新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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3 合流

ロボットによる不意のプラネテューヌ教会襲撃は、退けはできたものの、そこにいる人たちを傷つけられるという結果になってしまった。

急遽駆け付けたときにはすでにことは終わっていて、全員が合流して、落ち着くことができたのは次の日の夜になってからだった。

 

「場所の特定が済んだ。プラネテューヌの端の端。山奥に隠されてる船だ」

 

ヤマトが通話を終えて戻ってきた。

仲間を頼って、ロボットの残骸から情報を抜き出していたらしい。

 

「さっそく乗り込むか?」

「いえ、準備が必要だわ。対女神の石を持ってる相手よ。今対策する術を作製中。明日の午後にはできると思うわ」

 

イヴが言う。

ラステイションの助けになった彼女曰く、女神がやられっぱなしなのはどうも気に食わないらしく、エコーをボコボコにできる手段を必死で考えたそうだ。

 

「んじゃー、今日は仲良く親睦会でもどう?」

「賛成賛成ッス! 顔合わせが初めてって人もいるッスからね」

 

ネプテューヌの意見に、すぐさまアイが手を挙げる。

そこからの行動は早かった。

瞬く間に宴会場へと案内され、大量の飲み物や食べ物が運ばれる。

飛びつくように、全員が飯にありつく。

ゴールドサァドとの戦いのあと、どこか落ち着かずに、自分を二の次にして街の復興にあたっていたようなやつばっかだったから、無理もない。

わりと多く盛られていたいくつもの皿は、あっという間に片づけられた。

俺はバルコニーに出て、中で騒いでいるメンツを眺めた。

よくもまあ、これだけバラエティに富んだのが揃ったもんだ、

 

「うわあ、ヴァトリって腕カッチカチ!」

「すごい……」

「よし、ぶら下がってみて」

「きゃー!」

「わぁ……」

 

神次元からやってきた三人のうち、俺の知らないたった一人、ヴァトリ。

身長も高く、戦闘に適した筋肉が無駄のないように鍛え上げられている。

それが珍しくて、ラムとロムが腕にぶら下がって遊んでいる。

 

「そう、だから僕はこのシステムで探索と警備を任せてるんだ」

「へえ、それいいわね。私もやってみようかしら」

「ぶーぶー! お仕事の話ばっかりでつまんないよ。ね、ゲームしよ、ゲーム」

「悪いけど、僕は相当強いよ」

「おっ、言ったね。ねっぷねぷにしてやんよ!」

 

ノワールと仕事の意見交換をしていたのは、ヴァトリと同じく神次元から来たヤマト。

女神メモリーが粉砕されたときの余波エネルギーで半身がモンスター化してしまった、元人間。

エディンという国の治安を守るために日々戦っているそうだ。

 

「神次元の私には妹がいないの?」

「そうなんスよ。だからこっちのブランちゃんの話をした時にはもう寂しがって寂しがって」

「そうでしょうね。私にはもう二人がいないことなんて考えられないもの」

「たはーっ、女神にはシスコンしかいないッスねぇ」

 

ブランと仲良さげに話しているのは、篠宮アイ。

神次元の女神で、別名ローズハート。

エディンの守護女神を務めているが、その国はあくまで女神に頼らない国を目指しているそうで、活動はモンスターや力を持った犯罪者の討伐に限られているらしい。

 

「あれだけいろいろあったってのに、切り替えが早いな」

 

俺はひとりごちる。

いつのまにかプロジェクターと据え置きゲームが持ち込まれていて、大会が始まっていた。

 

「けど、悪くありませんね。ユウさんが戻ってきてからいままで、結局ドタバタしてましたから」

 

いつの間にか、ネプギアが隣に立っていた。

超次元に戻ってきてから、少しゆっくりするつもりだったけど、ゴールドサァドの騒ぎがあったし、エコー、そして黒い少女もいる。

トラブルに巻き込まれっぱなしだが、さすがに疲れがたまってきた。

 

「これが終わったらまた旅に出るんですか?」

「この事件がひと段落したら、少しゆっくりしようかと思う」

「本当ですか? じゃあ、また一緒にいられるんですね」

「ああ、お前たちとももっと話したいことがあるしな」

「ふふっ、私もです」

 

屈託のない笑顔を見せるネプギア。

それを見たのは、もう数年前だ。

かつてネプテューヌたちが囚われたとき、協力して救い出し、世界を救って、俺だけは別の次元へと戦いを求めていった。

帰ってくると言ったのに、あまりにも長い時間待たせすぎた。

 

「ネプギア、ユウ! ほら一緒にゲームしよ!」

 

外と中を隔てるガラス越しに、ネプテューヌが手を振ってくる。

 

「行ってこい」

「ゲームしないんですか?」

「得意じゃないのは知ってるだろ。 見てるだけで十分だから」

「は、はい」

 

たたたっと中へ入っていくネプギアを見送る。

こういう日常が必要なんだ。

戦いがなくとも、国を成り立たせるのでいっぱいな女神たちには、こういう瞬間こそ大事にしてほしい。

ため息をついていると、ヤマトがこちらにやってきた。

 

「お前もゲームしてたんじゃないのか」

「交代だよ。あれだけ多いと、コントローラ独り占めはできないさ」

「まあ、確かに大所帯だな」

 

女神九人、人間二人、半分モンスター一人、魔人一人。

最大四人までしかできないあのゲーム機じゃ、全員が一回ずつ参加するだけでも時間がかかる。

 

「その中でも、とりわけずいぶんいい雰囲気じゃないか、君とネプギア」

 

彼は隣にたたずんで、にやりと笑った。

 

「聞いたよ、君のこと。あれだけ慕われてて、帰ってこないなんて薄情じゃないか」

「やることが山積みなんだ」

「積んでるんだろ。わざわざ他の次元まで行って、戦い続けるなんて」

 

旧来の友のような話し方をするヤマトに、違和感は感じなかった。

むしろ俺もそう感じている。

神次元でのいざこざのときと、今回のリーンボックスでの件でしか彼とは会っていないが、警戒を解かせる不思議な魅力がヤマトにはある。

 

「いくつの次元を渡って、世界を救ってきた?」

「五つ」

「もう充分じゃないのか」

「いいや、まだだ。まだ約束を果たしてない」

「いま生きている人間を蔑ろにしてまで果たすことなのか?」

 

なんと言われようとも、俺は自分の考えを変える気はない。

俺のこと、経験してきたことは、ヤマトは知らないから。

 

「それはもう約束じゃない。呪いだよ」

「それでも守らなきゃいけないことだ」

 

 

「ああやって見ると、本当に普通の人間みたいね」

 

遊びに熱中する女神たちを見ながら、私は呟く。

 

「いきなりどうしたのよ、イヴ?」

「ユウよ」

 

同じくゲームの番から外れているユニに返す。

 

「ちょっと変なところはあるけど、ユウだって人間よ?」

「……信じきれないわ。あれだけの力に、空まで飛んで、人間だって言われても……」

「いきなりは信じられないわよね。でも、良いやつってことはあたしが証明するわ。あたしだけでなく、みんなもね」

 

ユニだけじゃなくて、ネプギアも彼には信頼を寄せているようだった。

姉を救う旅で、ともに戦ったのだと彼女たちは言う。

私にはとても、そんな気の置ける人間には見えないけど。

 

「へいへーい! 何話してるんスか?」

 

後ろからがばっと肩を掴んできた少女に、私は驚いた。

 

「わっ……えっと、アイよね? 神次元の女神の」

「そうッスそうッス。神次元の紅い閃光と言えばこのウチ、篠宮アイッスよ!」

 

胸を張り、にっと笑うアイ。

 

「女神に、半分モンスター、ムキムキの人間。かなり異色よね、あなたたち」

「ウチの国には他にオカマもネズミもナス農家もおっさんもいるッスよ」

「後ろ二つは普通の人間じゃない」

「まあまあそんな事より、なんの話ッスか?」

 

私はなにやら外でヤマトと話しているユウを指さした。

 

「あの男よ。あなたは変に思わないの? 明らかに異様じゃない」

「異様……ッスか?」

 

アイは首をかしげる。

 

「そう、見た目も力も悪って感じがするじゃない?」

「うーん、それほど気にしないッスね。力なんて使う人次第ッスから。女神だって、悪にならないとは言い切れないッスし」

 

あっけらかんと言ってみせるアイ。

そうなのかしら。

あの力の由来が何にせよ、果たしてユウにはなんの関係もないのかしら。

 

「ウチやヤマトはもともとネプテューヌたちの敵だったッスし、昔の女神に死ぬ寸前まで追いやられたし。結局、人間だの女神だのって肩書き自体には善も悪もないんスよ」

 

笑った顔のまま、アイはみんなを見る。

彼女の顔も仕草も、ただの少女のようだ。それは、ネプテューヌやネプギアも同じで、私のよく知るうずめもそうだった。

力は強くて、頼りになるけど、笑うのも驚くのも怒るのも人間と変わらない。

偏見をなくせば、ユウのことも普通に見えるのだろうか。

 

「少しは信じられるようになった?」

 

ユニがいたずらっぽくウインクした。

正直、まだ背中を任せられるほどには疑いは晴れていないけど……

 

「そうね。あなたたちがそんなに言うなら、少しくらいは……」

 

戦力としては数えてもいいかもしれない。

この先、私が彼のことを善い人と認められるまで。


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