モンスターハンター 紫煙の狩人 第二回アンケート実施中   作:蜘蛛の意図

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だいぶ遅くなりましたが投稿します。
進級テストマジきつかった……。


紫苑の荼毘、敗走の迅竜に『力』を見せつける

 

ーーー山紫水明の地にて、白き霊獣、雷電と共に現れんーーー

 

これは龍歴院ハンターズギルド周辺の村や町に伝わっている古歌の一節である。これが表わすモンスターは世界中にただ一匹しか存在しない。

 

その名は、古龍種目幻獣キリン。いかなる場所であろうとも天地を焦がすすさまじい雷を発生させることができる現と虚の境目いるといわれる人の想像を超越したモンスターである。地方によっては神として扱い恐れ敬う地方も存在し、たった一体で国を一晩足らずに壊滅させたという伝承さえ残っている。

 

のだが、

 

「もう信じらんない!!そりゃ貸してもらった上物っぽい装備にはあんまり文句言いたくないよ、でもさ?!これ明らかに怪しい店の情婦じゃん!!これ作った加工屋がエロいの、元になったモンスターがエロいのどっちなの?!私はなんとなく後者だと思う、いや知らんけど!!」

 

………キリンはもう泣いてもいいと思う。

 

 

「……僕がクエストに行ってからまだ半日もたってないはずなのにひどい荒れようだね」

 

「ひっひえーー……血ミドロフィーバーにゃぁ……」

 

飛行船に乗り空に揺られること約1時間と少し、クエストフィールドの古代林にシエン、ユカリ、そしてテノアはたどり着いた。古代林はその名前の通り、まだモンスターの先祖と言われている”恐竜”と呼ばれている生物が生息している時の名残を色濃く残している自然豊かな大地であるが、この時の印象はそれとはまったく違っていた。

 

牙や爪によって抉られた大地、無造作にへし折れた長大樹、そして、首が切り飛ばされた首鳴竜リモセトスの死体とそれによって体外に出たと思われるおびただしい血痕。もはや猟奇的殺人現場といった方が似合うようなありさまだった。

 

「”荒れた古代林”……確かにそういうのがふさわしい場所だね、ここは」

 

「ちょっと待ちなさいよぉ!!」

 

すると、後方からややヘタれた声のテノアが小走りで走ってきた。さっきまでは鎧がどうだ布面積がどうだと言っていたがもうそんなことは言っておらず、と言ってもこれはこの異常な惨状の狩場に面食らっている装備のことが頭の中からすっぽりと抜け落ちているだけかもしれないが。

 

「この狩場結構暗いし完全スプラッター現場だし、”これ”も結構重いんだから!!」

 

そう言って彼女がシエンに見せたのはギアノス素材で作られたテノア愛用のライトボウガン……ではなく普段使っているものの二倍は大きさがあると思われる毒怪鳥の翼を模したシールドをつけられた紫色の特徴的な形状をしたヘビィボウガン「タンクメイジ」だった。

 

これは飛行船乗り場に行く前にシエンから渡された武器であった。強化はほとんどされておらず新品同然だったがテノアはシエンに狩りに同行する条件としてユカリが持ってくる防具とこの武器を装備することを言われた。始めはテノアは防具はともかく使い慣れていない武器で戦いを挑むのは危険だといったが、シエンの有無を言わせない態度に負け、装備しているのだった。そんなハンターにあるまじき軟弱さを見たシエンは当然ため息をつく。

 

「……全く、先が思いやられるよこれから狩猟対象を探しに行くというのにさ」

 

「テノアさん!!本来草食種の楽園ともいえるこのエリア1がこの有様にゃ!!もうどんなところでモンスターが襲ってきても不思議じゃないにゃ、もっと警戒心を持つにゃ!!」

 

「……くっ、言ってることは正しいのに認めたくない………!!生の特選ゼンマイ食いながら説教してくるようなオトモに自分がハンターとしての心構えで負けているとか、ホントマジで……!!」

 

大きく立派なゼンマイを食べながら濃い黒と紫色をを基調色とした鎧を付けたアイルー、ユカリに説教されてひとしきり悔しがると、シエンの方を向いた。

 

「で、どうするの?手分けして探す?」

 

「……本来はそうするが今回はそうする必要はないみたいだね、ほらあれを見なよ」

 

「ええ?あの黒っぽいキラキラはいったい何……?」

 

望遠鏡をのぞいていたシエンが指差した古代林で最も広大なエリア6に行く道の近くに何か光るものを見つけたのでテノアがそれを見に行くと

 

「!!これって……なんかのモンスターの鱗?!それに毛みたいのも付いてるけど、ここまで立派なのって、まさか…!!」

 

悠々と歩きながらシエンとユカリもテノアが調べていた場所に到着した。

 

「十中八九、数少ない体毛を持つ飛竜、迅竜ナルガクルガだろうね。そしてこの出来てまだ時間がたっていない足の引きずった跡………」

 

「ご主人……それってつまり………!!」

 

ユカリはさっきまで出していたのほほんとした感じをまるで感じさせない緊迫した口調で自らの主人に問いかける。しかし、シエンはそれが日常とでも言わんばかりにいつも通りの口調でこう断定した。

 

「おそらくまだこの先に、いるね。このクエストのもう一体の討伐対象、臨戦の迅竜が」

 

 

『(ハァーハァー……!!くそ、今日はいったいどういう厄日だというのだ……!!)』

 

広大なエリア6の中部に一体の飛竜がその息を大きく切らしていた。竜種が持つ鱗とは別に体に生えている黒い体毛、飛行能力よりも地上での機動能力を重視された刃のような翼が付いた前足。そしてしっぽに生えている棘。

 

そう、密林の飛竜、ナルガクルガだった。しかしこの体はぼろぼろで特に左眼はつぶれ尻尾は先端分は引き裂かれており致命傷、とまではいかなくともかなりの傷を受けていた。

 

『(あの小僧、まさか俺をここまで弱らせるとは……!!はっきり言って実力が違いすぎる………!!)』

 

ここまでの傷を受けたのはおよそ今から10分ほど前に遡る。このナルガクルガはこの下位の古代林のモンスターの中では相当長寿の個体でありモンスターの中では知能もなかなかある個体だった。彼は現在この古代林で起こっている異常事態に気づきその原因であるティガレックスを粛清しようと考えていた。しかし結果としては手も足も尻尾も出ずに返り討ちにされてしまった。明らかに自分を超える力、俊敏性、そしてどれだけ傷を負っても決して怯まない悍ましいほどの精神力。はっきり言って完全にナルガクルガはティガレックスに対して敗北を認めてしまっていた。

 

『(とにかく今は回復して奴が眠ったところを夜襲するしかない……!!どこかに、どこかに肉はないのか…?!………ん?!あれは……)」

 

ナルガクルガはさっき自分が這って逃げてきた方向からモンスターとは決定的に違うにおいが漂ってきた。それは、

 

『(これは、人間……いや狩人の匂いかっ!!)』

 

そして、迅竜は咆哮を上げる。あの狩人たちを喰らい、今度こそあの轟竜を殺す。その決意を自身の疲弊した体に今一度教え込ませ鼓舞するように。

 

 

「おっと気が付いたようだ。よし作戦通りに行こう。『一分三十秒以内』にナルガクルガを討伐する。二人とも所定の位置に」

 

「わ、わかったわ!!」

 

「了解にゃ!!ご主人!!」

 

遠目で見ても傷ついてるのがわかるナルガクルガがこちらの存在に気づき咆哮を上げながらこちらに向かって猛突進してくるのを見てシエンは装備を展開しながら二人に指示を出す。二人は緊張と恐怖が内在した表情だったが二人ともシエンの後ろの延長線上に身を低くして待機する。そしてついに、

 

ガキィィィィィン!!

 

っというナルガクルガの爪とシエンのガンランス「オルトリンデロゼ」の大型の楯がぶつかる轟音が鳴り響いた。かなりの衝撃が来たはずだがシエンは全く怯まず右手で持つガンランスで突き上げ攻撃を繰り出し、そしてそのまま上空に向かって狼煙を上げるように砲撃を繰り出すと彼は静かに宣言した。

 

「さぁ。……一狩りしようか、全員散開」

 

その合図と同時にテノアとユカリは全速力で左右別々の斜め前方に走って行った。そしてナルガクルガの後方付近に来ると二人とも武器を展開し始める。テノアは右後方からタンクメイジに予め装填するように言われていた弾丸をナルガクルガに向かって発射し始め、ユカリは左後方から武器のブーメランを使って攻撃を開始していた。ナルガクルガは後方からの攻撃を鬱陶しく思っていたがそちらの方向を向くいことができなかった。なぜなら、

 

「おいおい、僕じゃなくて豆鉄砲やアイルーのブーメランの方向を見ようとするなよ、寂しくなるだろ?」

 

他の一人と一匹の方向を向こうと何度も攻撃を加えつつ方向転換するがそのたびにシエンは攻撃を払い反撃しながら常にナルガクルガの前方を陣取ってくる。さらに紫色のガンランスと砲撃に含まれる猛毒のせいで徐々に弱っていき、抵抗する力がどんどん失われていく。さらに、それに追い打ちをかけるように、

 

『ぐがぁぁぁぁっ!!』

 

突如、ナルガクルガの体が痙攣し始めその動きを止めた。今までテノアが撃っていたのはモンスターを一時的に動けなくする麻痺弾だったのだ。

 

「やった、麻痺成功!!」

 

「よし。そのままある程度近づいてベースキャンプで教えた散弾のしゃがみ撃ちをしろ、ユカリは鬼人笛を吹け」

 

「……マジで?!ホント軽く言うわね……!!」

 

「わっかりましたにゃぁ!!」

 

「さてと……それじゃ、仕上げにかかるか」

 

二人が指示通りに動きだしたことを確認すると、ナルガクルガから見て左前方、ちょうどテノアの対角線上に移動しそして右手で持つガンランスを使い

 

ザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザ「1秒経過」クッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザク「2秒経過」ッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザ「3秒経過」クッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッザクッ

 

と、ナルガクルガの左側の頭部、胴体前部、前足部の近位付近を連続して猛毒を帯びたランスで突き切り裂いていった。そのスピードは鬼人笛での能力の底上げがあっても考えられないようなガンランスの速さではなくむしろ双剣を連想させる怒涛のラッシュだった。ナルガクルガは自分の命が削られている感覚を感じたが、未だ麻痺が効いているせいで逃げることも、断末魔を上げることもできない。

 

「4秒経過……そろそろだな。二人とも、避難しろ」

 

「「!!」」

 

最初の時のように突き上げでラッシュのフィニッシュを与えてから上に向かって紫色の死の砲撃を発射した。それを見た二人はすぐさま武器を戻して遠くに走って行った。まるでなにかから逃げるように。ナルガクルガは痙攣し動かない体で唯一動く眼球を動かして追おうする、後ろで逃げるメスの狩人とアイルーを、自分を殺そうとする自分等及びもつかない狩人の皮を被った死神を。しかし結局見つけることはできなかった。彼は視界がつぶれている左眼側にいるのだから。

 

「……眼がつぶれている方でこれを放つのはせめてもの僕の慈悲だ。相手がモンスターといえど必要以上の恐怖を与える気はない」

 

シエンは冷徹に告げてガンランスと楯をしっかりと構えガンランスの大砲部分にエネルギーをきっかり5秒溜めて全てを灰塵に変える紫炎の大爆撃を、放った。

 

「竜撃砲、発射………!」

 

どおおおおおおぉぉぉぉおおおおおお----んん!!!!!

 

『ご、があああああああああああぁぁぁぁぁぁああああああああぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー』

 

麻痺からついに解放された迅竜の溜めに溜めた死に際の断末魔が大きく鳴り響いた。


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