新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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リーンボックス編6 募る怒り

天を貫くほどの高さを誇る黄金の塔の入口は、来るもの拒まずといったふうに大開きになっていた。

俺たち四人は、その中から得体の知れない空気を感じながらも足を踏み入れる。

中は完全に外とは断絶された世界だった。

宇宙のように暗く、しかし淡く光る空間はどこまで続いているのかわからない。

透明な足場はどこかに支えられているわけでもなく、宙に浮いていた。

この場所なら、百万匹といえどもらん豚を収納できるだろう。

 

「不思議な場所ですわね」

「不思議なんて、もう見飽きてるだろう」

 

そもそも存在からして不思議そのものである女神と、半分モンスター姿の男、犯罪神の力を持った男がいるのだ。

奇妙さならこのパーティだって負けてはいない。

 

「神次元でも、こんなのは見たことないよ」

「俺もだ。この中では一番いろいろ見てきたつもりだがな……」

 

いくつか別の次元を回っている中で、たしかに超次元とは異なる部分をもつ次元もあった。

例えば、ヤマトのいる神次元はこことはルールが異なり、『女神メモリー』というアイテムを使うことで、普通の女の子が女神になることができたり(といっても『可能性がある』程度のことで、資格のない女の子や男が使ったところでモンスターになってしまうのだが)、さらには『エディン』という国もある。

だが、あくまで女神や犯罪組織、あのマジェコンヌがいることに関しては、ほぼほぼどの次元でも同じだった。

ゴールドサァド、ひいては黄金の塔なんていうのは、いままで見たことも聞いたこともない。

その違和感はつい最近も感じた。零次元のダークメガミ、そしてエコー。気味の悪い何かが、世界を侵食してきている。

足場は遥か遠くまで一本道で続いていて、見えないほどの奥から知った力を感じる。

ひとっ飛びで行ってしまおうかと考えたとき、いつの間にか正面に女性が現れた。

 

「ちょっと待った! ここから先は通さないよ!」

「ネプテューヌ?」

 

ぱっと出た俺の言葉通り、立ちふさがるのはネプテューヌ。だが、ベールたちのよく知る彼女ではない。

 

「ネプテューヌ……ですの? その割にはいろいろ成長しているような……」

「別次元のネプテューヌだ。女神じゃなくて人間だから普通に成長してる」

 

そういえば、零次元の騒動以降、まったく姿が見えなかった。超次元に来ているだろうとは思っていたが、何かしてるにしても観光程度だと思っていた。

 

「敵なのか?」

 

 訝しむヤマトへ、首を横に振る。

 

「そうじゃなかったはずだが……どういうつもりだ」

「色々訳あって、ここは通せないんだー。だからおとなしく戻って……」

「ここは俺が相手する。お前たちは先に行け」

「わかった」

「あとから来るんですよね?」

「すぐな」

「ちょっとちょっと!行っちゃだめって言ってるのに!」

 

ネプテューヌを無視して、他三人が次々に相手を通り過ぎる。右を左を駆け抜けるのを、おろおろしながらも抗議する彼女は、ため息をついて俺を見た。

 

「素直に従うと思ったのか?」

「微塵も思ってないかな」

 

にっこり笑うネプテューヌ。身振りから表情までつかみどころがないが、本気で敵対する気はないようだ。それでも、いまは邪魔してくる気らしいが。

 

「通りたくば、私を倒してから行け~、なんちゃって」

「その通りにさせてもらおう」

「お、お手柔らかに……」

 

俺が刀を抜いて睨むのを認めると、ネプテューヌも二刀を構える。

まさかこんな形でこいつと戦うことになるとは思わなかったが、双方とも本気じゃないのは見て取れる。

のんびりとしている暇はないが、あっちにはベールたちが向かっている。

じりじりと間合いを詰める。大剣を使っているぶん、リーチはあちらが有利だが、ネプテューヌは体勢を崩さない。右手は引いて、左手は下ろす、切っ先は両方ともこちらを向けるという攻防一体の構えは、相手にすると厄介だ。

こちらは一刀。攻撃を受け流されれば反撃は必至。思えば二刀流を相手にするのは初めてかもしれない。少なくとも、ネプテューヌほどの強さは初めてだ。

とはいえ、だ。犯罪神の力を解放してごり押しすれば、死体が転がることになるかもしれない。

今後なんらかの要因で力が封じられることも考えて、ここらで勘を取り戻したほうがいいだろう。

仕掛けたのは俺のほうからだ。一撃一撃を、力任せでなく素早く振る。

受けるのではなく、受け流す。斬り伏せるのではなく、斬りつける。

刀を使うにあたって、腕力で解決しようとするのは愚かだ。斬るのは相手に隙を生ませるため。渾身の一撃は最後までとっておく。

かつてネプギアたちと共に、犯罪組織と戦ったとき、いやそのもっと前から、俺の戦い方はこうだった。

十年近くに渡って染み込まれた動きを、身体は忘れていなかった。滑らかな動きで応戦してくるネプテューヌを前にして、引けはとっていない。

円を描くように、あるいは相手を叩き割るような力強い剣捌きを織り交ぜて、素早いステップでアウェイへと逃げる。

斬り結ぶ、回転、跳躍、突き。意外と、俺の戦い方はネプテューヌと似ていた。

俺には犯罪神の力由来の、通常時でも普通の人間を凌ぐスピードとパワー。大してネプテューヌは二刀流ゆえの手数の多さ。これが戦局にどれだけ変化をもたらすのかはわからないが、油断は一切しない。

相手はあのネプテューヌ。数多の次元で「ネプテューヌ」という名の人物に出会ったが、そのいずれもが主人公のように国や世界を守り通した。

いま戦っているのは人間だが、マジェコンヌと戦うよりも気を引き締めなければならない。

しかし、仕留めようともしない軽い閃撃の応酬では、らちが明かない。そこで、俺は手を変えた。受け流す防御メインから、攻撃を数センチのところで避ける回避メインへ。

どちらにしても攻撃が当たらないという点では違いないが、ネプテューヌにとってはこちらのほうが効く。

思い通り、『あともう少し攻めの手を伸ばしていれば』という考えに焦り、少々無茶な攻撃をしかけてきた。

決着がついたのは、地力と経験の差のおかげだ。

突きを避け、伸びきって力が抜けて瞬間を狙って、刀で弾き飛ばす。あっけにとられているうちに、もう一方を蹴り飛ばした。

二つの剣はからんからんと音を立てて、地面を転がる。

切っ先を向けられたネプテューヌは、腰を抜かして手をぶんぶんと振りながら挙げた。

 

「こ、降参降参! まさかこんな美少女重要人物を刃にかけるわけないよね!?」

「……もともと殺す気なんざないさ。本当は通せんぼする気なんてなかったんだろ?」

 

俺は刀を納めて、ネプテューヌの腕を掴んで起こす。

 

「沈黙は肯定とみなす」

「残念だけど、まだ何も言えないんだよね」

 

舌をぺろっと出して、ウインクしてくる。こういうところは、俺のよく知る小さいネプテューヌと同じだ。

だが、小さいのと違って、何を考えているのかわからないのは新鮮だ。小悪魔的と言えば魅力的だが、この状況ではそうも言ってられない。

少し遠くでは、武器がぶつかり合う金属音が聞こえる。ベールたちが戦っているのだ。目を凝らしても見えないから、それなりに遠いみたいだが、それ以外音のない静寂のおかげでよく聞こえる。

 

「お前は何を企んでるんだ」

 

振り返ると、誰もいなかった。

ネプテューヌは音も立てずにどこかへ行ってしまった。弾き飛ばした剣もなくなっている。

俺はため息をついた。本当に、何が目的で現れたんだか。

気を取り直して、ぱっと走り出す。激しく争っていた音が、さっきよりも減っていた。

嫌な予感が胸の中で膨らみ、自然と足が素早く動いた。予感というものは、悪いものほどよく当たる。

俺は舌打ちした。

辿りついた奥の空間では、教会にあったような玉座にエスーシャが座り、足を組んでいる。

その前で倒れているのは、僕が見送った三人。それと四肢がばらばらになって火花を上げている機械だ。

 

「ベール、ネプギア、ヤマト!」

 

駆け寄ると、幸いなことに死んではいない。最悪ななかでも幸運だ。だが仲間たちは傷だらけで、本当の最悪を凌げたって程度だ。

考えが甘かった。実際に見ていないからと、相手が機械人形だからと侮った。

仲間を失う恐ろしさは十二分に理解しているつもりだったのに、そのはずなのに、心のどこかではもう悲惨なことは起こらないと思い込んでいた。

血が出るほどに歯を食いしばる。

 

「大丈夫とは言えませんわね」

 

先取りしてベールが言う。

 

「力が吸い取られるようでしたわ」

「ヤマトの言ってた通りだな」

 

そこに転がっているロボット、エコーと相討ちになったのだろう。三対一でほぼ互角なほど、女神無効化の結晶は強力なのだ。

アンチクリスタルという、女神の力を吸収する石を見たことがある。特性はそれと同じと見ていいだろう。

となれば、かなり厄介だ。ただでさえシェアが少ないのに、そのせいでこちらの戦力は半分以下になってしまう。

 

「まったく、助っ人に来た二人が早々にやられるなんてな」

「相手が悪すぎるんだよ」

「すみません、ユウさん。私もう限界です……」

 

ヤマトとネプギアは立てないほどに消耗している。

相手は女神を負かしたゴールドサァド。状況は混乱し、全てが悪い方向へ傾いている。絶対にどうにかできるなんて保証はない。

それでもどうにかするしかない。それが、戦える人間がすべきことだ。

 

「任せろ」

「わたくしも戦いますわ」

 

力を振り絞って、ベールも立ち上がる。義務感を感じているのは、彼女が一番だろう。

リーンボックスの女神として、ベールには決して、倒れるという選択肢は残されていない。

俺たちに許されているのは、勝つことだ。戦って勝つことだけだ。


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