新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】 作:ジマリス
ネプテューヌのもとから飛んで数時間。
ようやくルウィーの大陸に到着したウチだったが、感情のままに飛び出してきたのが悪かった。
連絡先を知ってるわけじゃねえ。どこにブランがいるのか……ま、街に着けばどうにかなるだろ。
そう思って速度を上げようとしたそのときだった。
眼下の草原に一人、モンスターに囲まれている少女がいた。
少女はハンマーを振り回しながら、そのモンスターと戦っている。
あれ……ブランじゃないか?
疲弊しきっているのか、あと一体、スライム型を残してブランは膝をついた。
「あぶねえ!」
ウチはすぐさま急降下して、間に割って入る。
いきなり現れたウチに驚いて、隙ができたモンスターに、嵐のように蹴りを浴びせて吹き飛ばす。
「おい、大丈夫か?」
振り返ると、ブランはばたりと倒れていた。
全く強くない相手だったが、それすらも倒せないほどに危ない状態だったのか。
「ったく、なんなんだよ」
ブランの身体を確認すると、特に大きな怪我はない。ただ気絶しているだけだ。
たった一人。こちらのブランには妹もいたはずだ。ネプテューヌもそうだが、全員が全員ばらばらになっていると考えていいだろう。
気になることがいくつもある。特に今は、少し遠くからこちらを見ている女性が目につく。
「誰だテメェ」
声をかけると、そいつは手を上げて近寄ってきた。
動きやすそうな露出の多い服装。引き締まった身体とたたずまいで戦闘慣れしていることがわかる。
それ以上に、奇妙な力を感じる。
「今のところは敵じゃないよ。その子が危ないのを見かけて、助けようとしたんだけど……」
ウチと女性が固まる。
しばらくお互いがお互いを警戒していたが、しかけてくる様子はない、と見えてウチは変身を解いた。
長い間女神化をしていたせいで、どっと疲れが出た。
「一応、信じてあげるッス」
変身を解いたウチに驚きながら、女性は差し出した手を掴む。
「篠宮アイ。見ての通り、ちょっと変わった人だって思ってくれればいいッス」
人間篠宮アイと女神化した姿であるローズハートはその体格だけでなく、性格だったり喋り方だったりもかなり違う。
金髪は燃えるような紅になるし、起伏のほとんどない身体も相当に育ったものになる。
口調は不良そのものになってしまうが、まあこれが躊躇なく出てくること出てくること。
「よろしく、アタシの名前はシーシャ。ルウィーのハンターだよ」
「ハンター?」
聞きなれない言葉。
当たり前のように言われたが、ウチは首を傾げた。
「話は街に戻ってからにしようか。その子も休ませないといけないしね」
そうだ。こんなところで立ち話をしている場合じゃない。
ウチはブランちゃんを背負い、シーシャの案内のもと、ルウィーへと足を踏み入れた。
「世界改変」
口に出してみても、現実味がない。
まあそれはもちろんのことで、神次元でもなかったことだ。
とはいえ、疑ってはいない。ヤマトの言うことだし、それなりに情報を集めて出した答えのはずだ。
ホテルの廊下に佇みながら、誰にも聞かれていないことを確認して、ウチは通話をつづける。
『そう、僕たちも調べてるけど、思ったより状況はまずい。誰も女神のことを覚えてないんだ』
通信端末から聞こえてくるヤマトの声は困惑していた。
女神の存在が忘れられているなんて、信じられることじゃない。
犯罪神を倒し、太古の女神からも世界を救った女神は、人々からすれば救世主なのだ。
「女神のことを……それは確かッスか?」
『うん、アイエフでさえ、ネプテューヌのことを覚えてない。僕たちが影響を受けていないのは、別の次元の人間だからだろう』
「原因は?」
『わからない』
即答。
確信に迫れるような何かを一切手に入れられていないのだ。
それはウチも同じだ。
しかしブランちゃんがあれだけ力がなくなっていたのが納得できた。信仰がなければ女神は力を失う。
忘れられている今じゃ、信仰以前の問題なのだ。
『女神の代わりにゴールドサァドってのが国を仕切っているらしいけど、どうにも姿が見えなくてね』
「ほぉん……ヴァトリの様子は?」
『いまは別行動。とにかく情報が少ないからね。アイも何かわかったら連絡を』
「了解ッス」
ウチは通信端末をしまい、腕を組んで考えた。
とにかく、ゴールドサァド、そしてこの状況を作り出した何者かを特定しなければならない。
それにヴァトリも心配。あの子はまだヤマトやウチに依存しているところを自覚しているから、一人で突っ走ってしまわなければいいけど。
「電話は終わったかい? あの子が目を覚ましたんだけど」
正面の扉が開かれるなり、現れたシーシャの言葉に、ウチは思考を取っ払った。
「いま行くッス」
シーシャがとってくれた一室はかなり豪華なもので、ブランちゃんが寝ていてもあと二人は入れるほど大きなベッドがある。
寝息を立てていたブランちゃんは、いまは寝ぼけながらもその目を開いていた。
「ん……ここは……」
「街のホテルだよ。気絶してたからここまで運んできたんだ」
「無事なようで良かったッス」
ブランちゃんはきょとんとして、不思議そうな顔でこちらを見た。
「あなたは確か……アイ?」
「おー、覚えててくれたんスね」
ぱちぱちと拍手して、顔がほころぶ。
神次元のブランちゃんとは大の仲良しだが、こっちの彼女とはほんの短い間しか会っていない。
何年も経っているのに覚えてくれていることに、思わずお姉ちゃん大歓喜ですよ。
「それで、あなたは……」
「アタシはシーシャ。ハンターだよ」
「は、ハンター?」
シーシャの自己紹介に、ブランちゃんは首を傾げた。
「ああ、それ、ウチも気になってたッス」
ハンターという職業。なんとなく推測はできるものの、それに似た職業はまた別の名前で知られていた。
「二人ともルウィーの出身じゃないの?」
「私はルウィー出身だけど」
「ウチは違うッス。いやまあ違うというか……」
どう説明したものか、と思案していると、それを無視してシーシャは話をつづけた。
「ルウィーの住民は、それぞれにあった職業を与えられるんだ。それがライセンス制」
「勝手に決められるってこと?」
「そう、アタシの職業の『ハンター』は、モンスターの退治や物の採集が主な仕事だね」
そういうとシーシャは懐からライセンス証を見せた。
小さなプラスチック製のカードには、確かに職業の欄にハンターと書かれている。
「キミたちもこの国に住むなら、ライセンスが必要になる。この国の貢献度によって、住める場所が変わってくるからね」
「住む場所まで決められてるんスか?」
シーシャは顔をくらませた。
「この国では、人は徹底的に管理されているの。自由なんてものはないんだ」
「そんなことが……」
「ふざけやがって!」
びくっと身体がはねた。
声を荒げたのはブランちゃんだ。さきほどまで倒れていた姿はどこへやら、悔しそうに歯噛んでいる。
「ルウィーはそんな国じゃねえ! 子どもも大人も楽しく暮らせる国だ! そうなるように私が……」
ブランちゃんの身体が、糸が切れたようにぐらりと揺れた。
倒れそうになったところを、急いで支える。
やはり、弱った身体にモンスターの襲撃は想像以上に堪えたみたいだ。
それ以上に、変わりきったルウィーの姿に眩暈がするほどの怒りを感じているに違いない。
「落ち着くッス、ブランちゃん。怪我はまだ癒えてないんスから」
「落ち着けるかよ。私の国が、ルウィーのみんなが……ロムとラムも探さないといけねえのに……!」
そこまで言って、がくりと力が抜けた。
限界だったのだ。
小さな身体をそっと寝させて、布団をかぶせる。
「ウチがなんとかするッス。だからいまは……」
この世界を覆う謎を一刻も早く解決しなければ。
来たのは機械を追うためだったが、後回しでも構わないだろう。
今は何よりも、友人を救うために走る必要がある。
「とってもこの国が好きみたいだね。正直驚いたよ」
「ブランちゃんは、誰よりもルウィーが好きッスから」
この国でしばらく動くことが決まった。
ならば……
「シーシャ、ライセンスってのはどこで取れるんスか?」