新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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ルウィー編8 これがルウィー

「ブランちゃん!」

 

シーシャが巨大な狼型モンスターをホワイトハートへ投げる。

 

「アイ!」

 

ボールのように飛んでくるそれを、斧でかっ飛ばす。

 

「ぶっとべ!」

 

ウチのほうへ地面を転がってくる。構えも型も何もなく、ウチは狼を蹴り飛ばす。

無様に悲鳴を上げながら吹き飛んでいく狼は、多数のモンスターを巻き込んで消滅していく。

それを見届けたウチら三人は、肩で息をする。

 

「今ので何体目だよ……」

 

ホワイトハートが斧を杖代わりにしてなんとか立つ。

最初から戦っていた彼女はもう限界が近かった。気力だけで戦えている状態なのだ。

休ませてやりたいが、周りには敵が大勢いる。

 

「いちいち数えてられっかよ、まだまだ来やがるぞ」

 

「さっさと諦めてくれないかしら」

 

ウチもシーシャも辟易する。

何十体、いや三桁を超えたかもしれない。こんなにしつこいやつらは初めてだ。

やられるかもしれないという諦めが、一瞬頭をよぎる。いいや、こんなところで倒れてたまるか。まだやるべきことがあるんだ。

ウチらが覚悟を決め、武器を構えたとき、どどど、と地響きが鳴った。

 

「ちょっと待て……なんだこの音」

 

ぽかんとホワイトハートが口を開ける。

モンスターが進撃してくる音じゃない。もっと血気盛んな……足音だ。

 

「やっと来たか……」

 

全てを察して、ウチは身体の力を抜く。

 

「いっけー! みんな突撃だー!」

 

地鳴りに負けず、ラムの声が響く。

ここにいないはずのラムとロム。そしてその後ろには、モンスターの大群にも負けない人の波だ。

 

「あれは……」

 

「ルウィーのハンターたちじゃないか!」

 

二人の顔が驚愕で固まる。

ルウィーのハンターたちが、いまここに押し寄せてきていた。その全員が怒号を上げながら、次々とモンスターに立ち向かっていく。

数だけでもモンスターを上回るうえに、やる気は満々だ。

 

「みんな大丈夫?」

 

戦闘はハンターに任せ、ラムとロムがこちらに寄ってくる。

 

「お姉ちゃんのケガ、すぐに手当てするね」

 

ロムが魔法で満身創痍のホワイトハートを癒す。

茫然と魔法を受けるままの彼女は、はっとして妹たちを見た。

 

「いやいやそれより、これはいったい……?」

 

「呼んでもらってきてたんだよ」

 

代わりにウチが答える。

この場で何も知らない二人が、今度は首をぐりんと動かしてウチを見る。

 

「呼んで……って、これだけの人数をかい?」

 

「そうだよ、すでに話はつけてたからな。あとはタイミングが重要だった。本当は、あのクソ男をボコボコにするための協力だったが……まあ結果オーライだろ」

 

今日起きたことは予想外の出来事だったが、下準備のおかげで好転した。いや本当、こういうところで出るんだぞ、後々の結果が。

 

「話って、私たちは指名手配受けてたはずだろ?」

 

「あのなぁ、何日も指名手配受けといて、ウチらのところは音沙汰なしってのはおかしいと思わなかったのかよ」

 

にひひと笑って、ウチは説明をつづける。

 

「すでにハンターたちにはそこらへんの事情を話してたんだよ。言っただろ。『全員にきっちり動いてもらう必要がある』ってよ」

 

「全員って……」

 

シーシャが呆れたように肩を落とす。

時間は有効に使うべきだ。こんな状況じゃそれは特に感じる。時間と人の大切さは、取り返しのつかないほど重い。

 

「アイってほんと、何者なんだ」

 

「ウチだけじゃ、無理だったけどな」

 

ギルドのメンツに遅れて、今回の立役者が走り寄ってきた。

メイド服の少女は息せき切らしながら、ウチたちを見ると笑顔を見せた。

 

「はぁはぁ、アイさん、お待たせしました」

 

「おう、遅かったな、フィナンシェ」

 

無理に来る必要もないフィナンシェだが、ウチたちの様子を心配してきたのだろう。

そこかしこを走り回ってもらったのに、なんだか悪い気も……させないのがこの子の魅力だな。

 

「こいつにも手回しを頼んだんだ。あとギルドの受付姉ちゃんたちにもな。あんなうさんくさい男より、みんなこっちを信じてくれたぜ」

 

「アイちゃん! 約束通り、助けに来たぜ!」

 

「女の子にばっか戦わせるわけにはいかないからな!」

 

続々と勇み駆け寄ってくるむさくるしい男どもが、親指を立ててこっちにアピールしてくる。

 

「いいからはよ行け」

 

しっしと手払いして、モンスターのもとに向かわせる。

こっちは疲れてんだ。ウチらはいいから、さっさとぶちのめしてこいよ。

喜んで! と男たちは敵と対峙する。

 

「これがルウィーの人たちか……」

 

シーシャが呟いた。

自分が疑っていた人たちが本当はどんなものか、自分が疑っていた国が本当はどれだけのものか、目にした衝撃は計り知れない。

そうして感じた鼓動はたしかに本当のもので、だからこそ疑いようのないもの。ルウィーはどこまでも白く、柔らかい。

モンスターと戦うギルドの面々を見てそう思うのは、おかしいように見えて、至極まっとうだった。

 

「ああそうだ。これがルウィーだ」

 

「ふふ、やっぱりいい国だね、ここは」

 

腑に落ちて、ほんの少し硬かった表情も消え失せた。

これで納得するということは、彼女もまた、ルウィーの住人ということだ。

 

「感傷に浸ってる暇はねえぞ」

 

「分かってるよ、もう一仕事だ」

 

今感じたすべてを守るために、ウチとシーシャは再び戦火へと身を投じた。

 

 

 

ルウィー全員、そしてウチとシーシャがもちろん負けるわけもなく、あれだけの軍勢ももう跡形もなく消滅した。

体力は限界を通り越して、ギルドのみんなに肩を貸してもらいながら、ルウィーに戻ってきた。

 

「よかった……」

 

「全員で戦った成果ッスね」

 

戦いが終わって、ほっと呟くブランちゃんの背中をウチが叩く。

ぞろぞろとハンターたちを引き連れて、ウチらは街の中を闊歩する。街の人々は拍手をしながら迎えてくれた。

一人を除いて。

ゆらりと現れたのは、あの革命軍の男だった。

 

「おやおや、そこにいるのは、囚人に指名手配犯じゃないか」

 

にやにやと笑いながら、こちらへ近づいてくる。

 

「おぉおぉ、よぉくのこのこと出てこれたッスね。そこは関心す……いやしないッスわ」

 

「ふん、そんな軽口を叩けるのも今のうちだ。お前たち! こいつらを捕らえろ!」

 

もちろん、ハンターたちは動かず、むしろ男を睨んでいた。

 

「な、なんだお前たち……」

 

たじろぐ男。

ウチを前に勝利を確信するには、時間と苦労が足りない。

とっくに形勢が逆転していたことは、いまやこの男だけが知らないのだ。

思わず、笑いが漏れた。それは伝播して、ブランちゃんもシーシャも笑みを浮かべる。

 

「あんたアホ丸出しッスよ」

 

「アタシも、まさかこんなに自分の状況を理解してないやつを見るとは思わなかったわ」

 

「今、ここにはルウィーを愛する者しかいないッス。あんたを除いてね」

 

ギリギリと歯ぎしりして、男がウチらを指差す。

 

「なにがルウィーを愛する、だ。こんな子ども騙しの国、私が支配して変えてやる! いけ!」

 

ついに本性を現した男の合図に合わせて、上空からずしん、と機械の塊が落ちてきた。

ゆっくりと立ち上がったそれは、人の形だった。エコー。

またしても懲りない機械人形がやってきた。

 

「アイちゃん! 下がって! ここは俺たちが……」

 

声を上げるハンターたちを手で制す。

 

「こいつはウチらがやるッス」

 

「ブランちゃんも下がって。君に守られたぶん、今度はアタシが守るから」

 

なおも戦おうとするみんなを、目で下がらせる。

こいつの危険性はウチらが一番わかっている。それをギルドのメンツに任せるのも悪くないが、ウチらが先陣をきるのが先だ。

 

「変身」

 

呟くように、二人で変身する。

体力があまり残っていないが、それでも負ける気はしなかった。

 

「今度は準備万端か? この前は余裕ぶっこいて手も足も出てなかったが」

 

「オレが、ただやられるために出てきたと思ったか!」

 

ウチの挑発に乗ったように、エコーが叫んだ。

前の戦いはよほど屈辱的だったようだ。まあ、女神を倒せると思ってボコボコにされたんだ。無理もない。

 

手のひらからビームを飛ばしてくる。

身をかがめて避け、そのまま突進する。渾身の蹴りを一発。だが金属音が鳴るだけで、よろめきもしない。前よりも頑丈だ。

おまけにこの機体も女神無効の石を装備しているようで、触れている脚から力が抜けてくる。

 

「ここでお前たちは死ぬ」

 

にやりとエコーが笑い、手刀を振り下ろす。

その太い腕をつかんで、拳でエコーを吹き飛ばす。

 

「おっと、アタシを忘れてもらっちゃ困るね」

 

シーシャが軽口を放って、がくりと片膝をついていたウチを引き上げる。

 

「どうしたんだい? さっきの戦いでへばった?」

 

「あいつは女神を弱らせる物を持ってんだよ。いいから手伝え」

 

背中のジェットを使って体当たりしてこようとするエコーをかがんでかわす。

重さに任せて落ちるのは、もう通用しないだろう。

だが、前とは違って、こちらにはシーシャがいる。

また戻ってきたエコーの突進を、今度は宙返りでかわしながら、背中を蹴る。

地面を滑るエコーへ駆け寄り、二人で攻撃を加える。

敵は完全ではないが、半分以上をよけた。

この前はそれほどウチらの攻撃についてこれなかったはずだ。

進化している。その事実がウチを焦らせた。この戦いで負けることはないだろう。だが……

足を乱暴に払うと、エコーの姿勢が崩れる。その隙に、シーシャが顎を打ち上げて、見上げる形になった顔に肘を打ちつける。

へこんで火花が散る顔へ、そのままダブルキック。

ウチのはヒットした。シーシャは足をつかまれて、ぶんと投げられる。

その投げ方に見覚えがあった。ヴァトリだ。

近接格闘において、進歩がみられるのはそういうことだ。

こいつは戦った相手の戦闘データを取って、自分のものにしている。

ここで長く戦うのもまずいってことだ。

たいして効果のない蹴りを続けるのも悪手……悪足だってことだ。

すっと腕が伸びてきた。

首を掴まれる前に身体をひねって、逆に首を掴んで地面にたたきつける。

抵抗する間もなく、その顔がシーシャに踏みにじられた。

バチバチと嫌な音を立てて、エコーががっくりと倒れる。

まあやっぱり、倒されるだけだったみたい。

 

「大したことはなかったね」

 

「まだまだ未完成ってことだろ」

 

変身を解いて、エコーの潰れてしまった顔を持ち上げて、ぶらぶらと振る。

やたらと女神を敵視してるこいつは、何の目的でつっかかってくるのか。

ウチやブランちゃんを倒すには、かかってくる回数は少ない。かと言って殺すという言葉に嘘はない。

進化していく機械。今はまだ、発展途上のようだ。

行動が短絡的なところや挑発に乗るところ、まるで子供のようだ。

そんなエコーの目的……

世界征服?

いやいや……

 

「それはないッスよね」


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