそんな変わらぬ妹紅の態度に怒りもせず、目をゆっくりと一回閉じてから続けた。

 

「簡単な話しさ。君の願いを一つ叶えてあげるよ、なんでも言うと良い」

 

男がそう言うと、話し合う妹紅達の横に控えていた赤髪の少女ーーラムが困惑の表情を浮かべた。

 

「ロズワール様?」

 

男は目だけでそれを制する。咎めるのでは無く、安心させる様にして。

 

「ーーさあ、何なりと言ってごらん。僕はこう見えても中々偉いんだ」

 

男は黙る妹紅にそう促した。一方の妹紅は、とっくに答えを決めていた。

「この屋敷から出させてくれ」

 

言った瞬間横のラムの表情が微妙な怒りに染まったが、妹紅はそれに気付きつつ、気にしない様にした。

 

「本当に? それだけで良いのかい?」

 

「ああ」

 

そんな妹紅に男は続ける。

 

「分かっているだろうが、そんな事は当たり前の事だよ。願い事には全くもって値しないと僕は思うよ?」

 

「構わないさ、服が乾いたならすぐ出発する」

 

妹紅の取り付く島の無い態度を見て、流石に男は諦めたのか。

 

「分かった、君の願いを聞き入れよう。服はしっかりとピッカピカに綺麗にしてから君に返し、なおかつ君をこの邸宅の敷地外まで送る。それで良いね?」

 

「十分さ」

 

妹紅はニヤッと笑った。

 

「じゃあ僅かな時間けれども、ゆっくりしていくと良い。そこの窓から見える庭園などは、今まさに気持ちのいい時間だろうし、オススメだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーー現在妹紅は一人、外に向かって歩いていた。服装は白いシャツに、赤いズボン、髪留めは赤い輪ゴム。

 

妹紅はロズワールのオススメに従い、庭園を目指しているのだ。

 

赤髪の少女の言う「食堂」から少しの間言われた通りに歩いて見ると、彼等の言った通りの出入り口らしき場所が見つかった。そのことに妹紅は内心でホッとする。だがしかし、それでもまだ少しだけロズワールという男を警戒していた。

 

それは先程の交渉が、あまりにもあっさりと、自分の望んだ物となったからである。

 

第一見た目が気味悪いのには変わらないし、それにーー

 

(周りを結界で覆いながら、同類集めて隠居生活してる妖怪なんて……怪しすぎるだろう)

 

そこまで考えて、ふと思う。

 

(それだけを言うと、あんま悪い奴らじゃなさそうだな)

 

字面もそうだが、そもそもの話、大妖怪と呼ばれる者達は比較的落ち着いた思考をする者が多いと聞く。ならばあのロズワールという男はどうだろう……

 

(まあいいか、出てくって言っちゃったし)

 

そう割り切ると、少し登った日の差す庭園へと再び歩き出した。

 




キャラに振り回されてる

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