新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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12 未完成のパズル

くろめは信じられないものを見る目で、私と刺し傷を見る。

どろりと流れた血は赤くて、液体で……つまり普通の血だった。

どれだけ悪に染まっても、たとえ元女神だったとしても、その身体には私と同じ人の血が流れている。

それを思い知らされて、私は思わず倒れたくろめのそばに駆け寄り、その小さな背中を抱え上げた。

あんな力や絶望が詰まっているとは思えないほど軽くて、暖かい。

等身大の、ただの人間のようだ。実際、そうなのかもしれない。

 

人間に追い立てられ、心が底まで沈んで、自分の存在を消した。

人のマイナスな精神を一手に受けた彼女を悪だと断定できるだろうか。

心次元に来るまで彼女のことを知らなかった私が、くろめのことを悪だと決めつけることができるのだろうか。

迷っている時点で、その答えはノーだ。

 

最初に、うずめが記憶喪失だと聞いたとき、私はそんなこと関係ないと思った。

彼女が私を助けてくれたことは事実だし。零次元の中で必死に戦い抜いていることも知ったから。

だけど、それは間違い。

うずめの良いところばかりを見て、その他を見ないふりをしていた。

もっとうずめを知ろうとして、彼女に寄り添えば、くろめのことだって、その悩みや苦しみだって知ることができたかもしれない。もっと、もっと早くに。

そうなれば、くろめも一緒に、私たちの横で笑っていたかも。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

自分の盲目さと傲慢さが、この結末をつくったかと思うと、後悔で押しつぶされそうになる。

圧迫された感情が、胸を、喉を、頭を締めつけて涙を流させる。

 

「なんで謝るんだ。オレなんかに」

「あなたのことをもっと早く知っていれば、何もかも変わったかもしれないのに……」

 

ぽたりと、くろめの胸に涙が落ちる。

ごめんなさい。

泣きたいのはあなたのほうよね。

人の勝手な欲望によって生まれ、人の勝手な感情で恐れられ、人の勝手な衝動によって敵になってしまった。

 

「これでいいんだ」

「よくない。よくないわよ……」

 

なんでそんなことを言えるのよ。全部、全部私たち人間が悪かったんじゃないか。

なのになんであなたは、復讐があと一歩で叶うはずだったこのタイミングで、そんな優しい笑顔ができるのよ。

 

私はくろめの胸に顔をうずめて、声にならない声を吐き出し続ける。

 

それは、彼女が天王星うずめだからだ。

私の知るうずめと変わらない、誇りと優しさと強さをもった女神だからだ。

 

「なあ、『俺』。オレを倒したからには、『俺』のほうが正しかったと証明してくれ」

 

息も絶え絶えに小さな声で言うくろめに、うずめは頷く。

 

「任せろ。『オレ』が残したものは、全部引き継いで未来へ持っていってやる」

 

うずめの言葉を聞いて、くろめの口角はわずかに上がった。

これまでとは違う、柔らかい顔だった。

 

「ああ、暖かい……」

 

そう呟いて、くろめはゆっくり、ゆっくり目を閉じる。

私が支えていた身体は、砂のように崩れ去って、跡形もなく闇の中へ消えていく。

最初からそこに何もなかったかのように、重さも、体温も、感触も、何も……何も手の中に残らなかった。

 

 

あれだけいたモンスターが次々と消えていく。風にさらわれる砂山のように。

 

「まさか……まさか私がこんな……」

「いや、違う。お前は『私』ではない」

 

マジェコンヌの一言に衝撃を受けた敵マジェコンヌも、その身体を塵に変えられる。

見渡せば、立っているのはぼくたちだけだった。

 

「これって……」

「やったー! 勝ったんだー!」

 

大人ネプテューヌが元気に跳びまわる。あんなに戦ってたのに、よくもまあそれほど体力が残っているもんだ。

 

「そう、なんだよね。勝ったんだよね、ヴァトリ?」

 

息を切らしながらもたれかかってくるビーシャに頷く。

気づけば、遠くからでも見えるダークメガミの姿はどこにもなかった。

やってくれた。女神が、ヤマトが、アイが、ユウが、イヴがついに打ち破ってくれた。

 

「ヤマト……アイ……」

 

端末で通話を呼びかける。しかし、誰も出てくれない。

ここが心次元だから、機械が通じてくれないのか? いや、呼び出し音はしっかり鳴っている。

嫌な予感がして、ぼくは走り出した。

ダークメガミがいたはずの、最終決戦の地へ。

 

 

いつの間にか、ダークメガミの中から外へと飛び出していた。

私を抱えるうずめの身体は、ゆっくりと落下して、ぐったりとなっているみんなのもとへ着地する。

 

「うわっとと」

 

支えてくれる者は誰もおらず、うずめは尻餅をついた。その拍子に落とされて、私も尻をしたたかに打ちつける。

あいたたた、と尻をさすりながら、私は立ち上がろうとして……倒れた。

体力もなし。スーツもなし。義腕は機能しないし、頭も回らない。

けど、今は別にそれでいい。

 

「みんな、大丈夫?」

「大丈夫とは言いづらいな。だけど、生きてる」

 

燃え尽きたように腰を落とすヤマトが蚊の鳴くような声で言う。

だけど、他のみんなは反応してくれない。

倒れたまま、目を閉じたまま、動かない。

 

「おーい、ってすごい倒れてる!」

 

遠くから、ヴァトリと大人バージョンのネプテューヌが走ってくる。

その後ろには女神候補生とゴールドサァドもついてきていた。

 

「ユウ、ユウ、大丈夫!?」

 

ネプテューヌが、ユウを揺らす。

やめろ、吐くぞ。と言いながらユウはゆっくりと身体を起こした。

 

「ほら、しっかり起きて」

「はっ! シーシャ!? なんでここにいるッスか!?」

「敵が消えたから」

 

アイが生きていたことに、シーシャは安堵のため息をつく。

みんなも息絶え絶えではあるけれど、なんとか最悪の事態は免れたようだ。

 

「ダークメガミもくろめもいない……ってことは」

 

シーシャに膝枕されているアイが、顔だけ動かしてあたりを見る。

すっかり静かになった空間で、うずめのシェアクリスタルだけが煌々と輝いていた。

 

「イヴ……どうなったんだ?」

 

ぼろぼろの身体で立ち上がりながら、ヤマトは訊いてきた。

勝利に笑う元気も気力も感情もなく、私は口を開いた。

 

「終わったわ。全部、終わった」

 

ただ、その事実を噛みしめるように繰り返す。

戦いに決着が着き、平和は戻った。

それでいい。それでよかった……んだと思う。

 

 

あれから一週間が経った。

街にもぼくらにも傷は残っているけれど、回復は進んでいる。

あれだけの事件があったのにも関わらず、人々は元の生活を取り戻そうと、徐々に立ち上がっている。

 

「またこっちには来てくれるんだよね、ヴァトリ?」

 

プラネテューヌの教会。最上階のバルコニーで風を浴びながら外を眺めていると、ビーシャがやってきた。

 

「ああ。何年になるかはわからないけど、必ず帰ってくる」

 

ぼくはこれからどうするかをすでに決めていた。

今回の事件では、結局何をしたらいいのか、どうしたいのかを決められないまま戦った。

それは、根底にぼく自身の確固たる考えがなかったからだ。

しばらくはヤマトもアイもいないところで、自分探しの旅とやらをしてみたい。

時には誰かに頼りつつ、頼られながら。

 

「ねえ、次帰ってくるのはいつかはわからないんでしょ?」

「ああ。それに別次元だと時間の流れが違う可能性もあるし……」

 

言い終わる前に、ビーシャがぼくに抱きつく。

 

「帰ってくるのは信じてるけど……これくらい許して」

「ビーシャ……」

「ちょっと待って。もうちょっとだけ……」

 

寂しいのはぼくも同じだ。

甘えてられないとは思いつつも、ぼくも彼女の背中に手を回す。

神次元以外にも、帰る場所がある。ぼくの居場所が、ぼくを待ってくれる人がいる。

ビーシャに振れていると、それが強く感じられる。

世界を救ったんだ。彼女の言う通り、もう少しだけはこうしてるのを許してほしい。

浸りかけていると……

 

ばたん、どしん。

大げさな音が鳴ったかと思うと、扉が開いてネプテューヌたちが倒れた。

その上にはラム、ロム、ユニが重なっている。

 

「あ……」

 

目が合って数秒、気まずい雰囲気が流れる。

そのまま動けずにいるネプテューヌが、てへぺろと舌を出した。

 

「えへへ、さーせん」

「さーせんじゃないよ」

 

はあ、とため息をつく。

恥ずかしいところを見られたからか、ビーシャは慌ててぼくから身を離し、顔を赤くして俯く。

 

「私もいるわよ!」

「私も……」

「ご、ごめんなさい、私も」

 

申し訳なさそうにするロムと謝るユニはわかる。自慢げに言うラムはなんだ。

ようやくそこからどいて最後に立ち上がったネプテューヌは、恨めしそうに見るぼくに対してぶんぶんと手を振った。

 

「し、しょうがないじゃん! 見えるところでいちゃいちゃしてたら気になるって!」

 

確かに部屋とバルコニーの間にあるのは透明の扉だけ。

だがこういう時は見て見ぬふりをするのが大人ってもんだろう。

まったく、保護者はどこいった?

 

 

「世界はすっかり元通りッスね。人間は女神がいるという記憶を思い出して、もちろん国のトップも女神に。信仰もそのまま」

 

ラステイションの執務室で、ノワールの机に腰掛けながら、ウチがくるくると指を回す。

世界の改変はすべてくろめが起こしたこと。それがいなくなれば均衡は戻る。

ここにいないネプテューヌ、ビーシャを除いた姉女神とゴールドサァドは胸をなでおろす。

 

「ああ、黄金の塔は消えたが、ゴールドサァドの力がそのままなのが気になるが……」

「塔自体は祭壇みたいらしいッス。力の源はゴールドクリスタルだから、それがなくならない限りは力も持ったまま」

 

ヤマトに説明するウチの言葉を聞いて、ケーシャが頷く。

 

「ゴールドクリスタルがシェアクリスタルと融合した現時点では、つまり……その……」

「女神がいなくならない限りは、黄金の力は存在したままってことだね」

「エスーシャ、もうちょっと言い方ってものがあるんじゃないのかい」

 

言い淀んだケーシャを継いだエスーシャを、シーシャがたしなめる。

女神の存在、有無はウチらの中じゃすっかりデリケートな話題になってしまった。

まあ、転換期に加えてあんな事があった後じゃ……ねえ?

 

「神次元での同じ座標を調べよう。こっちでも現れる可能性があるなら、先に手を打つ」

「ゴールドサァドは……黄金の塔は、女神の転換期に出現するものなんスよ。国民が現状維持か変革かどちらかを選ぶ時代の象徴なんス。いわば、国にとっては必要なものッス」

 

少し強めの口調のヤマトに、ウチも少し強めに返す。

 

「それを現れないようにするってんなら、国が停滞したままでいいって言ってるようなもんッスよ」

「国が滅びるくらいなら、停滞したほうがマシだ」

「世界改変はくろめ、改変後のいざこざはエコーのせい。黄金の力それ自体は善でも悪でもないッス。そんなことは、ヤマトが一番わかってるはずじゃないッスか。一体どうしたんスか?」

 

心次元の戦いを経て、ヤマトはいつもより冷静さを欠いているように見えた。

長年一緒にいるけれど、こんな彼は見たことがない。

 

ヤマトは腕を組んで、大きなため息を吐いた。

 

「もし、もう一度同じことが起きたら? くろめじゃなく、完全な悪意をもった誰かが力を悪用しようとしたら? それこそ今回以上の大惨事になる。神次元が滅びるかも」

 

彼は唇を噛みしめた。

 

「少しでも火種があるなら、絶やすべきだ」

 

ユウと同じような考え。

それは、ヤマト自身が真っ向から否定した思想だ。

 

「超次元に来た理由はそれですの? 少しでも脅威となりうるものを取り払うため?」

 

そうだ、とヤマトは頷いた。

 

「いいえ、それは違うわ」

 

即座に、ブランちゃんが首を横に振った。

 

「エコーの目的も、くろめのも、超次元だけを狙ってた。あなたたちはその気になれば、神次元に逃げることができたはずなのよ。最初から最後まで、いつでもね」

「それをしなかったのは、私たちのためじゃないんですか? ダークメガミを前にして死ぬ寸前まで諦めなかったのは、超次元ではなく、わたくしたちを助けたかったからではなくて?」

 

ブランちゃんとベールに問い詰められ、ヤマトは俯いた。

 

「神次元に敵が現れて、レイやマジェコンヌ、そうじゃなくても君たちやユウ、イヴ、うずめが犠牲になったら? そうなったら僕は耐えられない。僕にとっては、それは神次元がなくなるのと同じことなんだ。僕の中の世界が消える。それが……」

 

ヤマトは肩を落とし、弱弱しく身体を震わせた。

 

「それが怖いんだ」

 

確かに、ウチらは逃げることもできた。けれど、同時にできなかった。

面識のない超次元のレイを放っておけなかったように、ヤマトは困っている誰かを突き放すことができない。

そんな彼だから、ウチもヴァトリもついていくと決めたのだ。

 

「僕の力が届かなかった。今度はもっと対抗できないような敵が来るかもしれない。そんな時、僕たちはどうすればいい?」

 

ウチは今にも泣きそうになっている彼の肩をぽんと叩く。

 

「それは、ヤマトがいつも言ってるじゃないスか」

 

いつもヤマトにするように、ウチはにっこりと笑って返す。

 

「みんなで戦う。そのためにヤマトがいて、ウチがいて、みんながいる。超次元に助けを求めてばっかじゃダメッスけど、でもヤバいときくらいは甘えてもいいはずッス。ウチらだってこっちを救ったんスし」

 

理想論を掲げる彼に対して、ウチが失望しないのは、ヤマトが強い人だと知っているからだ。

これだけ鳥人が揃っている中で、確かに彼の力は乏しいものかもしれない。

けどそれ以上に、彼の精神が、言葉が力をくれる。諦めない勇気をくれる。

 

「いつでも力になるよ」

「借りは返せてないままだしね」

 

超次元の女神に加えて、ゴールドサァドもいる。

犯罪神、昔の女神、機械軍団に打ち勝った仲間が、こんなにもたくさんいる。

そんなウチらが負けるはずがない。正義は必ず勝つんスから。

 

これまでヤマトの掲げてきた思いを返され、彼はどう思ったか。

それを知らせないまま、ヤマトは足早にこの部屋を出て行った。

 

「彼は納得してくれたと思う?」

「さあ。何年もお堅い考えのままだったから、時間はかかると思うッス。でも折り合いはつけてくれるはずッスよ。ヤマトだから」

 

家族に裏切られて、十年も彷徨って、それでも戻ってきたヤマトだ。

きっと、このくらいじゃへこたれない。

今はそう信じて待つしかない。

 

「あの……イヴさんは?」

 

ひとまず空気が緩んだところで、ケーシャが手を挙げた。

 

「自分の研究室に籠りっきりよ。私も追い出してね」

 

ノワールがやれやれと肩をすくめる。

 

「あちゃー、あの子は大丈夫ッスかねえ」

 

イヴを取り巻く環境と感情は、複雑すぎる。

それこそウチが何かを言っても悪い刺激にしかならないほどに。

 

大親友であるうずめの元々であるくろめを、仕方なく殺してしまった。

んで、親の仇であるユウを殺す直前までいって、でも殺せずに生きている。

殺人を犯したことのないウチには想像もできないような苦悩が、彼女の中で渦巻いているだろう。

 

「大丈夫よ。うずめを行かせたから」

 

ノワールとケーシャだけは、心配のない表情で笑っていた。

 

 

騒がしい教会に妹女神たちを置いて、俺はネプギアと街を回る。

やれ現実改変やらエコー強襲やら、次元融合やらの危機があったことを知らない国民たちは、いつも通りに忙しそうで楽しそうだ。

 

「ユウさんは、ずっと超次元にいるんですか?」

 

いくつか買い物を済ませたネプギアから袋を受け取る。

明日は神次元組が帰る日ということで、今日の晩飯は豪勢なものにしたいらしく、パンパンになっているそれですらまだ一部だ。

リヤカーでも借りてきたほうがよかったんじゃないか。

 

「自分が許す限りはな。エリカとの約束を破ることになるが……」

「約束、破ってばっかりですね」

「帰ってくるっていうのは守っただろ?」

「そうですけど……何年待ったと思ってるんですか」

「あーあ、一番痛いところ突かれた」

「痛いところ、いくつあるんですか」

 

くすくすとネプギアが笑う。

最初はどこか距離があって丁寧すぎるところがあった彼女だが、こうやって遠慮のない言い合いをできるようになって嬉しい。

零次元から戻って来た時でさえ、恐る恐るといったところがあったからな。

 

「やり残したこと、いっぱいあるんですよね。それを否定はできません。壊次元の私のことやエリカさんのこともありますから」

 

『世界を守って』、『戦い続けて』。

二人から言い渡された約束を、俺はまだ大事に守っていた。一度、破ってしまったからこそ意固地になっている部分もある。

 

「でも私たちの、私のことも考えてほしかったです」

「ネプギアのことはちゃんと毎日忘れなかったさ。だけど、そうだな。少しくらいは顔を見せるべきだった」

「そうですよ。寂しかったんですから」

 

どれだけ時間が経ったかを気にしなくなったのはいつ頃だろうか。

変わらない自分の容姿と戦い漬けの日々、異なる時間軸の次元を渡ったせいで、ぼんやりと薄れている。

そんなんだから、こんなに悲しい顔をさせてしまったんだよな。

 

「そういえば、あの時……俺が行くとき、何か言いたがってたよな」

 

かつて犯罪神となったエリカを倒したあと、別の次元に行く直前、ネプギアはそう言っていた。

 

「あ……えっと、それは……」

「あの時の約束通り、聞かせてくれ」

 

顔を赤らめつつ、ネプギアは嬉しそうにはにかんだ。

 

「……ちゃんと覚えててくれてたんですね」

「言っただろ。ネプギアのことは、毎日想ってたって」

「もう。そういうところずるいです」

 

誤魔化すように頬を掻いて、少しだけ顔を背けるネプギア。

しかし、すぐに俺のほうを向いて、じっと見つめる。

道の真ん中なのにも構わず、俺たちは止まって、真っすぐ向かい合って、お互いの目に惹かれ合う。

 

「あの……私は……」

 

なぜだか、人の喧騒が遠くなった。

周りから人がいなくなったのか、俺がネプギアの言葉に集中しているからか。

どっちでもいい。

今の俺は、彼女の顔だけ見えてればいい。彼女の言葉だけ聞ければいい。

 

「いつも自分を犠牲にして、いつも苦しい顔して、いつも傷ついているあなたが大嫌いです。でも、一緒にいてくれて、一緒に戦ってくれて、私が困ったときには来てくれて、私を守ってくれて、私のこと認めてくれたあなたのことが……」

 

すう、と息を吸って、吐く。

潤んだ目に、朱に染まったにこやかな表情。それが太陽の光に照らされて、より一層輝いて見えた。

 

「大好きです」


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