新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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ラステイション編4 地下鉄の攻防

「ここの地下鉄らしいけど、一足遅かったみたいね」

 

「さすがラステイションの兵隊。仕事が早いわね」

 

ノワールとユニが舌打ちをする。

地下鉄のすぐそばまで来たものの、入り口は兵士たちがすでに封鎖していた。

その入り口には野次馬がたかっているが、おかげで見つからずに済んでいる。

 

「だけど、逃げ遅れた人がいるみたい」

 

私は眼鏡から流れてくる情報を伝えた。

地下鉄の封鎖自体は素早く済ませたみたいだけど、中に向かわせた兵士から連絡が返ってこないようだ。

 

「兵士じゃモンスターに勝てないわ。私が遭遇したのも、兵士をいとも簡単に……」

 

「なら、よけいに逃げ遅れた人が危ないわ。でも、私たちじゃ中に入れないし……」

 

そう、ここで余計に騒ぎを起こすわけにもいかない。

どうにかして中に入る必要があるのだけれど……。

私は眼鏡のテンプルを操作して、封鎖されていない入り口か、あるいは抜け道を探す。

だけどどうにも見つからない。

公に入れるような場所は封じられているし、教会のような抜け道はない。

 

「あーもう!」

 

しびれを切らしたノワールが、私たちが止める間もなく入口へずかずかと近寄り、ついに兵士の一人の目の前まで向かう。

 

「ちょっと、そこのあなた!逃げ遅れた人がまだ中にいるって本当!?」

 

「あ、ああ、まだ残っているが、ちゃんと救出隊を出した」

 

いきなりのぶしつけな質問に、兵士は虚をつかれながらも答える。

 

「で、その救出隊から連絡はあったの?」

 

「いや、まだ連絡はない。我々もどうしたものかと迷っていて……」

 

「迷ってる暇があったら助けに行きなさいよ!市民の命が大事じゃないの!?」

 

「そうは言っても……」

 

ノワールと兵士の問答に、周りがざわざわとしはじめた。

兵士に啖呵をきっている少女を見れば、それも無理はない。

連絡が交わされていないとわかればなおさらだ。

 

「ノワール、注目が集まってきてるわ。ここは……」

 

「もういい、どきなさい! 私が助けに行くから」

 

私が止めようとしたが、ノワールは逆に前へ向かおうとする。

もちろん兵士が邪魔をする。

 

「ちょっと待て! ここは危険だ、通すわけにはいかない!」

 

「いいからどきなさい!」

 

パンチ一発。

力がほとんどないとはいえ、流石は女神。兵士はあっけなく倒れた。

そんな様子を気にすることもなく、ノワールはささっと構内への階段を下がっていく。

 

「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!」

 

「めちゃくちゃね、女神っていうのは」

 

私たちはあっけにとられながらも、ほかの兵士が来る前に中へ急いだ。

 

 

 

構内の避難はほとんどが完了しているようで、響くのは自動アナウンスの音くらいだった。

中心部に位置するこの駅はかなり広く、迷いやすい。

だが、ときおり聞こえる悲鳴と叫び声を頼りに、私たちは進んでいった。

 

ついに奥にまでたどり着くと、そこには見たことのあるモンスターがそこかしこを破壊し続けていた。

零次元で対峙したような、棘のある、虫が巨大化したような気持ち悪いモンスターだ。

だがその右腕と顔は似つかわしくない機械で覆われ、一層不気味さを増している。

 

「う、うわあ、来るなあ!」

 

腰の抜けた一般人へ、モンスターはその左腕、長い爪を振り上げた。

私は即座に衝撃弾を放った。

モンスターは吹っ飛び、壁に激突する。

 

「危機一髪ってところね」

 

ノワールは男性に歩み寄り、立ち上がらせる。

ユニは私の横に並んで、銃を構えた。

壁にめり込んでいるが、敵はまだ倒せていない。抜け出そうとしている間に、その場に残された人たちを逃げさせようとする。

 

「あ、あんたたちは?」

 

「助けに来たわよ。ここは私たちに任せなさい!」

 

「みんな、こっちよ!ここから逃げられるから早く!」

 

ユニとノワールが来た道を示す。

一般人がそれに従うなか、ぼろぼろになった兵士がこちらを指差した。

 

「おい、ちょっと待て!お前、指名手配犯のやつじゃないのか」

 

「そうだ!その顔、思い出したぞ!」

 

「それがなに?」

 

ノワールは剣を抜く。

その姿勢には、兵士たちの言葉など気にしている様子はまったくない。

 

「何ってお前……」

 

「犯罪者の言うことなんて信じられないってことでしょ」

 

私はモンスターを警戒しながら言う。

魔物はようやく壁から抜け出し、ゆっくりとこちらを向いた。

こんな問答してる場合じゃない。

 

「そうだ。もしかして、この騒ぎもお前たちが仕組んだことじゃないのか!?」

 

「そんなわけないでしょ! だったらどうして助けになんて来るのよ!」

 

ユニが銃を構えながら、反論する。

だが、極限まで追い詰められ、正常に考えることのできない兵士たちには通用するはずもなく、むしろ逆効果だった。

 

「助けるフリをしてオレ達からなにもかも奪っていくつもりなんだろ!」

 

「あったまきた!あのね、アタシたちは……」

 

「ユニ、口を動かす前に手を動かしなさい! モンスターも待ってくれないわよ」

 

ノワールはユニを制すると、兵士たちに堂々と向き直る。

 

「そこの兵士! 私を捕まえたいなら捕まえなさい。ただし、ここのモンスターを片付けて、全員で無事地上に帰れたらね。もちろん、逃げたりしない。約束するわ」

 

再び剣を構えたノワールの姿は本当よりも少し大きく見えた。

この感覚は覚えがある。

ネプテューヌやうずめに助けられたときと同じものだ。

女神というものは得てして、人々を安心させるなにかを持っている。

それは彼女たちが望まれて生まれた存在だからか、それとも彼女たちがこれまでに積み重ねてきたものによるものか。

 

「だから、ちょっとだけ、その子の言うことを聞いてもらっていい? 絶対にあなたたちは私が助けるから」

 

兵士たちはそれを聞いて、去るわけでもなく、だが邪魔するわけでもなく下がっていった。

 

「来るわよ」

 

「ええ、わかってるわ」

 

モンスターは金切り声をあげて、銃口パーツを着けられた右腕をこちらに向けた。

銃口が一瞬光ったあと、紫のビームが放たれた。

さっと横に避けると、さっきまで私がいた地面がえぐられていく。

あれはエネルギーを撃ちだす腕砲ってところね。ヘルメットは照準を合わせるのを助ける装置かしら。

傭兵組織の仕業にしろ何にしろ、モンスターだけの問題じゃなくなったわね。

 

「変身」

 

私の言葉に反応して、金属のカバンが展開されていき、装甲スーツが身体を覆う。

全身にフィットする、スマートな白のスーツと一体になると、私とノワールは前へ飛び出す。

敵の爪をひょいと避け、ノワールが剣を振るう。

その身軽さに驚いたのも一瞬、モンスターは腕を振るってノワールを跳ね飛ばす。

ノワールは何度か地面にバウンドして、滑っていく。

剣の攻撃は浅く、モンスターは気にした様子もなく私に銃口を向けた。

私は背中のスラスターを起動させて、あっという間に敵の顔まで距離を詰める。

思い切り拳を振りおろした。殴るというより、叩くというふうに。

顔パーツにビキビキと大きなヒビが入ったが、全壊には至らない。

モンスターは憤怒の咆哮をあげ、銃口を再び向ける。

放たれたビームはまっすぐ私に……当たらなかった。

ユニの銃弾が敵の左腕に当たり、逸らしたのだ。

いまの砲撃で天井が崩れ落ちるのも無視して、モンスターがめちゃくちゃに爪を振り回し始めた。

引き裂かれるすんでのところで、私は後退してノワールに駆け寄る。

なんとか立ち上がった彼女は傷だらけで、息をするのが精いっぱいといった様子だった。

 

零次元でのネプテューヌやネプギアを見る限り、力さえあればこの程度のモンスターはそれほど脅威ではなかっただろう。

だが現状は、一撃で虫の息になるほど。

いくらあのモンスターが凶暴だとはいえ、危険だということを改めて認識させられる。

 

ユニの銃撃の嵐がモンスターを襲い、ついにヘルメットが崩れ落ちた。

伸びた歯を噛み鳴らし、濁った目がユニを睨む。

すかさず放たれたビームはまったく見当違いの場所に当たった。

照準パーツがなくなり、ダメージを受けているうえに、モンスターの腕じゃ当たらないのも当然。

 

「まだやれる?」

 

「なによ、もう限界?」

 

ノワールが冗談で返す。

私はにやっと笑い(といっても、彼女には見えないが)、義腕のスイッチを押す。

銃を敵に向けて一発、二発。

爆発がモンスターを襲い、腕のパーツも剥がれ落ちる。

残った武器は左の爪だけ。

私のほうを脅威と思ったのか、それともケガを負ったノワールを先に片付けようとしたのか、寄ってくるモンスターにさらに撃ち込む。

見え見えの大ぶりを潜り抜けて、私は右腕を突き出す。

そこかしこに衝撃が響いた。

地面は揺れて、怪物は声にならない叫びをあげながら、口をぱくつかせる。

モンスターは最後の力を振り絞って弱弱しく左腕を振り上げたが、その先はすでに斬りとられていた。

 

「お返しよ」

 

スパっという気味の良い音とともに、モンスターが真っ二つになる。

ノワールが剣をくるっと回して、収める。

 

「なんとか、倒せたわね」

 

ノワールは肩で息をしながら、膝に手をつく。

 

「確かに脅威ね。ほかのモンスターとは段違いだわ」

 

私は顔部分を外して、手で顔を仰ぐ。

こういった全身型スーツの欠点として、どうしても汗ばんでしまう。

ただ、反応速度に関しては問題ない。

 

「あなたたちはケガはない?」

 

ノワールはよろよろとしながら、遠くから見ている兵士と一般人に向けて話しかけた。

 

「あ、ああ。お前たちのおかげでな」

 

驚いてうろたえながらも、兵士は答える。

犯罪者として追っていた相手が、自分たちを助けてくれたのだ。

これで少しは状況が好転するといいのだけれど。

 

「そう……よかったわ……なら、地上に戻りましょう」

 

ユニに肩を支えられながら、ノワールが歩き出す。

信仰がない今は回復するにも時間がかかるだろう。

誰かがノワールたちを取り押さえるなら、力づくでも阻止しなければ。

 

だが、私たちが出ようとしたそのとき、どすんという大きな音を立てて、なにかが割り込んできた。

 

「きゃあっ」

 

その場の全員が尻もちをついた。

気が緩んでいたところに、いきなりなにかが落ちてきたのだ。

すぐさま立ち上がったのは、私とユニだけだった。

 

「予想どおり、現れたな、女神」

 

人の形をしたそれは、金属だった。

三メートル近くもあるその身体は、私のようなバトルスーツじゃない。

中身まですべて、全身が金属なのだ。

 

「あなたは何?」

 

私はとっさに銃を構える。

カクカクとしたシルエットではなく、丸く整えられた身。

金属であることを主張するようにきらりと輝きながら、その輪郭は美しいほどに洗練されたものだった。

ばかでかくなければ、人間と見間違うかもしれないほど。

こんなもの、私は見たことがない。

 

「おれか? おれはエコーだ」

 

あっさりと自己紹介するエコー。

爬虫類のようなぎょろりとした目は、私を睨んだ。

 

「お前たちが轟かせた、悲鳴の反響(エコー)だ」

 

予備動作もなく、手のひらをこちらに向けると、五本の指からビームが射出された。

私は吹き飛んで、壁に激突する。

こいつが何者であれ、敵には違いない。

むくりと立ち上がり、ヘルメットを装着するとともに背中のスラスターを起動させてエコーと距離を縮める。

今度はエコーが壁に押しつけられ、さらに投げ捨てられる。

エコーは転がったあと、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ユニ、早くその人たちを連れて行って!」

 

「でも……」

 

私とノワールを交互に見て、ユニは悩む。

だが悩む暇はない。

せっかく助けた人たちを危険にさらすのは、本意ではない。

ノワールだってそれはわかってる。だからこそ彼女は口を出さないのだろう。

 

「早く!」

 

「わ、わかったわ」

 

ようやく頷いたユニが先導しながら、みんなを引き連れていく。

 

「逃がさんぞ」

 

相手も背中に推進システムをつけていた。

恐ろしいほどの速さで飛び込んでいくエコー。

私はエコーがユニたちに辿り着く前に、身体を掴んでぐるんと振り回す。

投げ飛ばされたエコーは、今度はどこかにぶつかることもなく姿勢を整えて、すっと着地した。

 

「まだ質問に答えてもらってないわ。あなたは誰なの?」

 

「言っただろう。おれはエコーだと」

 

人間らしく、ため息をつきながら答えた。

 

「そんな遠回しなことは聞いてないの。あなたは何?」

 

酷い冗談を聞いたように、エコーが苦々しく笑う。

見れば見るほど、人間に近い。

その様子に奇妙な違和感と嫌悪感を覚えた。

 

「それはお前が一番よく知っているだろう」

 

「なんですって?」

 

私の問いに答えず、エコーはまっすぐ向かってきた。

反射的に銃を撃つ。

胸と顔を撃たれて、勢いよく地面に引きずられるエコー。

だが、機械の身体ゆえに、痛みから生じる隙は無いものとみていい。

私は近づかれたぶん、即座に遠ざかりながら爆発弾を撃つ。

エコーは抵抗するでもなく受け、そのたびに身をよじらせる。

やがて壁にもたれかかるようにぐったりとして、小さいうめき声を発した。

 

「目的は?」

 

「すぐにわかる」

 

「いま言いなさい。でなければ……」

 

「撃つ……か? 好きにすればいい。だがお前が倒すべき相手は、本当におれかな?」

 

このいらいらさせられる問答に嫌気がさし、私は銃を何発も撃った。

銃弾がなくなるころには、エコーの目から光が消えて、動かなくなっていた。

なぜだかエコーの最後の言葉が、頭の中で反響していた。

 


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