とある過去の未元物質《ダークマター》多分 一時凍結   作:吉田さん

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この物語は垣根帝督ことていとくんの過去を想像して書いたものです。あくまでも想像でしかありません。

以下注意事項です。
※オリジナル設定、独自解釈がございます。苦手な方はブラウザバックを。
※時系列がズレる箇所が中盤か終盤あたりに出てきますが、ご了承を願います。
※客観的に見ればヒロインの立ち位置であろうキャラがオリジナルです。原作における主要人物はていとくん以外存在をほのめかす程度の出演となっております。(一部は最後の方に出演しますが……)
※感想欄に展開予想(オリキャラの能力予想や伏線についての言及等)を書くのはご遠慮ください。
※クソッタレな世界です。


第一章 光と影 Connecting_the_World.
Prologue


 風の渦が逆巻くような音が耳に入ってきた直後、垣根帝督の体に、重い衝撃が走った。

 

「……っ」

 

 痛みはない。

 だが衝撃によって僅かにバランスを崩してしまい、身体がよろめく。

 視界に映るのは徹底に破壊され尽くしたATMの残骸と、その中から出てきたであろう天使の羽の如く舞い散る紙幣。

 

「……、」

 

 覆い隠された視界の中、垣根帝督は声を聞いた。

 

「シケた遊びでハシャいでンじゃねェよ、三下が」

 

 聞いた事のない声。

 だが、垣根帝督には声の正体が分かる。

 自分をこうまでイラつかせてしまえる声の主など、もはや決まっているも同然だったからだ。

 飛び散る紙幣の隙間から、声のした方へと視線を送る。

 

 そこにいたのは、白い少年。

 しかしそれは、何処となく澱んだような。

 清潔さを感じさせる白ではなく、歪みを覚える白。

 

 一方通行(アクセラレータ)

 

 

 学園都市最強の超能力者(レベル5)

 あらゆる『ベクトル』を操り、指先ひとつ触れただけで人体を破壊し、文字通り世界を滅ぼすことすら可能とする者。

 

 そんな存在を前にして――

 

「……はっ」

 

 ――しかし垣根帝督は笑っていた。

 

 とてもこれから最強と殺し合いを演じるような人間が浮かべるとは思えない笑み。

 彼の表情を敢えて言葉に表すのなら、ようやくといった言葉が相応しいのかとしれない。長年探し続けた秘宝の在り方を、見つけた瞬間のような、様々な感情が織り交ぜられた笑み。

 

 一方通行はおろか、傍からも今の垣根の表情は紙幣が邪魔で見えないだろう。

 

(だから何だって話ではあるが……)

 

 今の表情を見られたいなどとは思わないし、見せる気もなかった。

 

 やがて彼の周りに舞い散っていた紙幣は風に飛ばされ、垣根帝督の身体から離れていく。

 

「痛ってえな」

 

 顔から一切の笑みを消し、聞くものが底冷えするような声で、垣根帝督は一方通行(アクセラレータ)へ向けて言い放った。

 不遜な態度を崩さず、両の手をポケットに突っ込んだ状態で、垣根帝督は一方通行(アクセラレータ)と向き合う。

 

「流石第一位、大したムカつきぶりだ。やっぱテメェからブチ殺さなくちゃダメみてえだ」

 

「笑わせンなよ、三下。ハンデを求めたチキン野郎が、何をほざいてンだ。あのガキを狙って俺の力を弱くさせようなンて手段を選ンだ時点で、もォ戦力差は決まってンだよ」

 

「バッカじゃねえの。そいつは保険だよ。誰がテメェみてえなクソ野郎相手に五分五分の戦闘なんか仕掛けるか。面倒くせえっつってんだ。テメェにそこまでの価値があるとでも思ってんのか」

 

 学園都市の第一位と第二位。

 学園都市において――いや、全人類の中でも頂点に位置する者たちは、隠蔽などに気を配る事なく殺意を振り撒く。

 

 誰も悲鳴を上げることすら出来ない。

 声を上げてしまった瞬間、災厄の引き金を引いてしまうような感覚に陥って、指先ひとつ動かす事すら叶わない。

 

「にしても、流石は『滞空回線(アンダーライン)』。予想以上に早いご到着だ。わかってはいたが、アレイスターのクソ野郎はよほど『計画(プラン)』にご執心らしい」

 

「あァ?」

 

 突然の独り言に一方通行(アクセラレータ)が怪訝な声を上げるが、垣根は取り合わなかった。

 侮蔑すら込めた視線を向けながら、彼は口を開く。

 

「笑えるな、犬野郎。そうしていれば、善人になれるとでも?」

 

「……ちょうどイイ。悪党にも種類があるって事を教えてやるよ、三下」

 

 ――刹那。

 轟音が、学園都市中に鳴り響いた。

 

 一方通行(アクセラレータ)と垣根帝督。

 二人の怪物が、真正面から激突した音だ。

 

 空間が悲鳴を上げる。

 激突によって生じた衝撃波が、あたり一帯に撒き散らされる。

 人々はなぎ倒され、街路樹が根元から折れ、オープンカフェの椅子や机が吹き飛ばされ、ビルのガラスが木っ端微塵に砕け散る。

 

 激突の結果は明らかだった。

 

 垣根帝督は後方へと凄まじい速度で吹き飛ばされ、一方通行はその場に無傷のまま君臨する。

 垣根帝督の体が後方にあったカフェの中へと突っ込んでいく。内装を突き破っていく音が、あたりに響いた。

 

 だが、

 

(――は、ははは)

 

 今の激突は、敗北したというのに。

 垣根帝督の顔に浮かぶのは、凄惨なる笑み。

 

(はははははは!! くっ――はははははははははッ!! はははははははははははははははははははっ!!)

 

 空気を切り裂くような音と共に、垣根帝督の背中から六枚の翼が飛び出した。

 

『――――――――――――』

 

 頭の中で繭のような形をイメージし、翼を動かしていく。自身の身体を完全に包み込む事で、衝撃から身を守る。

 

「……、」

 

 自身の身体に異常がない事を確かめながらゆっくりと翼を羽ばたかせ、垣根帝督は戦場へと舞い戻った。

 その顔に貼り付いているのは、余裕の笑み。

 

「……、」

 

 対する一方通行は垣根の背後の翼を見て、眉をひそめながら口を開いた。

 

「……似合わねェな、メルヘン野郎」

 

「……、」

 

 その言葉に対して、垣根帝督は。

 

『――――』

 

「心配するな」

 

『――――』

 

 ………………………………………………………………………………………………………………………。

 

「自覚はある」

 

 第一位と第二位。

 二つの怪物は、轟音と共に再び激突した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『とある過去の未元物質(ダークマター)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園都市。

 東京都の三分の一ほどの面積を誇り、人口の八割が学生という所謂、学生の街。

 街の周りは『外壁』と呼ばれる巨大な壁で覆われており、外の世界とは完全に独立した空間。外より技術は数十年ほど進み、超能力開発と呼ばれる特殊な技術を使用されるそこでは、超能力者と呼ばれる存在がごく当たり前に存在している。子供たちにとっては、憧れや羨望を抱いてしまうような街だろう。

 故に、学園都市の外にいる者で、学園都市に行きたいもしくは行かせたいと思う人間は多く存在する。自分がもしかしたら、超能力者になれるかもしれないという希望を胸に抱く子供達だ。

 奨学金制度も充実しており、家庭に優しいシステムなので、親からも子供を預けやすいのもポイントだ。

 

 

 そんな街の、とある一角。

 

 

 人の行き交う雑踏に紛れ、一人の幼い少年がぼんやりと空を眺めていた。

 

「……」

 

 少年の名は、垣根帝督。

 

 学園都市の中でも極めて優秀とされる、大能力者(レベル4)の少年だ。

 そんな彼は()()()黒いランドセルを背負った状態で、とある人物を待っていた。

 

(……遅い)

 

 少年がここで立ち止まってから、既に十分以上の時が経過している。

 多感な年頃であるこの時期の少年少女にとって、何もせずに待つという行為は退屈でしかない。垣根もその例には漏れず、もう先に学校へ行ってやろうかとすら思い始める程に退屈だった。

 苛立ちから思わず舌を打ちそうになる――そんな時だった。

 

「ていとくーん」

 

 垣根の耳にかわいらしく、そしてやけに間延びした声が響く。

 垣根が待っていたのはその声の主なのか。ようやく来たかとばかりにため息を吐き、彼は声のした方へと顔を向けた。

 

 ――声の主の正体は、垣根と同年代だと思える年齢の少女のものだった。

 

 日本人らしい綺麗な黒髪を肩口の辺りで綺麗に切り揃えた髪型に、クリッとした丸い瞳。服から覗かせるのはシミひとつない白磁のように白い肌、と将来は美少女になる事間違いなしといった風貌の少女。

 

 少女の名前は、長谷川燕(はせがわつばめ)

 

 垣根の待ち人である。手を振りながらゆっくりとこちらに向かってくる燕の顔を見るなり、垣根は眉をひそめながら一言。

 

「遅い」

 

「……え?」

 

「え、じゃねーよ。俺ここで十分以上は待ってたぞ!?」

 

 そう叫びだした垣根に、「そ、そんな!?」と驚愕に目を見開く燕。漫画ならば、彼女の背後では落雷が起こっているであろう。

 垣根がそのままジトっとした視線で見つめると、じわじわと目に涙を溜めて嗚咽を漏らし始める。庇護欲を掻き立てる弱々しい姿を見ては罪悪感しか残らず、垣根は大きくため息を吐いた。

 

「……いや、なんでもない。おまえは普通に間に合った。俺が少し早すぎたんだ」

 

「よ、よかったぁー」

 

 心底安心した、とばかりにホッとため息を吐く燕に、垣根は内心でうな垂れた。

 どうにも、この少女は苦手である。

 なんていうか、勝てる気がしない。調子を崩されるというかなんというか、垣根は彼女に強く出れないでいた。

 

「じゃ、行きましょう」

 

 そんな風に悩む垣根とは対照的に、燕はひたすらにマイペースだった。

 垣根の手を取ると、学校に向けて歩き出す。後ろから付いてきている垣根がぎゃーぎゃーと何か叫んでいるが、彼女は鼻歌を歌いながら学校に向けて足を進めた。

 

「お前は俺を莫迦にしてんのかっ! 自分で歩ける! 自分で歩けるから!」

 

「ほぇ? でもこの前せんせいが、ともだちは手をつないで歩くって……」

 

「それは集団下校の時だけだ!」

 

 垣根が言葉を捲し立てるが、少女の理解は垣根の考えには及ばなかったらしい。

 首を傾げると、何が嬉しいのか楽しげに笑ってまた学校へと足を進める。垣根はもうどうにもならないのだと悟り、天を仰いだ。

 

 

 

 

 ♦︎♦︎♦︎

 

 

 

 

 

 垣根帝督は優秀な能力者だ。

 同年代の子供は勿論、既に学園都市で鍛えている学生たちと比べても、頭がひとつやふたつ抜けているほどに。

 能力開発を行ってから初めての検査の結果、彼の推定能力値は大能力者(レベル4)

 能力の内容は科学者たちにもまだ解明出来ておらず、垣根の演算能力もこれから上がるであろうという見込みから、最も超能力者(レベル5)に近い少年とすら言われている。

 

 所謂、天才だった。

 

 天才だともてはやされた垣根は、当然だとばかりに振る舞った。

 自分は選ばれた人間なのだとばかりに、自由気ままに彼は過ごしていた。

 その行為を咎める大人は、いなかった。

 

 そんな彼に他の能力者から向けられる視線は、負の感情を孕んだ物。同年代は勿論、年上からも忌々しげな感情を視線に乗せられ、垣根はぶつけられてきた。

 

 おそらく嫉妬だろうな、と垣根はなんとなしに当たりをつけていた。

 

 当然だろう。学園都市は、良くも悪くも学生の街だ。

 その待遇やらは能力の強度で決まり、無能力者の一部はゴミのように扱われる事すらある。

 

 垣根は彼の持つ能力の特異性から、珍しい能力者を多く集めた施設に通っていた。

 それ故、希少性と強さを兼ね備えた垣根はさぞ疎ましかったのだろう。

 中にはボロ雑巾のように扱われてきた能力が希少なだけの低能力者もいたのだか。

 

 くだらないと見なした学校はさぼり、基本的に施設で過ごす毎日。大した努力も労力も必要なく、彼の能力の強度は日に日に増していく。

 彼に向かう負の念はその都度に増え、やがては暴力に訴えようとしだす者まで出てきた。

 

 だが、垣根はそんな暴力を鼻で笑って蹴散らすだけの実力を兼ね備えていた。

 垣根の能力は希少性に強度――そして、殺傷能力も高かった。

 

 死なない程度に適当に痛めつけて、それでお終い。

 圧倒的な実力差を前に、向けられる視線は怯えに変わり、ついに垣根の周りには人がいなくなっていた。

 

 

 そんな時だ。

 

 

 垣根帝督が、彼女と出会ったのは。

 

『はじめましてっ。長谷川燕と申しますっ!!』

 

 研究所に来るなりそんな挨拶を宣った彼女に、垣根を含めた能力者全員が、ポカンとした間抜け面を晒す。

 そんな周りの様子に困ったような笑みを浮かべながらも、少女はぺこりと頭を下げた。

 

『……ハッ』

 

 ――すぐに潰されそうなやつだな、と垣根は思った。

 

 彼女の能力は知らないが、ここに来た以上ある程度以上に珍しい能力なのだろう。

 そしてここは垣根が知る限りでは、他者を蹴落としてでも上にのし上がろうとする連中が多い。多いといっても、それは垣根視点の話だが。

 そもそも、垣根はこの研究所にいる学生を把握していない。把握しているのは、自分に絡んできた連中だけだ。

 

 そんな彼らが一体どんな闇を見たのかは、実力を持つ側である垣根には知らない事ではあるが。

 

 どちらにせよ、燕という少女とここは縁が遠そうに見える。

 今も屈託無い笑みを浮かべながら、近くにいる少年少女に握手を求めながら挨拶をしていた。

 その少年少女の顔は、垣根にも見覚えがあった。

 確か、一番初めに垣根に絡んできた莫迦である。ある程度プライド高そうだったし、差し出されたその手をどうするのか、垣根は少しだけ興味を示した。

 

(くく、払いのけるか?)

 

 善意を仇で返すが如くの所業、とまではいわないが、友好を求めた燕としては相当応えるだろう。

 思わず、といった風にこれから起こる事に喜悦の入った表情を浮かべてしまう。

 

(まっ、これに懲りたら少しは現実を――)

 

 顔を見合わせた少年少女が、燕の方へと向き合う。これから燕の身に起こる現実を思い、より一層垣根は笑みを深め――――現実は、垣根の予想とは大きく異なった。

 

 手を差し出しれた少年少女は戸惑いながらも、彼女の手をおずおずと取り、垣根がいままで見た事のないような表情を浮かべたのだ。

 

「――――」

 

 それは、垣根にとってはありえない光景。

 仲睦まじ気に笑う三人の輪に、少しずつ人が集まっていく。

 ポツンと残された垣根は、

 

 垣根は、

 

 垣根は、

 

 垣根、は。

 

 ……。

 

「ふんっ」

 

 不機嫌そうに鼻を鳴らし、垣根は研究所の奥へと踵を返す。

 少女――燕が待ってください! と慌てたように制止の声をかけるが、垣根は知った事じゃないとばかりに振り返る事なく歩みを進める。

 やがて声が聞こえなくなるほどに離れたところで、垣根は足を止めてポツリと言葉を漏らした。

 

「……くそっ」

 

 壁を拳で殴りつけ、垣根は忌々し気に先の光景を脳裏に浮かべていた。拳から血が垂れるが、垣根は気にも留めない。ただ胸中に浮かんだナニカに、苛立ちを隠せないでいた。

 その感情(ナニカ)の正体を、天才である垣根は――知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 これは後に学園都市の闇に堕ちる男が、努力や希望を信じるガキだった頃の物語。




吉田の作品を見たことある方は作風の違いに吉田ついに錯乱したかと思うかもしれませんが、吉田は至って正常です。

正直禁書読者さまなら想像が容易であろう理由で書ききるのが辛かったりしますが、精神が死なないように頑張ります。

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