新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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ルウィー編2 落ちていけ砕いていけ

「うーん、むむむ」

 

「どうしたんだい? 神妙な顔で」

 

「いや、時間がかかりすぎたッス。もうちょっと早く済ませるつもりだったんスけどね~」

 

筆記試験に体力試験、おまけに面接。

無事ハンターの資格はもらえたものの、三時間かかったせいでもう眠たい。

 

「アタシから言わせれば、早すぎる。受付の人も驚いてたよ」

 

筆記試験も体力試験も大したことはなかった。特に体力試験は歴代トップでクリア。

面接で「ハンターがやりたいッス」といっただけで「ああ……そう……うん、もうハンターでいいよ」と言われて終了。

割と気合を入れたのに拍子抜けだった。

 

「安っぽーいッスね。国が発行してるにしては」

 

ライセンスは、外見はただのカードだ。

シーシャによれば、これに情報が詰め込まれていて、ルウィーで何をするにもこれが必要なんだとか。

 

「とにかく、ハンターの資格おめでとう」

 

「どうもッス。さてさて、ブランちゃんもここに連れてきたいところッスけど」

 

「あの調子だとまだ動けそうにないからね」

 

また再び起きたとしても、立ち上がって歩き回るのは難しい。

ウチが先にいろいろと知っておけばスムーズに事を進められる。ブランちゃんもこの状況についてほとんど無知のようだし。

 

「先に調べものをするッス。案内は頼むッスよ」

 

「わかった。どこにいく?」

 

「ギルドへ」

 

ハンターは、職業の中でも上位のほうにあるらしい。

案内されたのはご立派な建物。受付がいくつもあり、そのほとんどが武器を持った男たちで埋まっていた。

ごついおっさんたちがごった煮しているなか、ウチは一つの受付が空いているのを見つけ、素早く声をかける。

お姉さんが営業スマイルで迎えてくれた。

 

「新人さんね。ハンターの資格おめでとう。初心者向けのクエストはこっちよ」

 

「はあ、どうも」

 

ライセンスを見せるなり渡された紙に書かれていたのは、薬草採集だったり雑魚モンスターの討伐だったり、バカにされているような内容のクエストだった。

まあ、なりたてのハンターにはこれを渡すようにしているのだろう。

ウチは適当に目を通しながら、ブランちゃんの写真を見せてお姉さんに質問した

 

「クエストはともかく、少し聞きたいことがあるんス。この子に似た、小さい双子を見かけなかったッスか?」

 

ブランちゃんの妹たち、ラムちゃんとロムちゃんについての記憶は定かではないが、たしか姉妹だと納得できるくらいには似ていたはずだ。

神次元のブランちゃんはそれを知って、やたらと妹を欲しがっていたが、結局ウチや、また別の女神であるピーシェを愛でている。

 

「双子? ああ、あのフリフリの服を着た可愛い双子ね。知ってるわよ」

 

おっ、早速情報が入った。ウチはすでにライセンス試験場で二人のことを聞いて回っていた。

写真などの姿がわかるものは手に入れることができなかったが、ハンターになったということだけは知れたのだ。

ギルドに来たのは正解だった。

 

「いまその二人は何してるッスか?」

 

「いまは……このクエストを受けてるわ」

 

ひとつの紙を手渡してきた。

隣町との間にある道に強力なモンスターが現れた。このままではお互いの行き来ができないので倒してほしいとのこと。

 

「あなたじゃ無理よ。そこに書かれてるモンスター、強すぎてベテランのハンターでも逃げ出すもの」

 

先の単純クエストと比べると、はるかにランクは高い。

それを幼女二人に任せるのもおかしいんじゃないスかねえ。

 

「そりゃどうも」

 

二人の安否がより気になってきた。

受付が止めるのも聞かずに、ウチは足早に去った。

 

 

 

「本気? 目当てのモンスターは防御力が高くて、どれだけ攻撃を打ち込んでも倒せないことで有名なんだ」

 

シーシャがウチと並んで歩きながら、そう言ってくる。

 

「手ごたえがありそうでいい。ちょうど活躍取られっぱなしで二十話近く登場なしだったから、いい機会ッスよ」

 

これで初登場の時も、良いところはヤマトとヴァトリに取られたのだ。

暴れられる分は暴れておかないと、評価が下がってしまう。いやほんと前作では大活躍だったんスよ。

 

「キミって……よくわからないやつだね」

 

「よく言われるッス」

 

隣町への街道を通りながら、あたりを見渡す。

食べる気にはならないが、見た目はお菓子でできた木や丘があり、ルウィーの面影はこういうところに見える。

高低差がある土地なうえ、障害物も多い。不意打ちを受けるのも納得できる。

その中で、ウチは違和感を覚えるものを見つけた。

 

「魔法の痕跡」

 

「なんだって?」

 

「ほらここ、氷が砕けてまだ溶けてない」

 

キノコのような大きな木の根元、砕け散った氷の塊がまだ溶けきれずに光っていた。

 

「だから?」

 

「ここ最近の天気は知らないッスけど、雪なり雹なり降ったとしてもそうでないにしても、ここだけ氷があるのはおかしい。それに溶けてないってことは、これを出した本人はまだ近くにいるはずッス。二人分の足跡。小さいうえに浅い。子どものものッス」

 

途中から足跡の間隔が大きくなっている。

モンスターに遭遇して、氷をぶつけて、逃げたってところか。

向こう側へと続いている。やられてはいないみたいだ。隣町に駆け出して行ったと見て間違いないだろう。

追うにしても戻るにしても、この場にいるモンスターは邪魔になる。

クエストはクリアして、いったん帰るべきだろう。

 

「さて、モンスターの位置は……」

 

残された痕跡からモンスターを探ろうとすると、どすん、と大きな音が聞こえ、陽が遮られた。

 

「わざわざ出向いてくれたみたいだよ」

 

シーシャが上を向いて、苦笑いを浮かべながらウチの肩を叩く。

恐る恐る振り向くと、巨大な身体が目の前に佇んでいた。

 

「あーらら、亀とは予想外」

 

三メートルを超えるどでかい亀が、二足歩行で行く手を遮っていた。

亀はなにやら黒いオーラを纏いながら、その鋭い爪を振った。

飛び上がって避けながら下がったにも関わらず、攻撃の衝撃は空気を通して伝わった。

 

「これは正直ヤベーやつッスね」

 

「じゃあ諦める?」

 

「まさか、堅い敵にはごり押してこそッスよ」

 

ウチは全身に力を込め、拳を突き出す。

 

「変身!」

 

光の柱がウチを包んでいき、シェアの力で身体を成長させていく。

髪、目が紅く染まっていき、尖ったプロセッサに覆われて準備が整う。

女神ローズハート、ここに参上だ。

 

「さあ、ぶっ飛ばしてやるぜ」

 

にっと笑って、モンスターを挑発する。

亀は吠えながら突進してきた。

もちろんそんなものをまともに食らうはずもなく、無防備な腹へ一発回し蹴りを食らわせた。

巨体はまっすぐに飛んでいき、小さな丘を崩壊させながら倒れた。だが、亀はすぐさま立ち上がり怒りの咆哮を上げる。

ダメージはいまいち。

確かにタフだ。これはちょっと面倒かもしれねえな。

亀は手足と頭を甲羅の中にしまい、スピンしながら突進してきた。

 

「おっと」

 

ギャリギャリと耳障りな音から、相当な回転数だとわかるが、そんな攻撃をくらうウチじゃない。

 

「カーディナル・アスター!」

 

空へ浮かび、脚に纏ったエネルギーの砲弾を甲羅へ一撃。だが、相手の堅さの前では、地面を削り取る必殺技も弾かれて消える。

着地すると同時に、亀も収めていた部分を出す。

なんだか、嘲笑しているように見えてムカつく。

とはいえ、このままではじり貧になるのは目に見えている。しかたない。

ウチは亀が動く前に素早く距離を詰め、空を切る音を立てながら顔を脚で叩く。

やはり傷は負わせられない。しかし衝撃は敵の頭を揺らした。

頭がくらくらと据わらず、目の焦点も定まっていないのを確認して、ウチは真上へ飛び立つ。

 

「チューニング・フォール」

 

ウチの声に反応して、脚に金色のプロセッサが追加で纏われる。

ぐっと身体が重くなって、落ちてしまうのをこらえて力をためる。

 

「クリムゾン……」

 

さらに紅のオーラで覆われた脚が、これ以上ないほどのエネルギーを内にため込む。

亀にはこちらが見えていないが、本能か、再び身体を甲羅の中に収め、防御態勢に入った。

だがもう遅い。

 

「アルカネットォ!」

 

重力に任せるままでなく、地面にめりこむ覚悟で急降下。まっすぐ、真下へ。

制御できないほどの速度で激突。手ごたえ、いや足ごたえを感じて、甲羅を砕く。

落としたグラスのように粉々になったそれの中身も、一瞬見えたあと消滅していく。

勢いあまって地面を凹ませる。隕石が落ちたかのような跡を残したのを確認して、ウチは変身を解く。

 

「い、言うだけはあるね」

 

「ふふん、ウチはできる子ッスからね」

 

引き気味に笑うシーシャに、ウチは胸をそらして答える。

 

「にしても、今まで戦ったことのないモンスターだったッスね」

 

「最近じゃ、そんなのは珍しくないよ。強力なモンスターが立て続けに現れてる」

 

ため息をついて、シーシャが説明をする。

超次元のモンスターがどの程度かは知らなかったが、ネプテューヌの話だと神次元と強さはそれほど変わっていないらしかった。

これも世界改変の影響とみて間違いない。

 

「あの黒いオーラを纏ったモンスターは特に危ない。猛争モンスターと呼ばれてるんだけど、一流ハンターでも歯が立たないほどなんだ」

 

まあ、そうだろう。

隣町との邪魔になっているあの亀は、優先度では上位のほうだ。倒せるものがいるならとっくにいなくなってる。

とりあえず、モンスターを倒したのだから、今後この道を通るのは楽になる。

ブランちゃんを連れてきても、危険はないだろう。

 

「で、これからどうするんだい?」

 

「妹ちゃんたちは無事らしいし、とりあえず戻ってブランちゃんに報告ッスかねぇ」

 

まだ満足に体を動かせるはずもないが、だからといってじっとしているとも考えられない。

暴れてないといいッスけど。

妹ちゃんたちの話をしたら落ち着いてくれるだろうか。

いやぁ、多分余計動きそうッスねえ……


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