新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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ラステイション編9 W装着!

私たちは早速、黄金の塔の目の前まで来た。

さっきまでと変わらず扉は開いたままで、その先からは得体のしれない嫌な雰囲気が漂っていた。

 

「前のときにはなかった足跡があります」

 

一人分の足跡。それに、何か巨大なものが通った跡もある。

エコーじゃない。それよりももっとでかいものだ。

戦いに備えて兵器を仕込んできているのだろう。

 

「すでに中に入っているってわけね」

 

「イヴはこの塔のこと調べなかったの?」

 

「調べたいのはやまやまだったんだけれどね。前までは扉が開いてなかったからどうしようもなかったのよ」

 

一番気になる存在ではあったが、どうしてもびくともしないのでとりあえず放っておいたのだ。

この扉を開け閉めできるのはゴールドサァドだけなのだろう。

 

「さあ、行きましょう」

 

「その前に」

 

いざ、と歩を進めようとした私たちに、ノワールが待ったをかけた。

 

「ケーシャ。あなたはここまでよ。あとは私たちに任せて」

 

渋った顔を見せたが、戦わないという約束だ。

ケーシャは頷いてこたえた。

 

「はい……約束ですから」

 

「待っててね。必ずあなたのところに戻ってくるから」

 

「は、はい! 待ってます!」

 

『あなたのところに』がよほど嬉しかったのか。

ケーシャは満面の笑みで私たちを見送った。

 

 

 

先ほどの戦いでは見ることのなかった、塔の最奥部。

黄金の玉座がその存在感をいかんなく主張していた。

これだけ奇妙な空間の中にありながら、荘厳さは褪せることなく、目をひきつける。

 

その前に陣取っているのはあの女だ。

教会で私たちの邪魔をした、傭兵組織を束ねるクールぶった女。

むかつくことに、先手を取られた。

 

「やはり来たな、女神ども」

 

「このロボットは……」

 

エコーよりもはるかに巨大なロボットだ。

歩く戦車といえるようなその異形さに、思わずのけぞる。

こんなものは、造ろうと考えることすらしなかった。

二つずつある腕と足でバランスを取りつつ動いているが、重量は何十キロとあるだろう。

踏みつけられるだけでおしまいだ。

 

「貴様たちを完全に倒す最終兵器だ。私たちとエコーが造りあげた最高傑作でな」

 

「やっぱりエコーと仲間だったのね」

 

「あくまで手を組んだだけだ。あの石を持っているのは、エコーだけだからな」

 

「ってことは……」

 

「もちろん、こいつにも搭載されている。行け、〆タルギア!」

 

問答もなく、女は命令を下した。

すると、それまでうなりを上げていた〆タルギアがゆっくりと私たちに狙いをつける。

肩部分に取り付けられた砲台から、弾が射出された。

私は急いで変身しようとするが、背中をかすめた砲弾によってカバンが弾き飛ばされる。

それだけじゃない。衝撃で身体が十数メートルも吹き飛ばされてしまった。

かすめただけでこの威力。大きいケガを負わなかっただけでも幸運だ。

 

「変身!」

 

無事だったノワールとユニが先に変身する。

姉妹ゆえの息の合ったコンビネーションが〆タルギアを叩いていく。

だが、普通のモンスターならすでに何十体と倒せたはずの攻撃は一切効いていない。

それどころか、姉妹揃って動きが鈍くなっていく。

石の影響だ。

なら私がやるしかない。

だが心配事はそれだけじゃない。視線の隅でこっそりと動く女に銃を向けた。

 

「動かないで!」

 

「逃げる気はないさ。だが、私を見張ってていいのか? 女神じゃあいつには勝てないぞ」

 

〆タルギアが腕を振るう。

本来なら大したことのないはずの攻撃も、どれだけのダメージを受けるかわからない。

ノワールもユニも器用にくぐるが、石の影響でそれがどこまで続くか。

 

仕方なく、私は飛ばされたカバンのところまで走り、急いで手にする。

持ち上げた瞬間、またしても弾き飛ばされた。

〆タルギアに備えられた機銃がこちらを向いていた。対策されているのだ。

経験とスーツがあるとはいえ、生身の人間だ。

一発でも身体に当たれば最悪即死。

スーツが使えないとなれば、拳を叩き込めずに、銃を放つしかなくなる。

 

私は銃を構えたが、二人に当たるのだけは避けなければいけない。

しかし近接戦闘のブラックハートが間に入って、照準が定まらない。

とはいっても、目をそらしてくれなければ、防御態勢をとるだろう。

迷っていると、〆タルギアからきしむ音が聞こえた。砲塔がノワールを狙っている。

カバンを無視して、ノワールへと近づきながら弾丸を放つ。爆裂弾で砲口が逸れて、砲弾が明後日の方向へ飛んでいく。

砲塔が曲がることはなかったが、先に衝撃を与えたことで〆タルギアのバランスを崩せた。

ノワール、ユニはさがって、私と並んだ。

 

「いったん退くってのは無しよね?」

 

「ここで退いたら態勢を整えられるわ。ここで仕留めないと」

 

「でも、こうも攻撃が効かないとなると……」

 

〆タルギアをどうこうするには威力が足りない。

内蔵されているであろう石を取ってしまえばなんとかなるだろうが、こうも隙がないとどうしようもない。

〆タルギアが装備された全ての武器をこちらに向ける。

どうにかするしかない。だが、どうやって……

 

銃器、砲が照準を合わせ、攻撃が始まる。

防御か攻撃か、どちらを取るべきかわからず構えたその瞬間だ。

巨体が大きく揺れた。何トンもある機械の塊がそのまま倒れる。

 

「大丈夫ですか、ノワールさん」

 

それをした本人が軽快に降り立ちながら、私たちの前に立つ。

 

「ケーシャ!?」

 

ノワールが目を丸くする。

入り口で留めておいたはずのケーシャが、そこにいた。

たった一発の蹴りで〆タルギアを転ばせた女の子が、涼しくも険しい顔で立っていた。

 

「私も戦います。殺すためじゃなく、みなさんを守るために」

 

文句を言う者はいない。

げんに、助けられたのだ。戦わせたくはない子に。

私たちは彼女を小さく見ていたのかもしれない。傲慢にも、まるで子どものように。

立ち上がろうとする〆タルギアをしり目に、私はカバンを背負う。

 

「頼もしいわ。それじゃ、いくわよ」

 

もはや迷っている暇はない。

この場であいつを相手にできるのは、私たちだけだ。

ならば、できることをするしかない。

 

「変身!」

 

私とケーシャが合わせて変身する。

 

「装着完了。これより敵を殲滅する」

 

目が黄金に輝き、ゴールドサァドの装備を身に着けたケーシャが銃をくるくると回す。

銃を持つと口調が変わるのはそのままだが、いまではこれ以上ないほど頼りになる。

 

「そいつを逃がさないでよ、二人とも」

 

私は女神二人に傭兵組織の女を任せて、ついに立ち上がった〆タルギアを睨む。

 

「先陣は任せろ」

 

「ご自由にどうぞ」

 

ケーシャはとてつもないスピードで巨体の周りを翻弄しながら、攻撃を開始する。

とても片手で扱いきれるはずのない反動だが、ケーシャはいとも簡単に全弾を命中させていく。しかも両手に一つずつ持ったままで。

〆タルギアはケーシャの優先順位を上げたようだ。

砲塔を私に向けたまま、他の武器をケーシャへ向ける。

砲弾の威力は相当のものだが、スーツを着た私には恐れるものではない。撃つタイミングさえわかれば、ひょいと避けられる。

余裕をもってよけながら、近づいていく。

 

「ケーシャ、穴をあけて!」

 

「了解」

 

私の指示に、ケーシャは即座に空中へ跳び、二つの銃から放たれる弾を一点に集中させる。

 

「銃弾のシャワーだ!」

 

思わず引くぐらいの、まさに嵐のような弾丸が降り注ぐ。

〆タルギアのある一点、腹部分が凹んでいく。流石の防御力だが、ゴールドサァドが相手では所詮機械。

経験と武器が揃っているケーシャの前ではただのでかい的だった。

轟音とともに揺れる巨体の隙をついて、足元までたどり着いた私から目をそらすように、ケーシャが反対側へ着地する。

 

「レーザー展開」

 

ケーシャのグレネードランチャーが姿を変えていく。

一本の、すべてを貫くような槍に見えた。レーザー砲だ。

個人で扱えるような代物ではないそれを、彼女は疑問も持たずに〆タルギアに向ける。

 

「ファイア!」

 

赤い閃光が機体の右足に直撃する。

増幅されたエネルギーの塊は一瞬で足を破壊し、〆タルギアの身体が傾く。

私はスラスターを起動させ、拳を握る。

〆タルギアがぐらりと倒れ、凹んだ部分が見えた瞬間、全力で加速する。

止まる気はない。

体当たりをするかのように突っ込みながら、拳を突き出した。

目標を外さずに、確実な手ごたえを感じて、〆タルギアを貫く。

勢いあまって地面をひとしきり転がった私は、伏したまま敵のほうを見る。

大きな穴が開いた〆タルギアは火花を上げているが、倒れたまま動くことはなかった。

 

「口ほどにもなかったな」

 

「あなたのおかげよ。助かったわ」

 

差し伸べられた手を掴んで立つ。

スーツを元に戻し、ケーシャも変身を解く。

 

「えへへ、やりましたね」

 

「今日はいろいろありすぎたわ。あの女をさっさと捕縛して……」

 

ピピっという音がして、油断したと気づいた時には遅かった。

〆タルギアの腕から、小さなカプセルのようなものが射出される。

 

「お姉ちゃん!」

 

カプセルはノワールを押しのけたユニへ当たる。

そのカプセル自体はダメージを与えることはなかった。しかし、瞬時に漏れ出た紫色の煙がユニの体内へ入っていく。

 

「ユニ!?」

 

苦しそうに咳き込むユニを見て、ノワールが叫ぶ。

 

「くくく、油断したな。お前たちという脅威を甘く見ているわけがないだろう」

 

心底楽しそうに、女が笑う。

ユニの顔がみるみる青ざめていく。

私は爆裂弾を〆タルギアへ連射し、今度こそ壊す。

 

「ケーシャ、お前なら知っているだろう。我々が開発した女神を殺すウイルスだ」

 

「そんな、あれは空気に触れたら無害化するはずじゃ……」

 

女はにやりと笑った。

 

「エコーが改良したのさ」

 

ここでもエコーか……

私は怒りを抑えることをせず、女の顔を蹴り飛ばす。

女は気絶し、少し気分がスッキリしたが、事態は変わらない。

 

「ユニ……ユニ、しっかりして!」

 

「お姉ちゃん……」

 

ノワールがユニの身体を揺らすが、そのユニの身体からはどんどん力が抜けていく。

元から開発していたウイルスに、女神無効化の石を持っているエコーが手を貸したのだ。

その効力は計り知れない。

 

「しっかりして、大丈夫よ。きっと助かる」

 

「ううん、もう、だめみたい。わかるの」

 

「バカなこと言ってないで、気をしっかりもって!」

 

私はノワールのような気の利いたことを言えず、ケーシャに顔を向けた。

 

「ケーシャ、ワクチンとかはないの?」

 

「私の知る限り、ありません。もともと女神だけに効くウイルスですから、用意する必要もないということで……」

 

「そんな……」

 

「いいの。死ぬことなんて、もう覚悟してたから……」

 

「バカ! 覚悟を持つのと、実際に死ぬのは違うことよ!」

 

口から出た言葉は

そのとき頭に浮かんだのはあの悪夢だった。

仲間が死んでいく。死んでいく。

その屍は私を生かすために積まれたものだ。私はそれを見て、ただただ崩れるだけだった。

できるはずだった。力を出し尽くせばきっと、できないことはないはずだった…………本当にできるの?

私には誰かを救うことなんて……

 

「ユニさん、少しの間時間をください!」

 

わめくノワールと口を開けるだけの私とは対照的に、冷静に声を上げたのはケーシャだった。

 

「私が血清を作ります」

 

言いながら、ケーシャはなにやら道具を取り出す。

 

「人間に害がないと実験するために、数年前、私にはそのウイルスが注入されています。私の血を使えば……」

 

「できるの?」

 

「わかりません。けど、やります!」

 

即答してみせるケーシャ。淀みなく自分に注射器を刺し、血を採る。

つーと流れる血を拭くこともなく、てきぱきと道具を次々と取り出しては調合していく。

 

「私、私はなにをすればいいの?」

 

「ユニに呼び掛けて。彼女の意識を保たせるのよ!」

 

「わ、わかったわ!」

 

おろおろするノワールに、私は叫ぶ。

ユニが一番信頼する姉が困惑していては、ユニの絶望が増す。

女神は追い詰められた時こそ毅然するべきだ。

 

私はケーシャの指示に従って、道具を並べる。

こんなときに、こんなことしかできない自分が歯がゆいが、なにかしらしてないと悪夢が襲ってくる気がして、がむしゃらに手を動かす。

 

「できました!」

 

時間にして数分のはずだったが、体感ではもっと長く感じられた。

すぐさまケーシャが、意識が混濁しているのか目を閉じて動かないユニへ注射を刺す。

緑色の液体がユニの身体の中に入っていく。

十秒、二十秒、一分。やがて五分経っても、ユニは目を閉じたままだ。

 

「うそ……よね」

 

ノワールの唇は震えて、すがるように私たちを見ている。

 

「きっと気絶してるだけよね、ねえケーシャ、イヴ」

 

ケーシャは何も言えなかった。

もともとが彼女に注入されたウイルスと同じとはいえ、どれだけ改良されているのかはわからない。

だけども彼女は全力を尽くした。ケーシャだけじゃない。この場にいる誰もかれもが全力を……いや、私はまだなにもしていない。

見ているだけはごめんだ。

 

「離れて」

 

私は右手のスイッチを二回押す。

すると、手のひらがビリビリと電気を帯びて光る。

電圧を調整しながらゆっくりと手のひらを近づけ、ユニの胸へそっと置く。

バツン! と音がして、ユニの身体がえび反る。

 

「わあっ!」

 

いきなりの無理やり心臓マッサージにおののいたのは、ノワールだけではなかった。

ユニが声を上げて、息を吹き返したのだ。

何が起こったのかわからないようだ。きょろきょろとあたりを見回しながら、私たちを不思議そうな顔で見る。

 

「ユニ!」

 

ノワールが涙をぼろぼろと流し、締め付けるようにユニを抱きしめる。

当のユニはまだ状況を掴めていないようだが。

 

「あれ、お姉ちゃん? アタシ、ネプギアと銃器店にいたんじゃ……」

 

「よかった! もう本当に心配したんだから!」

 

「あ、ええと……? あれ?」

 

ユニが答えを求めるように私たちを見るが、私は一息ついて安堵した。

鳴りやまなかった胸の鼓動が静かになっていく。

どっと疲れを自覚し、腰が抜けたようにその場にへたりこむ。

 

「終わったわね」

 

「ユニさん、助かってよかった」

 

柔らかに微笑むケーシャも私の横に座る。

今回のMVPは議論する間もなく彼女に決まりだ。

 

「そう、ユニは助かった」

 

勝って緩んだ空気が、締まったものへと一気に変化する。

ぞくりと悪寒が走って、声を放った相手に向き直る。

見ているが、見えてはいない。

ゆらゆらと輪郭がはっきりしない、黒い蜃気楼のような相手に銃を向けるが、当たる気がしない。

微妙に、人間のような形が見え隠れするが、纏わりついている影のせいで、全貌が明らかにならない。

 

「だけど、おかげでお前はまた独りになる」

 


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