新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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6 海男救出

私たちがギガスレイモンを倒したのと同時。

ネプテューヌが球型の機械モンスターを真っ二つにすると、ようやく一息つくことができた。

 

「これで最後かな」

 

「そうだね。モンスターもいなくなったし……」

 

ネプテューヌたちが武器を収め、休息に入る間、私は辺りを見回した。

残骸や死骸のせいで、海男が見つからない。

まさか斬ったということはあるまいし。

 

「海男。大丈夫か?」

 

「すまない、心配と苦労をかけた」

 

変身を解いたうずめが奥に声をかけると、聞きなれた低く渋い声が返ってきた。

 

「このくらいのこと気にするなって。それに、お前に紹介したい人もいるしな」

 

海男がゆっくりとその姿を現す。

青い身に黄色いトサカ。

見る限りでは傷はないみたいだ。

 

「えええええええ!?」

 

「人面魚!?しかも真顔!?」

 

「まずは助けてくれたことに礼を言わせてくれ。ありがとう」

 

姉妹の驚愕を意に介さず、海男は礼を言った。

ああ、そうか。この二人は海男に会うのは初めてだったわね。

確かに真顔の人面魚なんて、先にひよこ虫に会ってなければよけいに驚いたことだろう。

 

「……しかし、この世界でうずめ以外の人は初めてだな。てっきり全滅したと思っていたよ」

 

「え、イヴさんは?」

 

冷静な顔で言った海男は、ネプギアにそう返されるとばつの悪そうに私を見た。

 

「……話していなかったのか……。すまない、イヴ」

 

「いいのよ、いつまでも隠せるとは思ってなかったから」

 

はあ、とため息をついて私は左手で頭をかいた。

 

「さ、戻りましょ。こんなところでだらだらしてたら、またモンスターに目をつけられるわ」

 

 

 

 

 

「じゃあ、海男の救出を祝って、かんぱーい!」

 

私秘蔵のジュースのはいったコップを掲げて、ネプテューヌが音頭を取った。

続けて私たちもコップを合わせる。

ちなみに私は、ギガスレイモンにつけられた傷とバッテリー切れが原因で右腕が動かなくなったため、今は取り外している。

 

「かんぱい……と言いたいところだが、なぜ焼き魚パーティなんだ?」

 

「何でって、そりゃあ手ごろな食材がこれしかなかったからだろ?いやぁ、釣り溜めといてよかったぜ」

 

「ひよこ虫でも使える釣り具作っておいてよかったわね。おかげで供給は足りてるわよ」

 

私は得意げになったものの、海男は頭を抱えた。

 

「イヴ……君は変なところで腕を見せるね」

 

「あれくらいは別に大したことないものよ。ひよこ虫たちも喜んでたし、まあ満足だったわ」

 

「だからって……ああ、そうだ。ひよこ虫たちから、今回のお礼だと、こんなものをもらったのだがどうだい?」

 

ごそごそとどこからか袋を取り出してきた。

一瞬で出てきたから、どこから出てきたのかはわからないが、訊かない方が吉かしら。

 

「げっ!?シイタケじゃねえか!?」

 

「あら、久しぶりに見たわね」

 

シェアクリスタル捜索のついでか、そこにはやや大きめのシイタケがいくつも入っていた。

私たちの食は魚や野菜がほとんどだが、菌類は久しぶりにお目にかかった。

本当ならよく見るはずなのだけれどね。

 

「串に通して、炙って食べるとおいしく、そしてそれを豪快に食べる姿はカッコイイと思うよ」

 

「だめだ、だめだ!シイタケばっかりは、なんて言われようが絶対だめだ!」

 

「まったく、相変わらず君のシイタケ嫌いには困ったものだ」

 

「わかってて出したでしょ、海男」

 

くすっと笑って、私はジュースを飲みほした。

 

それから、私たちはいっとき戦うことを忘れておしゃべりを楽しんだ。

ひとしきりわいわいと談笑したあと、海男が本題にかかった。

 

「さて、おなかも膨れてきたところで、そろそろ二人に話を訊きたいんだが……」

 

「そうね、お互いに説明しておきましょう。ざっくりと」

 

海男にネプテューヌたちについて、ネプテューヌたちにはこの世界のことをもう一度説明した。

海男は取り立てて驚いた様子も見せずに、目を閉じてしばらく長考した。

 

「なるほど……イヴ、これはつまり」

 

「ええ、私もそう思ってる」

 

海男は目をこちらに向けた。

言いたいことはわかる。私も同じ結論に至っていた。

 

「えー?なにさなにさ、もったいぶっちゃってー」

 

「ああ、ごめんなさい。別に隠すつもりはないの」

 

「いろいろな仮説が立てられるが、別の次元から来た、というのが一番あり得る話かな」

 

ネプテューヌはため息をついた。

突飛な発言に呆れた、というわけではなさそう。

 

「あー、また別の次元に来ちゃったのかもしれないのか―……」

 

「また、ということは、ねぷっちはこれまでにも別の次元に行ったことがあるようだね」

 

「うん。いやぁ、その時は元の次元に帰るためにある人に協力してもらったんだ」

 

彼女らは別の次元というものに縁があるらしく、ネプテューヌたちが別の次元に行ったこともあれば、別の次元から誰かが来たこともあるそうだ。

その中には次元間を移動できる知り合いもいるらしい。

その男のことを喋る時に、ネプギアがやたらと身を乗り出してきたのが気になったが。

 

「イヴさんも別の次元って言ってましたけど、そんなことそうそうあり得るものなんでしょうか?」

 

「あり得る……というか、私がそうだからね」

 

私は特にもったいつけずに言った。

 

「イ、イヴさんも別の次元から来たんですか!?」

 

「ええ。というより、来ざるを得なかったのよ。ちょっとした事件があってね」

 

「事件?」

 

「ま、それはおいおいね」

 

腕を組もうとして、右腕がないことに気付いた。

仕方なく頬杖をつき、うーんとうなる。

 

「それにしても、別の次元となると困ったわね。次元移動装置は……今は無いし……」

 

「まあまあ、きっとなにかしら見つかるよ!いままでもそうだったもん」

 

「そう……かしら。そうね。きっと何か見つかるはずよ」

 

「うう、こんなときにユウさんがいてくれたらなあ……」

 

ネプテューヌに言われると、なんとかなるような気がするのは不思議なものね。

次元を超えるにはいくつか方法はあるみたいだし、それほど悲観することでもないのかしらね。

 

「…ところで、先ほどからうずめが静かなようだが……」

 

「…すぅ…すぅ…」

 

目をやると、うずめは座ったまま目を閉じて寝息を立てていた。

すっと頭をなでると、寝ながら微笑み返してくる。

 

「こうやって見れば、普通の女の子なのよね」

 

この世界に生まれて、戦うしかなくて、そしてみんなを守ろうとした。

だけどもその中身は私たちと同じ女の子なのだ。

元々がどちらかと言えばネプテューヌに近いことを考えると、やはりこの状況が異常だということを思い知らされる。

 

「イヴも二人も、疲れているのに付き合わせてしまってすまないね」

 

「いえ、気にしないでください」

 

「そう言えば聞きたかったんだけど、うずめってたまに性格とか口調が変わるよね?あれってなんで?」

 

ネプテューヌが質問すると、海男が私をちらと見た。

言っていいかどうかを問うてきているのだ。

私は肩をすくめて、彼に判断をゆだねた。

 

「あの子は無理をしているんだ。もとは女神化後のような明るい性格の女の子だったんだよ」

 

私の反応を見た後、海男は数秒考えて口を開いた。

 

「性格は軽くても、根はまじめな子だったからね。それではこの滅びに向かう世界で暮らす、俺たちの心のよりどころになれないと思ったのだろう。このサバイバル生活や戦闘の中で、性格も、口調も徐々に変わっていったんだ」

 

「たまに素が出てしまうけれどね。ま、あの子なりの努力よ。それに支えられている子たちがいるのも事実だし」

 

カッコイイ=頼りがいがあるという図式がうずめの頭の中にはある。

だからこそ彼女は強気でいようとしている。みんなを不安にさせないために。

 

実際、私たちはそれに助けられて過ごしている。

うずめは、私たちになくてはならない精神的支柱でもあるのだ。

 

「そういうイヴも、ここに来た当初よりかはかなり性格が変わったみたいだけれど」

 

「ちょ、ちょっと海男」

 

「そうなの?」

 

「最初イヴは泣き虫な子だったんだよ。まあいきなりこんな環境に身を置かれたら、泣いて当然なんだろうが」

 

「へぇ~、イヴさんが……」

 

「けっこう強気そうなのにね」

 

急いで手を振って話を遮った。

昔は取り乱していたこともあって、一晩中泣いていたこともあった。

うずめに助けられてからは、彼女たちの助けになろうと私も強くあろうとして、いつの間にかこうなっていた。

 

「も、もう!この話はいいでしょ。おしまいおしまい!」

 

「ふふ、そうだね。今日はもう遅い。これからのことは、明日起きてから話そう。君たちも疲れているだろうから、今日は休むといい」

 

その後もなにかと私のことを聞き出そうとしてきたが、聞こえないふりで顔を背けると、流石にあきらめてくれた。

今日の戦闘も手伝って、眠気に襲われたネプテューヌたちはしばらくするとその場に寝転んでしまった。

 

「まったく、海男ったら昔の話を持ち出してくるなんて。もう私は変わったのよ?」

 

「そうだね、君は変わった」

 

私は毛布を他の部屋から持ち出し、三人にかけた。

 

「だがそれが良いことかどうかはまた別の話だ」

 

海男はそれまでの優しい口調から一転、たしなめるような声色に変わった。

 

「どうして?強くなるのはためになるでしょう?」

 

「この戦いの日々の中で強くなることは喜ばしいことだ。だがしかし、戦うことができるというのは『戦える』という選択肢が増えるということだ。いつかその増えた選択肢が、君を苦しめてしまわないか心配だよ」

 

心配してくれているのはわかる。

だがそれでも、私には『戦う』という選択肢は必要なのだ。

じゃないと、自分の無力さに押しつぶされそうになる。

 

「だからって、うずめだけに任せておくわけにはいかないじゃない」

 

「そうだね、だから困っているんだ」

 

「海男……」

 

親のように私たちを見守る海男だからこそ、本当は私たちを戦場へ向かわせたくない気持ちは人一倍。

 

だけど私は……。

 

私は無い腕を一瞥した。

 

 

 

 

「ネプギアぁー…プリン食べたいー……」

 

「うーん。困ったなあ、プリンなんてどこにもないよ。作ろうにも材料もあるはずないし……」

 

翌日の朝、私が作業場から戻ると、ネプテューヌが駄々をこねていた。

 

「おはよう。……って、またプリンプリン言ってるの?」

 

「あ、イヴさん。おはようございます」

 

私は挨拶しながら義腕の調子を確かめた。

手を握って、開く。

傷が残っているが、動かすには問題はない。

 

「なんだか騒がしいみたいだな」

 

「相変わらず、ねぷっちは賑やかだね」

 

ネプテューヌの騒がしさにつられ、うずめと海男も起きてきたみたいだ。

別の部屋のソファに寝かせたが、片腕で持ち上げるのがどうしても無理だったから引きずったのは、どうやらばれてないみたい。

 

「ぷーりーんー。プリンがないとわたし死んじゃうよー。ぷーりーんー」

 

「……というわけなんです」

 

この前よりも身体が震えているし、ちょっと心配。

この子たちの世界じゃ、プリンって変なもの入ってるのかしら。

ダメ、絶対。

 

「しかしプリン……ねえ。前も言ったけど材料すら見たことないわ」

 

「やだやだ!ぷーりーんー!」

 

「よほど好きなのね……ちょっと引くわ」

 

「引かないでよぉ!」

 

「けど、ねぷっちの影響か俺もプリンを食べたくなってきたな」

 

「でしょ、でしょ?うずめもプリン食べたいよね!」

 

同意を得られたことで、ネプテューヌは目を輝かせた。

続いて想いを馳せるようにうっとりと目を瞑る。

 

「カラメルソースがかかった、つめたく冷えたカスタードプリンのほろ苦い甘さ……。一日食べないだけで、海王星なわたしはセンチメンタリズムを感じちゃうよぉ」

 

「カスタードプリンかぁ…。けど、抹茶プリンやチョコレートプリンもめっちゃいいよねぇ!」

 

あっさりと乙女モードに入ったうずめが、ネプテューヌと同じくうっとりと頬を緩ませた。

 

「案外、そこの百貨店が入ってたビルの食品売り場に材料とか残ってないかなー。プリンの素があれば、さらに超ラッキーみたいな?残ってたら、うずめ、久しぶりにすいーつ作ってみんなに御馳走しようと思うんだけどなー。メッチャいろんなプリンを作りまくって、みんなでプリパするのはどう?あ、プリパっていうのは、プリンパーティの略ね。チョー楽しそうでしょ?」

 

私含め、ネプテューヌたちもにこにこしてるだけで、特に言及しようとしない。

そのことに気付いたうずめがはっと我に返る。

笑顔の私たちを見て、ぷいと赤らめた顔を反らすも、笑顔は崩れていない。

 

「……と、とまぁ、プリンパーティーも悪くねえよな!」

 

「あなたが楽しそうでなによりよ、こっちは」

 

「うっ……ごほん!……けど、問題は材料だよなあ」

 

私たちの反応に肩を落とすネプテューヌだったが、私と海男は目を合わせて微笑んだ。

これなら、まあ、もしかするともしかするかも。

 

「探してみようぜ、ねぷっち!もしかしたら材料が残ってるかもしれねえ」

 

「そうだよね!少しでも可能性があるなら探すべきだよね!」

 

考えるよりまず行動の二人が颯爽と去っていく姿を、私たちはぽかんと眺める。

朝からまあお元気なことで。

 

「行ったね」

 

「行っちゃいましたね」

 

「行っちゃったわね……頼みたいことあったのに」

 

「頼みたいこと?」

 

戦力が欲しいところではあるが、ネプギアだけでも、いえ、ネプギアさえいればなんとかなる。

 

「そ。ねぇ、ネプギア。着いてきてほしいところがあるのだけれど」

 

「……?」

 

「あなたにとって面白いものを見せれると思うわ」

 

「はあ……。面白いもの、ですか」

 


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