新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
「
機械人形の軍団を、拳からの衝撃波でなぎ倒していく。スラッシュとは名ばかりである。
目が覚めてすぐに襲ってきたこいつらの強さは、大したものじゃなかった。
それにしても、ここはどこなんだ?
森の中だということはわかるが、どの国かはわからない。
闘技場で戦ったゴールドサァド、そこで現れた黒い少女。不安要素はたっぷりあった。
「ユウ?」
おちついたところで、こちらを呼ぶ声が聞こえた。
「ベールか」
振り向けば、リーンボックスの女神であるベールがやってきた。
知ってるやつに会えたことに、安心感を覚える。
「よかった。聞きたいことが山ほどあるんだ」
「ええ、わたくしもですわ」
用事があるようで、さらに森の奥まで進みながら、俺たちは話を続ける。
ここはリーンボックス。だが、俺の知っているそれではない。
ゴールドサァド、その一人であるエスーシャが統治し、誰も女神を覚えてない奇妙な世界だ。
俺たちが戦ったそいつらがいるなら、別次元や平行世界に飛ばされたわけではなさそうだ。
ベールの話によると、次のとおり。
エスーシャが「外敵」と呼ぶ何か。リーンボックスを脅かすその外敵とやらから国を守るために、ソルジャーという職業がある。
情報収集を兼ねて、ベールはソルジャーになり、今はその仕事の最中らしい。
「外敵……さっきのロボットのことか?」
「詳しくは言ってませんでしたから、わからないですわ」
可能性としては、ありえる。
機械のモンスターは腐るほど相手にしてきたが、あんな敵は今まで見たことがない。
「とにかく、俺はお前についていくことにする」
「ユウが来てくれるなら、頼もしいですわ。ところで、あれはないんですの?」
俺をまじまじと見つめて、そんな疑問を発する。
あれ、とは俺の持ち物である魔剣のことだ。
かつてこの次元とは別、俺がもともといた次元で犯罪神と戦ったときに、女神八人の命を犠牲にして力を得た、災厄の剣。
その剣をもって、俺は犯罪神に勝つことが出来た。
だが、俺が倒したのは器でしかない。その力は、俺の中にある。
女神の命を奪った剣、そして破壊神の力。
手放せない二つの力は、皮肉にも相反していて、それでいて同じだ。
闘技場には持ち込まず、プラネテューヌ教会に置いてきたから、今は手元にない。
本当なら、飛んでいってこの手の中に戻したいところだが、ベールを独りにするのも危険だ。
女神を覚えている者が少ないとは、つまりそのぶんシェアが無くなるということになるからだ。
俺が改変前の世界を覚えているのは、何故か。
元々別次元の人間だからか。それとも、俺が犯罪神の力を持っているからか。
どちらにせよ、俺の力は彼女たちのためになる。
森を抜けて、ひらけた草原に出る。
ここでは多数のソルジャーが、外敵と戦っている……はずだった。
そこかしこに機械の残骸があるものの、人の姿は見えない。
「ここで間違いないのか?」
「ええ、そのはずですわ……けど」
「どこかへ移動したか?」
地面に転がる、機械の頭を手に取ってみる。
人間を模したそれは、奇妙なことに不気味に笑ったままだ。どこの国のものでもない。
なら、誰が造ったんだ?
こんなに大量の機械を、いったいなんの目的で……
考えている途中で、地面に影が差した。
天気が悪くなったかと思い、上をみた瞬間、目の前まで巨大な何かが迫ってきていた。
急いでかわすと、どすんとその塊が落ちた。
地面を軽く削りながら、立方体のそれは形を変えていく。
五メートルはゆうに越える頑丈そうな胴体に、巨大な爪をもつ四肢。ぎょろりと俺を見下す一つ目。
こっちのほうが俺の知ってるロボットっぽい。
「ユウ!」
「平気だ」
ロボットがベールの声に反応して、そちらを向く。
すると、俺を無視してロボットがベールへと牙をむく。
ベールは振られる爪をひらりとかわすが、本調子じゃないことがわかる。
ここは、俺がやるしかない。
「おい、でくの坊!」
挑発には乗らないか。
標的を変えないロボットの足を掴んで、片手で地面に叩きつける。
機械人形の残骸を粉々にして、ロボットは仰向けに倒れた。
ロボットは火花を散らしながらもすぐさま立ち上がり、俺に爪を立てようとする。
一本を受け止め、そのまま曲げてへし折る。続けて腕、足二本、もう一本の腕をもぎ取る。
転がる胴体に乗って、巨大な目を足蹴にして貫く。
激しく痙攣した後、ぱったりと動かなくなったロボットを見て、俺は思った。こいつも見たことがない。
「やっぱり、こいつが外敵みたいだ」
外側からくる敵とは、ロボットの大群か。
俺は大きな胴体から降りる。
「相変わらず、容赦がないですわね……」
「敵に対して容赦してどうする。徹底的に潰すだけだ」
引き気味の笑みを浮かべるベールに、俺は自分の考えを述べる。
次元を渡って、幾度も戦ってきた。その中には話が通じない奴もいた。むしろそっちのほうが多かったか。
世界を壊そうとする連中を倒して倒して、俺は生きている。
ふと違和感を感じた。周りにたくさんの気配がある。
敵か、と構えるが、わらわらと集まってきたのは、ぬいぐるみのような豚だった。
小さな白い身体、「出荷」と書かれたバンダナを頭に巻いている。
「らんらん♪」
「あ?」
「らんらん♪」
「へ?」
一転、間抜け面を晒してしまった俺たちに、それらが寄ってくる。
どうやら敵ではないらしいが……
足元にすり寄ってくる豚たちを、俺は眺めることしかできなかった。
疑問符だけが頭を占める俺たちに、声がかけられた。
「どうやら、見てしまったようだね」
いつの間にか、銀髪のクールな女性がそこにいた。
ぎょっとして後ずさる。
あの闘技場で剣を振り回していたエスーシャだ。
「いったいこれは、どういうことなんですの?」
「このらん豚たちは、ソルジャーの成れの果てさ」
「らん豚……?」
「君は知らないようだね、教えてあげよう」
エスーシャは俺に向けて説明を始めた。
この世界には、かつて魔王と呼ばれる存在がいた。
人の心を弄ぶことを至上の喜びとしたそいつは、人の心が壊れたとき、身も心も豚になってしまうという呪いを残したという伝説が残っている。
「その豚が、これか」
なにやら不思議な鳴き声をあげる……えっと、らん豚たちの数は、数えきれないほどになっていた。
伝説とは言うが、実物を見せられては信じざるを得ない。
呪いで姿を変えられて、身を隠していたのか。
人型機械は一掃できてたみたいだから、あの大きなロボットに絶望して、ということか?
もしそうなら、戦闘中にいきなり……か。ずいぶん迷惑な話だ。
この、エスーシャのことをそのまま信じることをするのは危険だが、嘘をついているようには思えない。
だが、裏もあるはずだ。
呪いのことを知りつつ、ソルジャーだけに国を守らせようとするエスーシャ。
それに、ベールの話じゃ、ソルジャーは百万近くいるらしい。いくらなんでも、それだけの数全員が戦闘ができる人間だとは思えない。
きなくさいものがあるが、表には出さずにらん豚を撫でる。
「場所を変えて話をしよう。教会に来てくれ」
そういって去っていくエスーシャ。
残された俺たちは、目を見合わせる。
「どう思う」
「わからないことだらけですわね。とりあえずは、エスーシャの言う通りにするしか……」
そうは言っても、この元ソルジャーたちを放っておくわけにはいかない。
大量のらん豚を前に、俺たちはため息をついた。
らん豚たちをかき集めながら、俺は先ほどのやり取りを思い出していた。
自国のソルジャーがこんな姿になったのに、まるでどうでもいいことのような口調だった。
ただ単に戦力が落ちたことを考えても、少しは肩を落とすだろう。
なんだか、嫌な感じがした。