新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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「ねえ、海男」

 

「なんだい?」

 

「うずめ、笑うようになったわね」

 

「君もだよ」

 

不意うちに気を取られ海男を見ると、彼自身も柔らかい微笑みを見せる。

 

「君も良い笑顔を見せてくれるようになった。ねぷっちとぎあっちが来るまでは、君たち二人は眉間にしわを寄せていたからね」

 

「そう……かしら?」

 

海男はこう言った。

ネプテューヌとネプギアが来るまでは。

来なければ、わたし達の額には溝が刻まれていたに違いない。

 

私が無力だから。

 

「おーい、イヴ」

 

海男との話を中断し、先を歩いていたうずめたちと足並みをそろえた。

 

ジングウサクラ公園という、その名の通り綺麗な桜が咲き乱れる大きな公園だ。

目移りしそうなほど魅力的なこの場所は、仲間たちが見つけてくれた場所。

といっても観光に来たわけでもない。

 

「この国にも、まだこんなにきれいなところが残ってたんですね」

 

「シェアクリスタルがある場所だけ、だけどね」

 

ここ以外にも、限られてはいるが綺麗な場所はある。

とはいえ、それは日に日に無くなっていっている。

女神の守護の力が弱まっているからこそ、土地が無くなっているのだと、私たちは推測した。

弱くなった原因は、女神の力のもとである信仰心、ひいては人間がいないことだろう。

各地で取ることのできるクリスタルは、かつて存在した人間の信仰心が残ったものだと結論付けていた。

 

そんな状態のこの世界の唯一の女神、うずめがいなくなれば、つまりこの国が滅びてしまえば、世界は終わりを迎える。

 

「そんなこの世界にあえて名前を付けるのであれば、『零次元』だろうか」

 

一通りの説明と推測を海男は一度深呼吸をする。

 

「この場所が自然豊かな理由、それは、この森がシェアクリスタルの影響を受けていて、まだ死んでいないからさ」

 

「ざっくり言うと、綺麗な場所ってことは、シェアクリスタルがあるってこと」

 

「じゃあ、ここのシェアクリスタルを持っていったら、この森枯れちゃうの?」

 

ネプテューヌの疑問に私も海男も頷いた。

一度澄んだ湖を見つけたことがあり、そこのクリスタルをすべて持って行ったことがある。

そしてそこは数日で枯れてしまい、いまは見る影もない。

 

「けど、こういう場所は貴重だからね、全部はもっていかないようにしている」

 

「よかったぁ。それなら、今度お花見に来れるね」

 

「お、お姉ちゃん……。海男さんが重い話してたのに、そんなこと考えてたんだ」

 

「わかってないなー、ネプギアは。こういう切羽詰まった状況だからこそ、お花見みたいな日常的な娯楽が大事なんだよ」

 

にっと笑うネプテューヌを見て、うずめは笑顔で頷いた。もちろん私も海男もだ。

今のこの状況に絶望するより、目標や夢を持って進んでいく方が今の私たちらしい。

 

「…そうだな。デカブツを片付けたら、祝勝会もかねて花見に来るのも悪くないな」

 

「そのときはカラオケマシンでも作るわ」

 

「カラオケ?」

 

「ええ、うずめ歌上手いのよ。More Soul~♪ってね」

 

「うわあああああ!!ちょちょちょ、ちょっとイヴ!!」

 

失墜の底にあった私を元気づけるために、うずめや海男、そして他のみんながカラオケ大会をしてくれたことがある。もちろんそのときは機械はなく、周りの手拍子に合わせてという形であったが。

そのときのうずめの歌は今も覚えている。

まさに今の状況にぴったりの元気が出る歌、うずめの力強い声。

CD出したら売れるんじゃないかしらね。

 

「へ~、これはますます楽しみだね!」

 

赤面するうずめを引きずりながら、私たちが先へと進むと、見知った顔がずらりと並んでいた。

大小、そして色鮮やかなたくさんのスライムたちである。

 

「やあやあ、うずめ、イヴ。ひさしぶりぬら~」

 

「おおっ、ぬらりんじゃないか。久しぶりだな」

 

「久しぶりね、ほらほら」

 

「ぬ、ぬらん、いつも通りのテクニシャンヌ……」

 

頭を撫でると、うっとりとした、というよりだらしない顔でぬらりんと呼ばれた水色のスライムが答える。

スライムたちはこれが好きらしい。特にぬらりんは相当お好みらしく、ことあるごとに頑張っては要求してくる。

いや、まあ別にこれくらいいつでもしてあげられるんだけども。

 

「あなたたちが見つけてくれたのかしら?」

 

「そうぬら~、あ、そこもうちょい……」

 

「もうシェアクリスタルは見つけたのか?」

 

「あ、あっちぬら」

 

シェアクリスタルという単語に即座に反応して、キリッとした顔に戻ってぬらりんたちは先を案内した。

 

歩いて少し、きっと人がいたころは花見で盛り上がったであろう、桜の木に囲まれた広い地にたどり着いた。

その真ん中、今まで見たことのある最大のクリスタルに劣らないほどの結晶がそこにはあった。

 

 

「おーっ!間違いねえ、シェアクリスタルだ!」

 

「しかも、この大きさ……どう見る、イヴ?」

 

私は両手では収まらないそのクリスタルに近づいて、しげしげと観察した。強く放つ輝きは思った以上のものだ。

 

「じゅうぶんすぎるわね。ダークメガミといえどもまるまる取り込めるはず」

 

「やったぜ!やっとあのデカブツを倒せるんだな!」

 

 

そうやって喜んだのもつかの間、突然地鳴りが響いた。

私たちは姿勢を崩して、地面に手をついた。

 

この地鳴りは……嫌な予感がするわね。

 

「な、なななななななにごと!?」

 

ネプテューヌの驚愕に呼応するように地鳴りは激しくなり、地面から生えてくるかのように目の前にダークメガミが現れた。

目の当たりにすると、やはり巨大だ。見下ろしてはいるが、すぐに動きそうな気配はない。

 

「出たわね」

 

「狙いはうずめか、それともこのシェアクリスタルか」

 

「どっちでも構わねえよ。むしろこの展開、願ったりだぜ!」

 

そうだ。あれさえあれば、私たちでもなんとかできるはず。

だがしかしうずめがシェアクリスタルに触れようとすると――パリンという音が響いた。

 

「っ!」

 

切り札であるシェアクリスタルが粉々に砕け散ったのだ。

地面にバラバラに散らばったそれらの輝きはまだ少々残っているが、今にも消え入りそうだ。

 

「ハーッハッハッハ!いい気味だな、小娘」

 

耳障りな笑い声をあげたのは魔女のような格好をした、妙齢の女性だった。

 

「誰だ、テメェ……!」

 

「そういえば、こうして貴様と会うのは初めてか。……ならば、教えてやろう」

 

魔女は、うずめや私の怒りの表情とは対照の余裕の笑みを浮かべた。

マントをばさっと翻し、仁王立ちになる。

 

「私の名は、マジェコンヌ。ダークメガミとともに貴様とこの世界に終焉をもたらす者だ」

 

私は歯軋りした。

ダークメガミとともに、ということは、こいつが黒幕ということだろう。

会いたかった相手ではあるが、この状況ではむしろ挟み撃ちされた形をとられたといってもいい。

 

「マジェコンヌ!?」

 

「ほう、お前たちは私を知っているのか」

 

魔女の名前にいち早く反応したのはネプテューヌだ。続いてネプギア。

 

「知り合い?」

 

「知り合いって言うか……うーん。腐れ縁みたいな?」

 

「で、でも、私たちの世界のマジェコンヌは滅びたはずだし、もう一つの世界では……どうなってるんだろう、悪さはしてないと思うけど……」

 

どうやらどこの世界でも『マジェコンヌ』というのは迷惑な存在であるらしい。

もちろん、この世界では破滅級に迷惑だ。

 

「さあ、ダークメガミよ、小娘どもを皆殺しにしてやりな!」

 

マジェコンヌが話し合いもなしに、ダークメガミに命令する。

すると、先ほどまで沈黙していたダークメガミがゆっくりと動き出した。

ダークメガミの手のひらに光の玉が現れたかと思うと、そこから大量の火の玉が公園に降り注ぐ。

 

轟音とともに火の玉は地面をえぐり、桜が燃え散っていく。

いくつかの木は倒れ、さらに火が移っていく。

私たちはなんとか避けきったものの、今の攻撃だけで力の差を見せつけられる。

やっぱりフィールドがなければ勝ち目はない。

 

「ちょ、ちょっとたんま!こんなマップ兵器、ルール違反だよ!スポーツマンシップはないのー!?」

 

「ふん」

 

「危ない!」

 

慌てながらも身軽に避けるネプテューヌを無視して、マジェコンヌ自身も光弾を放つ。

ぬらりんたちに向けられたそれを、私は爆裂弾で相殺した。

 

「た、助かったぬら~」

 

少々埃をかぶったものの、ぬらりんたちは無事だ。

私はほっと胸をなでおろし、次の瞬間にはマジェコンヌへ銃口を向けていた。

 

一発放つが、銃弾も爆発もマジェコンヌは生身で簡単に防いでしまった。

 

「くそっ、フィールドを展開するだけの力があれば!俺にもっと力があれば……」

 

ダークメガミからの攻撃を防ぎ、歯を食いしばるだけのうずめが地団太を踏む。

 

「できるわ」

 

マジェコンヌに銃弾を叩き込みながら私は言う。

 

「いまさらここで諦めるわけにはいかないでしょ。この場所を、みんなを守る。あなたにはそれができる力がある」

 

弾倉を交換して、うずめを見る。

燃え盛る闘志は消えてはいない。この世界に絶望なんかしていない。

そんなあなただから……私は……。

 

「あなたを信じてるわ、うずめ」

 

「そうだ、諦めるわけにはいかないぬら」

 

「うずめなら、うずめならきっと何とかしてくれるぬら」

 

私だけでなく、スライヌたちもうずめを信じている。

絶望からくる希望的観測ではなく、うずめなら打破してくれるという信頼だ。

みんながみんな、天王星うずめという存在を信じている。

 

私たちの想いがピークに達したそのとき、うずめの身体が光りだした。

 

「力が……溢れてくる……」

 

うずめの身体を淡く包む光は、シェアクリスタルから感じる暖かい力と同じように感じる。

私やスライヌたちの想いが、シェアの力となってうずめたちに注がれているのだ。

 

「いったいなんで……」

 

私とうずめが同時に言葉を発する。

このタイミングで、モンスターからシェアを貰い受けることができるなんて……。

 

「細かい理屈や設定なんてこの際、どうだっていいよ!まだ、私たちが戦えることに変わりないんだからさ!」

 

ネプテューヌが叫んだ。

彼女たちもうずめと同じく、シェアの光に包まれていた。

そうね。いまは何故を追求するよりも、あるものを使って敵を倒すことが必要なのだ。

 

「行くよ、ネプギア!」

 

「うん、変身!」

 

紫姉妹が手を掲げると、ネプテューヌとネプギアを包んでいる光がよりいっそう輝いた。

シェアの力が女神の姿を変えていく。

 

「女神パープルハート!ここに見参!」

 

幼い面影は残っておらず、凛とした顔つきを相手に向け、すらりとした肢体に紫のプロセッサを纏った女性が現れる。

ネプテューヌだ。いやこれがプラネテューヌの女神、パープルハート。

あまりの変わりように、正直度肝を抜かれたが……

 

「同じく、パープルシスター、ネプギア!女神候補生だからって、甘く見ないでください!」

 

それほど変化のないネプギアことパープルシスターを見ることで冷静さを取り戻せた。

とはいえ、白のプロセッサを纏ったパープルシスターの力は計り知れない。

たたずまいから、あり余る自信と尋常ではない経験を感じる。

 

「……ああ、そうだな。やるっきゃない!シェアがあるならやることは一つだ。変身ッ!」

 

ネプテューヌたちの気合に背中をおされ、うずめもオレンジハートへと変身し、左腕を挙げた。

 

「からの…シェアリングフィールド展開!」

 

左腕に装備された盾からオレンジの光が発せられ、変身の時とは比べ物にならないほどに光が広がっていく。

 

私たちからのシェアはかなりの大きさだったようだ。

それこそ空間を作り出すほどに。

 

光が収まったとき、そこは公園ではなかった。

大きな足場がいくつも浮遊している宇宙のような空間に、私たちは降り立った。

 

シェアの力で作り出したこの新しい空間、シェアリングフィールドはうずめたち女神の力を増幅させる。

だがそれだけじゃない。

 

「ぐっ、なんだこの空間は……何故だ、なぜ力が入らん…」

 

近くの足場にいたマジェコンヌが膝をつく。見ればダークメガミも先ほどの勢いはなくなっている。

二人とも不思議そうに自身の身体を見ているが、彼女らには何が起きているかはわかるまい。

シェアリングフィールドは敵の力を封じる効果もある。

シェアクリスタルを使ったフィールドではないから、いま計算しようがないが、この感じであれば勝つことには変わりない。

 

「イヴ、下がっててね。うずめたちがあのデカブツをやっつけちゃうんだから……」

 

オレンジハートが言うが、私は別のことを考えていた。ダークメガミにかまわずマジェコンヌを睨む。

 

「うずめ!」

 

「う、うん!」

 

オレンジハートは返事をしない私を不思議に思ったが、パープルハートに呼ばれてすぐさま飛び立つ。

直後轟音が響いたが、私は目をそらさずにマジェコンヌと対峙した。

 

「ふん、お前は女神どもと戦わないのか?」

 

「私が行っても足手まといになるだけだわ。それよりもあなたに聞きたいことがあるの」

 

吐き捨てるように言った。

苦々しい記憶が頭をもたげるせいで、ズキズキと痛む。

 

「あなたのその力に、あの攻撃。過去に見たことがあるの」

 

無差別ともいえる攻撃に、破壊という言葉をそのまま現実にしたようなあの跡。

 

「あなた、犯罪神?」

 

先ほどの公園の様子は、犯罪神に攻撃を受けた時の、私のいた世界とそっくりだ。

破壊しつくされ、何もかもが崩壊と風化を待つだけとなり下がってしまった世界に。

 

違う次元に同じ顔や性質を持った者がいることはわかっている。

だがそれはあくまで違う人物だ。

目の前にいるマジェコンヌが私の知っている犯罪神と()()()()であれば、私の心にいまも残る最大の傷だ。

掻き毟らなければ、痒みがひどくなる。

 

「ふん、この空間に閉じ込めたことで優位に立ったつもりか?」

 

つまり、『言うことはない』ということだ。

なら喋らなくていい。

どちらにせよ、こいつを逃がすわけにはいかない。

 

私は右腕のスイッチを押し、マジェコンヌの顔面に拳をいれた。

油断しきっていたマジェコンヌは吹き飛び、足場の端へ着地する。

 

「くうっ」

 

マジェコンヌは恨めしそうにこちらを見て、マントを脱いだ。

 

「人間なんぞに負けはせんぞ」

 

「試してみなさい」

 

マジェコンヌは距離を詰めてくる。

私は左腕にメタルアームを装着、フィットすると同時に突き出した。

マジェコンヌのパンチは左腕に遮られ、私は反撃の銃弾を撃ち込む。

続いて銃身で顎を叩き、くるっと体を回転させて肘鉄を繰り出す。

連続攻撃は予想以上にマジェコンヌへダメージを与えたらしく、よろめいて三歩後ずさった。

 

「貴様……」

 

「この空間は気に入ってもらえたかしら」

 

マジェコンヌに銃を撃つ。

爆発で飛ばされたマジェコンヌめがけて、私は右フックからの左ストレートを与えた。

さらに顔を掴んで放り投げると、マジェコンヌの身体は二回転して無様に地面に激突した。

 

すぐに立ち上がった魔女の手にはいつの間にか長槍が握られている。

憎しみの目を見ると、もう油断は一寸も見られない。

 

ここからが勝負だ、と思ったそのとき、地震でも起きたのかと錯覚するほど空間が揺れた。

 

「はあ……はあ……やった、の?」

 

「ええ。私たち、あいつに勝ったのよ」

 

ずずん、とダークメガミが浮遊する足場に手をついたかと思うと、その巨体は砂のように崩れ去った。

飛んでいる疲弊してはいるが、その顔は満足そうにほころんでいる。

 

「やった、やったー!わたしたちデカブツに勝ったんだー!」

 

喜ぶオレンジハートは紫姉妹とハイタッチをした。

対照に今度はマジェコンヌが悔しい表情を見せる。

 

「くっ、まさかダークメガミが負けるとは……」

 

マジェコンヌは槍を捨て、マントを拾い上げ、体を覆うようにマントで身体を包み込んだ。

 

「待ちなさい!」

 

銃はマントを捉え、見事に爆発したが遅かった。

マントだけが灰になり、マジェコンヌは手品のように消えた。

 


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