新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
「ブランちゃーん」
部屋にひょいと顔を見せると、意外にもブランちゃんはふとんを身体にかけたまま、じっとしていた。
「おっ、安静にしてたッスね」
「この弱った身体で動くほど無謀じゃないわ」
そわそわしているのを隠しているつもりではあるが、今すぐ探していきたいというのはなんとなくわかる。
「ウチらが出ていく前はかなり暴れてた気がするんスけど」
「うっ……悪かったわ。いてもたってもいられなくて……」
「まあまあ、無事でよかったッスよ」
飛び立ったときは嫌な予感がぎっしりだったけど、当たらなくてよかった。
ちなみにシーシャにギルドの報告を任せているため、いまここにいるのはウチとブランちゃんだけである。
いい機会である。ウチはこの世界の異変とヤマトから得た情報をブランちゃんに伝えた。
彼女も薄々感じていたようで、特に驚きもせずに受け入れた。
「弱ったわね。私のシェアがほとんど感じられないのはそのせいだったの」
「ん、まあそうッスね。だけど本当の最悪は逃れられてるッスよ。改変の影響は完璧じゃない。ウチら別次元の人間は影響を受けてないッスし、ブランちゃんが消滅していないところを見ると、覚えている人もいるはずッス」
かつて神次元ではルウィーのシェアがほぼゼロになったことがある。そのときのブランちゃんは戦うどころか、動けるかどうかも怪しかった。
それを考えると、今はまだほっとできる。
もちろん危険なことには変わりないが、国が敵になったわけじゃないし、どうにでもなる。
「そうね、とりあえず戦えるなら、対処のしようはあるわ。ところで、シーシャはどこにいったの?」
「ここに戻ってくる途中で、分かれたッス。もう少しで戻ってくるんじゃないッスかね?」
「そう……なら今のうちに話をしておこうかしら」
「話?」
「ええ、この改変が起こる直前、私たちはゴールドサァドと名乗る四人組に負けたの」
「その一人がシーシャってわけッスか?」
即答したウチに、ブランちゃんは驚いた。
「知ってたの?」
「いいや、全然。ただ、ブランちゃんのことも知ってる様子だったッスし、なにより内側に隠してる力、あれは人間のものじゃない」
会ったときから妙だと思ったが、さらにきな臭くなってきた。
女神とも犯罪組織とも違う力、それは謎の黄金の塔からも感じられた力と同一のものだ。
それほどの強さがありながら、ウチらを攻撃してこないのはなぜか。
敵と認識するには、まだ早いのかもしれない。
「あいつなに企んで……」
そしてもっと悪いのは、おそらくウチのことも知ってるってこと。
シーシャがゴールドサァドで、女神のことを覚えているとしても、ウチのことは知らないはずなのに、目の前で変身してもまったく驚いた様子はなかった。
ウチらがここにくるきっかけになった機械と関係を持っていてもおかしくはない。
くわえて世界改変にも繋がっているとしたら、一番の危険人物だ。
固められたブランちゃんの拳を見て、ウチは彼女をなだめた。
「やめたほうがいいッスよ。全力でも負けたんでしょ?」
「ぐっ」
「二対一でもいいッスが、ウチの手の内も半分見せてしまったゆえにアドバンテージはあっちにあるッス」
プロセッサの特性を変える「チューニング」。
重量と攻撃性を増す「チューニング・フォール」を見せたが、ウチはシーシャの戦い方すら知らない。
「いまは探るほうが賢明ってことね。はあ、いい知らせはないの?」
「妹ちゃんたちの痕跡を見つけたッス」
その言葉に、ブランちゃんは目を見開いて、身を乗り出した。
「どうやら今は隣町にいるらしくて、そっちのギルドに連絡を繋いでもらってるッス。見つかるのも時間の問題ッスよ」
「よかった……」
心底ほっとして、ブランちゃんは胸をなでおろした。
ロムちゃんラムちゃんの動向がまったくわからなかった心労が、重荷となって休めなかったのだろう。
彼女はうつらうつらとして、身体を横にした。
「ブランちゃんが回復したら、ぱっと向かうッスよ」
「なら、はやく治さないとね」
ふとんを胸までかけると、あっという間に寝てしまった。
ウチはそれを見届けて、再び外へと出向いた。
適当にぶらぶらと歩いていると、ちょうど向こうからシーシャが現れた。
少し浮かれない顔だけど、こっちに気づくと、いつものひょうひょうとした調子に戻った。
「シーシャ」
「やあ、アイ。ブランちゃんの様子はどうだった?」
「しっかり養生してたッスよ。そっちは何してたッスか?」
シーシャは少し詰まって、
「ロムちゃんとラムちゃんについての情報収集をね。結果は収穫なしだったけど」
やれやれと首を振った。
「すぐ見つかるッスよ」
が、しかし、いまの反応は嘘のものだ。
なにか隠している。しかも、これまでに見せなかった部分じゃない、なにか新しい隠し事。
ここで、少しカマをかけてみよう。
「ところで、ルウィーのゴールドサァドは姿を現さないッスけど、どこにいるんスかね~」
「さあ、アタシも見たことがないから分からないね」
「案外近くにいたりして」
「ははは、ありえそうだね」
うまくかわしてる。だけど、拳に緊張が見えた。
身体の各所先端は少し震えて、怯えているというよりは迷っているというふうに見える。
「それはそうと、ブランちゃんが回復したらさっさと妹ちゃんたちを探さないと」
「ルウィーじゃ、何をするにもライセンスがいるからね。試験を受けてもらって、それからだね」
「ほんと、面倒くさい国になったッスねぇ」
「それに関しては同感」
くすっと笑いながら、緊張は解かれてない。
問題はその緊張が、ウチを見るたびに増していっていることだ。
やはり、ウチのことを知っていて、なにかしらを企んでいる。もしくは巻き込まれているか。
「どうかした?」
「んーや、なんにもないッスよ」