新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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リーンボックス編4 整理しようと思ったのに

すぐさま飛び上がり、モンスターの腕へ手刀を叩き込む。

骨があるのかはわからないが、曲がって戻らないところを見ると、使えない状態にしたのは間違いないみたいだ。

小手調べというか、どれだけの攻撃に耐えうるかを見る一撃だったが、やはり零次元にいたモンスターと相違ない耐久力だ。

とても魔王だなんて呼べるような相手じゃない。

 

「捕らえる……んだよね。倒すんじゃなく」

 

「そうだ」

 

弓を構えるヤマトに、俺が頷く。

ヤマトが何もないところから、エネルギーを凝縮させた光の矢を具現化し、放つ。

当たった瞬間、モンスターは巨体をぐらりと揺らして倒れ、なんとか立ち上がろうとする。

そのあっけなさに、みんながみんなの顔を見合わせる。

 

「本当にそれだけの価値がこいつに?」

 

「とにかく、エスーシャが……ゴールドサァドが欲しがっていますの」

 

モンスターを捕まえるなんて、そうそうあることじゃない。この場にいる全員が手加減をしながら戦う。ベールとネプギアは変身すらしていない。

すっぱりと斬ってしまわないように、武器を鈍器のように扱って、敵の動きを削いでいく。

かわるがわる四人で攻撃していき、二巡目に行く前にモンスターが動かなくなってしまった。

大きな音を立てて伏した魔物を改めて見下ろすと、なんだか小さく見える。零次元のモンスターの造形は悪趣味だが、実力はそれほどでもない。

 

「あっさり片付いちゃいましたね」

 

「問題はこいつを持って帰ってどうなるかだな」

 

「エスーシャがどんな反応を示すかしだいですわね」

 

「話が見えてこないんだけど」

 

俺たちの会話に、いま来たばかりのヤマトは首をかしげる。

 

「ネプギア、説明してやれ。俺たちはその間エスーシャのところへ向かう」

 

「わ、私ですか?」

 

「零次元のことはお前のほうが詳しいし、ヤマトはお前に用があるみたいだしな」

 

俺とヤマトを交互に見て、ネプギアは迷ったがすぐに結論を出してくれた。

ここにはもう危険はないし、エスーシャとの交渉も長引くおそれがある。そうであれば、その間に仲間であるヤマトに事情を知らせる方がいいだろう。

ネプギアもそれを理解してくれたようで、頷いた。

 

「わかりました。また後で」

 

 

 

 

「本当に魔王を捕まえてきてくれるなんてね」

 

本来であれば女神の席である椅子にふんぞり返るエスーシャは、またしても表情を変えずにそう言った。

零次元のモンスターをこの座に置くわけにもいかず、人の目から隠すためにも地下に放り込んだ。

まあ、街の中、ずるずるとあの巨体を引っ張ってきたわけだから、もう知れ渡ってはいるだろうが。

 

「あっさりと信じましたわね」

 

「見た目だけはやたらそれっぽいからな」

 

俺とベールはこっそりと小声で喋る。

なんとか騙されてくれたみたいだ。騙すといっても、こっちは元々そのつもりはなかったし、あのモンスターは実際エスーシャが捕獲依頼を出したものだ。

 

「さて」

 

『魔王』を渡して、まだ帰ろうとしない俺たちを変に思ったのか、エスーシャが眉をひそめた。

 

「どうした?」

 

「あれだけ被害を出した魔王を捕まえて、何もなしということはありませんわよね?」

 

「何が望みだい?」

 

「話が早くて助かる。俺たちが欲しいのは……」

 

俺が続けようとしたとき、ベールがずいっと前に出た。

 

「この世のゲームを携帯機から筐体まで、本体もソフトも限定版初回盤通常版もどの店舗の特典も……」

 

「違っ、お前女神なんだからそれくらい買えや」

 

「それで、何が欲しいんだ?」

 

これが冗談(ベールにとっては本気)とわかって、エスーシャは先を促した。

俺はふくれっ面するベールを制して、さらに前に出る。

 

「リーンボックスだ」

 

「なんだ、そんなものくれてやるさ」

 

「あ?」

 

「え?」

 

さらなる交換条件を出してくるかと思ったが、求めていた応えがあっさりと返ってきた。

 

「目的は魔王だけ。それが済んだなら、国にも人にも権力にも興味ないね」

 

「もう少しごねると思ったんだが」

 

「簡単すぎて、拍子抜けですわね」

 

俺たちはまた小声。

それほどあのモンスターに価値があるのか?

その価値を見出すにも、まずエスーシャの目的がわからんから考えようがない。

 

「エスーシャ!」

 

話を畳もうとした瞬間、いきなり入ってきたのは、筋骨隆々とした身体の男性とナイスバディの女性。しかしその身体は青く、顔はスライヌ。

側近であるスライヌマンとスライヌレディだ。しかしスライム状の身体って鍛えられるのか?

うむ、考えれば考えるほど奇妙な生物だ。

息せき切って走ってきた様子から相当まずいことがあったみたいで、顔は見事に青……元からか。

 

「あの魔王の体組織を調べてみたんだが、オイラの舌が普通のモンスターだと告げているんだ」

 

舐めてわかんのかよ。ていうか舐めたのかよ。

 

「どういうことだ?」

 

「簡単に言えば、魔王じゃないってことさ」

 

「魔王じゃ……ない?」

 

その言葉を反芻した瞬間、エスーシャからは余裕ぶった表情はなくなり、止める間もなく飛び出していった。

残された俺たちは、唖然としたままお互いの顔を見合わせた。

 

 

 

リーンボックスで一番豪華なホテルの一室で、ネプギアたちと合流した。

エスーシャが用意してくれたのだが、俺とベールの二室しか用意されていない。ネプギアが来たのは急だったし、ヤマトに至っては会ってすらいない。

とりあえず、男二人女二人で部屋を分けることにして、話し合いのために男部屋に集合することを提案した。だがヤマトは部屋におらず、集まったのは女神二人だけだった。

 

「話し合いはどうだったんですか?」

 

「いや、駄目だった。魔王じゃないことがばれて、うやむやだ」

 

「そうですか……」

 

意気消沈するネプギア。それもそうだ。人数は倍になっておきながら、ほとんど振り出しに戻ったようなものだからな。

 

「そっちは?」

 

「ヤマトさんに、零次元のこととこれまでのことを話しました。今は話の整理をしています」

 

「そもそもあいつは何でこっちに来たんだ? 神次元で事件があったのは聞いたが……」

 

「エコーというロボットが神次元で暴れたらしくて、それが超次元にも関係しているみたいで……プラネテューヌでも戦ったそうです」

 

ロボット……ここでも大量の残骸があった。わざわざ次元を超えてまで何をするつもりだ?

超次元、神次元、零次元の三つが絡まって、しかもそれぞれが独立して襲ってきている。

ここまでややこしいのは初めてだ。

 

「それで、ネプギアに助言を求めたのか。機械といえばネプギアだからな」

 

「覚えててくれたんですね」

 

「そりゃそうだろう。そんなことも忘れてると思ってたのか?」

 

「何年も離れてましたから」

 

「忘れんさ。お前たちのことは」

 

いくつも次元を超えていくなかで、ここのとは違うネプギアたちがいる次元もあったし、女神がいない次元もあった。

だけどこの次元は、俺にとって故郷の次元と甲乙つけがたいほどに思い入れのある場所なのだ。

そこにいて、ともに戦った彼女たちのことを忘れるわけもない。

 

「目の前で妹に手を出されかけてるわたくしの気持ちにもなってほしいですわ」

 

ベールがジト目でこちらを睨む。なんとか会話に入る隙を狙っていたようだ。

 

「出してないし、お前の妹じゃないし、話入ってきたらいいのに」

 

そして空気を読んで去っていったらよかったのに。

 

 

 

数時間後、日も落ちたころにヤマトは戻ってきた。

ネプギアとベールが風呂に入っている間、積もる話でもしよう、と彼は言った。

 

ヤマト。神次元の人間。エディンという国の治安維持を受け持っている男。

あちらでは、女神は生まれる存在ではなく、女神メモリーと呼ばれるアイテムによって()()存在だと聞いた。

しかもそれを使ったからといって確実になれるものではないものらしい。資格のない者が使用すれば、その身体は魔物になってしまう。

不幸にもその物体の残光を浴びてしまった彼は、右半身が魔物化してしまった。

その部分は殻か甲羅のように堅く、おまけに彼自身も女神と同等の力を得た。

 

「お前以外にも神次元から来たのはいるのか?」

 

「うん、あと二人。一人はプラネテューヌに残って、もう一人はルウィーに行ってるよ」

 

二人。

過去にも超次元と神次元の間で事件が起きたことがあった。そのとき俺はたまたま居合わせたが、彼の他にはもう一人しかいなかったはずだ。

篠宮アイ、またの名をローズハート。

そいつはどういう奴なんだ? しかし見たこともない者のことを聞いても仕方ないと思い、この疑問をひっこめた。

 

「プラネテューヌはなんとか無事なんだろ。ルウィーは?」

 

「ブランとその妹たちと合流したみたいだよ。ゴールドサァドらしき人物とも行動しているらしい」

 

俺は安堵のため息をついた。ブランに、ラムとロムも無事か。残るはユニとノワールだが、あの二人ならなんとかやってのけるだろう。

 

「ゴールドサァド……あいつらはいったいなんなんだ? 力を得た一般人と言っていたが」

 

「嘘ではないと思うよ。プラネテューヌのゴールドサァド、ビーシャも同じようなことを言ってた。世界改変に関しては彼女たちはほとんど関係ないと考えていいと思う」

 

「となると、エコーってロボットか?」

 

「今のところ一番怪しいのは、エコーか『影』かな」

 

「影?」

 

「プラネテューヌに残ってるって言った相棒が、そんなのを見たって言ったんだ。人の形をしたもやもやとした影のようななにか。それが現れた直後、おかしなことが起きてね」

 

「それって、これくらいの女じゃなかったか?」

 

俺は自分の身長より頭一つちょっとさげたところに、手で線を引いた。

 

「いや、本当にもやもやしてて姿形に関してははっきりとはわからなかったらしい。声は少女みたいだったけど……当てがある?」

 

当てどころか、ほとんど答えだ。

零次元で相対した黒いオーラの少女。そいつの声は闘技場でも聞いた。

あれが元凶なら、零次元と超次元を結んでるのはその少女で、神次元と超次元を結んでいるのはエコー。

そしてまったく同じタイミングでそんなことをしでかしたのは偶然じゃない。

くそっ、厄介だな。

 

「ちょっとな。だが、今は目の前に集中しよう。直接的に被害を出してきてるのはエコーだな」

 

「そう思って、プラネテューヌで襲ってきた機械軍団の残骸を一つ持ってきたんだ。ネプギアが見てくれてる」

 

ネプギアを追ってきたのは、そういう理由か。

 

「聞いたよ。色んな次元を旅してるんだって? 戦い続けるために」

 

「ネプギアからか?」

 

「君がこの次元でしたこともいくつか聞いた。それを話すネプギアの顔は、ひどく落ち込んで見えたよ」

 

ヤマトが何かを訴えるような目で見てくる。だけど、俺は遠回しな言い方は好きじゃない。

 

「何が言いたい」

 

「落ち着ける場所を見つけたらどう?」

 

「そこが、居心地のいい場所ならな」

 

「ネプギアと一緒なら、きっと居心地良いよ」

 

「知ってるような口ぶりだな」

 

「僕にとってはエディンがそうで、レイの隣がそうだ」

 

「レイ? ……ああ。あの……」

 

超次元で暴れた、キセイジョウ・レイのことか。名前と、女神ということくらいしか知らないが……彼の家族のようなものだと聞いている。

 

「実は……」

 

ヤマトは照れくさそうにしながら、懐から小さな輪状のものを取り出した。

指輪だ。

 

「婚約してる」

 

「はあ!!??」

 

思わず立ち上がって、思いっきり声を出してしまった。

こんやく……こんやくって、あの『婚約』か? 結婚の約束しましたってことか?

 

「あの女とか!?」

 

あの暴れに暴れまくった女神と結婚するのか、こいつは。

驚きと困惑で全く頭が働かなくなった。エコーや『影』のことなんて吹っ飛んでしまった。

 

「いやね、君が知ってるのはこっちのレイだし、そもそもそれだって暴走してたときだし」

 

「っていうか、婚約、おま、女神と、お前!」

 

「落ち着いて、語彙力がだめな方向で凄いことになってるから」

 

「そんな爆弾いきなり落としたんそっちやろが!」

 

情報交換のつもりで始めた話は、その後は風呂上がりのネプギアたちを含めて、ヤマトとレイについての質問会となった。


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