新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

50 / 78
ルウィー編9 進むための脚

「こんなところに呼び出して、なんの用ッスか?」

 

翌日、すっかり身体が治ったところで、シーシャに呼び出された。

昨日、不安も不満もぶちまけたシーシャにはもう迷った顔はなかった。

思いつめることもなく日をまたげたなら、これからも大丈夫だろう。

長いこと歩いて着いたのは、昨日大量のモンスターと戦った場だった。

街から離れたここなら、何が起きても悟られることはない。

 

「人知れずウチらを埋める……ってことじゃなさそうッスね」

 

「アタシをどういう目で見てるのさ」

 

冗談はそこまでにして、シーシャは本題に入った。

 

「アタシのなかには、まだ黒い心が残ってる」

 

胸から黒いもやのようなものが染み出す。

負の感情が具現化するほど溜まっているのだ。

 

「このままじゃ、これがまた蓄積されていって、同じことが起きてしまう」

 

「あのモンスターたちは……」

 

「全部じゃないだろうけど、何割かはアタシの中から出てしまった瘴気にあてられてしまったもののはず」

 

これについて、ウチは一つの仮説を立てていた。

誰かがシーシャに仕掛けた、寄生虫のようなものではないか。

そうすると、そいつはシーシャがゴールドサァドを知っている可能性が大だ。

エコーではないだろう。だが、関係があるにはあるだろう。

 

「これ以上、誰かに迷惑をかけるのはやめたい。お願い、アタシの中の黒を倒して」

 

「わかったッス」

 

懇願するような目に、即答。

断る理由なんてどこにもなかった。

それに、全力で戦ってみたかったのも理由としてある。

 

「ありがとう。本当はブランちゃんも連れてきたかったんだけどね」

 

「一番頑張ってたッスからね」

 

ブランちゃんは療養中だ。

あれだけのモンスターを相手に、長時間粘っていた身体は予想よりも消耗していて、今はベッドの上。

それに、こんな危ない戦いにラムちゃんとロムちゃんを巻き込むわけにはいかない。

 

「これを解放すれば、あとはどうなるかわからないけど」

 

「どうなるかはわかってるッスよ。シーシャはもとに戻って、また帰るんスよ。みんなのもとに」

 

シーシャもウチもくすっと笑って、構えをとる。

 

「頼りがいがあるね。さすがは女神様」

 

「変身」

 

力を解放する。

黄金の力に、闇のオーラを纏ったゴールドサァド、シーシャが敵を睨む目つきをぶつけてくる。

 

「我が挑戦者、か。面白い、証明してみせるがいい。我より強いことを」

 

「あーらら、まあまあ喋り方も変わっちまってよ。威嚇のつもりかね」

 

ぐっと脚に力を入れて、ふっと息を吐く。

 

「さあさあ、完膚なきまでにボッコボコタイムだぜ」

 

じりじりと近づく。

人対人の戦闘において、気をつけなければいけないのが、相手がどう動くか。

一発で逆転が生まれるような実力者同士であれば、考えなしに動けば、そのまま負けに直結してしまう。

普通なら、見に入るところだが……

 

「先手必勝だ!」

 

下段二発、大した威力でもないそれを、シーシャは足で受ける。

ウチは足を地面につけず、そのまま中段蹴りを放った。

先ほどよりも強く打ったが、シーシャは腕で受け止め、衝撃を吸収した。だが、ウチは構わずに今度は渾身の力を込めて上段蹴り。

中段を防いだままの腕は、しかし動くことなく、ウチの爪先はシーシャの顔をもろにとらえた。

シーシャはぐるっと身体を回してダメージをそらしたが、勢いは完全に殺せず、後ろに下がった。

 

「おっと、顔はまずかったか?」

 

「何をした」

 

「ちょっとした手品だよ」

 

小刻みに震える左手を振って、シーシャが距離を詰める。風のように素早い蹴りをかわして、続く拳の連打も流す。

しびれを切らしたのか、直線的に腹を狙うパンチを、わずかに後ろに下がって避ける。

シーシャがにっと笑った。

違う。これはやぶれかぶれのパンチじゃない。

シーシャの手に、一瞬で砲身が装備された。青いバスターから放たれる光の弾丸がウチを襲う。

吹き飛ばされながら、受け身をとって地に足をつける。

意識を持っていかれそうな威力に視界がぐらつくが、頬を叩いてはっきりさせる。

その攻撃をさらに三発撃つシーシャに、ウチも脚からエネルギー砲弾を放って応じる。

二つの光弾は相殺し、消し合った。

間髪入れずに、同時に距離を詰める。

容赦ない殴打を、脚で受け流す。その度にシーシャの動きが鈍くなった。

隙をついて、避けられることを考えずに脚を振りぬく。

全力の攻撃を受けて、シーシャの身体が転がっていく。

よろよろと立ち上がった彼女の目は、ウチの脚に注がれた。

手品の正体に、シーシャは気づいたようだ。

ウチは脚に雷魔法を纏わせていたのだ。麻痺性能の高いそれを受け続ければ、筋肉が引きつってうまく動かせなくなる。

問題は、それを気づかせないために少量の電流を流していたこと。だから何度も叩いて、ようやく効果を発揮させていたのだ。

隠していた手だったが、それが露見したとなれば、誤魔化す必要はなくなった。小さく爆ぜるほどの電撃を全身に纏う。

シーシャは舌打ちして、まっすぐ向かってきた。

返り討ちにしようと構えた一瞬で、彼女の姿がすっと消えた。

がくりと脚の力が抜けたと思うと、地面が迫ってきていた。手をついて、ローリングする。

無防備となった背中に、激痛が走る。さらに撃ち込まれたバスターが身体をかすめる。

くるりと反転して、シーシャを確認する。

スライディングで足を払われた。追撃の砲撃を外さないために。

だがそのために、電撃を受けるはめになった。片膝をついたシーシャは、がくがくと震える足を叩いて無理やり立つ。

反撃したいところだったが、今の攻撃でウチの頭もぼんやりしている。

歯を食いしばって、シーシャに近づく。彼女もまた、こちらに歩を進めてきた。

そこからは、脚と拳の応酬。

数センチの間合いの中で、どれだけ痛みが走ろうと、お互い一歩も引かない。

いまシーシャを動かしているのは、もともと彼女の中になかった黒だ。

彼女の感情を食いものにする、何かだ。

ここで終わらせる。

痺れてなお突き付けられる拳を流さず、受け止める。

その身体に電流を流す。

悲鳴を上げて、昏倒寸前まで身体を痙攣させる。

 

「ウチをここまで追い詰めたのは、あんたが……何人目だったかな」

 

脚にフォール・プロセッサを纏わせる。ぐるりと回って、蹴りを飛ばす。

並みなら骨が粉々だが、心配ないだろう。おそらく、たぶん。

ばたり、と倒れたシーシャは動かず、しかし笑った。

 

「最高だったよ」

 

その言葉は、もう彼女を蝕むものがなくなったと直感させるほどすがすがしかった。

終わった。

全力の一対一は、終わってみれば心に残るほど熱い戦いだった。

全ての力と策を使うほどの戦闘は、久しぶりだった。

 

「マゾもそこまでにしとけよ」

 

それだけ言って、ウチはシーシャの身体を持ち上げた。

 

 

 

「これまでの戦いの経過と結果から見ても、エコーの目的はいまいちわからないッス」

 

ホワイトボードに写真をいくつか貼る。

今までにわかった情報もまとめて書きだした。

それをぽかんと眺めるブランちゃん、ラムちゃん、ロムちゃん、シーシャ。

ウチとシーシャは包帯まみれで、しかしやる気は満々だ。

本当は全快するまで寝ておきたいところだったけど、時間は限られている。

 

「ただ、ヴァトリとヤマト……これはウチの仲間ッス」

 

指示棒でぱしぱしと二人の写真を叩く。

補足したのは、出会ったことのないシーシャと、何年かぶりの三人のためだ。

 

「この二人からの情報をもとに考えると……」

 

「考えると?」

 

ラムちゃんがわくわくしながらこちらを見る。

が、残念ながら……

 

「まあ、わからんッス」

 

ウチは指示棒をたたんだ。

エコーの動きには特にこれといった一貫性がない。

変なことをしている、という意味では一貫しているが。

これだけ戦っているのに、まったくと言っていいほど進歩はなかった。

 

「何かの陽動か、あるいは世界を滅茶苦茶にしたいだけか……」

 

「女神を倒すって言ってたわね」

 

うーん、と唸って、ブランちゃんが言う。

ヴァトリの報告からも、それが上がった。

エコーの目的。女神を倒す。だが、あくまでそれは目的の一つに過ぎない。

 

「それにしちゃ、あまりにも準備がお粗末ッス。女神無効化の石でそれができるほど、ウチらの戦力は少ないわけじゃないッス」

 

狙いがそれなら、回りくどすぎる。

ラステイションでノワールを捕えたという話からも、単純に女神を消すことはしないことがわかる。

何かを待ってるような、そんな気がしてならない。

 

「鍵は、あのモンスターッスかね。超次元のに混じって、見たことのないのがいくつかいたッス」

 

「そうね、あれは私も驚いたわ。瘴気の影響じゃないの?」

 

シーシャは首を横に振る。

 

「ううん、アタシの瘴気はあくまでモンスターの凶暴化の効果しかない。姿を変えるなんてできないはずだよ」

 

手詰まりかと思われた。

だけどその瞬間、ロムちゃんがぽん、と手をたたいた。

 

「そういえば、ネプギアちゃんが……」

 

「そうよ! 別の次元に行ったって言ってた!」

 

継ぐように、ラムちゃんも声を上げた。

別の次元って……

 

「え、なに、また事件に巻き込まれたんスか」

 

「ネプテューヌも一緒にね」

 

ブランちゃんが補足。

主人公というだけあって、流石の巻き込まれ体質のようだ。

零次元と呼ばれるそこは、こことは全く違う荒れようだったらしい。

モンスターの種類も別のそこを詳しく知るのは、そこに行った二人しか知らない。

 

「話を聞くには、二人のところへ行くしかないッスか……プラネテューヌへ」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。