新次元ゲイムネプテューヌ 反響のリグレット【完結】   作:ジマリス

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ラステイション編3 石

秘密通路を通り、体力の限界がくるまで走り続けた。

膝に手をついて、息を切らしながら後ろを振り向くと、追ってくるものはいない。

 

「改めて礼を言うわ、イヴ。ありがとう」

 

こちらも息を切らしながらのノワールが頭を下げた。

私はひらひらと手を振って、どうってことないということを示す。

 

「借りがあるだけよ。それに気になることもあったしね」

 

「気になること?」

 

「ええ、あのロボット……いえ、確信が持ててから言うわ」

 

体力を失いすぎたせいか、今は頭も回らない。

ただ、あのロボットについては思うところがある。

具体的に何が、というわけではないが、なんだかあの機体には奇妙な違和感を感じた。

初めて見たような気がしないのだ。

 

「なによそれ。そんなこと言われたら気になるじゃない」

 

「気にしないことね。いまはもっと気にするべきことがあるでしょう?」

 

「それはそうだけど……」

 

私は義手を握っては開く。

新しく造ったこれは、たった数発で切れたような弱いバッテリーじゃない。

零次元でもあったような実地試験になってしまったのは想定外だったが、慣れてしまった自分もいる。

実験なしで実戦だなんて、本当は不本意なんだけど。危険すぎるから。

 

「ノワールさん!?」

 

考えをまとめていると、向こう側から見知らぬ人が駆け寄ってきた。

どこかの学生か、赤い制服に身を包んだ少女だ。

その少女はノワールを見つけるなり、安堵の表情を見せた。

 

「ケーシャじゃない!? どうしてここにいるのよ!?」

 

「ノワールさんこそ! 捕まってたはずじゃなかったんですか?」

 

どうやらノワールの知り合いらしい。

なるほど。この子が、ノワールが言っていた『助けてくれた子』ね。

 

「お姉ちゃん、えっと、この人は?」

 

「そうよね、先に紹介よね。ケーシャ、この子はユニ。私の妹よ。そしてこっちがイヴ……ええと……」

 

「イヴォンヌよ。イヴでいいわ」

 

私は自己紹介した。

ネプテューヌが私を紹介した時、適当に説明したから、フルネームで覚えてなくても仕方ない。

あとでネプギアが補足してくれたけど。

 

「は、はじめまして」

 

少女はおどおどとしながら礼をした。

一見して臆病。だけど指名手配されているノワールを保護するなんて、なかなか勇気のある子みたいね。変と言い換えてもいいかしら。

 

「この人はケーシャ。傷ついた私を助けてくれた人で、私のお友達よ」

 

「お友達!?」

 

私とユニはその言葉にのけぞるほど驚いた。

 

「どうしてそこで驚くのよ!? なによ、私にお友達がいたら悪いの!?」

 

「いえ、悪くはないのだけれど、その、ネプテューヌがあなたのこと万年名誉ぼっちって言ってたから……」

 

「あ、あの子はまた……」

 

ぐぬぬと歯を食いしばるノワール。

ネプテューヌは彼女についても、適当に紹介したのかもしれない。

自分で見極めろってことね。

 

「まあともかく、お姉ちゃんを助けてくれてありがとうございます」

 

「い、いえ、たいしたことはしていませんから」

 

「それでケーシャ。どうしてラステイションに?」

 

「あの、私、ノワールさんのことが心配で……、ここにくれば何かわかるかもしれないと思って」

 

見た目とは違って、かなり行動力があるみたい。

目の前の少女にかなり興味をそそられたが、いまはもっと考えることや確かめたいことがある。

 

「話を聞きたいところだけど、そっちはあなたたちに任せていいかしら。私はちょっと調べたいことがあるから、失礼したいのだけど」

 

「それなら、一度研究所に戻ったほうがいいんじゃない? こんな往来で喋っているよりかは、そっちのほうが安心だし」

 

私が使っている研究所なら、人目にはつかないし、ロックもできる。

たしかにゆっくり話をするにも、考え事をするにも最適な場所だ。

私たちはユニの提案に乗った。

 

 

 

 

「うーん、やっぱり……」

 

「どうしたの?」

 

研究室でとても小さなものを慎重に扱いながら、私は呟く。

そんな私の様子を、ユニは興味深そうに感じて近づいてきた。

 

「これ、はい」

 

それまでずっと調べていた小さな石をひょいと投げる。

ユニがそれを受け取った瞬間、膝から崩れ落ちてしまった。

 

「わっと……あれ?」

 

「その石、シェアエネルギーを遮断する力を持っているみたいなの。ノワールが捕らえられたままだったのは、これが原因ね」

 

ノワールにかけられ、私が引きちぎった手錠の内側に埋め込まれていたそれは、すでに光を失っているにもかかわらず、まだその効力を発揮している。

もちろん私には害はないが、女神であるユニには効果てきめんだ。

 

「ええっ!? そんな危険なもの、聞いたことないわよ!?」

 

「でしょうね。女神の力を無効化だなんて、いままでにあったらあなたたちは対策を立てているはずだし」

 

反女神の石をユニの手から掬い上げ、小さなケースにしまって懐にしまう。

放置して盗まれる心配をするより、手元にあったほうが安心だ。

 

「だけど、シェアが少ないうえに、こんなものまで。現状はそうとうあなたたちに不利ね」

 

「てことは、アタシたちは戦えないってこと?」

 

私は首を横に振った。

 

「あなたたちを捕らえようとするなら、女神対策になるこれは兵士にだって配られているはずだし、あのロボットにも搭載されているべきだもの。それほど多くは用意できないものなのでしょうね。この小ささでさえ貴重なもののはず」

 

採取できたのは、2センチほどのものだった。

これひとつでさえ、ノワールの力をじゅうぶんに遮ったことを考えると、脅威であることはわかる。

だが、それが手錠にしか使われていないということは、数が揃っていないことも分かる。

 

そして分かったことがもうひとつ、この石の特徴だ。

女神の力を奪う能力があるこの石が、その効果を発動するためには、よほど近くにないと駄目らしい。

ほとんど触れるような距離。でなければ、これを調べている間、ユニがぐったりしているはずだ。

 

「そういえば、ネプギアとは連絡とってるの?」

 

「ええ、ネプテューヌさんと再会して、いまはリーンボックスに向かってるわ」

 

「リーンボックス?」

 

リーンボックスはプラネテューヌからは海を挟むほど離れた位置にあるはずだ。

ネプテューヌを溺愛しているネプギアが、わざわざこんな状況のなかプラネテューヌを離れるなんて……。

 

「あそこはベールさんしかいないから」

 

「ふーん?」

 

それを言ってしまえば、ネプギアがいなくなったらネプテューヌもひとりになるんじゃないかしら。

それとも、協力者がいるのかしら?

私のような、記憶が改ざんされていない者がいても不思議ではないし。

まあ、この世界のことは当然女神たちのほうがよく知っている。彼女たちが良いと言うなら、それでいいのだろう。

 

私たちがやるべきは、ラステイションの事件を解決することだ。

 

モニターでニュースを流しながら、机の上にバーチャル設計図を映し出した。

映っているのは装甲スーツの背中部分。飛べるようにしたいのだけれど、まだまだ出力が不安定で実戦に使用できるまでは時間がかかる。

 

「ね、ねえ、銃の手入れしていい? ちょっと散らかしちゃうけど」

 

沈黙に耐え切れなくなって、ユニが口を開いた。

 

「どうぞ。勝手に汚して構わないわよ」

 

いまは片付いているほうだが、マーク2が出来上がるまではそこかしこに工具やら材料やらが散乱していた。

現在取り掛かっているのはマーク3。いまよりも攻撃力を上げる目的で設計中だ。

遠隔操作を一番に考えているが、それもまた設計の難度に拍車をかけている。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

ユニは銃のパーツを一つずつはずして、きれいに掃除していく。

彼女の武器はライフルだ。

私は設計図を更新しながら、ユニの動きを注視した。

レーザーと複数種の銃弾を使いこなせるその銃と彼女の技量には、同じ銃使いとして興味があったのだ。

 

 

「部屋貸してくれてありがと……って……」

 

「わぁ……!」

 

ノワールとケーシャがこちらの部屋にやってきた。

積もる話もあるだろうからと隣の部屋を貸していたが、思ったよりも早く話が済んだようだ。

 

「へえ、PC社の最近のやつはこうなってるのね。あれ? ここの構造はそんなに変わってない……」

 

ケーシャは床に広がった銃を見るなり、目にもとまらぬ速さでパーツを分けていく。

 

「うそっ、数秒で分解した!?」

 

「あ……えっと、ごめんなさい。少し興味があって……」

 

「いや、いまの、少しってレベルじゃなかったような……」

 

今のは私もノワールも驚いた。

そういうコンテストを見ているような、見事な早業だった。

それからユニとケーシャは専門用語をたがいに繰り出しながら、仲良くしゃべりだす。半分以上、何を言っているのかがわからない。

だが女の子が銃について盛り上がるなんて、珍しい光景だ。

 

「あなたはあれに加わらなくていいの?」

 

「私にはマニアックすぎるわ。知識はあるに越したことないんだけど、あれにはついていけないわね」

 

なんだかんだ、人が仲良くなっていく過程を見るのはなんだかいいものだ。

私とノワールは微笑みながらそれを見守っていると、気になる言葉が耳に入った。

私はモニターに映った一つのニュース番組をズームアップし、音量を上げた。

 

「この地下鉄の構内に凶暴なモンスターが現れ、現在兵士たちが掃討に向かっていますが、いまだに戻ってきません。現場からは以上です」

 

ニュースキャスターが興奮気味に言ったあと、画面は切り替わって、何も知らない専門家が意見を出しあう。

が、そんなものに興味はない。

 

「モンスターが地下鉄に?」

 

「そのモンスターが道具に使われたら……」

 

ノワールと私は顔を見合わせる。

兵士たちはモンスターを捕らえるように指示を受けているのだろう。

だが、凶暴化されたモンスターを兵士たちが相手にできるとは思わない。

それに……

 

「まずいわね。成功したら、他国への戦争が現実に近づいていくわ」

 

「止めるわよ」

 

「ええ、ユニ、早く片付けて。行くわよ」

 

私は装備を整えて、ケーシャと盛り上がっているユニに声をかける。

 

「ええっ、今出したとこなのに!」

 

文句を言いながらもわたわたと片付けるユニを無視して、私は金属鞄を背負う。

眼鏡型のウェアラブルデバイスを装着して、準備は万端。

 

「危ないからケーシャはここで待ってて」

 

「はい。無事に帰ってきてくださいね」

 

「もちろんよ、私を誰だと思ってるの?」

 

戦いに行くノワールと、それを信頼しているケーシャ。まるで昔からの知り合いみたいな会話ね。

 

「……なんだか、夫を戦地へ送り出す奥さんみたい」

 

「そんな、奥さんだなんて」

 

ユニの言葉に、ケーシャが頬を赤くして照れる。

ユニの発言も突飛だけれども、ケーシャもケーシャでなんで満更じゃなさそうなのよ。

 


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